A-6

 

 

 

「実演用ワゴンテーブル」意匠権侵害差止等請求事件:東京地裁平成10年(ワ)15700号平成11年10月29日判決(認容)〔民47部〕

〔キーワード〕 
意匠の類似、実施行為、差止請求の限度、損害賠償額の算定、被告の利益額、控除費用

 

〔判示・認定事項〕 

  1. 被告は、イ号物件について、製造、販売、販売の申出又は販売のための展示をする他の行為を行う又は行うおそれがあることを認めるに足りる証拠はないから、原告の差止請求には限度がある。
  2. 意匠法39条2項にいう「利益」とは、権利者が現実に意匠権を実施しており、かつ、設備投資や従業員の雇用を新たに必要としない状態で製造、販売等が可能な範囲内では、侵害行為者の製品の売上額からその製造、販売等のための変動経費のみを控除した額をいうものと解するのが相当である。
  3. 原告は、原告製品を製造販売するために新たに金型を製作して金型代を支出する必要があったとは認められないから、金型代は控除できないし、イ号物件の販売に関する販売費,一般管理費の額を認める証拠はないから、販売費,一般管理費の額も控除できない。
  4. 被告が得た利益額は、売上総額から仕入総額及び運賃を控除した金額である。

 

〔事  実〕

 

 原告(K社)は、意匠に係る物品「実演用ワゴンテーブル」について、昭和63年2月5日に出願し、平成4年5月14日に設定登録した本件登録意匠に係る意匠登録第845569号の意匠の意匠権者である。判決文にはなぜか記載はないが、本件登録意匠には、平成8年12月19日に出願し、平成10年5月22日に設定登録した類似1号意匠が付帯している。
 被告はイ号物件目録記載の物件を、K社に委託して製造させ、O社を通じて仕入れ、別にI社から仕入れたゴミ箱とセットで販売していた。
 本件は、原告が被告に対し、イ号物件の製造販売等が本件意匠権を侵害するとして、イ号物件の製造等の差止めと、不法行為に基く損害賠償を請求した事案である。

 

〔判  断〕

 

一 差止請求について
 前記第二の一の事実によると、被告は、イ号物件の製造、販売、販売の申出又は販売のための展示をするおそれがあるものと認められるところ、イ号物件は本件意匠に類似するから、被告による右の各行為は、本件意匠権の侵害となるものである。
 しかし、被告が、イ号物件について、本件意匠権の実施に当たる他の行為を行い又は行うおそれがあることを認めるに足りる証拠はない。
 したがって、原告の差止請求は、イ号物件の製造、販売、販売の申出又は販売のための展示の差止めを求める限度で理由がある。
二 損害賠償請求について
 被告は、イ号物件を販売して本件意匠権を侵害したことについて過失があったものと推定されるから、イ号物件の販売により原告が被った損害を賠償する責任がある。
 そこで、右損害額について判断する。
1 証拠と弁論の全趣旨によると、K社 はO社を通じて被告に対し、平成8年2月20日から平成10年7月23日までの間にイ号物件を合計2727台納入したことが認められ、これに反する証拠はない。この事実と弁論の全趣旨によると、被告は、平成8年2月から平成10年9月までの間に、イ号物件を少なくとも2709台販売したものと認められる。
また、証拠と弁論の全趣旨によると、被告は、販売先に応じて、被告製品を1台当たり1万8776円、2万円、2万6000円、2万8200円、3万円、4万4200円などといった金額で販売していたこと、販売量の多い販売先に対する1台当たりの販売価格は、右のうち1万8776円及び2万円であったこと、被告が有する帳簿に記載されている被告製品1586台の売上額は合計3055万0601円であって、1台の平均販売価格は1万9262円となること、以上の事実が認められ、以上の事実によると、右2709台の平均販売価格は1万9262円を下回らないものと認められるが、これを超えるとまでは認められない。
 以上によると、被告が販売した被告製品の売上総額は、5218万0758円であると認められる。
  19,262×2,709=52,180,758
2 被告のレッツカンスリム(ゴミ箱の商品名)の仕入原価が249円であることは当事者間に争いがなく、証拠と弁論の全趣旨によると、被告のイ号物件の仕入単価は8930円であることが認められるから、被告製品の仕入総額は、2486万5911円であると認められる。
  (8,930+249)×2,709=24,865,911
3 証拠によると、被告は販売した被告製品の運送をS社に委託して行っていたところ、同社では被告製品の運賃を50キログラム相当に換算して計算しており、同社の運賃表では、50キログラム相当の貨物の運賃は、運送距離に応じて1100円から2800円までに設定されていることが認められ、以上の事実に弁論の全趣旨を総合すると、被告製品の販売に係る運賃の額は、1台当たり平均1200円を下回らないと認められる。したがって、運賃総額は325万0800円であると認められる。
  1,200×2,709=3,250,800
 なお、原告は、原告製品の運賃の額は、右の額よりも低いと主張し、それに沿う証拠を提出しているが、原告製品の運賃の額から被告製品の運賃の額を直ちに推認することはできないから、これらの証拠は右認定を覆すに足りるものではない。
4 被告は、イ号物件の販売により被告の得た利益の算定に当たり、売上総額からイ号物件の金型代及び販売費・一般管理費を控除すべきであると主張する。
 意匠法39条2項にいう「利益」とは、権利者が現実に意匠権を実施しており、かつ、設備投資や従業員の雇用を新たに必要としない状態で製造、販売等が可能な範囲内では、侵害行為者の製品の売上額からその製造、販売等のための変動経費のみを控除した額をいうものと解するのが相当である。
 しかるところ、原告は原告製品の製造販売をしていたものと認められるから、原告が、原告製品を2709台製造販売するために、新たに金型を製作して金型代を支出する必要があったとは認められない。したがって、金型代は控除しないこととする。
また、被告は、イ号物件の販売費・一般管理費は、売上高の20%に当たる金額であると主張するが、イ号物件の販売に関する販売費・一般管理費の額を認めるに足りる証拠はない。したがって、販売費・一般管理費の額も控除しないこととする。
5 以上によると、被告がイ号物件の販売により得た利益の額は、右1の売上総額5218万0758円から右2の仕入総額2486万5911円及び右3の運賃総額325万0800円を控除した金額である2406万4047円となり、これが原告の被った損害額であると推定される 。
  52,180,758−24,865,911−3,250,800=24,064,047
したがって、原告は被告に対し、2406万4047円の損害賠償を請求することができるから、原告の損害賠償請求は右金額の限度で理由がある。
なお、原告は、本訴状送達の日の翌日である平成10年7月25日からの遅延損害金の請求を求めているところ、右2406万4047円の利益は、平成8年2月から平成10年9月までの間にイ号物件を合計2709台販売したことにより得た利益であるから、右2406万4047円に対する遅延損害金の起算日は、最も遅い平成10年9月30日とするものとする。
〔研  究〕
1.本件登録意匠には類似1号意匠が登録されていたが、この類似意匠とイ号意匠とを対比すると、彼此同一といってよい程類似している意匠である。ということは、おそらく原告は被告のイ号意匠を見て、これについての類似の確認を得るために類似意匠の出願をしたものと思われるが、意匠権者はよく使う手であった。(改正意匠法では、同日出願しか類似意匠の登録は認められなくなったから、このような手を積極的に使うことはできなくなった。)
 しかし、判決はなぜか類似意匠の出願や登録のことについては全く触れていない。類似意匠の登録が現に存するにもかからわず、これについて全く触れないことは、違法とはいわないまでも、欠陥性のある判決と批判されても仕方がない。意匠法23条の効力規定は類似意匠登録の有無に関係はないが、類似意匠の登録が現に存する以上は、これに言及すべきである。
 もしこれに言及すれば、イ号意匠は類似1号意匠と同一に近い意匠であることから、本件登録意匠に類似すると判断することは、きわめて容易なことであるといえるからである。
2. ところが、判決はまず差止請求に対し説示しているが、「イ号物件は本件意匠に類似する」から、本件意匠権の侵害となると認定しているだけであり、なぜ両意匠は類似なのかについての説明が全く欠如しているから、説示になっていない。
 また、本件登録意匠及びイ号意匠の各構成態様についての説明も、裁判所の判断において全く欠如していることはいただけない。裁判は、当事者間の紛争を解決する手段として原告勝訴の判決をしたとしても、教材の対象にもなるのだから、事実認定及び判断は、客観的に納得のいくものでなければ被告も学識者も承知しないであろう。

[牛木理一]