A-5

 

「装飾用電球ソケット」意匠権侵害差止等請求事件:東京地裁平成9年(ワ)4986号平成11年8月27日判決(請求棄却)〔民47部〕

〔キーワード〕 
公知意匠、登録意匠の要部の限定、意匠の類似

 

〔判示・認定事項〕 

  1. 出願前公知意匠との対比により、本件登録意匠の要部は、基本的構成態様のみならず、具体的構成態様をも含んだものとして考えなければならない。
  2. 基本的構成態様及び具体的構成態様について、本件意匠と被告意匠とを対比すると、本件意匠と被告意匠はその要部において異なるから、両意匠は類似するとは認められない。

 

〔事  実〕

 

 原告(K社)は、意匠に係る物品「装飾用電球ソケット」について、昭和60年5月8日に出願し、平成2年5月17日に設定登録した意匠登録第793689号に係る意匠権の意匠権者であり、本件登録意匠を実施している。
 被告(D社)と被告(T社)は、別紙物件目録記載の装飾用電球ソケット(被告意匠)によって構成されるライトセットを収納したクリスマスツリーセットを業として販売した。
 これに対して原告は、各被告が得た利益額を原告が受けた損害額と推定し、その損害の一部として両被告に対しそれぞれ500万円の損害賠償を請求した事案である。
 これに対し被告らは、抗弁として、第1に先使用に基づく通常実施権(意29)の取得、第2に出願前公知意匠の存在と登録無効事由のあることを主張した。
 なお、判決文にはなぜか記載はないが、本件登録意匠には、次の3つの類似意匠が登録されていた。
(1)類似1号意匠:昭和63年2月5日出願、平成3年8月8日設定登録
(2)類似2号意匠:平成1年6月19日出願、平成3年11月1日設定登録
(3)類似3号意匠:平成5年3月5日出願、平成7年11月24日設定登録

 

〔理  由〕

 

一 請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二 証拠及び弁論の全趣旨によると、本件意匠の構成は、次のとおりであると認められる。
1 基本的構成態様
 全体として筒状に構成されている。
 上部側は、外面を円筒状に形成した円筒部である。
 円筒部の下側には、断面正六角形状の角筒部が連続している。
 全体の高さと最大幅の比率は、約1.0対0.4である。
 全体の高さと円筒部の高さの比率は、約1.0対0.31である。
2 具体的構成態様
 円筒部は、高さと幅(外径)の比率が、約1.0対1.3である。
 円筒部の上隅部には、90度をなす角部が形成されている。
 角筒部の側面は、上部から下部に進むつれて徐々に細くなる傾斜面である。
角筒部の高さと幅(反対側に位置する面同士の間隔)の比率は、角筒部の上端において約1.0対0.51であり、角筒部の下端において約1.0対0.4である。
 角筒部の高さと幅(反対側に位置する辺同士の間隔)の比率は、角筒部の上端において約1.0対0.59であり、角筒部の下端において約1.0対0.5である。
三 請求原因3の事実は、当事者間に争いがない。
四 証拠及び弁論の全趣旨によると、被告ソケットの構成は、次のとおりであると認められる。
1 基本的構成態様
 全体として筒状に構成されている。
 上部側は、外面を円筒状に形成した円筒部である。
 円筒部の下側には、断面正六角形状の角筒部が連続している。
 全体の高さと最大幅の比率は、約1.0対0.5である。
 全体の高さと円筒部の高さの比率は、約1.0対0.24である。
2 具体的構成態様
 円筒部は、高さと幅(外径)の比率が、約1.0対1.8である。
 円筒部の上隅部は、円弧状に形成されている。
 角筒部の側面は、上部から下部にかけて同じ太さである。
 角筒部の各側面は、山形突状が形成されており、山形突状は、下方に進むにつれて徐々に小さくなる。
 角筒部の高さと幅(反対側に位置する面同士の間隔)の比率は、約1.0対0.6である。
 角筒部の高さと幅(反対側に位置する辺同士の間隔)の比率は、約1.0対0.68である。
五1 証拠及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
(一)甲種電気用品である装飾用電燈器具の輸入販売を業とする
Y商会は、昭和56年11月13日、「92-419」、「92-420」及び「92-421」の認可番号で、それぞれ「100V、0.14A、直列及び並列接続」、「100V、0.07A、直列接続」及び「100V、0.56A、直列及び並列接続」の型式で、装飾用電燈器具についての電機用品型式認可を取得した(以下、右型式認可を「本件型式認可」という。)。
(二)Y商会が、本件型式認可を取得した装飾用電燈器具は、クリスマスツリーの装飾用ライトセットである。右ライトセットのソケットの基本的構成態様は、全高の略3分の1を円筒状部とし、残りを断面正六角形状の柱状体とし、直径と高さの比率を約1対2としたものである。その各部の具体的構成態様は、六角形状の円柱体は上下略同じ大きさとし、該部の側面は平坦面をなし、円筒状部の頂部に形成された電球支持具用嵌合凹部の下端面にH字状端子板挿入口を備え、六角柱状部の下端面に倒凸状コード孔を左右対称に備えたものである。
(三)Y商会は、昭和57年3月19日付けの書簡で、台湾のT社に対し、本件型式認可を受けたクリスマスツリーの装飾用ライトセットの製造注文を行い、台湾のK社から、Y商会に対して、同年4月16日付け注文確認書が送付された。右ライトセットは、同年9月24日及び同年10月8日付けで京都税関支署によって輸入を許可されて通関し、右ライトセットのソケットの形態は、遅くとも同年のクリスマスシーズンにおいては、日本国内において公然知られたものとなった。
2(一)原告は、前記第二(当事者の主張)四2のとおり、乙証拠は本件型式認可の申請関係書類とは考えられない旨主張する。
(二)右各号証は、1.「輸入甲種電気用品に係る型式認可申請書」、2.「輸入甲種電気用品に係る試験申請書」、3.「申請書別紙(型式の区分)」、「申請書別紙(製造(販売)しようとする甲種電気用品の構造、材質及び性能の概要)」、写真、「構成部品一覧表」、「回路配線図」、4.「試験依頼書」、5.「合格証」、6.「甲種電気用品の型式の認可について」によって構成されている。
 1.証拠又は2.証拠及び4.証拠には、昭和56年7月28日付けの財団法人日本電気用品試験所の受理印がおされ、受理番号(第1188ないし1190号)が付されており、これらの書類は、同日同財団法人によって受理されたものと認められる。なお、受理印が押されている書類は右のとおり1.又は2.であって、一致していないが、これは、一連の書類を提出したときに最も上にあった書類に押されたものと推認することができるから、格別不自然ではない。
 3.証拠は、定格値の記載が4.中の「依頼品の型(定格)」の記載と一致しており、3.中の写真で示されたソケットの数と、3.中の「構成部品一覧表」における「ソケット外かく」の個数も一致している。その他、3.の内容、体裁を総合すると、3.は、一体として1.及び2.の申請書の別紙であると認められる。
 5.証拠には、1.証拠又は2.証拠、4.証拠と同一の受理番号が付され、合格証の番号として56第4588ないし4590号の連番が付されており、2.の申請に対する財団法人日本電気用品試験所の合格証であることが明らかである。そして、その日付が昭和56年10月27日であることからすると、その翌日付けで型式認可の申請がされ、6.証拠において、認可されたものと推認することができる。6.においても、番号として、第92-419ないし421号の連番が付されている。
 以上のとおり、右1.ないし6.の書類は、本件型式認可の申請関係書類であることを合理的に説明することができる。
(三)証拠の一部にホッチキスで止めた痕跡があり、一部に痕跡がないとしても、それは、右各書類の保管方法の問題に過ぎないということができるから、そのことから直ちにこれらの書類が本件型式認可の申請関係書類ではないということではできない。
(四)したがって、原告の右主張は採用できない。
六1 ところで、前記五のとおり、本件意匠登録出願前である昭和57年のクリスマスころには、全高の上部側略3分の1を円筒状部とし、残りを断面正六角形の柱状部とし、直径と高さの比率が略1対2である基本的構成態様を有するソケットは、公然知られたものとなっていたところ、本件意匠の各基本的構成態様のうち、全体として筒状に構成されていること、上部側は、外面を円筒状に形成した円筒部であること、円筒部の下側には、断面正六角形の角筒部が連続していることは、いずれも右出願前公知の意匠と同じである。また、本件意匠の基本的構成態様のうち、全体の高さと円筒部の高さの比率が、約1.0対0.31であることも、右出願前公知の意匠とほとんど変わらないということができるし、全体の高さと最大幅の比率が、約1.0対0.4であることも、右出願前公知の意匠とさほど大きな差ではない。
 そうすると、本件意匠の要部としては、基本的構成態様のみならず、具体的構成態様をも含んだものとして考えなければならないというべきである。
2 そこで、基本的構成態様及び具体的構成態様について、本件意匠と被告意匠とを対比すると、本件意匠の角筒部の側面が、上部から下部に進むにつれて徐々に細くなる傾斜面であるのに対し、被告意匠の角筒部の側面が、上部から下部にかけて同じ太さである点、本件意匠の円筒部の上隅部には、90度をなす角部が形成されているが、被告意匠の円筒部の上隅部は、円弧状に形成されている点、本件意匠の角筒部の各側面には山形突状が存在しないのに対し、被告意匠の角筒部の各側面には山形突起状が形成されており、山形突状は、下方に進むにつれて徐々に小さくなる点、全体の高さに対して円筒部の高さの占める割合は、本件意匠の方が被告意匠よりも大きい点が異なっているから、本件意匠と被告意匠は、その要部において異なるものであり、右両意匠が類似するものとは認められない。

〔研  究〕

1.この判決は、本件登録意匠には3つの登録類似意匠が付帯していたにもかかわらず、それらを本件意匠権の表示から外していることは疑問である。この考え方は、類似意匠登録制度(意10、20(1)、22、42(2))の存在を無視するか、またはその意義を知らないものである。このことは、登録類似意匠の存否にかかわらず、当該意匠権の効力は意匠法23条の規定があれば十分理解することができると考えることとは別問題である。
 本件登録意匠に付帯する類似3号意匠を見たまえ。そして、この類似意匠とイ号物件意匠とを対比したまえ。この両意匠は、相違を見い出すことが困難な同一の意匠である。原告はおそらく、被告が実施していたイ号物件意匠を、本件登録意匠に類似することを確認するために出願したのであろうが、判決はこの類似3号意匠とイ号物件意匠との関係については全く触れていない。(同部が行ったA1−2「擁壁用ブロック」事件の判決理由との違いを対比したまえ。)
 判決が認定した本件登録意匠の要部を具備しないとしたイ号意匠の要部である次の点は、実はすべて類似3号意匠が具備しているものである。判決の指摘がないことから、これらの要部は本件登録意匠の出願前公知意匠の中にも存しなかったものといえる。
即ち、
1. 被告意匠の角筒部の側面は、上部から下部にかけて同じ太さである。
2. 被告意匠の円筒部の上隅部は、円弧状に形成されている。
3. 被告意匠の角筒部の各側面に形成される山形突状は、下方に進むにつれて徐々に小さくなる。
4. 全体の高さに対して円筒部の高さの占める割合は、本件意匠の方が被告意匠よりも大きい。
 そこで、類似3号意匠が本件登録意匠の類似範囲に属するとして登録されている事実を直視するならば、たとえ本件登録意匠の類似範囲は本来的に狭いものであったとしても、イ号意匠は当然、本件登録意匠と類似すると判断されてよかったであろう。
2.本件登録意匠は、被告から提出された種々の公知意匠との類似性が立証されたことから、その創作度の低さが明らかになり、いわゆる登録意匠の要部はきわめて限定されたものとなったから、その類似範囲はきわめて狭いものとなったようである。
 しかし、本件登録意匠については、全部公知意匠による権利濫用の認定までには至らなかったようであるが、それに近い事案であったかも知れない。
3.なお、本件登録意匠の原簿を見ると、本件登録意匠に対しては、平成11年3月18日に登録無効審判が請求されている。この審判請求は、本件の口頭弁論終結日(平成11年6月4日)よりも前の平成11年3月18日であるが、このような審判請求は、戦略上は、本訴が請求される前に行うのが普通である。したがって、最近の審判請求の目的は何であるのか不明であるが、類似3号意匠が存在していることは、今後の被告の実施上、不安であることから、完全に消滅しておきたいという強い願望があったのかも知れない。

[牛木理一]