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広告器」意匠権侵害差止等請求事件:東京地裁平成10年(ワ)11682号平成11年2月25日判決 (棄却)[民29部]〔判例タイムズ No.997 p.272〕

〔キーワード〕 
登録意匠の要部(看者の注意を引く部分)、広告器と効果に必然的に由来する形態としての機能、視覚的印象・美感、類似、商品の形態、不競法2条1項1号、 不正競争行為、商品の機能、出所表示機能・誤認混同

 

〔判示・認定事項〕 

  1. 原告が要部であると主張する点は、本件意匠権に係る物品である広告器が果たすべき機能ないし作用を述べたものにすぎず、その「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」によって特定される本件登録意匠の構成態様について何ら触れるものではないから、これをもって本件登録意匠の要部(看者の注意を引く部分)であると認めることはできない。
  2. 原告の本件登録意匠の「要部」に係る主張は、意匠法による意匠の保護に名を借りて、広告器を競技場に横一列に配置し、その正面のシートに張り付けた広告を正面の全体に掲示し、かつこれをモータにより回転させて順次掲示することによって、一瞬のうちに会場全体の広告露出を転換するという広告器としての機能ないし広告方法を独占しようというものである。
  3. 両意匠の基本的構成態様において、正面から見た形状は、横長長方形の長辺(巾)対短辺(高さ)の比の違いが大きいから、看者に与える視覚的印象が相当程度異なっているし、側面・背面の違いも大きく、両意匠は視覚を通じて起される美感が著しく相違しているから、両者は類似しているとは認められない。
  4. 商品の形態は、商品の機能を発揮したり商品の美感を高めたりするために適宜選択されるものであり、本来的には商品の出所を表示する機能を有するものではないが、その形態が特定の者の商品であることを示す表示であると需要者間で広く認識されるようになった場合には、商品の形態が不競法2条1項1号により保護されることがあると解される。但し、 商品の形態が当該商品の機能ないし効果と必然的に結びつき、これを達成するために他の形態を採用できない場合に は、右形態を保護することによってその機能ないし効果を奏し得る商品そのものの独占的・排他的支配を招来し、自由競争のもたらす公衆の利益を阻害することになるから、機能ないし効果に必然的に由来する形態については、右条項による保護は及ばないと解すべきである。
  5. 原告の主張するところには、原告広告器の形態が具体的にどのようなものであるのかに関する主張が何ら含まれておらず、要するに、「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」という、原告広告器の有する機能そのものがその形態であると主張しているにすぎないものであるから、主張自体失当というべきであり、商品の機能は不正競争防止法による保護の対象となるものでないから、同法に基づいて「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」広告器を独占することを求める原告の請求は、理由がない。
  6. 仮に、原告広告器の形態が同原告の商品等表示として出所表示機能を有し得るとしても、その場合に商品等表示となる原告広告器の形態は、本件登録意匠の構成と同一のものであると認められるが、本件登録意匠と被告意匠とが類似していないことは明らかである。原告広告器の形態と被告広告器の形態とが類似していることも、需要者の間に誤認混同が生じ得ることもないから、いずれにしても、同原告の請求は理由がない。
  7. 需要者の間において現に被告広告器が同原告のものであると誤認された事例があるとしても、その誤認混同は、「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」という機能が原告広告器と被告広告器とに共通しているために生じたものと解され、両者の形態が類似していることに由来するものであると認めることはできないから、誤認混同の事例があったことを理由に、被告による被告広告器の使用が不正競争行為に該当するということはできない。 

 

〔事  実〕

 

 原告(DP社スペイン国)は、「広告器」について、1989年12月19日の原出願に基いて、わが国に優先権を主張して1990年 (平成2年)6月12日に出願し、平成4年10月28日に設定登録された意匠登録第859852号の意匠権の意匠権者である。
 原告(DJ社)は、日本国内において、原告らが「アドタイム」と呼んでいる広告器を使用している。 被告(J社)は、平成10年3月頃、横浜国際競技場等において、被告広告器を使用した。
 原告は、被告広告器の製造,使用等の差止め、廃棄、損害賠償並に謝罪広告の掲載を請求した。

〔争  点〕

この事件の争点は二つあった。
 第一は、被告広告器の使用が本件意匠権の侵害に当たるか。
 第二は、被告広告器の使用が不正競争行為に当たるか。

 

〔判  断〕

 

一 争点1(意匠権侵害)について.

1.原告DP社は、前記第二、二1(一)のとおり、「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」点が本件登録意匠の要部であり、被告広告器も「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」ものであるから、被告意匠は本件登録意匠に類似すると主張している。
 そこで検討すると、意匠法における意匠とは、「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」をいい(意匠法2条1項)、意匠法は、「意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする」ものであって(同法 1条)、「登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添付した図面に記載され又は願書に添付した写真、ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基いて定め」るべきものとされている(同法24条)。このように、意匠権は、意匠に係る物品の「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を保護するものであるから、これを離れて、当該物品の機能や作用にまでその効力が及ぶものではないことは明らかである。
 これを本件についてみると、本件登録意匠の構成は、別紙三 「意匠公報」記載のとおりであるところ、原告DP社が「要部」であると主張する点は、本件意匠権に係る物品である広告器が果たすべき機能ないし作用を述べたものにすぎず、その「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」によって特定される本件登録意匠の構成態様について何ら触れるものではないから、これを もって本件登録意匠の要部(看者の注意を引く部分)であると認めることはできない。本件登録意匠の「要部」に係る原告DP社の右主張は、意匠法による意匠の保護に名をかりて、広告器を競技場に横一列に配置して、その正面のシートに張り付けた広告を正面の全体に掲示し、かつこれをモータにより回転させて順次掲示することによって一瞬のうちに会場全体の広告露出を転換するという広告器としての機能ないし広告方法を独占しようというものであって、主張自体失当というべきである。
2.右のとおり、意匠権侵害に係る原告DP社の主張は採用できないものであるが、念のために本件登録意匠と被告意匠の類似性について付言する。本件登録意匠及び被告意匠の構成は、それぞれ別紙三「意匠公報」及び別紙一「被告広告器目録」に記載されたとおりであるところ、まず、正面から見た形状は、本件登録意匠及び被告広告器のいずれにおいても、基本的構成態様が横長の長方形である点は共通しているが、長辺(幅)対短辺(高さ)の比が、本件登録意匠においては約10対8であるのに対し、被告意匠では約10対2.5であって、両者は看者に与える視覚的印象が相当程度異なっていると認められる。 さらに、側面から見た形状を比較すると、奥行きより高さの方が大きいという点では両者が共通しているものの、本件登録意匠の基本的構成態様は、背面下側の角を除く三つの角が丸められている四角形であって、正面が背面より高くなっており、背面は底面に対しほぼ垂直となっているが、正面は背面側に傾いているため、上方に向かうに従って奥行きが狭くなっていて、正面側の上部頂点が鋭角状になった形状であり、高さ対奥行きの割合が約10対5であるのに対し、被告意匠の基本的構成態様は 、正面と背面が平行で、上部と下部が丸められた縦長の形状であり、高さ対奥行きの割合は約10対2であるから、両者は基本的構成態様を大きく異にしていると認められる。 したがって、本件登録意匠と被告意匠とでは、視覚を通じて起こされる美感が著しく相違していることは明らかであるから、両者が類似しているとは到底認めることができない。
3.以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告DP社の請求はすべて理由がない。

二 争点2(不正競争防止法違反)について.

1.原告DJ社は、前記第二、二2(一)のとおり、原告広告器の「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示されるという形態」は、原告DJ社の商品等表示として周知なものとなっており、被告広告器の形態も「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」ものであるから、被告による被告広告器の使用は不正競争行為に該当すると主張している。
 そこで、検討すると、不正競争防止法2条1項1号は、「他人の商品等表示」すなわち「人の業務係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の商品等表示を使用等する行為を不正競争行為と規定することにより、周知な商品等表示の持つ出所表示機能を保護するものである。そして、商品の形態は、商品の機能を発揮したり商品の美感を高めたりするために適宜選択されるものであり、本来的には商品の出所を表示する機能を有するものではないが、ある商品の形態が他の商品に比べて顕著な特徴を有し、かつ、それが長期間にわたり特定の者の商品に排他的に使用され、又は短期間であっても強力な宣伝広告等により大量に販売されることにより、その形態が特定の者の商品であることを示す表示であると需要者の間で広く認識されるようになった場合には、商品の形態が右条項により保護されることがあるものと解される。ただし、商品の形態が当該商品の機能ないし効果と必然的に結びつき、これを達成するために他の形態を採用できない場合には、右形態を保護することによってその機能ないし効果を奏し得る商品そのものの独占的・排他的支配を招来し、自由競争のもたらす公衆の利益を阻害することになるから、機能ないし効果に必然的に由来する形態については、右条項による保護は及ばないと解すべきである。
 これを本件についてみると、原告DJ社は、「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」ことが原告広告器の形態であり、同原告の商品等表示として周知であると主張するが、同原告の右主張するところには、原告広告器の形態が具体的にどようなものであるのかに関する主張が何ら含まれておらず、要するに、「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」という、原告広告器の有する機能そのものがその形態であると主張しているにすぎないものであって、主張自体失当というべきである。そして、商品の機能は不正競争防止法による保護の対象となるものでないから、同法に基づいて「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」広告器を独占することを求める原告DJ社の請求は、理由がない。
2.右のとおり、原告DJ社の請求はこれを認めることができないものであるが、念のために付言すると、仮に、原告広告器の形態が同原告の商品等表示として出所表示機能を有し得るとしても、その場合に商品等表示となる原告広告器の形態は、本件登録意匠の構成と同一のものであると認められる。ところが、右一2において説示したとおり、本件登録意匠と被告意匠とが類似していないことは明らかである。したがって、原告広告器の形態と被告広告器の形態とが類似しているということも、需要者の間に誤認混同が生じ得るということもできないから、いずれにしても、同原告の請求は理由がないことに帰する。
 なお、同原告は、需要者の間において現に被告広告器が同原告のものであると誤認されていると主張し、それに沿う〈証拠〉を提出している。しかしながら、仮に、右のような事例があるとしても、以上説示したところによれば、その誤認混同は、「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」という機能が原告広告器と被告広告器とに共通しているために生じたものと解され、両者の形態が類似していることに由来するものであると認めることはできないから、誤認混同の事例があったことを理由に、被告による被告広告器の使用が不正競争行為に該当するということはできない。
3.以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告DJ社の請求はすべて理由がない。

〔研  究〕

1.本件登録意匠に係る図面によって表現された形態の全体を見ると、被告意匠がこれに類似すると見た原告の考え方は、理不尽なものであったといわねばならない。原告の主張は、判決も述べているように、意匠の類似についてしているのではなく、当該物品の技術的機能についてしているのである。
 しかし、たとえその技術的機能が共通する物品であっても、表現されている全体の形態が異り、そこから受ける印象ないし美感が違っていれば、もはや類似する意匠とはいわれない。
 なお、“判例タイムズ”の解説は「意匠法や不正競争防止法による意匠ないし形態の保護につき、いわば教科書的な説示をして請求を退けている」と評価しているが、この判決の結論に異論はない。しかし、この事例は、何人にもその非類似さのわかる意匠権侵害の初歩的な事案である。
2.判決が、原告による意匠権侵害の主張に対しても不競法違反の主張に対しても、物品の形態を離れた物品の機能中心の原告の主張に対し、これを全面的に否定したことは妥当であるし、仮定に意匠又は商品形態の類否について判断したことも妥当であったといえる。

[牛木理一]

・本件要部意匠
・被告意匠