A-32

 

化粧用パフ」意匠権侵害差止等請求事件:大阪地裁平16()6262平成17年12月15日判決(一部認容)

 

〔キーワード〕
部分意匠、物品の類否、意匠の類否、損害額、部分意匠の寄与度

〔事  実〕
 原告(株式会社ラッキーコーポレーション)は、意匠に係る物品「化粧用パフ」について、平成15年3月18日に出願し、同年8月29日に設定登録された意匠登録第1187684号の意匠権者であるが、本件意匠は「部分意匠」としての登録であった。この部分意匠の要部と細部の各形状について原告は、次のように説明する。
ア 要部形状
 楕円形の薄板状の本体の片面に、若干の幅の周縁部を除き、根元から先端に向ってやや小径となる突起を多数設けて構成されるブラシ部を有している。
イ 細部形状
 楕円形の本体は、その短軸の両端付近縁部が、背面側に少し突出した形状となっている。 これに対し被告(株式会社サンファミリー)は、平成16年2月から、別紙イ号物件目録記載の次のような形態のイ号物件を業として製造販売している。
 ア 要部形状
楕円形の薄板状の本体
()の片面に、若干の幅の周縁部を除き、根元から先端に向ってやや小径となる突起()を多数設けて構成されるブラシ部()を有している。
 イ 細部
楕円形の本体
()は、全体的に一様な厚みとなっている。そこで、本件にあっては次の点が争点となった。
 
(1) イ号物件は本件意匠権に係る物品と類似するか。
 
(2) イ号意匠は本件登録意匠と類似するか。
 
(3) 本件意匠権に係る意匠登録は無効審判において無効とされるべきものか。

〔主 文〕
 被告は、別紙イ号物件目録記載の物件を製造し、販売してはならない。
 被告は、原告に対し、360万円及びこれに対する平成17年1月31日
  から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 原告のその余の金員請求を棄却する。
 訴訟費用は、これを4分し、その3を被告の、その余を原告の各負担とする。
 この判決の第2項は、仮に執行することができる。

〔判 断〕
第3 争点に対する判断
1 争点
(1)(物品の類否)について
(1) 意匠とは,物品(物品の部分を含む。)の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものをいい(意匠法2条1項),物品と一体をなすものであって,物品が異なれば意匠も異なることになるから,登録意匠と「類似する意匠」(同法23条)というためには,その意匠に係る物品が同一又は類似することを要する。そして,意匠の類否は,一般需要者を基準とし,登録意匠と類似の美観を生じさせ,両意匠に混同を生じさせるおそれがあるか否かによって決すべきものであることにかんがみると,意匠に係る物品の類否も,一般需要者を基準とし,両物品が同一又は類似の用途,機能を有すると解される結果,両物品間に混同を生じさせるおそれがあるか否かという観点からこれを決すべきものと解される。
 本件登録意匠に係る物品は「化粧用パフ」であり,分類一覧表の「B7−11」に当たるものとして登録出願され,登録されている(甲10,11)。したがって,イ号意匠をその構成部分とするイ号物件が,本件登録意匠に係る物品である「化粧用パフ」と物品として同一又は類似しているか否かが検討されなければならないところ,その類否判断に当たっては,上記のとおり,イ号物件が本件登録意匠に係る物品「化粧用パフ」と同一又は類似の用途・機能を有するか否かを検討する必要がある。
(2) 証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば,イ号物件は,商品名を「ゲルマニウムシリコンブラシ」とし,材質をシリコン樹脂及びゲルマニウムとするものであって,クレンジングとマッサージの用途を有し,その広告宣伝(甲3)のとおり,「とっても柔らかいシリコンブラシは毛穴につまった化粧の汚れ,角質などをスッキリキレイに落とします。また,この柔らかさが極めの細かい泡を作ります。」「イボが適度に肌を刺激して血行を良くするマッサージ効果で,肌の弾性力を高め,引き締める効果があります。」というような機能を有するものであることが認められる。
(3) 次に,本件登録意匠に係る物品である「化粧用パフ」の意義について検討する。「パフ」は,角川書店発行「外来語の起源」(初版昭和54年6月30日発行,第7版昭和61年10月15日発行。乙7)では「おしろいたたき。粉おしろいを顔につけるのに使う,スポンジなどを芯にして布でつつんだ用具」などとされており,丸善株式会社発行「化粧品事典」(平成15年12月15日発行。乙8)では「ファンデーションや白粉(おしろい)などのベースメークアップ化粧品の塗布に用いる化粧用具の一つ。形態はスポンジ状のものと,表面が起毛したものの2種類に分類できる。形態を問わず,白粉やフェイスパウダーを塗布するために用いるものをパフ,ファンデーションを塗布するために用いるものをスポンジとよび分けることもあるが,明確な定義はない。使い方は,パフの形態によって異なる。」などとされている。このように,上記事典類において「パフ」は,スポンジ状又は表面が起毛したものであって,おしろいやファンデーション等を顔に塗布するためのものとされていることに加え,本件登録意匠においては「化粧用」とされていることからすれば,「化粧用パフ」は,本来,もっぱら「化粧」を用途とし,おしろいやファンデーション等を顔面等の皮膚に塗布する機能を有するものとされていたものということもできる。
(4) しかし他方,意匠に係る物品を「化粧用パフ」とし,分類番号も本件登録意匠と同様「B7−11」とする登録意匠には,物品の説明として,「本物品は,主として皮膚を清潔にしたり,皮膚に付いている化粧料を拭き取るなどに用いる。」(登録番号第787613号。甲13)とするものがあり,さらに,いずれも分類番号が「B7−11」で,意匠に係る物品を「化粧用コットン」とする登録意匠(登録番号第1172304号。甲14)の【意匠に係る物品の説明】に「本物品は,化粧品の拭き取りや塗布に使用される化粧用コットンである。」との記載のあるものや,意匠に係る物品を「二種の不織布からなる化粧用パッド」とする登録意匠(登録番号第1172099号。甲15)の【意匠に係る物品の説明】に「本物品は,…水に濡らして皮膚の清浄に使用するものである。」との記載があるものがある。
(5) また,洗顔用具等をインターネット販売しているホームページ(甲16〜18,20〜24,26〜28)には,次のような商品ないし洗顔方法が紹介されていることが認められる。
ア 「洗顔の新しいスタイル 京都シルク式インプルーブ『シルクパフ洗顔』」との表題の下に,「パフ」を用いて洗顔する方法が紹介されている(甲16)。
イ 「ミクロパイルシルクシリーズ」との表題の下に,「洗顔用フェイスパフ」(商品名「フェイスパフ)や「ボディーパフ」などという顔や体を洗うための用途で,これを顔や体の皮膚にこすりつけてこれらの汚れ等を落とす機能を有する商品が紹介されている(甲17)。
ウ 「こんにゃくパフ『箔美人』」という商品名の「洗顔用パフ」が紹介されている(甲18)。
エ 「洗顔専科 パーフェクトパフ 携帯用 8枚入り」という商品名で「外出先で便利な携帯サイズのメーク落としパフ」として紹介されている(甲20)。
オ 「洗顔パフ」という商品名で「ソフトな肌触りの素肌にやさしい洗顔パフ」として紹介されている(甲20)。
カ 「Squalane products スクワラン・プロダクツ」という商品名で「泡立て洗顔,すすぎ洗顔の2通りに使える洗顔パフ」として紹介されている(甲21)。
キ 「ビューティ・パフ」という商品名で「毛穴の汚れ・化粧落とし,黒ずんだヒジ・ジザ(注:ヒザの誤記と思われる)・かかとの角質落としは,拭くだけの超簡単スキンケアアイテム」として紹介されている(甲22)。
ク 「絹の洗顔パフ」という商品名で「メイク落とし」「皮脂・汚れ落とし」との用途が紹介されている(甲23)。
ケ 「洗顔用シルクパフ」との商品名で「シルクのパフで洗顔することにより,古い角質がスムーズにはがれ落ち,くすみが取れ,お肌にツヤと潤いが出てきます。」と紹介されている(甲24)。
コ 「洗顔2ウェイパフ」との商品名で「洗顔後,きれいに洗ったパフに水をたっぷり含ませ,シルク面で数回パッティングすると,洗い上がりがすっきりします。」と紹介されている(甲26)。
サ 「丹後ちりめん 洗顔パフ」との商品名の洗顔用パフが紹介されている(甲27)。
シ 「スーパー洗顔パフ」という商品名の「カサカサ肌の憂鬱を解消 シルクのスーパー洗顔パフ」が紹介されている(甲28)
(6) 上記(4)(5)の事実に弁論の全趣旨を併せて考慮すれば,従来,洗顔等は手を用いて行っていたところ,洗顔等の際の泡立てや汚れ除去の効果においてスポンジや布の有効性が認識され,その形状としては従前白粉やファンデーション等の塗布に使用していた「パフ」が最も使用に適すると判断されたことにより,上記の各商品が「パフ」として宣伝され,販売されるに至っているものと認められる。そして,このような物品の需要者(洗顔に少しでも関心を有する主として女性)において,「パフ」は,おしろいやファンデーション等を顔面等の皮膚に塗布するという本来的用途・機能のほか,洗顔用品としての用途・機能を有するものと認識されているということができ,イ号物件とその用途・機能が類似するものというべきである(上記(3)のとおり,「パフ」は洗顔以外の化粧においても使用され,むしろその方が本来的,伝統的な用途・機能であることからすれば,両者の用途・機能が同一ということはできない。)。
 ちなみに,本件意匠権に係る意匠登録出願とほぼ同一時期に原告が出願した考案の名称を「クレンジングパッド」とする登録実用新案(登録番号第3099270号。なお,同考案は平成15年3月31日に出願されたが,その後同年7月16日に出願変更されたものである。)は,その出願時期及び願書に添付した図面との共通性等に照らして本件登録意匠に係る物品と同一の物を対象として出願されたものと解されるところ,その当初の願書(甲6)に添付した明細書の【発明の属する技術分野】に「この発明は,化粧落としの際に使用されるクレンジングパッドに関するものである。」との記載及び【発明が解決しようとする課題】に「そこで,この発明は,顔面の凹凸によくフィットし,毛穴の汚れや角栓までスムーズに落とすことが可能なクレンジングパッドを提供することを課題とする。」との記載があることが認められる。そうすると,原告は,本件登録意匠に係る物品「化粧用パフ」に上記化粧落としの用途・機能を有するものを含むものとして意匠登録出願をしたものと推認され,このことは,洗顔に少しでも関心を有する女性等の一般需要者の有する認識を反映しているものと考えられる。
(7) そうすると,イ号物件は,その用途・機能において本件登録意匠に係る物品である「化粧用パフ」と類似するものというべきであり,仮に,その本体部分の意匠であるイ号意匠が本件登録意匠と類似するとすれば,上記の一般需要者に混同を生じさせるおそれがあるものというべきである。以上の認定説示に反する被告の主張は採用できない。
2 争点2(意匠の類否)について
(1) イ号意匠が,本件登録意匠の要部形状,すなわち「楕円形の薄板状の本体の片面に,若干の幅の周縁部を除き,根元から先端に向かってやや小径となる突起を多数設けて構成されるブラシ部を有している」との点を具備することは,当事者間に争いがない。
(2) なお,本件登録意匠とイ号意匠との相違点は,証拠(甲10,検甲2)及び弁論の全趣旨によれば,@本件登録意匠では長軸対短軸が約5対4であるのに対し,イ号意匠では長軸対短軸が約5.5対4である点,A本件登録意匠では本体の短軸の両端付近縁部が背面側に少し突出した形状であるのに対し,イ号意匠では本体は均一の厚みを有する点であるが,いずれも微細な点であり,看者に格別の注意を惹くものとはいえず,上記要部形状における共通点を凌駕してその類否判断に格別の影響を及ぼすものとはいえない。
(3) したがって,イ号意匠は,本件登録意匠と類似する。
3 争点3(無効理由の存否)について
 被告は,仮に,イ号物件が本件登録意匠と意匠に係る物品を同じくするものであるとすれば,次の各引用例を挙げ,本件登録意匠の登録は,その出願日前,日本国内において新規性を喪失した無効理由を有する旨主張するので,以下検討する。
  
(1) 昭40−26096実用新案公報(乙1〔審判請求書〕添付の審判甲第3号証)
同公報に記載されている考案は,考案の名称を「ヘアーブラシ」とし,「軟質合成樹脂製にて成った人差指を入れて簡単に保持し,その裏側に小突刺状に設けたブラシで洗髪するとき及び撫でるに用いるヘアーブラシに係るものである。」この「ヘアーブラシ」は洗髪の際あるいは頭髪を撫で毛髪をとかすという用途に用いられ,洗髪ないし調髪の機能を有するものと認められる。これに対し,本件登録意匠に係る物品は,前記のとおり「化粧用パフ」であり,「化粧」及び「化粧落とし」ないし「洗顔」を用途とし,おしろいやファンデーション等を顔面等の皮膚に塗布するか,又はおしろい等の化粧や汚れを落とす機能を有するものである。「化粧用パフ」と「ヘアーブラシ」とは,身体の一部の汚れを洗い落とすものという限りで共通するが,その対象が顔面その他の皮膚か頭髪であるかによって,その用途・機能が著しく異なることはいうまでもない。
 また,本件登録意匠の要部形状は,「楕円形の薄板状の本体の片面に,若干の幅の周縁部を除き,根元から先端に向かってやや小径となる突起を多数設けて構成されるブラシ部を有している」点にあるところ,上記公報に図示されたヘアーブラシは,本体形状が長円形であり,突起の形状も明らかでない上,本体中央部にブラシのないU字状の弁体が形成されており,これらの要部形状における相違点が看者の注意を強く惹くものと認められるから,本件登録意匠とは全体として美観を異にし,類似しないというべきである。
 このように,上記公報に記載された「ヘアーブラシ」は,そもそも本件登録意匠に係る物品とは非類似の物品である上,意匠としても本件登録意匠と非類似である。
(2) 昭53−110082公開実用新案公報(同審判甲第5号証)
同公報に記載されている考案は,考案の名称を「ヘアーブラシ」とし,「使用が簡単で掃除がし易く洋服のポケットまたはハンドバッグ等に収納して持ち歩くのに便利なヘアーブラシに関するものである。」したがって,上記アと同様,本件登録意匠とは意匠に係る物品とは非類似の物品に係るものである。
 また,上記「ヘアーブラシ」の形状は,上記公報に図示されているところによれば,本体形状が長円形である上,その中央部にブラシのないU字状の指差込片が形成されており,これら要部形状における本件登録意匠との相違点が看者の注意を強く惹くものと認められるから,本件登録意匠とは全体として美観を異にし,類似しないというべきである。
 このように,上記公報に記載された「ヘアーブラシ」は,そもそも本件登録意匠に係る物品とは非類似の物品である上,意匠としても本件登録意匠と非類似である。
(3) 意匠登録第1146718号意匠公報(同審判甲第8号証)
同公報に記載されている意匠は,意匠に係る物品を「フットブラシ」とするものであって,「主として足の裏を,ツボ押し刺激しながら洗えるようにしたものである。」したがって,上記「フットブラシ」は,前記認定説示したとおりの用途・機能を有する「化粧用パフ」とは非類似の物品であることが明らかである。
 また,上記「フットブラシ」の形状は,上記公報に図示されているところによれば,本体が楕円形ではなく卵のような外形であり,ブラシ部は大きく周縁部を残して円形に設けられており,これらの要部形状における相違点が看者の注意を強く惹くものと認められるから,本件登録意匠とは全体として美観を異にし,類似しないというべきである。
 このように,上記公報に記載された「フットブラシ」は,そもそも本件登録意匠に係る物品とは非類似の物品である上,意匠としても本件登録意匠と非類似である。
(4) 乙第1号証添付のその他の審判甲号各証について
乙第1号証(審判請求書)添付の審判甲号各証に記載されている意匠についてみても,いずれもそもそも物品が本件登録意匠に係る物品と類似しない(審判甲第4号証〔髪洗器〕,同第6号証〔挾んで持つヘアー・ブラシ〕,同第7号証〔洗髪用ブラシ〕)上,いずれも意匠としても本件登録意匠とは要部形状を異にし,類似しないというべきである。
(5) 以上のとおり,これらの引用例をもって,本件登録意匠が登録出願前において公然知られた意匠又は頒布された刊行物に記載された意匠又はこれらに類似する意匠ということはできない。したがって,本件登録意匠に係る意匠登録が意匠法48条1項1号の無効理由を有するということはできない。他に同意匠登録に同条1項各号所定の無効理由があるとの主張立証はない。
4 争点4(損害額)
(1) 以上のとおり,被告のイ号物件の製造販売は,原告の有する本件意匠権を侵害するものであるところ,原告は,これにより原告が被った損害の額は被告が上記販売行為によって得た利益の額と同額であり(意匠法39条2項),その額は,被告によるイ号物件の販売数量(1か月5000ケースで合計6万個)に単価400円を乗じた額に利益率40%を乗じた960万円と主張する。
 これに対し,被告は,イ号物件の販売数量は4167個であり,売上額は166万4740円であり,被告の得た粗利益の額は58万9654円である(粗利益率約35.4%)と主張する。
(2) 被告は,上記主張を裏付ける証拠として,次の被告既提出文書を提出した。
ア 「ゲルマニウムシリコンブラシフェイス用 入荷状況」と題する書面(乙14)は,イ号物件の仕入数量(5000セット〔2個〕),仕入単価(258円)及び仕入金額(129万円)を,月別の内訳等を区分せずに,下記乙第15号証の1〜13記載の数値を集計した結果のみを記載したものであり,「商品別売上実績表<数量>」と題する書面(乙15の1〜13。以下「売上実績表」という。)は,1か月単位で,イ号物件の販売数量(セット),販売単価,返品数量及び売上金額を得意先ごとに集計したものである。同実績表によれば,1回当たりの販売数量は,少ないもので1個,多いもので300個であるが,その大半は数個ないし数十個である。販売単価もまちまちであり,300円から660円程度である。
イ 被告既提出文書中,上記乙第14号証,第15号証の1〜13に記載されている販売数量等を裏付けるものとしては,@イ号物件の仕入先である香港の商社からイ号物件4896セットを単価1.9米ドル,合計9302.40米ドルで被告に送付した旨が記載された被告宛の平成15年12月30日付けのインボイス(乙19),A上記インボイスに対応し,1カートン当たり96セット入りのイ号物件51カートン,合計4896セットを納品した旨が記載されているパッキングリスト(乙20),B平成16年1月6日香港から神戸港に被告が輸入したイ号物件が他の商品と合わせて154カートン入荷されたことが記載されているアライバルノーティス(乙21),C上記アライバルノーティスと対応して,被告が香港から輸入したイ号物件が他の商品と合わせて154カートン入荷したこと,そのうちイ号物件の入荷個数が51カートンあることが記載されている船荷証券(乙22,23)があり,さらに,D被告の経理担当者が銀行ごとに毎日1枚ずつ振込額を手書きで記した早見表の抜粋とされる被告作成の振込み控えであって,被告が10月15日仕入先の取引銀行に277万1999円(振込手数料210円)を振り込んだことが記載されているもの(乙24),Eイ号物件の金型代が37万4000円であり(乙25の1。3400米ドルに1米ドル110円を乗じた額である。),その他の商品の代金(乙25の2〜7)と合わせて合計277万1999円を被告に請求する旨が記載されている国内の仕入先作成の平成15年10月10日付け請求書(乙25の1〜7),F平成15年10月15日に被告から277万1999円の振込送金を受けたことが記載されている仕入先の預金通帳(乙26)及びG平成15年10月15日に277万1999円が被告の取引銀行である株式会社三井住友銀行加古川支店から出金されたことが記載されている当座勘定の「ご利用明細」(乙27)である。
ウ そこで,被告既提出文書の信用性等について検討する。
() まず,「ゲルマニウムシリコンブラシフェイス用 入荷状況」と題する書面(乙14)は,上記のとおり,月別の内訳等を区分せずに結論となる数値のみを記載したものであり,それ自体高度の信用性を有するとはいえない。また,売上実績表(乙15の1〜13)は,1か月単位で,イ号物件の販売数量(セット),販売単価,返品数量及び売上金額を得意先ごとに集計したものであるが,これも日々の取引経過が逐一記載されているようなものではなく,あくまでこれらの集計結果が記載されているのみであり,それ自体の信用性もさほど高いものと評価することはできない。
 したがって,上記各号証の記載された数値が正確であるか否かは,その余の被告既提出文書を検討し,これらが上記数値を具体的に裏付けるに足りるか否かを慎重に検討しなければならない。
() そこで上記イ記載の各文書を検討すると,これらの文書によれば,被告が,平成15年10月ころ,国内の仕入先に対しイ号物件の金型の製作を代金37万4000円(3400米ドル×110円)で依頼し,同月15日,上記金型代金に他の商品代金を合わせた277万1999円を同仕入先に振込送金したこと,そして,1カートン当たり96セット入りのイ号物件51カートン(合計4896個)を単価1.9米ドル,合計9302.4米ドルで仕入れ(その際,他の商品と合わせて合計154カートンを入荷している。),香港の協力会社(商社)に同額の代金を支払ったことが認められる。
 もっとも,被告既提出文書によって認められるイ号物件の仕入数量4896個と被告の主張する仕入数量5000個との104個の個数差について,被告は,これ以前に8個を手持ちで持ち込んだもの及び梱包や外装箱の確認のため1カートン(96個)をEMSで送付してもらったものである旨主張するが,これを裏付ける証拠はない。
 他方,被告は,上記仕入数量5000個がイ号物件の仕入数量のすべてであると主張するが,被告が上記以外に仕入れ,販売したイ号物件が全く存在しないことをうかがわせる文書が提出されているわけでもない。
() 原告は,イ号物件のような製品を製造するには金型製作費用のみでも約300万円を必要とし,製造個数は最低でも3万個を下らないというのが当業者の常識であるとし,このことを根拠に,被告の主張する販売数量は当業者の常識とかけ離れており,およそ信用し難い旨主張する。しかし,原告のいう上記当業者の常識を裏付ける的確な証拠はなく,他に,被告既提出文書によって認められる金型代金37万4000円が低額に過ぎて不自然であると認めるべき証拠はない(金型代金が1米ドル100円とした場合の34万円であるとしても同様である。)。したがって,金型代金が被告の主張する上記金額よりも高額であることを根拠に,イ号物件の仕入数量が被告の主張するそれより大量であったと断定することはできない。ただし,イ号物件の金型代金が被告主張のとおりであったとしても,これとの対比において,イ号物件の販売数量が5000個弱にとどまり,粗利益の額が被告主張の58万9654円であったとすれば,やはり少額にすぎるのではないかという疑いはなお払しょくするに足りないともいえる。
() 次に,原告は,イ号物件の説明書(検甲2参照)に発売元として記載されている株式会社ニーズの存在が被告既提出文書から脱落しており,イ号物件の流通面の連続性が欠けることになり,被告既提出文書の信用性に疑問を抱かせる旨主張する。確かに,上記説明書(乙11)には,「発売元」として「株式会社ニーズ 兵庫県加古川市(以下省略)」との記載がある。そして,弁論の全趣旨によれば,株式会社ニーズは,被告と代表者を同じくし,被告の主張によれば,同社は税務対策の意味合いもあって設立されたものであり,被告の扱う商品について顧客の問合せ窓口となり,クレーム処理を行っているとのことである。そして,被告は,被告と株式会社ニーズとの間に取引がないので被告の帳簿上取引先として同社の名前が出てこない旨主張する。しかし,被告のいうように同社が税務対策上設立されたものであれば,通常,被告の利益を圧縮する等の目的で,帳簿上,販売先に同社を介在させ,少なくとも外観上同社に対する売上げを立てるのが自然であるが,被告既提出文書にはそのような記載がない。このことは,被告既提出文書にすべての販売先に対するイ号物件の販売数量が記載されず,その一部しか記載されていないのではないかと疑わせるものというべきである。
() 次に,原告は,売上実績表(乙15)には量販店向けの卸問屋に対する売上げ及びネット販売に係る売上げが含まれておらず,同記載の売上数量はイ号物件の販売実績の一部にすぎないと推定される旨主張する。これに対し,被告は,量販店と直接取引をしていること及びネット販売をしていることを否定し,被告既提出文書の記載に誤りはない旨主張している。
 そこで検討すると,証拠(甲29,30〜32)及び弁論の全趣旨によれば,原告従業員が調査したところ,以下のとおり,イ号物件が下記各量販店で販売されていたことが認められる。
a 平成16年6月24日 ドラッグスパーク長浜店
b 平成17年1月24日 ドン・キホーテ渋谷店
c 平成17年1月25日 ハックドラッグアトレ大井町店
d 平成17年2月4日  ダルマ薬局盛岡西長橋台店
e 平成17年4月4日  ダイレックス木瀬店
 また,証拠(甲33)によれば,上記各量販店の店舗数は,ドラッグスパークが50店舗,ドン・キホーテが70店舗,ハックドラッグが88店舗,ダルマ薬局が78店舗,ダイレックスが92店舗であることが認められる。
 もっとも,これらの各量販店の全店舗すべてが一律にイ号物件を仕入れているという確証はなく,かつ,上記各量販店の全仕入数量も正確には不明である。しかし,証拠(甲34)によれば,原告従業員が商談のためダイレックスの本部である株式会社サンクスジャパンを訪問した際,同社仕入担当者にイ号物件の仕入数量を尋ねたところ,同担当者から「100台紙(1200ケース)を一括で安く仕入れた。」との回答を得たことが認められる(このこと自体の信用性を否定すべき事情はない。)。ただし,証拠(乙28)によれば,各台紙にはイ号物件以外の商品(ゲルマニウムシリコンブラシ・ボディ用,ゲルマニウム入りつるつるシート,ゲルマニウムパワースリムリング)も付いていて,原告のいう1200ケースのすべてがイ号物件かどうか疑わしく,イ号物件を含む上記4種類の商品が同数だけ付いているとすれば,被告のいうようにイ号物件は100台紙で300ケースであるとも考えられないではない。しかし,被告の上記主張を考慮しても,ダイレックスだけでも上記個数のイ号物件が仕入れられているのであり,かつ,上記のとおり,イ号物件は上記量販店で長期間にわたり継続的に販売されているのであるから,他の量販店でもこれに匹敵する数量のイ号物件が仕入れられていると推認することができる(なお,甲42によれば,卸売商においては平成17年10月17日の時点でイ号物件がいまだ販売されていたことが認められる。)。したがって,イ号物件を上記量販店に直接には販売していないという被告の主張を採用するとしても,被告既提出文書中の売上実績表記載の販売数量は,上記量販店等を通じて流通していると推定されるイ号物件の数量に対していかにも少量というべきである。さらに,被告自身が行っているか否かはともかく,イ号物件がインターネットを通じて相当大量に販売されていることは明らかであり(甲29,35,37),これによるイ号物件の流通量を考慮すると,なおさら,被告の主張するイ号物件の販売数量はいかにも少量というべきであって,売上実績表記載の販売数量が過少であるとの疑いを払しょくできない。
() また,証拠(甲39〜41,43)及び弁論の全趣旨によれば,イ号物件を同種製品とする原告の製造販売するクレンジングパッドの1回当たりの販売数量は,666個(甲39),1008個(甲40),3150個(甲41)というようなものであるのに対し,売上実績表記載の1回当たりの販売数量は少ないもので1個,多いもので300個にすぎず,両者の用途・機能が類似しており,その販売数量に大差が出るとは考えられないことにかんがみれば,このことも,上記の売上実績表記載の販売数量が過少に記載されているのではないかと疑わせる事情であるといえる。
() 上記()()及び()の各事情に照らせば,売上実績表(乙15)記載の販売数量及びこれを集計した乙第14号証記載の販売数量は,いずれもイ号物件の他の販売数量を除外するなどして,販売数量を過少に記載している疑いがあり,その正確性を検証するためには,上記記載の基となったイ号物件に関する売上元帳等の帳簿書類のほか,イ号物件以外の被告の全製品に係る帳簿書類等をも合わせて照合し,売上実績表記載の数値の整合性を精査することが必要であると解される。そのため,当裁判所は,原告の申立てにより,被告に対して上記各文書の提出を命じたが,被告は正当な理由がないのにこれに応じない。
(3) そこで,被告が文書提出命令に従わない場合の効果として,民訴法224条1項又は3項に基づき,当該文書に関する原告の主張ないし当該文書によって証明すべき事実に関する原告の主張を真実と認めるべきか否かについて検討するに,原告は,被告が遅くとも平成16年2月から平成17年1月31日までの間イ号物件を少なくとも1か月当たり5000個(2個組),合計6万個製造販売したと主張するところ,イ号物件に関する売上元帳等の帳簿書類及びイ号物件以外の被告の全製品に係る帳簿書類等に正確にはどのような記載がされているのかについて具体的な主張をすることは,帳簿書類等の性質上著しく困難であり,かつ,同文書により証明すべき事実を他の証拠により証明することが著しく困難であるというべきである。そして,前示認定のとおり,原告主張のイ号物件の販売数量は,上記認定事実によってある程度裏付けられており,それ自体合理性を欠くものではないというべきであるから,民訴法224条3項に従い,原告の上記主張を真実と認めることとする。
(4) また,証拠(甲3,乙15の1〜13,28の1)及び弁論の全趣旨によれば,その1個当たりの販売平均単価が原告主張の400円を下るものではないことが認められ,これを下回るとする証拠はない。
 そして,利益率について,原告は,当業界の常識からして40%(粗利益率)を下るものではない旨主張するが,これを裏付ける具体的な証拠は全くなく,かえって,被告主張の粗利益率約35.4%は,原告の主張する上記粗利益率とさほどの乖離がない上,被告既提出文書により認められる販売数量は,すべての販売数量を表すものではなく,その一部を除外している疑いがあるとはいえ,そこに記載されている販売数量(販売価額)及びこれに対応する仕入原価等の額自体にはその信用性を疑わせるような事情は証拠上見いだし難い。これらの事情に加え,イ号物件に係る販売費及び一般管理費その他一切の事情を考慮すると,イ号物件の販売による利益率は30%と認めるのが相当である。
(5) ところで,本件登録意匠は,意匠に係る物品の部分をもって意匠登録されているもの(部分意匠)であって,これと類似するイ号意匠はイ号物件の一部を構成するものにすぎない。したがって,本件意匠権侵害により原告が被った損害と推定される被告が受けた利益の額とは,イ号物件のうちイ号意匠に係る部分の製造販売により被告が受けた利益の額ということになるところ,その額は,同部分のイ号物件全体に占める価額の割合等を基準に,イ号物件全体の利益に対する同部分の寄与度を考慮して定めるべきである。そこで,同部分のイ号物件全体に占める寄与度を検討すると,イ号物件は,「根元から先端に向かってやや小径となる突起を有する板状」の部分と「半球状の突起を有する板状」とに分けられ,イ号意匠は,前者に係る部分のみであることその他の事情にかんがみ,寄与率は50%とするのが相当である。
(6) 損害額の結論
 以上の検討結果に従えば,被告が原告に対して支払うべき意匠権侵害に基づく損害賠償額は,次の算式により360万円となる。
 
400円×60,000個×0.3×0.53,600,000
5 結論
 以上の次第で,原告の本件請求中,被告に対しイ号物件の製造販売等の差止め及びイ号物件の廃棄を求める部分はすべて理由がある。そして,意匠権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は,360万円の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。
 なお,附帯請求について検討するに,原告は,損害賠償金に対する訴状送達の日の翌日以降の民法所定割合による遅延損害金の支払を求めるところ,記録によれば,原告は,実用新案権に基づくイ号物件の製造販売の差止め及び損害賠償を求める訴えを提起して平成16年6月9日被告に訴状が送達された後,本件意匠権に基づくイ号物件の製造販売の差止め及び損害賠償を求める訴えを選択的に追加し,さらにその後,被告のイ号物件の販売行為の最終日を平成17年1月31日として損害賠償請求額を拡張する申立てをしたことが認められる。そして,被告のした本件意匠権侵害行為は,多数回にわたるイ号物件の販売行為から構成されており,これに基づく損害賠償請求権も厳密にはそれぞれの販売行為の日からそれぞれ個別に遅滞に陥ることになる。したがって,訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払を求めることは,いまだ遅滞に陥っていない損害賠償請求権についての遅延損害金を求める部分を一部含むことになるから失当である。そして,原告は,上記損害賠償請求権のうち,いずれの部分がいつの販売行為によって発生したものかについて何ら主張立証しない。もっとも,本件においては,遅くとも被告によるイ号物件の販売日の最終日である平成17年1月31日には,本件意匠権侵害行為によるすべての損害賠償請求権が遅滞に陥るといえるから,同日を遅延損害金の起算日とし,上記360万円に対する同日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の限度で認容するのが相当である。

〔論 説〕

1.本件は、まず物品の類否が争点となったが、裁判所は物品の類否の判断基準を、一般需要者を人的基準として物品の同一又は類似の用途,機能から物品の混同性を物的基準とすると解したが、これはおかしい。この裁判所の根拠は、意匠の類否の人的基準を一般需要者とし、登録意匠と類似の美感を生じさせて意匠の混同を生じさせるおそれがあるか否かとしているところにある。
 しかしながら、このような考え方をする大阪地裁(21民)は、かつての東京地裁の意匠の類否判断基準と同じレベルに低下してしまったかのようであり悲しい限りである。
 願わくば、大江健次郎裁判長が敷かれた意匠の類似は創作の同一性をいうとの判断基準に早く戻ってほしいものである。
 この考え方についてはまた、大阪地裁(26民)との間に対立も見られるやに思われるから、内部での調整が必要であろう。

2.本件は「部分意匠」の意匠権に対する侵害事件であるから、イ号物件の部分形態が同一又は類似であると認定された場合の損害額の算定について一つの基準を示したといえる。
 これについて裁判所は、同部分のイ号物件全体に占める寄与率を50%が相当と認定した。
 即ち、イ号物件中のイ号意匠は、「根元から先端に向ってやや小径となる突起を有する板状」の部分のみであること「その他の事情にかんがみ」と判決は認定した。しかし、その他の事情についての説示は何にもないから、信頼に欠けるうらみがある。

 

[牛木理一]