A-9

 

 

「招き猫置物」意匠権侵害差止等請求事件:京都地裁平成11(ワ)58号平成12年6月29日判決(認容)

〔キーワード〕 
意匠の類似、損害賠償額、純利益マイナス、相当実施料

 

〔事  実〕

 

 原告(K人形社)は、意匠に係る物品「置物」について、平成7年2月17日に出願し、平成9年5月16日に設定登録した意匠登録第989120号(本件意匠(一))および同第989121号(本件意匠(二))に係る意匠権の意匠権者であり、後者については平成7年5月24日に出願して前記同日に設定登録した類似1号意匠の意匠権も専有していた。
 被告(Y社)は、第一目録、第二目録記載のイ号物件、ロ号物件を無断で製造,販売したので、原告は被告に対し、イ号意匠本件意匠(一)に、ロ号意匠本件意匠(二)に各類似すると主張して、イ号物件及びロ号物件の製造販売等の差止めと損害賠償420万 円の支払いを請求した。

〔判  断〕

 

一 争点1(イ号意匠は本件登録意匠(一)に、ロ号意匠は本件登録 意匠(二)に、それぞれ類似するか。)について
1 本件各登録意匠及び本件類似意匠並びにイロ各号意匠の各構成態様
(一) 本件各登録意匠について
(1) 基本的構成態様
1. 本件登録意匠(一)は、両手を上に上げた招き猫であり、 同(二)は、右手を上に上げた招き猫である。
2. 大きく丸く口を開けている。
3. 目は円弧状の線で表されている。
4. 体表に斑点がある。
5. 鈴のついた首輪をしている。
6. 本件登録意匠(二)は、左手で体躯の高さのほぼ半分に及 ぶ大きな小判二枚を上から支えている。
(2) 具体的構成態様
1. 眉は円弧状でやや垂れている。
2. 耳の内側が着色されている。
3. 鼻は黒く塗る形で表現されている。
4. 斑点の位置は、本件登録意匠(一)においては、頭頂部、 両手の肘、腹部、左膝であり、同(二)においては、頭頂部、右手肘、左右膝である。
5. 左右各4本の髭がほぼ平行に配されている。
6. 顔の高さ(耳の部分を除く。以下同じ。)に占める口の高さの割合は、本件登録意匠(一)において約46パーセント 、同(二)において約39パーセント、顔の幅に占める口の幅 の割合は、右(一)において約31パーセントであり、同(二)において約33パーセントである。
7. 体躯全体の高さ(耳の部分を含む。以下同じ。)に占める上げた手の高さ(手の甲の上端から腋の下まで。以下同じ。)の割合は約50(本件登録意匠(二))から55パーセン ト(本件登録意匠(一))である。
(二) 本件類似意匠の構成態様
(1) 基本的構成態様
 右手を上に上げた招き猫であり、その他は、本件各登録意匠の基本的構成態様2.ないし5.と同様である。
(2) 具体的構成態様
 斑点の位置が頭頂部、左右の肘であり、左右各3本の髭がほぼ平行に配されている他は、本件各登録意匠の具体的構成態様とほぼ同様である。
(三) イロ各号意匠の構成態様
(1) 基本的構成態様
1. イ号意匠は、両手を上に上げた招き猫であり、ロ号意匠は、右手を上に上げた招き猫である。
2. 大きく丸く口を開けている。
3. 目は円弧状の線で表されている。
4. 体表に斑点がある。
5. 鈴のついた首輪をしている。
・6. 腹部に札が貼ってある。
(二) 具体的構成態様
1. 眉は、イ号意匠は、直線的でややつり上がっており、ロ号意匠は、円弧状でやや垂れている。
2. 耳の内側が着色されている。
3. 鼻は穴まで表現されている。
4. 斑点の位置は、両手肘、両膝である。
5. 左右各3本の髭がやや放射線状に配されている。
6. 顔の高さに占める口の高さの割合は、イ号意匠は、約40パーセント、ロ号意匠は、約38パーセントであり、顔の幅に占める口の幅の割合は、イ号意匠は、約24パーセント、ロ号意匠は、約27パーセントである。
7. 体躯全体の高さに占める上げた手の高さの割合は約45(ロ号意匠)から47パーセント(イ号意匠)である。
2 本件各登録意匠と本件イロ各号意匠の類否について
(一) まねき猫は小売商を通じて一般需要者に販売されるものであるから、その類否の判断は、取引者及び一般需要者を基準とすべきである。そして、その置物としての性格上、正面からの全体的観察により、看者のもっとも注意を惹く構成態様である要部が類似しているときは、視覚を通じての美観を同じくするといえるから、類似しているというべきである。
(二) そこで、本件各登録意匠の要部を検討するに、前記の各具体・的構成態様及び基本的構成態様のうち、1.、4.ないし6.は、出願当時において、招き猫のデザインとしては、需要者がしばしば目にするありふれたもの(公知意匠ないし周知意匠)といえるから(荒川千尋著、板東寛司写真「郷土玩具招き猫尽くし」〔平成11年4月20日有限会社風呂猫発行〕甲四)、これらを要 部と考えることはできない。そして、右甲四の記載及び本件各登録意匠と本件類似意匠の構成態様との共通部分を参酌すれば、本件各登録意匠の要部は、基本的構成態様の2.及び3.の結合により、大きく口を開けて笑っている表情にあるというべきである。
 被告は、右表情は、本件各登録意匠の出願時、既に、公知あるいは周知であった旨を主張する。しかし、証拠上、基本的構成態様2.に相当するものが右時点で存在していたと認めることはできない。また、甲四及び乙四によれば、右時点において、基本的構成態様3.と同種の構成を有する意匠が既に存在していたことは認められるが、基本的構成態様2.と3.の結合により、大きく口を開けて笑っている招き猫を表現したものが存在していたものと認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被告の右主張は理由がなく、要部についての右認定判断を左右するものではない。
(三) 右認定した要部について、本件登録意匠(一)とイ号意匠及び 本件登録意匠(二)とロ号意匠との類否を検討するに、前記認定 したイロ各号意匠の構成態様によれば、本件各登録意匠とその要部(基本的構成態様2.及び3.の結合による表情)において類似することは明らかであり、ひいては全体としても美感を共通にし類似するものというべきである。
 本件各登録意匠とイロ各号意匠とは、意匠全体に占める口の割合が若干異なるが、いずれも公知意匠に比べればはるかに大きく口を開けているという点では共通するのであるから、類似性についての右認定判断を左右するものではない。その他、本件各登録意匠にはイロ各号意匠の基本的構成態様6.に該当するものはなく、斑点の位置(具体的構成態様4.)等具体的構成態様においても異なるものがあるが、これらも、要部における前記類似性を損なうに足りるものではない。
二 争点2(被告が損害賠償責任を負う場合に、原告に賠償すべき損害の額)
1 意匠法39条2項が適用される場合は、推定規定により、侵害 品の販売により侵害者が得た利益の額を権利者の受けた損害と主張してその賠償を請求するものであるところ、権利者の側においては初期投資を終了しており、権利の実施品の販売をすることにより販売費、一般管理費が増える状況にないとしても、侵害者の側では、侵害製品を製造販売して利益を得るために販売費、一般管理費などを現実に支出するのであるから、これを控除すべきである。
2 そして、弁論の全趣旨によれば、イ号物件、ロ号物件とも大小2つのサイズがあり、大は原価224円、販売価格280円、小は原価140円、販売価格175円であり、被告の主張する費用を要し、その主張のとおりの出荷数、粗利益、純利益を計上していることを認めることができるのであって、これによれば、被告の平成10年5月から平成11年3月までの純利益合計はマイナス46万1534円であることになる。
 そうすると、本件においては原告の損害と推定される被告の利益はないといわざるを得ない。
3 弁論の全趣旨によれば、本件各意匠権についての相当実施料は3パーセントであると認めるのが相当である。そうすると、実施料相当損害金は4万4770円となる。

〔研  究〕

1.招き猫の置物について、本件意匠が3件も登録になったことは、そこに新規性と創作力が認められたからであるが、従来公知の招き猫の置物と対比しても、口を大きく開けて笑っている表情の招き猫置物は存しなかったことから、その構成態様に意匠の要部が存すると認定され、この要部を共通にする被告各意匠は本件意匠(一)(二)に類似すると判断されたのである。
2. 被告の損害賠償額については、その出荷数,粗利益,純利益 も計上すると、純利益合計は「−461,534円」となったことから 、原告の損害と推定される被告の利益は無いことになった(意39条1項)。
 それにしても、故意に意匠権侵害行為をしていながら、侵害者側に販売費や一般管理費などを必要経費として認めて控除しているのは、いかがなものか。被告は自からの意思でそのような侵害行為をしなかったならば、諸経費の発生もなかったのだから、侵害行為者のために諸経費を控除すべき理由はないと思う。
 それでも、裁判所は、本件各意匠権の相当実施料を3%と認めるのが相当とし、44,770円が実施料相当損害金と計算された(意39条2項)が、利益がマイナスでも、実施料相当額の損害賠償金 を支払わなければならないのはなぜだろうか。
 判決はそれには答えていないが、意匠法上の規定がある以上、39条1項がダメな場合は、39条2項でイクという単純な考え方であろうが、意匠権侵害行為を被告が犯していることが確認されている以上は、39条2項の適用はやむを得ないことだろう。

[牛木理一]