A-33

 

「手さげかご」意匠権侵害差止等請求事件:大阪地裁平16(ワ)14355号 平成18年1月17日判決(棄却) 〔特許ニュース2006年5月26日号〕

 

〔キーワード〕
意匠の類否判断,需要者,創作の要部,意匠の要部,美感,類似意匠,登録無効事由

〔事  実〕
 原告(大和産業株式会社)は、意匠に係る物品の「手さげかご」に係る意匠を平成1年8月2日に出願し、平成4年12月25日に設定登録した意匠登録第863998号の意匠権者である。本件登録意匠には類似意匠1〜5号が付帯している。
 本件は、原告が被告(太陽ビルメン株式会社)による手さげかごの製造販売は原告の意匠権を侵害しているとして、同意匠権に基づき同手さげかごの製造販売の差止め及び廃棄並びに金型の除去を求めるとともに不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。
 本件の争点は、次の点にあった。

(1)イ号意匠は本件登録意匠と類似するか。

(2)本件登録意匠の意匠登録には以下の無効事由があり、権利行使をすることが許されないか。
イ.新規性欠如
ロ.先願性
ハ.創作容易性

(3)原告の損害額

〔判 断〕
1 争点(1)(イ号意匠は,本件登録意匠と類似するか)について
(1) 本件登録意匠の構成
 本件登録意匠において,かご本体の形状が横長直方体状であること,かご本体の上部における縦と横の寸法比が約1:1.45であること,かご本体の上端縁に一対のコの字状の把手杆が回動自在に取り付けてあることはいずれも当事者間に争いがない。
 上記当事者間に争いのない事実及び本件公報(甲4)によれば,本件登録意匠の構成は,次のとおりであると認められる。
ア 基本的構成態様
 かご本体がやや横長長方形状で,その周側面は上面に向かって順次幅広で形成されて成る上面開口型であり,周側面及び底面に多数の孔が穿設され,両側上端縁に一対の把手杆を有している手さげかごである。
イ 具体的構成態様
@(かご全体の形状及び寸法比)
 かご本体の,上部における縦と横の構成比が約1対1.45であり,下部における縦と横の構成比が約1対1.68の横長な形態から成る。
A(かご本体の正面板及び背面板の孔群及び無孔部並びに切欠部の配置)
 かご本体の正面板及び背面板には,上下端が半円弧状の略縦長長円形状の孔が,高さが同一で縦5段で穿設され,中央上方部に広告表示用の略長方形状の無孔部が設けられて,下3段孔群は,横24列に,最上段孔群は左右各6本の透孔と無孔部の上部に高さが他の透孔の約2分の1の略縦長円形状の12個の小孔が穿設され,上から2段目の孔群は上記無孔部により左右に6本の透孔に分離して穿設され,両側端には,両側端縁との間に一定幅の無孔部を有しており,透孔と縦長さが同じで横幅が約2分の1の大きさの切欠部が5個形成されている。
B(かご本体の正面板及び背面板の孔群の形状)
 かご本体の正面板及び背面板に穿設された透孔は,高さが同一で,上方になるに従ってわずかに幅広になり,全体の孔群が略逆台形状を呈するよう穿設され,中心線が上下方向の同一直線上に列設される5個の透孔が列を形成し,中央から左右に離れるに従って次第に傾斜して,左右端の列をなす5個の透孔の中心線は,かご本体の両側端縁と略平行しており,5個の孔列はあたかも扇の骨のように最下段から最上段まで上方へ拡開して配設されている。
C(かご本体の左右側面板の孔及び孔群並びに切欠部の配置)
 かご本体の左右側面板には,正面板及び背面板における孔と同形状の孔が,高さが同一で,縦5段,横15列に穿設され,両側端縁との間に一定幅の無孔部を有しており,両側端縁には該孔と縦長さが同じで横幅が約2分の1の大きさの切欠部が5個形成されている。
D(かご本体の左右側面板の孔及び孔群の形状)
 かご本体の左右側面板に穿設された透孔は,高さが同一で,上方になるに従ってわずかに幅広になり,全体の孔群が略逆台形状を呈するよう穿設され,中心線が上下方向の同一直線上に列設される5個の透孔が列を形成し,中央から左右に離れるに従って次第に傾斜して,左右端の列をなす5個の透孔の中心線は,かご本体の両側端縁と略平行しており,5個の孔列はあたかも扇の骨のように最下段から最上段まで上方へ拡開して配設されている。
E(無孔部の形状)
 かご本体の正面板及び背面板の中央上方部に設けられる広告表示用の略長方形状の無孔部には,そのほぼ外周に沿ってラインが存在する。
F(底面の形状)
 底面は略長方形状であり,略正方形の孔が底面全体にわたって格子状に縦13個,横23個整列して穿設され,これら略正方形状の孔群の外周には突リブが形成され,また左右側面板と平行の2本の縦枠と正面板及び背面板と平行の2本の横枠とが中央で交差するよう形成されている。
G(底面から周側面下部の透孔の形状)
 突リブ外周の孔は,底面と正面板,背面板及び左右側面板とをブリッジ状に連接するリブによって正面板,背面板及び左右側面板の孔とは別個に形成されているものであり,正面,背面及び左右側面においては略半楕円形状の孔として表れ,該突リブの四角部には無孔部が存し,それ以外の外周には底面から見てほぼ四角形に見え,中央部に近づくに従ってわずかに縦が長くなる孔が正面板及び背面板に沿ってそれぞれ23個,左右側面板に沿ってそれぞれ13個穿設されている。
H(かご本体の長手方向上側端縁の形状及び把手杆の形状)
 かご本体の長手方向上側端縁には一対の係合部が突設され,該係合部には平面視略コ字状の把手杆が回動自在に設けられている。
(2) イ号意匠の構成
 イ号意匠が,かご本体の形状が横長直方体状であること,かご本体の上部における縦と横の寸法比が約1:1.36であること,かご本体の上端縁に一対のコの字状の把手杆が回動自在に取り付けてあること,は当事者間争いがない。
 上記当事者間に争いのない事実,証拠(乙13)を併せれば,イ号物件の構成態様は,次のとおりであると認められる(なお,下線部は,上記(1)で認定した本件登録意匠の構成態様との相違点である。)。
ア 基本的構成態様
 かご本体がやや横長長方形状で,その周側面は上面に向かって順次幅広で形成されて成る上面開口型であり,周側面及び底面に多数の孔が穿設され,両側上端縁に一対の把手杆を有している手さげかごである。
イ 具体的構成態様
@(かご全体の形状及び寸法比)
 かご本体の,上部における縦と横の構成比が約1対1.36であり,下部における縦と横の構成比が約2対3の横長な形態から成る。
A(かご本体の正面板及び背面板の孔群及び無孔部並びに切欠部の配置)
 かご本体の正面板及び背面板には,上下端が半円弧状の略縦長円形状の孔が,高さを異にして縦3段で穿設され,中央上方部に広告表示用の略長方形状の無孔部が設けられて,下2段については,横24列に,上段孔群は左右5本の透孔と無孔部の上部となる中央に高さがほかの透孔の約3分の1の略縦長円形状の6個の小孔が穿設され,両側端には,両側端縁との間に一定幅の無孔部を有している。(切欠部はない。)
B(かご本体の正面板及び背面板の孔群の形状)
 かご本体の正面板及び背面板に穿設された透孔は,高さが下から順に高くなり,高さ寸法比は,下から約0.76対1.0対2.53であり,その幅は下段孔群及び中段孔群では,略同一幅で狭小であるとともに,中心線は上下方向の同一線上に列設され,左右端の列をなす2個の透孔の中心線は,かご本体の両側端縁と略平行しているが,上段孔群の透孔は,下段孔群及び中段孔群よりも幅が広く,横6列の下段孔群及び中段孔群の上部に横4列の孔を配置しており,左右端の列をなす透孔の中央から左右に離れるに従って次第に傾斜するが,各孔の中心線は,下段孔群及び中段孔群の中心線と一致はしておらず,両側端の孔の中心線は,かご本体の両側端縁と略平行している。
C(かご本体の左右側面板の孔及び孔群並びに切欠部の配置)
 かご本体の左右側面板には,正面板及び背面板における孔と同形状の孔が,高さを異にして縦3段で,下段孔群及び中段孔群は横18列に,上段孔群は,横12列に穿設され,両側端縁との間に一定幅の無孔部を有している。(切欠部はない。)
D(かご本体の左右側面板の孔及び孔群の形状)
 かご本体の左右側面板に穿設された透孔は,高さが下から順に高くなり,高さ寸法比は下から約0.76対1.0対2.53であり,その幅は下段孔群及び中段孔群では,略同一幅で狭小であるとともに,中心線は上下方向の同一線上に列設され,左右端の列をなす2個の透孔の中心線は,かご本体の両側端縁と略平行しているが,上段孔群の透孔は,下段孔群及び中段孔群よりも幅が広く,横6列の下段孔群及び中段孔群の上部に横4列の孔を配置しており,左右端の列をなす透孔の中央から左右に離れるに従って次第に傾斜するが,各孔の中心線は,下段孔群及び中段孔群の中心線と一致はしておらず,両側端の孔の中心線は,かご本体の両側端縁と略平行している。
E(無孔部の形状)
 かご本体の正面板及び背面板の中央上方部に設けられる広告表示用の略長方形状の無孔部にはライン等は存在しない。
F(底面の形状)
 底面は略長方形状であり,左右端が半円弧状の略縦長長円形状の孔が底面全体にわたって縦14個横10列整列して穿設され,これらの孔群を囲むように突リブが突設され,また左右側面板と平行の2本の縦枠と正面板及び背面板と平行の2本の横枠とが中央で交差するよう形成されている。
G(底面から周側面下部の透孔の形状)
 突リブ外周の孔は,底面と正面板,背面板及び左右側面板とを連接する帯板面状の支持リブによって形成されているものであり正面板,背面板及び左右側面板の下段の孔とほぼ同等の幅寸法で形成されており,正面,背面及び左右側面においては,各下段孔群の下に1対1の対応で半楕円形状の孔として表れる。
H(かご本体の長手方向上側端縁の形状及び把手杆の形状)
 かご本体の長手方向上側端縁には一対の係合部が突設され,該係合部には平面視略コ字状の把手杆が回動自在に設けられている。
I(スタッキングリブ)

 かご本体の上縁の水平フランジ部の下部にスタッキングリブが12枚突設されている。
(3) 本件登録意匠の要部について
 意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察することを要するが,この場合,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等も参酌して,取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して,両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。
 そこで,本件登録意匠の要部を検討する。
ア 本件登録意匠に係る物品である「手さげかご」が,スーパーマーケットやデパート等の店内で用いられる買い物用のかご(ショッピングバスケット)であることは,当事者間に争いがない。そして,証拠(甲8の1)及び弁論の全趣旨によれば,上記買い物かごは,スーパーマーケットやデパート等に対して業務用に販売されるものであるから,その需要者として把握されるのは,スーパーマーケットやデパート等の購買担当者であると認めるのが相当である。そして,証拠(甲8の1,乙3,26)によれば,これら購買担当者が買い物かごを選択する際に重視するのは,次の各点であると認められる。
@ 店舗のイメージに合った優れたデザインであるか否か)
A 客単価の向上につながる買い物かごの容量が大きいか否か(甲第8号証の1の3頁目に「容量が大きく,客単価アップに貢献。」,乙第3号証の1頁目に「このわずかな容量差が売上げ高に差をつけます。」,同号証の2頁目に「客単価を高める新型特大サイズ!!」との記載がある。)
B 堅牢か否か(甲第8号証の1の3頁目に「汚れにくく,丈夫な設計。」との記載がある。)
C 上部周辺の形状や周側面の孔が,かごの網口に指を挟むことのない安全性に配慮した形状であるか否か(甲第8号証の1の2頁目に「バスケットの網目部分に指をはさんでケガをしてしまう。そうした危険を防ぐため,側面をフラットにして安全性を高めています。」との記載がある。)
D サイドグリップの有無や把手杆の形状が顧客にとって使い勝手のよいものであるか否か(甲第8号証の1の2頁目に「サイドグリップ付なので,レジ台での移動やカートからの取り出しが安全かつスムーズにできます。」,「持ちやすい丸み取っ手。間口が大きく商品が取りやすくなっています。」との記載がある。)
E 広告機能に配慮したものであるか否か(甲第8号証の1の2頁目に,無孔部に「お店のネームが入ります。」との記載がある。)
F メンテナンスの容易さ(乙第3号証の2頁目に「把手の受けがありますので把手の汚れが篭の本体に付着しません。」,「底面のコーナーには汚れがつかないよう水切り口を設けました。(洗浄の際にも便利です。)」という記載がある。)
 そうすると,この種の買い物かごの需要者であり,看者であると想定されるスーパーマーケットやデパート等の購買担当者は,上記AないしF記載の個々の形態上の機能性に注意を払うことはもちろんであろうが,それに劣らず当該買い物かごのデザインが店舗のイメージにあった優れた美感を有するものであるか否かを顧客の視点に立って注意をもって観察するものというべきである。
 したがって,上記のような観点で,需要者がまず注意を払うのは買い物かごの全体形状であり,全体形状を俯瞰するためには,やや斜め上方からかご全体が視野に収まる程度の距離をおいて観察するのが通常であると考えられる。甲第8号証の1等の買い物かごのパンフレットにおいて,製品をやや斜め上方からかご全体が視野に収まるように撮影した写真が用いられているのも,全体形状を俯瞰するためであると推認されるところである。そして,やや斜め上方から買い物かごを観察した場合,買い物かごは比較的高さがあるため,まず目につくのは,最も面積が広い周側面(とりわけ正面板)であり,デザインや,孔・網目に指を挟むことを防止するとの安全面からも,最も面積が広い周側面の構成態様に購買担当者は注目すると認められる。また,周側面の底辺部に存在するリブの構成態様も,面積としては周側面よりは小さいものの,デザインの上では周側面と同一平面上にあることから,周側面よりはウェイトは低いにせよ,やはり購買担当者は注目するものと認められる。
 ただし,上記のとおり,購買担当者が買い物かごを選択する際には,デザイン,安全性以外にも,重視する観点が存在するから,そのほかにも上端縁部の形状や把手杆の形状,広告表示用のスペース(無孔部)の有無,形状などにも,注意は惹かれるものと認めるのが相当である。
イ 公知意匠
 (ア) 同一物品に係る意匠について
 本件登録意匠の意匠登録出願前に公知であった「手さげかご」に係る意匠は,実開昭58−41314号公報記載の意匠のほか,別紙手さげかごの公知意匠マップに記載された意匠があるが,本件登録意匠の基本的構成態様は,すでにこれらの公知意匠に顕れたありふれたものであると認められる。また,具体的構成態様@(かご全体の形状及び寸法比)「かご本体の,上部における縦と横の構成比が約1対1.45であり,下部における縦と横の構成比が約1対1.68の横長な形態から成る。」こと,A(かご本体の正面板及び背面板の孔群及び無孔部並びに切欠部の配置)のうち,かご本体の正面板及び背面板に,上下端が半円弧状の略縦長円形状の孔が,中央上方部に設けられた広告表示用の略長方形状の無孔部を除いて一面に列設されていることや,無孔部の上方に高さの低い孔が穿設されているという構成については,上記公知意匠マップ掲載の「河淳株式会社製手さげかご」の意匠に見られる公知の意匠といえる。また,C(かご本体の左右側面板の孔及び孔群並びに切欠部の配置)のうち,かご本体の左右側面板には,正面板及び背面板における孔と同形状の孔が,縦,横に穿設され,両側端縁との間に一定幅の無孔部を有している,という構成も,同じく「河淳株式会社製手さげかご」の意匠に見られる公知の意匠である。さらに,E(無孔部の形状)「かご本体の正面板及び背面板の中央上方部に設けられる広告表示用の略長方形状の無孔部には,そのほぼ外周に沿ってラインが存在する。」ことについても,同公知意匠マップの実開昭58−41314号公報の意匠に見られる公知の意匠である。さらに,F(底面の形状)「底面16は略長方形状であり,略正方形の孔17が底面全体にわたって格子状に縦13個,横23個整列して穿設され」るとの点については,同公知意匠マップの実開昭58−41314号公報の意匠に見られ,「左右側面板と平行の2本の縦枠と正面板及び背面板と平行の2本の横枠とが中央で交差するように形成されている。」点については,本件登録意匠の類似意匠4の拒絶理由通知書に対する意見書(乙20の3)において,引用意匠として添付されている意願平4−33495号公報の図面と思料される同意見書の参考資料2の引用意匠説明図の底面図によれば,類似の意匠が見られ,このような具体的構成態様も公知のありふれた意匠であるということができる。
 他方,A(かご本体の正面板及び背面板の孔群及び無孔部並びに切欠部の配置)のうち「透孔と縦長さが同じで横幅が約2分の1の大きさの切欠部が5個形成されている。」点及びCのうち「両側端縁には該孔と縦長さが同じで横幅が約2分の1の大きさの切欠部が5個形成されている。」点は,公知意匠には見られない形態である。また,B(かご本体の正面板及び背面板の孔群の形状)「かご本体の正面板及び背面板に穿設された透孔は,高さが同一で,上方になるに従ってわずかに幅広になり,全体の孔群が略逆台形状を呈するよう穿設され,中心線が上下方向の同一直線上に列設される5個の透孔が列を形成し,中央から左右に離れるに従って次第に傾斜して,左右端の列をなす5個の透孔の中心線は,かご本体の両側端縁と略平行しており,5個の孔列はあたかも扇の骨のごとく最下段から最上段まで上方へ拡開して配設される。」点及びD(かご本体の左右側面板の孔及び孔群の形状)「かご本体の左右側面板に穿設された透孔は,高さが同一で,上方になるに従ってわずかに幅広になり,全体の孔群が略逆台形状を呈するよう穿設され,中心線が上下方向の同一直線上に列設される5個の透孔が列を形成し,中央から左右に離れるに従って次第に傾斜して,左右端の列をなす5個の透孔の中心線は,かご本体の両側端縁と略平行しており,5個の孔列はあたかも扇の骨のごとく最下段から最上段まで上方へ拡開して配設される。」点については,別紙手さげかごの公知意匠マップ掲載のいずれの意匠も,縦長長円形状の孔の縦列は,すべて垂直に穿設されていて,左右端の縦列の孔は,三角形状をなしていることによれば,これらの具体的構成態様は,公知意匠には見られない新規な形態であると認めることができる。さらにG(底面から周側面下部の透孔の形状)「該突リブ外周の孔は,底面と正面板,背面板及び左右側面板とをブリッジ状に連接するリブ21によって正面板,背面板及び左右側面板の孔とは別個に形成されているものであり,正面,背面及び左右側面においては略半楕円形状の孔22として表れ,該突リブの四角部には無孔部が存し,それ以外の外周には底面から見てほぼ四角形に見え,中央部に近づくに従ってわずかに縦が長くなる孔が正面板及び背面板に沿ってそれぞれ23個,左右側面板に沿ってそれぞれ13個穿設されている。」点についても,公知意匠に同様の構成を具備したものは存在せず,新規の構成であると認められる。
(イ) 同一物品以外の物品に関する公知意匠について
a 本件登録意匠に係る物品である「手さげかご」は,前記アのとおり,スーパーマーケットやデパート等の店内で用いる買い物かごとして用いられる物品であるところ,証拠(乙9)によれば,本件登録意匠の意匠登録出願前に,実公昭42−10413号公報第1図記載の「自転車用前籠」の意匠が公然知られていたことが認められる(公告日昭和42年6月8日。以下同公報第1図に示された意匠を「公知意匠1」という。)。公知意匠1は,金板をプレスして籠状に形成し,これに網目模様等を打ち抜いて網目模様を形成する自転車用かごに係る意匠である。なお,同公報第1図では,かごの一部にのみ孔(網目模様)が形成され,その余の部分には孔が穿設されていないかのように図示されているが,同図の体裁及び同公報の「図面の簡単の説明」の記載に照らせば,同部分は単に孔(網目模様)の記載が省略されているにすぎないことが窺え,同図は,後記のとおり周側面全体に略扇形状に配列して孔が穿設されていることを図示したものであることが認められる。
 そして,公知意匠1は,かご本体がやや横長長方形状で,上部開口型であり,周側面に多数の孔が穿設されている点で,本件登録意匠と基本的構成態様を共通にし,具体的構成態様においても,孔群の形状は全体として逆台形状であり,高さはほぼ同一であって,周側面に孔を略扇形状に配列したものである点で,本件登録意匠と共通する。ただし,かごの周側面の孔の形状が略長方形状である点では,縦長長円形状の本件登録意匠と相違する。
 なお,原告は,公知意匠1に係る考案の対象である自転車用かごは,本件登録意匠に係る物品である「手さげかご」とは,物品の用途,機能を異にする非類似物品であり,本件登録意匠の要部認定に当たり参酌されるべきではないと主張する。確かに,自転車用かごと買い物かごとでは,手に持って携帯するかごであるか,自転車に固定して用いるかごであるかという点において大きな差があり,物品の用途及び機能が相違するから,一般需要者をして両物品間に混同を生じさせるおそれがあるということはできず,物品として同一ということはできない。しかし,本件登録意匠の意匠登録出願の21年以上前に,「かご」の意匠として,既に,上記のとおりほぼ同一の高さの縦長直長方形状の孔を,中心線が上下方向の同一線上に列設される複数個の透孔が列を形成し,中央から左右に離れるに従って次第に傾斜して,扇の骨のごとく最下段から最上段まで上方に拡開して配設されている意匠(公知意匠1)が公知となっていたものであり,このことは,本件登録意匠の要部認定において参酌すべきものと解される。 
b また,証拠(乙15,25)及び弁論の全趣旨によれば,本件登録意匠の意匠登録出願前である昭和57年2月ころに作成された,果物や野菜を採集する際に用いる採集カゴの写真を掲載したパンフレットが配布されたことが認められる(以下「公知意匠2」という。)。採集カゴは,手さげかごと用途及び機能において類似する類似物品である。同公知意匠は,全体の形状が全体として丸みを帯びた略長方形状である点で本件登録意匠と相違するが,横長長方形状に近い形状であって,その周側面は上面に向かって順次幅広で形成されて成る上面開口型であり,周側面及び底面に多数の孔が穿設され,両側上端縁に一対の把手杆が回動自在に取り付けてある点で共通する。具体的構成態様においては,広告宣伝用無孔部がなく,周側面全体に孔が形成されている点や,各周側面の端部が丸みを帯びてカーブしているため,明瞭に縁部の存在があるとは認められないといった相違点はあるが,同一の高さの縦長長方形状の孔を,中心線が上下方向の同一線上に列設される縦5個の透孔が列を形成し,中央から左右に離れるに従って次第に傾斜して,扇の骨のごとく最下段から最上段まで上方に拡開して配設されている点で共通する。
c 乙第5号証,同第6号証(太陽ビルメン株式会社のパンフレット)
 これらのパンフレットのイラストでは,孔の形状が不明確であり,被告が主張するような構成を有する意匠であると認めることは困難であって,本件登録意匠の要部の認定に当たって参酌することはできない。
d なお,原告は,本件登録意匠の要部認定に際して参酌すべき公知意匠として,洗濯物入れに関する意匠登録第815313号(出願昭和62年1月29日。登録平成3年4月23日。)公報(乙8)記載の登録意匠を挙げる。しかし,同登録意匠は,本件登録意匠の出願後に登録されたものであり,かつ,同意匠が本件登録意匠の出願前に公然知られた意匠ないし周知意匠であると認めるに足りる証拠はないから,本件登録意匠の要部認定に際して参酌すべき公知意匠ということはできない。
(ウ) 登録類似意匠
a 原告は,本件登録意匠について,類似意匠1ないし同5が類似意匠登録されたことを考慮すれば,本件登録意匠の要部は,各類似意匠に共通する,原告主張の本件登録意匠の基本的構成態様(@かご本体1は,横長長方形状でその周側面2は上方に向かって順次幅広でかつ上面開口型からなり,かつAかご本体の周側面2に,上下端が半円弧状の略長楕円形状の孔5が,段,列をなして,全体の孔群が略逆台形状を呈するよう穿設されてなり,Bしかも前記孔5の中央の縦列は垂直で,中央から離れるに従って次第に傾斜し,左右端の縦列6はかご本体の両側端縁7に孔の外側端縁8が略平行して一直線状になるように形成されて成る。)にあると主張する。
 上記各類似意匠の意匠は,別紙意匠公報2ないし6記載のとおりであり,それを一覧表にしたのが,別紙本件登録意匠と類似意匠マップである。
b 周側面の形態について,本件登録意匠では,かご本体の正面板及び背面板では高さが同一の孔が,無孔部のない段で,縦5段横24列穿設され,左右側面板では,縦5段横15列穿設されている。類似意匠1及び同4も,周側面の形態は本件登録意匠と共通している。類似意匠5は,縦列が同一の高さの孔が4段,横列は29列である点で相違しているが,各孔の高さはほぼ均等であり,孔の横幅も均等である。類似意匠2においては,かご本体の正面板及び背面板では,穿設された透孔が縦4段,横(下から3段について)24列であり,最上段の孔群の高さが,ほかの孔群の高さの約2倍である点と無孔部の上部の孔が,8個である点で相違する。かご本体の左右側面板の孔及び孔群の形状についても,同様に,縦4段,横15列であるが,最上段の孔群の高さが,他の孔群の高さの約2倍である点で,本件登録意匠と相違する。ただし,全体の孔群が略逆台形状を呈するよう穿設され,中央線が上下方向の同一直線上に列設され,孔の幅は,同じ段にある孔においては均等である点は,本件登録意匠と共通する。
 他方,底面の形状については,本件登録意匠と,類似意匠1,同2,同4及び同5とでは相違する。
c 類似意匠3においては,具体的構成態様のA,Bについて,孔群が縦3段で,孔の大きさも,上段孔群と中段孔群及び下段孔群とでは異なっており,高さは,約4対3対3で,幅は,中段孔群及び下段孔群では,略同一幅であるが,上段孔群では中段孔群及び下段孔群6列に対して,上段孔群5列と,やや広くなっている点で相違する。また,無孔部の上部の孔も,6個ある点で,相違する。具体的構成態様のC,Dにおいても孔の形状において,同様の相違点がある。
 類似意匠3に無効事由があるか否かについては,争いがあるので,以下検討する。
 証拠(甲5の3)によれば,類似意匠3は,平成6年11月18日付けで類似意匠登録出願がされ,平成8年7月18日,本件意匠権の類似3号として類似意匠登録がされたものである。他方,証拠(乙26,30,31の1ないし6)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,平成5年末ころ,ローソン店内で使用する買い物かごの製造を依頼されて,デザインを検討し,平成6年7月14日には,物流担当の株式会社パルタックに対して,ローソン向けの買い物かご「SWD−18」の販売を開始し,その後,順次,同買い物かごがローソンに納入され,既存店すべてにおいて買い物かごを入れ替えたため,その販売個数は約20万個に及んだ。なお,当時の商品番号「SWD−18」は,下部コーナー部が破損することがあり,その補強のために四隅の柱を1ないし2mm程度太くした改良型に切り替えたのが,現在,被告が製造販売するイ号物件であることが認められる。
 したがって,当初販売されていた商品番号「SWD−18」の買い物かご(以下「イ’号物件」という。)の形態は,四隅の柱の太さが若干,現在のイ号物件よりも細いだけであり,意匠としては,ほぼ同一と評価し得るものであるといえる。
 ところで,上記類似意匠3の孔群の形態は,縦列が3段であり,上段孔群が中段孔群及び下段孔群よりも高さがあり,かつ幅も広く,中段及び下段の透孔の中心線と,上段の透孔の中心線とが一致していない点で,イ号物件ないしイ’号物件の意匠に類似する。
 そうすると,イ’号物件の意匠は,類似意匠3の類似意匠登録出願がされた平成6年11月18日時点では,日本国内において公然知られた意匠であり,類似意匠3との関係では,本意匠である本件登録意匠の出願後,類似意匠の登録出願前に公知となった他人の意匠(中間介在意匠)に該当するものということができる。
 旧意匠法10条1項は,類似意匠の意匠登録出願について,本意匠の意匠権者を優遇する特別規定を設けていなかったから,類似意匠登録出願については,本意匠の意匠登録出願と類似意匠の意匠登録出願との中間に公知となった意匠が介在する場合には,その類似意匠登録出願は,上記改正前意匠法3条1項による拒絶理由を有し(同法17条1項1号),類似意匠登録を受けたとしても,旧意匠法48条1項1号の無効事由を有するというべきである。
 そうすると,類似意匠3は,上記のとおり,本意匠である本件登録意匠の出願後,類似意匠登録出願前に日本国内で公知となったイ’号物件に係る意匠に類似する意匠であるから,イ号意匠が本件登録意匠に類似するか否かにかかわらず,類似意匠3の意匠登録出願は,本来,旧意匠法3条1項3号に当たるものとして,同法17条1項1号にいう拒絶理由を有するものであり,類似意匠3に関する意匠登録も,同法3条1項に違反してなされたものとして,同法48条1項1号の無効事由を有するものである。
 よって,類似意匠3は,意匠登録が意匠登録無効審判により無効にされるべきものと認められるから,少なくとも,本件登録意匠の要部認定に当たり,類似意匠3を参酌するのは相当でないというべきである。また,類似意匠3の類似意匠登録出願に対し,特許庁が類似意匠3が本件登録意匠に類似するとの判断は,本件訴訟における本件登録意匠についての類否判断に当たって拘束力を持つものではない。
d 類似意匠が登録されている場合,本意匠の要部は類似意匠にも共通して存在するはずである。そして,類似意匠1及び同4においては,周側面の孔の配置及び形状は,ほぼ本意匠である本件登録意匠と同じであり,同5については周側面の孔の配置について縦列及び横の段の数は相違するものの,透孔が高さが同一であり,上方になるに従ってわずかに幅広になり,全体の孔群が略逆台形状を呈するよう穿設され,中心線が上下方向の同一直線上に列設される透孔が列を形成し,中央から左右に離れるに従って次第に傾斜して,左右端の列をなす透孔の中心線は,かご本体の両側端縁と略平行しており,孔の縦列はあたかも扇の骨のごとく最下段から最上段まで上方へ拡開して配設される点で共通する。類似意匠2については,周側面の孔の配置について,縦列の数が異なり,最上段の孔の高さが他の段の孔の高さの略2倍である点で相違するが,その他の段の透孔が高さは同一であり,さらに透孔が上方になるに従ってわずかに幅広になり,全体の孔群が略逆台形状を呈するよう穿設され,中心線が上下方向の同一直線上に列設される透孔が列を形成し,中央から左右に離れるに従って次第に傾斜して,左右端の列をなす透孔の中心線は,かご本体の両側端縁と略平行しており,孔の縦列はあたかも扇の骨のごとく最下段から最上段まで上方へ拡開して配設される点で共通する。
(エ) そのほか,原告は,登録審査例に基づいて,かごについては,周側面が要部となることを主張しているが,かかる事例が多いとしても,特許庁のなした判断には,本件訴訟における本件登録意匠の類否判断に当たって拘束力を持つものではない。
(オ) 検討
 以上の認定説示によれば,本件登録意匠においては,前記各公知意匠との対比において,具体的構成態様のA及びCの,上下端が半円弧状の略縦長長円形状の孔が,高さが同一で,複数の段で穿設されている点,具体的構成態様B及びDの,透孔が高さが同一であり,上方になるに従ってわずかに幅広になり,全体の孔群が略逆台形状を呈するよう穿設され,中心線が上下方向の同一直線上に列設される複数の透孔が列を形成し,中央から左右に離れるに従って次第に傾斜して,左右端の列をなす複数の透孔の中心線は,かご本体の両側端縁と略平行しており,複数の孔列はあたかも扇の骨のごとく最下段から最上段まで上方へ拡開して配設される点(ただし,類似意匠2の存在を参酌すると,最上段の孔の形状は,幅は同一であり,高さが略2倍となる程度であれば,高さについては均等である必要はない。),具体的構成態様のG(突リブの孔及び無孔部の形状)「該突リブ外周の孔は,底面と正面板,背面板及び左右側面板とをブリッジ状に連接するリブによって正面板,背面板及び左右側面板の孔とは別個に形成されているものであり,正面,背面及び左右側面においては略半楕円形状の孔として表れ,該突リブの四角部には無孔部が存し,それ以外の外周には底面から見てほぼ四角形に見え,中央部に近づくに従ってわずかに縦が長くなる孔が正面板及び背面板に沿ってそれぞれ23個,左右側面板に沿ってそれぞれ13個穿設されている。」点において,新規な印象を与えるものというべきである。なお,具体的構成態様A及びCの5個の切欠部については,いずれも各周側面の端部に位置しており,かご本体を正面,背面又は左右側面から観察したときに限って,隣接する周側面に穿設された孔が切欠部として見えるというものにすぎず,注意して観察しない限り,切欠部として認識することは少ないものと認められるから,需要者の注意を惹くものということはできない。
 そして,本件登録意匠の具体的構成態様B及びDの,透孔の高さが同一であり,上方になるに従ってわずかに幅広になり,全体の孔群が略逆台形状を呈するよう穿設され,中心線が上下方向の同一直線上に列設される5個の透孔が列を形成し,中央から左右に離れるに従って次第に傾斜して,左右端の列をなす5個の透孔の中心線は,かご本体側面板の傾斜と等しく,5個の孔列はあたかも扇の骨のごとく最下段から最上段まで上方へ拡開して配設される点は,形態が新規である上,かご本体で最も面積が広く,目につきやすい周側面の形態であり,孔自体の形状ともあいまって,柔らかな印象を与えるとともに,縦長長円形状の縦列の孔が,上下幅を略5等分して規則的に配列されている点で,面板状の周側面に整然と孔を打ち抜いたような印象を与えるものである。また,具体的構成態様Gの突リブの孔及び無孔部の形状も,周側面が板面状であるのに対して,底面との隣接部である底面縁部のみ丸線材を用いたようなリブ形状であるため,二つの異なる素材を組み合わせたような構成となっている点も,看者の注意を惹くというべきである。
 周側部の孔の形状については,公知意匠1によれば,従来から,かご本体がやや横長長方形状で,その周側面は,上方に向かって順次幅広で形成されて成る上面開口型のかごにおいて,正面板及び背面板にほぼ同一の高さの縦長長円形の孔を多数配列し,全体の孔群が略逆台形状を呈するよう穿設し,中心線が上下方向の同一直線上に列設される孔が列を形成し,その両端の孔の中心線を,かご本体の両側端縁の傾斜と等しく揃える形態は,ありふれた形態であったことが認められる。
 また,公知意匠2は,かご全体の形状が丸みを帯びている点で,本件登録意匠とは基本的構成態様において相違するが,同一の高さの縦長長方形状の孔を,かごが上方に拡開する角度に合わせて,中心線が上下方向の同一線上に列設される縦5個の透孔が列を形成し,中央から左右に離れるに従って次第に傾斜して,扇の骨のごとく最下段から最上段まで上方に拡開して配設する形態を備えており,やはりかかる形態がありふれた形態であったことが認められる。
 以上によれば,本件登録意匠は,従前,他のかごにおいて見られた孔群の形状を買い物かごの形状に合わせてデザインをした点に新規性があると認めるのが相当である。しかし,買い物かご自体は,従来から存在する把手杆(取っ手)付きの運搬用具であり,かつ,別紙手さげかごの公知意匠マップの「河淳株式会社製手さげかご」に看取されるように,本件登録意匠の意匠登録出願前から周側面が面板状であるかごが存在していたものである。そして,新規な形態であると認められる孔の並び方の点においても,上記のとおり,買い物かご以外のかごに存在していた,ありふれた形態を取り入れたものであるから,需要者においても,本件登録意匠に取り入れた孔群の形状については,ありふれたものとして認識するものというべきである。
 そうすると,本件登録意匠の要部は,類似意匠2の存在も考慮すると,上下端が半円弧状の略縦長長円形状の孔が,高さが同一で,複数の段で穿設されている点(具体的構成態様のA及びC),透孔の高さが同一あるいは上方の1段において略2倍であり,上方になるに従ってわずかに幅広になり,全体の孔群が略逆台形状を呈するよう穿設され,中心線が上下方向の同一直線上に列設される複数の透孔が列を形成し,中央から左右に離れるに従って次第に傾斜して,左右端の列をなす複数の透孔の中心線は,かご本体の両側端縁と略平行しており,複数の孔列はあたかも扇の骨のごとく最下段から最上段まで上方へ拡開して配設される点(具体的構成態様B及びD)にあるものと認めることができる。また,突リブ外周の孔は,底面と正面板,背面板及び左右側面板とをブリッジ状に連接するリブによって正面板,背面板及び左右側面板の孔とは別個に形成されているものであり,正面,背面及び左右側面においては略半楕円形状の孔として表れ,該突リブの四角部には無孔部が存し,それ以外の外周には底面から見てほぼ四角形に見え,中央部に近づくに従ってわずかに縦が長くなる孔が正面板及び背面板に沿ってそれぞれ23個,左右側面板に沿ってそれぞれ13個穿設されている点(具体的構成態様G)も,周側面の孔の形状よりはウェイトは低いものの,看者の注意を惹くものと認めることができる。
 そして,このような構成を備えることにより,本件登録意匠は,周側面部について,孔の形状及び周側面の両端の孔も同じく上下端が半円弧上の略縦長長方形状であるために,全体として柔らかく,かつ,孔の縦列が上下に均等あるいは,上方の1段において2倍程度の高さを保ち,さらにすべての縦列は同一直線上に規則的に配列されているために,整然とした,まとまりのある印象を看者に強く感じさせるものと認められる。また,周側面の下辺と,底面との間のリブの形状も,本件登録意匠においては,周側面の下側面と底面とのリブによる窓開き構成によって,周側面の上部と,下辺部で異なる部材を用いたような印象を与えるとともに,下辺部の孔が広く見えるという印象を看者に与えるものと認めることができる。
(4) 対比
 イ号意匠が本件登録意匠と相違する点は,前記(2)(イ号意匠の構成)のイにおいて,下線を引いた部分である。すなわち,イ号意匠は,本件登録意匠と基本的構成態様において共通し,具体的構成態様において,周側面の両側端には,両側端縁との間に一定幅の無孔部を有していること,また両側端の孔の中心線は,かご本体の両側端縁と略平行していること,正面板及び背面板には,広告表示用の無孔部が存在すること,底面には左右側面板と平行の2本の縦枠と正面板及び背面板と平行の2本の横枠とが中央で交差するよう形成されていること,かご本体の長手方向上側端縁には一対の係合部が突設され,該係合部には平面略視コ字状の把手杆が回動自在に設けられている点は共通する。他方,本件登録意匠の透孔は,縦列が5段であり,その5段の孔群は,高さが同一で幅寸法も略同一であるのに対し,イ号意匠においては,透孔は,縦列が3段であり,その3段の孔群は,下から順に高さも幅も広くなっている上,本件登録意匠においては,周側面の透孔の中心線が上下方向に同一直線上に配列されているのに対し,イ号意匠では,下段孔群の透孔と中段孔群の透孔については,中心線は同一線上に配列されているが,上段孔群の透孔の中心線は,これとは一致していない点で,相違する。そのため,透孔の傾き方も,本件登録意匠においては,すべての孔の中心線が一つの扇の骨のように拡開しているのに対し,イ号意匠においては,上段孔群と,中段及び下段孔群とで,中心線が二つの扇の骨のように拡開しているような印象を与えることが認められる。また下辺のリブ部分についても,本件登録意匠においては,細い丸線状のリブ形状であることと,透孔とはずれて設置されているのに対し,イ号意匠では,リブは平面状であり,下段孔群の下に,1対1の対応で,半楕円形状の孔として表れている点や,本件登録意匠には存在しないスタッキングリブが,イ号意匠には存在する点でも相違する。
(5) 類否判断
 前記(3)で認定したとおり,本件登録意匠の要部は,@上下端が半円弧状の略縦長長円形状の孔が,高さが同一で,複数の段で穿設されている点,A透孔の高さが同一あるいは上方の1段において略2倍であり,上方になるに従ってわずかに幅広になり,全体の孔群が略逆台形状を呈するよう穿設され,中心線が上下方向の同一直線上に列設される複数の透孔が列を形成し,中央から左右に離れるに従って次第に傾斜して,左右端の列をなす5個の透孔の中心線は,かご本体の両側端縁と略平行しており,複数の孔列はあたかも扇の骨のごとく最下段から最上段まで上方へ拡開して配設される点,B突リブ外周の孔は,底面と正面板,背面板及び左右側面板とをブリッジ状に連接するリブによって正面板,背面板及び左右側面板の孔とは別個に形成されているものであり,正面,背面及び左右側面においては略半楕円形状の孔として表れ,該突リブの四角部には無孔部が存し,それ以外の外周には底面から見てほぼ四角形に見え,中央部に近づくに従ってわずかに縦が長くなる孔が正面板及び背面板に沿ってそれぞれ23個,左右側面板に沿ってそれぞれ13個穿設されている点である。そして,本件登録意匠は,このような構成を備えることにより,全体として柔らかく,かつ整然とした,まとまりのある印象を与える点が意匠全体から受ける美感の中でも特に印象に残るものと認められる。また,下辺部のリブ形状により,下辺部においては面ではなく線形状を用いることで,異なる2種類の形状を用いているように見える点も,印象に残るものと認められる。

 イ号意匠は,要部とされるべきかご周側面の孔群の配列において前記認定のとおり共通点があるが,それは本件登録意匠の要部の一部に止まる。他方,要部における相違点は前記認定のとおりであり,特に周側面の孔及び孔群の形状については,イ号意匠においては,横1列当たりの孔の数の比率が,上段孔群と中段及び下段孔群とでは2対3となっており,それに伴って孔の幅が異なっている上,上段孔群と,中段及び下段孔群とでは孔の幅の広さに違いがあり,さらに下から上へ行くほど孔の高さも高くなるため,周側面部の印象としては,上段孔群と,中段及び下段孔群の2段組みの印象を与え,また上部の孔の面積が大きいため,一定の統一感を保ちつつも,開放的な印象を与える点が看者の印象に強く残るものとなっている。
 さらに,周側面下部及び底面のリブの形状においても,本件登録意匠では周側面部が面形状であるのに対し,突リブはリブ形状であることと,透孔とはずれて設置されているため,上部と下辺部とで印象を異にするのに対し,イ号意匠では,リブとはいっても平面状であり,下段孔群の下に,1対1の対応で,半楕円形状の孔として表れているため,上部と下辺部とが連続性を維持している印象を看者に与えている。共通点は本件登録意匠の要部のすべてを含むものではなく,要部についても大きな相違点があるほか,要部以外の点についても上記認定の相違点が存在するから,全体として相違点が共通点を凌駕し,本件登録意匠とは美感を異にするというべきである。
 したがって,イ号意匠は,本件登録意匠とは類似していないというべきである。

2.以上の次第で、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから、いずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

 

〔論 説〕

1.判決は、イ号意匠は本件登録意匠と類似するか、との争点1についてまず検討した結果、類似しないとの結論を出したことから、争点2と3は不要とした。
1.1 判決は常套手法として、まず本件登録意匠の構成について、基本的構成態様と具体的構成態様とに分けて論じているが、前者は、私が常に言っているピラミッド型の底辺部にある当該意匠が属性として固有する基本的形態のことである。
 問題は後者であるが、この具体的構成態様といわれるものでも、詳細には、周知的形態や公知的形態が含まれるとともに、創作的形態が含まれている。そして、本件登録意匠における創作的形態を把握することが、イ号意匠との類否判断の最初の勝負である。

1.2 同じ分析はイ号意匠についても行っている。即ち、基本的構成態様は当該意匠が属性として固有する基本的形態であるから、前記本件意匠のそれと同じである。
 次に具体的構成態様について判決は、特にアンダーライン部分が本件意匠のそれと違う点と認定しているが、このアンダーライン以外の部分は共通の構成態様と認定していることになる。

1.3 そこで、判決は、本件意匠の創作的形態を把握しようとしていたかというと、「本件登録意匠の要部について」と称してはいるが、実に矛盾に満ちた奇妙奇天烈な文句を羅列している。

「意匠の類否を判断するに当たっては,意匠を全体として観察することを要するが,この場合,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等も参酌して,取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分を意匠の要部として把握し,両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して,両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。」
 しかし、キーワードがごちゃごちゃまざった状態で登場しているから、これでは何を言っているのか、よくわからない。
 判決は、これでは何を言っているのか、意匠の類否判断の要素として、次に分説する要件をあげている。
 1)意匠を全体として観察する。
 2)意匠に係る物品の性質,用途,使用態様を参酌する。
 3)公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌する。
 4)取引者・需要者の注意を最も惹き易い部分を意匠の要部と把握する。
 5)両意匠の要部の構成態様が共通か否かを中心に観察する。
 6)両意匠の全体の美感が共通するか否か。
 しかし、ここに記載されている各要件をまとめて、意匠の類否判断の基準として論理的に説明せよといわれても、私には出来ない。けだし、ここには論理上矛盾律が支配しているからであり、裁判所自身が意匠の類否判断をする人的及び物的基準を確立していないことを物語るのである。

2.当該意匠の類否判断をする人的基準について判決は、スーパーやデパート等における備品類の購買担当者と認定している。
 しかし、これも奇妙なことである。彼ら担当者なる者は自分で創作したり製作したりする者ではなく、市場に流通する商品を見て選ぶだけである。それなのに裁判所は、それを市場に供給した者のことを何故忘れているのだろうか。供給者とは、製造者(メーカー)であり創作者(デザイナー)である。これらの人々が創作し、製作し、市場に供給した製品を、需要のある者は選ぶだけである。判決があげているような需要者の7つの選択点は、実は顧客のニーズとしてすでに供給者であるデザイナーやメーカーが十分把握した上で供給していることを、裁判所は知るべきである。

3.判決は、本件意匠の要部認定のところで、出願前公知の意匠として、刊行物公知意匠をいくつか証拠として採用しているが、これはこれによって本件意匠の創作性の範囲を限定しようとしていることを意味する。
 その一例として、判決は、類似3号意匠が本件意匠の本意匠と類似するとして登録されていたとしても、その出願日は被告のイ号物件が公知となった後日であると認定した。したがって、類似3号意匠は無効事由を有する意匠であるから、本件意匠の創作体の範囲を意味する類似範囲から除外しなければならないと認定したことは妥当である。

4.最後に判決は、両意匠の具体的構成態様について対比したところ、前記公知意匠に属する構成態様以外の点について、詳細な点にわたって相違点を見い出した結果、非類似と判断した。
 しかし、判決は、相違点の由来についてそれが創作性の違いによるものであるとは認識していたのだろうが、そのような中味の違いのことを忘れ、構成態様の表面上の印象とか美感が違うという表現を使っていることでは、説得力がない。これでは、本当に意匠の類否判断をしたといえるのか疑問である。

 

[牛木理一]