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出願意匠「エレキギター」拒絶審決取消請求事件:東京高裁平成13(行ケ)275号平成13年11月13日18民判決(棄却)

〔キーワード〕 
意匠の全体的観察、美感、物品の一般的形状、一つの全体形態のまとまり
〔事  実〕
 米国G社は、平成8年1月17日にUSPTOに「ギター」について意匠登録の出願をしたが、この出願に基いて優先権を主張してわが国特許庁に出願をした。しかし、USPTOへの出願前にすでにわが国に頒布されたA社発行のカタログ中のエレキギターの本体の意匠に類似するとして拒絶査定を受け、審判請求も不成立となったので、審決取消訴訟を請求した。しかし、東京高裁は、特許庁の拒絶査定及び審決を妥当として請求棄却の判決をした。

 

〔判  断〕

 

 本願意匠及び引用意匠が、意匠に係る物品及びその構成をそれぞれ審決記載のとおりとするものであること、両意匠が、1.「両意匠の本体(なお、引用意匠はペグ、弦、ピックガイド、ピックアップ、ブリッジ及びコントロールボタン等を除いた本体を対象とする。)は、ヘッド部、ネック部及び胴体部を結合してなる」こと、2.−i「胴体部は、略瓢箪形状の肉厚板を基本とし、その上方左右を同 形の略円弧状に等間隔に切り欠くことにより、上方左、中央、右に同長(同高)で先端を丸くした3本のホーン(角)部と、それらの間に2つの半円弧状の窪み部とを有する」ものとし、2.−ii「正面板のくびれ部(ウエスト部)の下方左右寄りに所謂「f字孔」状の模様を、正面視ハの字状に配設した」こと、3.「ネック部を、胴体部中央ホーン部位置から、胴体部の縦幅より長い細幅の縦長方形板状に垂設した」こと、4.「ヘッド部を、ネック部上辺に略縦長台形で下方を小弧状にえぐった形状に連設し、その上辺を波状としたものであ」ること、5.「本体全体はその正面視を略左右対称に形成したものとした構成態様」において共通し(以下、共通点1.などということがある。)、両意匠の間に審決記載のとおりの差異点(ア)及び(イ)が存在することは、当事者間に争いがない。
1 取消事由1について
(1) 原告は、共通点1.から5.は、いずれも意匠に係る物品であるギターの性質上いわば必然的な構成であり、ギターに一般的な特徴であるから、看者の注意を惹くものではなく、意匠の類否の判断に当たっては、これらの同種物品であれば当然備えている形状を捨象し、これ以外で当該物品が有している形状に着目して、両意匠の差異点が看者に異なる美感を与えるかどうかを検討するべきであると主張する。
 しかし、意匠が類似するか否かは、全体的観察に基づいて両意匠が看者に対して異なる美感を与えるか否かによって判断すべきであり、両意匠に共通する構成の中に、当該物品に一般的な形状が含まれているとしても、そのことから当然に、意匠を観察する場合にその一般的な形状を除外ないし捨象して意匠の類否を判断すべきであるということにはならない。意匠法にいう意匠とは、意匠の創作として秩序立てられた1つの全体形態としてのまとまりをいうのであるから、たとえ、当該物品に一般的な形状であっても、その部分を含めた全体が意匠としてのまとまりを形成している場合には、当該部分を含めた全体としての両意匠の構成態様を対比し、類否の判断を行うべきである。(2) 本件についてみると、本願意匠と引用意匠に共通する前記1.から5.の構成は、ほとんどがギターの正面側の形態に関わり、両意匠において意匠の全体としてのまとまりを形成しているものであって、意匠の支配的要素をなしているものと認められる。したがって、審決が、前記共通する構成を含めた両意匠の全体としての構成態様を対比して意匠の類否を判断したことに誤りはないというべきである。両意匠に共通する構成であるギターに一般的な形態は除外ないし捨象して類否判断をすべきであるとの原告の主張は、これと異なる見解に立つものであって、採ることができない。
(3) なお、原告は、共通点1.から5.はギターに当然備わる一般的な形状ないし多く採用されている形状であると主張するが、共通点1.及び3.については原告主張のとおりとしても、共通点2.−i、2.−ii、4.及び5.は、ギターが一般に備える形状ないし多用されている 形状であると認めることはできない。すなわち、共通点2.−iにつ いては、ギターの胴体部が略瓢箪状とはいえない多種多様な形状のギターが存在することが認められ(乙第5ないし第9号証)、共通点2.−iiについては、「f字孔状の模様」を有しないギターも種々あることが認められ(甲第4ないし第7号証、乙第1ないし第3号証、乙第5ないし乙第10号証)、共通点4.については、「ヘッド部を、ネック部上辺に略縦長台形で下方を小弧状にえぐった形状に連設し、その上辺を波状とした」形状が必ずしも一般的なものではなく、これと異なる多種多様なヘッド部の形状を採用したギターが存在することが認められ(甲第2ないし第8号証、乙第1ないし第11号証)、共通点5.についても、本体が略左右対称でない各種のギターが存在することが認められる(甲第3、第4、第7号証及び乙第1、第3ないし第6、第9、第10号証)。したがって、両意匠に共通する構成は、ギターに一般的ないし多く採用されている形状であるから、これらを除外した残りの形態を対比し類否の判断をするべきであるという原告の主張は、その前提を欠くものであって、この点からも採用することができない。
2 取消事由2について
(1) そこで、上記観点に立って、上記共通点及び差異点を総合して両意匠をその構成全体について対比検討すると、両意匠に共通する前記の構成態様は、ギターの全体形態を統括し意匠的なまとまりを示すものであって、看者に与える印象を大きく支配するものであると認められる。
 これに対し、差異点(ア)の胴体部とネック部の比率の違いは、指摘されて初めて気付く程度の視覚性の低い微弱な差異であり、また、差異点(イ)のヘッド部が上辺において、中央部分でやや隆起しているか(本願意匠)、ほぼ水平の波状形状(引用意匠)かという差異も、共通の形状を有するヘッド部における部分的な変形にすぎないと認められるものであって、いずれの差異点も、看者に与える美感を異ならしめ、類否判断を左右し得る程度のものとは認められない。
2) 原告は、胴体部とネック部の比率(差異点(ア))及びヘッド部 上辺の形状(差異点(イ)))が本願意匠における従来とは全く異なった印象を与える特徴であると主張する。
 しかし、胴体部とネック部との比率における差異が看者に与える美感を異ならしめ、類否判断を左右するほどものと評価することができないことは、前記(1)で判断したとおりであり、原告の主張は 採ることを得ない。また、ヘッド部の形状は、ギターの構成部分の中でもデザイン的な工夫の余地が比較的多くあり、実際にも、多種多様な形状のものが存在すると認められるところ(乙第1ないし第10号証)、そのような多種多様な形状の中にあって、両意匠のヘッド部は、両斜辺をやや内側に湾曲させた略縦長台形で下方を小弧状にえぐった基本的形状において共通しており、原告主張の上辺部における形状の差異は、この基本的形状を前提として上辺部の形状を変化させた程度のものであって、独立した創作的価値を見い出すことのできる程度のものであると評価することはできない。そして、ヘッド部の基本的形状における上記共通性は、ヘッド部の上辺部分における差異を凌駕するものと認められるのであって、このことと、両意匠の全体的な形態における強い共通性にかんがみると、原告の主張するヘッド部の差異は、意匠の類否判断を左右するに足りるものとはいえないというべきである。
3 結論 
 以上のとおりであるから、本願意匠が引用意匠に類似するとした審決の判断に誤りはなく、原告の主張はいずれも理由がない。
〔研  究〕
 意匠の類否判断の手法については、筆者も著書や論文でいろいろと書いているが、基本的には、全体観察から受ける美感ないし印象が共通しているか否かと、抽象的に言わざるを得ないことになる。
 意匠に全体観察が必要なのは、その全体の形態のまとまりに意匠の創作があるからだということになるが、その中には当然、当該物品を物品あらしめている物品固有の基本的形態が含まれ、また周知ないし公知の形態も含まれているから、創作者が真に創作したという形態部分がおのずから保護されるべき意匠の創作の要部ということになる。
 したがって、意匠の類否判断をするキーポイントは、引用意匠が含む形態の中から物品の基本的形態や周知・公知の形態とは区別される当該意匠の創作的形態を見い出すことは、そこに美的特徴が発揮されていて、消極的な保護が与えられることになるから、有意義な作業である。そして、本願意匠の創作的形態は、引用意匠のそれとは違うことを主張することは間違っていない。
 要は、具体的なケース・バイ・ケースで考えるべき問題であろう。本件の場合は、類似する意匠との判断は妥当である。
 なお、類否判断の手法は、意匠権侵害問題の場合と審査問題の場合とでは異なるべきだと考える向きもあるが、私は必ずしもそうは考えない。「意匠の類似」とは何かを考える問題意識は同じであるから、その概念自体は共通の意味を有すると考えるベきであろう。

[牛木理一]