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「床束」意匠権侵害差止等請求控訴事件:大阪高裁平17(ネ)570平成17年9月15日判決(棄却)/大阪地判平成17年1月17日(棄却)→A-25

 

〔キーワード〕
意匠法24条、意匠の要部、看者の注意を引く部分、需要者,公知意匠の参酌,類似意匠の参酌,印象,特許庁の審査例(判断)

〔事  実〕
 本件は、意匠権を有する原告が、被告による鋼製束の製造販売が意匠権を侵害していると、同意匠権に基づき、鋼製束の製造販売等の差止め、廃棄、鋼製束を掲載したちらしの配布の差止め、廃棄を求めるとともに、同意匠権侵害による不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
 原審は、原告の請求をいずれも棄却したため、原告が本件訴訟を提起した。

〔判  断〕
 当裁判所も、原告の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおりである(以下の1ないし4のうち、ゴシック体で記載した箇所以外は、原判決の事実及び理由中「第4 当裁判所の判断」1ないし4に記載のとおりか、これとほぼ同旨である。)。
 1 争点(1)(本件意匠の構成)について
(1) 本件意匠が、原告主張に係る本件意匠の構成T(上端に正面視略L字状のプレートを、下端に平板状のベースプレートを設け、かつ両プレート間に上下のボルトを介して上下の高さ調節自在なターンバックルを設けている床束であって、)、構成Z(ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対1対1で、下側の円筒状部は上側の円筒状部よりやや短く形成されている。)を備えることは、当事者間に争いがない。
 上記当事者間に争いのない事実と本件意匠公報(甲第2号証)によれば、本件意匠の構成は、次のとおり認められる。
ア 基本的構成態様
A(全体の構成要素)
上端に正面視略L字状のプレートを、下端に平板状のベースプレートを設け、かつ両プレート間に上下のボルトを介して上下の高さ調節自在なターンバックルを設けている床束である。
イ 具体的構成態様
B(ターンバックルの構成要素)
ターンバックルは、上側の円筒状部と下側の円筒状部と、上下の円筒状部間に位置する中間部により構成されている。
C(ターンバックルの各構成要素の長さの比)
ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対1対1で、下側の円筒状部は上側の円筒状部よりやや短く形成されている。
D(ターンバックルの中間部の形状)
ターンバックルの中間部は、断面が略正方形の角筒状で、角部はアールのない稜線である縦線をなし、外周に縦長な四つの平坦面が形成されている。
E(ターンバックルの中間部の幅)
 ターンバックルの中間部においては、断面の対角線に当たる部分が最も幅が広く、その部分は、上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭く、平坦面に係る部分の幅は、上下の円筒状部の外径よりも狭い。
F(ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部)
ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部は、横線によって明確に区切られている。
G(ターンバックルの上下の円筒状部の形状)
ターンバックルの上下の円筒状部は、中間部寄りの部分は、中間部より外径がやや大きい円筒状をなし、上下端のナット側に向かって細くなるテーパ部を介し、上下端近くの部分は、細径の円筒状に形成されている。
H(ナット)
ターンバックルの上下端には、ワッシャのような円形の鍔状部を有するナットが、ターンバックルに鍔状部を接して配置されている。
I(略L字状のプレート)
略L字状のプレートは、立上部と受板部からなり、受板部は、底面視やや横長の長方形状で、立上部及び受板部の角部が直角状であり、立上部と受板部にそれぞれ2個の小さい孔が穿設されている。
J(略L字状のプレートの受板部とボルトの接合部)
略L字状のプレートの受板部の上面中央にボルトの円形状の頭部が裸出している。
K(ベースプレート)
ベースプレートは、底面視やや横長の長方形状で、各角部が直角状であり、各辺の略中央にV字状の切欠部が形成されており、対向する長辺に沿って2個ずつの小孔、短辺に沿ってやや大きい3個ずつの円孔が穿設されている。
(2)ア これに対し、原告は、本件意匠の構成B(ターンバックルの構成要素)について、「ターンバックルは、上側の円筒状部と下側の円筒状部と、上下の円筒状部間に位置する中間部により構成されている。」ではなく、「ターンバックルは、上側の円筒状部と下側の円筒状部と、上下の円筒状部間に位置する縦長な中間部とによって明確(原審では「明瞭」と主張していた。以下、同じ。)に3区分されて構成されている。」と特定すべきである旨主張する。
 しかしながら、「縦長な中間部」との点は、本件意匠の構成C(ターンバックルの各構成要素の長さの比)及び構成D(ターンバックルの中間部の形状)における特定で十分であり、また、「明確に3区分されて」との点は、多分に評価を含む曖昧な表現であるから、本件意匠の構成Bに関する原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は、本件意匠の構成D(ターンバックルの中間部の形状)について、次の趣旨の主張をする。本件意匠公報の図面上は、ターンバックルに縦線が存在するため角部がとがったようなイメージ図となっているが、実際上、この種ターンバックルは鋼製であるため、略正方形状の角筒状であっても、その角はとがった形状では決してない。このことは、例えば、意匠登録第1029475号意匠の類似1の意匠公報(意匠に係る物品は床束。意匠公報は甲第23号証の2)では、説明の項に「…、断面図において六角パイプの上端に設けられているナットを回転させることにより高さ調整を行う。…、主要材料は金属を用いる。」と記載され、正面図や背面図には縦線が存在するにもかかわらず、B―B切断部端面図では六角端面の角部がとがった形状として表わされていないことからも容易に立証できる。しかも、本件意匠におけるターンバックルの中間部には四つの平坦面が形成されているが、該平坦面は上下の円筒状部よりも幅狭に形成されているから、該形状は、「ターンバックルの中間部は、断面が略正方形状の角筒状で、角部は角状であり、外周には上下の円筒状部より幅狭で縦長な四つの平坦面が形成されている
。」と特定されるべきである。
 しかしながら、意匠法24条によれば、「登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添附した図面に記載され又は願書に添附した写真、ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基いて定めなければならない。」とされているところ、本件意匠の意匠登録出願に係る願書には、本件意匠に係る物品が鋼製であるとの記載はなく、そのことを示唆する図面等の添付もない(甲第2号証、乙第1号証の1ないし6)。また、一般の設計図面などにおいては、かくれ線・想像線などを使用するが、意匠登録出願図面においては、形状を表わす線と、模様の境界の線以外を表わすと、それが線模様やステッチ模様などと判別することができなくなり、権利内容が不正確となるため、図形内には余分な線は入れないこととされており、角のないアールのついた稜部などは表わしてはいけないとされているとする文献が存在する(乙第25号証)。そうすると、上記意匠登録第1029475号意匠の類似1の意匠においては、その意匠登録出願に係る願書に原告が指摘するB―B切断部端面図が添付されており、同図には六角端面の角部がとがった形状として表わされていないから、正面図及び背面図に記載された縦線(縦方向の稜部を
表わす線)は、必ずしも六角パイプの六角断面形状の角部がとがっていることを表わしたものとすることはできない。これに対し、本件意匠の場合、その意匠登録出願に係る願書には、ターンバックルの中間部の横断面の角部が丸角でアールを有することを明示した端面図が添付されていないから、正面図や背面図に記載された中間部の縦線は、アールのない稜線を表わしたものであるとするのが相当である。
 したがって、本件意匠の構成Dに関する原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は、本件意匠の構成F(ターンバックル中間部と上下の円筒状部の境界部)について、次の趣旨の主張をする。本件意匠は、正面図、背面図及び左右側面図に、ターンバックルの中間部と上下の円筒状部との境界部に横線が表示されてはいるが、A―A断面図から明らかなように、中間部と上下の円筒状部との境界部は、下向き及び上向きのテーパ状部を介してやや幅が狭くなって中間部が区分されている。しかるに、本件意匠の図面では、上記下向き及び上向きテーパ状部と中間部との接点をやや角張った状態で図示したため、横線を表示しているが、該接点をややアール状に示すと該横線が表示されないこととなり、横線の有無はあくまでも図面の作図上の問題であって、該横線の表示をもって意匠の形態認識が変わるものでは決してない。しかも、この種「床束」なる物品の素材は鋼製であるため、図面で図示するほど、横線が明確に認識できるものでは決してない。それ故、本件意匠の構成Fは、「ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部は、横線によって明確に区切られている。」ではなく、「ターンバックルの中間部と上下の円筒状部とはその境界のテーパ状部を介して中間部が上下の円筒状部より
もやや幅狭に区分されている。」と特定すべきである。
 しかしながら、本件意匠の意匠登録出願に係る願書(乙第1号証の2)に添付された図面(正面図、背面図、左側面図、右側面図及びA―A断面図。本件意匠公報の図面と同じ。)によれば、本件意匠では、ターンバックルの中間部と上下の円筒状部との境界部は、中間部の上下端部と上下の円筒状部との段差部部分の全周囲に施された面取り形状を呈しており、上下の円筒状部が中間部の上下端部に連なる部分に上下の円筒状部と中間部の上下端部の径差によって横方向に段差線が現われていることが明らかであり、中間部と上下の円筒状部との境界部が、全周にわたって一様に円錐面となっているとはいえないから、上下の円筒状部の上下端部には原告主張の内向きテーパ状の傾斜面(下向き及び上向きテーパ状部)なるものは存在しない。このことは、本件意匠のターンバックルの中間部においては、断面の対角線に当たる部分が最も幅が広く、その部分は上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭く、平坦面に係る部分の幅は上下の円筒状部の外径よりも狭いこと(本件意匠の構成E)からも裏付けられる。
 また、本件意匠に係る物品の「床束」の素材に関する原告の上記主張は、前記のとおり意匠法24条に反する。しかも、仮に上記「床束」のターンバックル部分を鋼材で製造するとした場合、鋳造法(鋳型に熔湯鋼を注入する方法)や溶接法(断面正方形状の所定長さの鋼製角筒の両端部にドーナツ状の円形鋼板を挟み込んで更にやや太径の円筒形鋼管を溶接させる方法)によれば、本件意匠公報の図面に記載されたとおりのターンバックル、すなわち、中間部は、断面が略正方形の角筒状で、角部はアールのない稜線である縦線をなし、外周に縦長な四つの平坦面が形成され、かつ、中間部と上下の円筒状部の境界部が横線によって明確に区切られたターンバックルを製造することが可能である(弁論の全趣旨)。それにもかかわらず、「床束」の素材と横線の認識可能性に関する原告の上記主張は、円筒形鋼管を外周からプレスする方法でしか鋼製のターンバックルを製造することができないことを前提にして、「床束」の素材を鋼製にすると、本件意匠公報の図面に記載されたとおりのターンバックルを製造することができないというものであり、そもそもその前提を誤っている。
 したがって、本件意匠の構成Fに関する原告の上記主張は採用することができない。
エ 本件意匠公報のA−A断面図には、ターンバックルの上下の円筒状部の内周面にねじが刻設されておらず、ナットの本体とワッシャのような円形の鍔状部の内周面にねじが刻設されていることが示されている。この点に関して、原告は、A−A断面図においてターンバックルの円筒状部の内周面にねじの刻設が示されていないことは、図面上の記載不備であるが、一般的な床束の態様からして、これが記載不備であることは、需要者にとって明白である旨、また、仮に内周面にねじが刻設されていなかったとしても、その点は、外観上視認できなから、被告製品の意匠と本件意匠の実質的な差異とはならない旨主張する(前記第3、4(1)ウ(ア)a(d))。
 被告製品のちらし(甲第4号証)、原告製品のパンフレット(甲第20号証)及び弁論の全趣旨によれば、本件意匠に係る物品である床束は、上下のボルトをターンバックルに螺合して組み立てられた状態で取引されていることが認められる。そして、ターンバックルの内周面におけるねじの刻設の有無は、床束の一部品であるターンバックルの内部の形状にとどまり、組み立てられた状態では外観に現われることはない。したがって、被告製品の意匠と対比する前提として本件意匠の構成を認定するに当たって、ターンバックルの内周面におけるねじの刻設の有無まで確定する必要があるとは認められない。
 2 争点(2)(本件意匠の要部)について
(1) 意匠の要部、すなわち看者の注意を引く部分は、意匠を全体的に観察し、意匠に係る物品の性質、用途等も考慮して認定すべきである。
 本件意匠において、ターンバックルの中央部付近は、その位置からして、意匠全体の中で最も目立つ部分であると認められる。また、被告製品のちらし(甲第4号証)、原告製品のパンフレット(甲第20号証)及び弁論の全趣旨によれば、本件意匠に係る物品である床束は、大引きと床面との間に設置され、ターンバックルの中央部を握って回転させることにより高さを調節することが認められるから、床束の用途からしても、ターンバックルの中央部付近は、需要者である建築業者等が注目するところであると認められる。このような認定を前提として、本件意匠の構成を全体として観察すると、ターンバックルの中間部の具体的構成態様、すなわちターンバックルの中間部の形状について、断面が略正方形の角筒状で、角部はアールのない稜線である縦線をなし、外周に縦長な四つの平坦面が形成されていること(構成D)、ターンバックルの中間部の幅について、断面の対角線に当たる部分が最も幅が広く、その部分は、上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭いこと(構成E)、ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部について、同境界部が、横線によって明確に区切られていること(構成F)が、本件意匠の要部であると認められる。そして、このような要部を備えることにより、本件意匠は、上下の円筒状部の丸みを帯びた形状との対比で、中間部の細く角張った形状が際立ち、そのような形状から生じるシャープでスマートな印象が、全体から受ける美感の中で看者に強く感じられるものと認められる。以上のとおり認定する理由を、以下、補足説明する。
(2) 意匠に公知の態様が含まれる場合、それによって直ちにその部分を要部と認定し得なくなるわけではないが、公知の態様は、ありふれているが故に看者の注意を特に引かないことも多く、逆に新規な部分は看者の注意を引くことが多いから、要部の認定に当たって公知意匠を参酌することは許されるというべきである。
 また、類似意匠が登録されている場合、本意匠の要部は、類似意匠にも共通して存在するはずであるから、要部の認定に当たって、類似意匠を参酌することも許されるというべきである。
 そこで、要部の認定に当たり、公知意匠、類似意匠を参酌すると、次のとおりとなる。
(3) 公知意匠の参酌
ア 乙第2号証、第3号証の1ないし5、第4号証の1、2、第5号証、第6号証によれば、本件意匠の基本的構成態様である構成Aと同様の構成を備える床束の意匠は、本件意匠の意匠登録出願前に複数登録されていたこと、そのうちでも、乙3−1意匠が、本件意匠との共通点が最も多いこと認められる。したがって、本件意匠のうち、公知意匠である乙3−1意匠と異なる部分のうちには、公知意匠にない新規な部分が含まれているものと認められる。
イ 本件意匠公報及び乙3−1意匠の意匠公報(甲第11号証、乙第3号証の1)によれば、本件意匠は、乙3−1意匠と対比すると、次の点で異なるものと認められる。
(ア) ターンバックルの各構成要素の長さの比
 本件意匠(構成C)においては、ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対1対1で、下側の円筒状部は上側の円筒状部よりやや短く形成されているのに対し、乙3−1意匠においては、ターンバックルの上側の円筒状部と、くびれ部と、下側の円筒状部との長さの比は、約3.5対1対3.5であり、上側の円筒状部と下側の円筒状部の長さは同じである。
(イ) ターンバックルの中間部の形状
 本件意匠(構成D)のターンバックルの中間部は、角部がアールのない稜線である縦線をなし、外周の平坦面は縦長であるのに対し、乙3−1意匠のターンバックルのくびれ部は、外周の平坦面はやや縦長の長方形状である。
(ウ) ターンバックルの中間部の幅
 本件意匠(構成E)のターンバックルの中間部は、断面の最も幅の広い部分が、上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭いのに対し、乙3−1意匠のターンバックルのくびれ部は、平坦面に係る部分の幅は上下の円筒状部の外径よりも狭いが、断面の対角線に当たる最も幅の広い部分は、上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭いかどうか明らかでなく、上下の円筒状部と同じ幅か、上下の円筒状部よりもやや幅が狭い。
(エ) ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部
 本件意匠(構成F)のターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部は、横線によって明確に区切られているのに対し、乙3−1意匠のターンバックルのくびれ部の外周には、やや縦長な長方形状の四つの平坦面が形成されているが、くびれ部と上下の円筒状部の境界部には、くびれ部と上下の円筒状部を明確に区切る横線等はない。
(オ) ナット
 本件意匠(構成H)のターンバックルの上下端に配置されたナットは、ワッシャのような円形の鍔状部を有するが、乙3−1意匠のターンバックルの上下端に配置されたナットは、ワッシャのような円形の鍔状部を有しておらず、ワッシャも介していない。
(カ) ベースプレート
 本件意匠(構成K)のベースプレートは、底面視やや横長の長方形状で、各辺の略中央にV字状の切欠部が形成されており、対向する長辺に沿って2個ずつの小孔、短辺に沿ってやや大きい3個ずつの円孔が穿設されているのに対し、乙3−1意匠のベースプレートは、底面視正方形状で、多数の円孔が穿設されている。
ウ(ア) 本件意匠の意匠登録出願前に意匠登録された乙3−1意匠の類似意匠(意匠登録第753868号の類似3、4。意匠公報は乙第3号証の4、5)のターンバックルの上下端に配置されたナットは、ターンバックルとナットの間にワッシャを介して配置されている。そして、ターンバックルの上下にワッシャ又はワッシャのような円形の鍔状部を介してナットの角状の本体が配置されている外観をとる点において、これらの公知意匠と本件意匠は共通する。したがって、本件意匠の構成のうち、前記イ(オ)において乙3−1意匠と異なると認定された部分は、公知意匠にない新規な部分とは認められない。
(イ) 本件意匠の意匠登録出願前に意匠登録された意匠登録第887697号の意匠(意匠公報は乙第6号証)においては、ターンバックルの中央部の最も太い部分は、その上下の部分とは、横線によって明確に区切られている。しかし、同意匠は、ターンバックルの中央部の最も太い部分が円筒形である上、その上下の各部分は、更に曲線又は直線によってそれぞれ3区分されており、ターンバックル全体が上下の各円筒状部と中間部の3区分により構成されている本件意匠とは、ターンバックルの基本的な構成要素が異なっている。したがって、本件意匠の構成のうち、前記イ(エ)認定の部分は、ターンバックルが本件意匠のような基本的構成をとる意匠においては、なお新規な部分であると認められる。
(ウ) もっとも、原告は、前記イ(エ)認定の本件意匠と乙3−1意匠との相違点、すなわち「本件意匠(構成F)のターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部は、横線によって明確に区切られているのに対し、乙3−1意匠のターンバックルのくびれ部の外周には、やや縦長な長方形状の四つの平坦面が形成されているが、くびれ部と上下の円筒状部の境界部には、くびれ部と上下の円筒状部を明確に区切る横線等はない。」について、次の趣旨の主張をする。本件意匠においては、確かに図面上横線が表示されているが、該横線は前述のように作図上表現したものであって、該横線の存在によって中間部が明確に区切られているものではなく、あくまでターンバックルの意匠全体として観察すると、自ずから中間部が上下の円筒状部と明確に3区分されていることが視認できる。一方、乙3−1意匠においては、図面上横線が表示されていないが、くびれ部を形成するテーパ状上下端縁をわずかに角状とすれば、自ずから横線が表示されるものであり、横線の有無によって、くびれ部と上下の円筒状部とが区分されるものでは決してない。このことは、例えば、乙3−1意匠の類似意匠(意匠登録第753868号の類似1ないし3。意匠公報は乙第3号証の2ないし4)及び意匠登録第1007898号(意匠公報は乙第9号証)等の上下の円筒状部には横線が存在しないが、意匠登録第887696号(意匠公報は甲第15号証、乙第5号証)、意匠登録第1124987号(意匠公報は甲第18号証、乙第16号証)、意匠登録第1143552号(意匠公報は乙第20号証)及び意匠登録第1188945号(意匠公報は乙第21号証)等には横線が存在することからも明らかである。すなわち、横線を図面上図示するか否かは作図上の問題であって、横線の有無によって、意匠の形態認識(上下の円筒状部の形状認識)が格別相違するものではない。したがって、上記本件意匠と乙3−1意匠との相違点は、「本件意匠(構成F)のターンバックルは、上下の円筒状部間に縦長で四つの平坦面を有する中間部が独立して大きく存在し明確に3区分されているのに対し、乙3−1意匠のターンバックルは、やや縦長で小さな長方形状の四つの平坦面が形成されたくびれ部が円筒体の中央部に存在するものである。」とすべきである。
 しかしながら、前記1(2)イ、ウ認定の意匠法24条の趣旨、意匠登録出願図面の作図に関する文献の存在及び本件意匠の意匠登録出願に係る願書の記載内容等に、上記意匠登録第887696号(甲第15号証、乙第5号証)、意匠登録第1124987号(甲第18号証、乙第16号証)、意匠登録第1143552号(乙第20号証)及び意匠登録第1188945号(乙第21号証)の図面に横線が表わされているのは、横線部分において形状線が一定角度で大きく屈曲していることを表現するためであることがうかがえることを併せ考慮すると、横線を図面上図示するか否かは作図上の問題であり、横線の有無によって、意匠の形態認識(上下の円筒状部の形状認識)が格別相違するものではないことを前提とする、原告の本件意匠と乙3−1意匠との相違点に関する上記主張は採用することができない。
エ 前記アないしウの認定によれば、本件意匠の構成のうち、少なくとも、ターンバックルの中間部の形状(前記イ(イ)・構成D)、ターンバックルの中間部の幅(前記イ(ウ)・構成E)、ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部(前記イ(エ)・構成F)は、公知意匠にない新規な部分であると認められ、前記(1)認定の本件意匠の要部は、これらの新規な部分に係るものと認められる。したがって、前記(1)認定の本件意匠の要部は、公知意匠にない新規の構成であるという点からも、看者の注意を引くものと認められる。
オ 原告は、意匠全体からみて、乙3−1意匠のくびれ部は存在感が小さいのに対し、本件意匠の中間部の存在は強く印象づけられると主張し、乙3−1意匠が存在することを根拠として本件意匠の要部を限定的に解するのは不当である旨主張する。
 確かに、乙3−1意匠のくびれ部の長さがターンバックル全体の長さに占める割合は、本件意匠の中間部の長さがターンバックル全体の長さに占める割合よりも小さい(後記(4)ウ)。しかし、乙3−1意匠のくびれ部は、四つの平坦面がやや縦長の長方形であることを明確に認識するに足りる大きさのものであり、単にターンバックルの中央がくびれているにとどまるものではない。そして、乙3−1意匠において、くびれ部は、ターンバックルの中央に位置すること、及び上下の各円筒状部と異なって四つの平坦面と角部によって構成されていることから、看者の注意を引くものと認められる。他方、本件類似意匠においては、ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比が、約1.3対3.3対1であって、中間部の長さが下側の円筒状部の長さの3倍を超えており、このような長さの比を備える意匠が本件意匠の類似意匠とされていることからすると、ターンバックルの上側の円筒状部と中間部と下側の円筒状部との長さの比について多少の増減があることは、その点のみをもって、本件意匠に類似しないことの根拠とすることはできないと解される(後記(4)ウ)。そうであるとすれば
、本件意匠の要部は、本件意匠と乙3−1意匠の相違点のうち、ターンバックルの上側の円筒状部と中間部と下側の円筒状部との長さの比以外の点に存在すると認められ、そのような要部を備えるが故にこそ本件意匠の意匠登録が認められたと考えるべきこととなる。したがって、公知意匠である乙3−1意匠、特にそのくびれ部の存在を参酌して本件意匠の要部を認定することは許されるというべきである。
カ また、原告は、本件意匠の新規な構成について、次の趣旨の主張をする。本件意匠と乙3−1意匠とを対比した場合、第1に、本件意匠は、乙3−1意匠に比し、ターンバックルの上下の円筒状部間に中間部が独立して明確に3区分されて構成されているのに対し、乙3−1意匠は、円筒状のターンバックルの略中央部に小さなくびれ部が存在するもので全く両意匠は異なった形状である。第2に、本件意匠の中間部は、上下の円筒状部と大体等しい長さで独立した存在感を与えるのに対し、乙3−1意匠は、くびれ部に対し上下の円筒状部がそれぞれ3.5倍の長さを有するため、全くターンバックル全体に対する中間部とくびれ部との比が異なるものであって、あくまで乙3−1意匠は、3区分された中間部ではなく、単に円筒状のターンバックルの中央部に形成された「くびれ部」にすぎないものである。第3に、上記長さの比の相違から、本件意匠の縦長な中間部は、四つの平坦面で形成されているのに対し、乙3−1意匠の平坦面は、小さくてやや縦長な長方形状がターンバックルの中央部に設けられているものであって、全体としては全くその形状や審美感を異にするものである。そうであるとすれば、本件意匠の上記ターンバックル全体に占める縦長な中間部の存在による明確な3区分化構成や中間部が上下の円筒状部と大体等しい長さ構成、さらには縦長な中間部が四つの平坦面によって形成されている構成からなるターンバックルの形状は、公知意匠にはない新規な部分であって、これらの構成が本件意匠の要部と認定されるべきである。これに対し、本件意匠における中間部の形状(中間部に設けた四角形状)、中間部の幅及び中間部と円筒状部の境界部の横線形状は、乙3−1意匠と大差なく格別新規な構成ではない。
 しかしながら、前記(2)イ、ウ認定の意匠法24条の趣旨、意匠登録出願図面の作図に関する文献の存在及び本件意匠の意匠登録出願に係る願書の記載内容等に照らすと、原告の上記主張のうち横線形状に係る部分は、そもそも首肯することができない。そして、このことに、前記1(1)認定の本件意匠の構成及び前記イ、ウ、オにおける公知意匠の参酌の結果を併せ考慮すると、本件意匠におけるターンバックルは、中間部と上下の円筒状部との形状に違いにより、その境界部に段差が形成され、この段差による横線によって境界部が明確に区切られ(構成F)、中間部は、断面が略正方形の角筒状で、角部はアールのない稜線である縦線をなし、外周に縦長な四つの平坦面が形成されていること(構成D)から、本件意匠は、上下の円筒状部の丸みを帯びた形状との対比で、中間部の細く角張った形状が際立ち、そのような形状から生じるシャープでスマートな印象が、全体から受ける美感の中で看者に強く感じられるものと認められる。そうすると、本件意匠の構成のうち、ターンバックルの中間部の形状(構成D)、ターンバックルの中間部の幅(構成E)、ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部(構成F)
は、公知意匠にない新規な部分であると認めるのが相当である。
 したがって、本件意匠の新規な構成に関する原告の上記主張は採用することができない。
(4) 類似意匠の参酌
ア 本件意匠公報及び本件類似意匠の意匠公報(甲第3号証)によれば、本件類似意匠の構成を本件意匠と対比すると、共通点及び相違点は次のとおり認められる。
(ア) 本件類似意匠は、本件意匠の構成A、B、DないしKと同じ構成を備える。
(イ) ターンバックルの各構成要素の長さの比について、本件意匠(構成C)は、ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対1対1で、下側の円筒状部は上側の円筒状部よりやや短く形成されている。これに対し、本件類似意匠は、ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対3.3対1であり、中間部の長さは、上側の円筒状部の約2.5倍、下側の円筒状部の約3.3倍で、非常に長く、下側の円筒状部は上側の円筒状部よりやや短く形成されている。
イ 前記(1)認定の本件意匠の要部は、本件意匠と本件類似意匠にも共通して認められる。
ウ ところで、前記(3)イ(ア)認定のとおり、ターンバックルの各構成要素の長さの比について、本件意匠(構成C)は乙3−1意匠と相違しており、本件意匠においては、ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対1対1で、上下の各円筒状部と中間部の長さが大体等しいのに対し、乙3−1意匠においては、ターンバックルの上側の円筒状部と、くびれ部と、下側の円筒状部との長さの比は、約3.5対1対3.5であり、くびれ部に比べて上下の各円筒状部の長さが非常に長い。
 しかし他方、本件類似意匠についてみると、前記ア(イ)のとおり、ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対3.3対1であり、中間部の長さは、上側の円筒状部の約2.5倍、下側の円筒状部の約3.3倍で、非常に長い。
 このように、中間部の長さが下側の円筒状部の3倍を超えるような意匠が本件意匠の類似意匠とされていることからすると、ターンバックルの上側の円筒状部と中間部と下側の円筒状部との長さの比について、多少の増減があることは、その点のみをもって、本件意匠に類似しないことの根拠とすることはできず、本件意匠に類似するか否かの判断に影響を及ぼさないと解される。したがって、本件意匠において、ターンバックルの上側の円筒状部と中間部と下側の円筒状部との長さの比が約1.3対1対1で大体等しいことは、公知意匠である乙3−1意匠と異なる構成であるものの、本件意匠の要部とは認められないというべきである。
エ これに対し、原告は、本件類似意匠と中間部の長さについて、次の趣旨の主張をする。本件意匠は、上下の円筒状部と中間部とを明確に3区分し、かつ中間部が独立して存在するターンバックルとして形成した点に重要な創作ポイントの要素があり、しかもこのような創作形態は公知意匠には存在しない。そうだとすれば、本件意匠のように中間部が上下の円筒状部と大体等しい長さか、本件類似意匠のように中間部が上下の円筒状部より極めて長くても、中間部が上下の円筒状部と明確に3区分して独立した形態として認識できる程、縦長に構成されたターンバックルであるという点において、両意匠が共通する結果、上記創作形態において共通するため、特許庁は類似すると判断したものといえる。したがって、上下の円筒状部と中間部が1.3対1対1と明確に3区分された本件意匠と、3.5対1対3.5と独立した中間部が存在する公知意匠とは明らかにターンバックルの形態、特に中間部の形態としては全く異なるものであって、本件意匠の上記中間部の長さ、すなわち上下の円筒状部と中間部が大体等しいかそれ以上であるとの構成は、本件意匠にのみ新規な構成で看者の注意力を喚起せしめる形態で意匠の要部と認定すべきである。
 しかしながら、前記のとおり、本件意匠におけるターンバックルは、中間部と上下の円筒状部との形状に違いにより、その境界部に段差が形成され、この段差による横線によって境界部が明確に区切られ(構成F)、中間部は、断面が略正方形の角筒状で、角部はアールのない稜線である縦線をなし、外周に縦長な四つの平坦面が形成されていること(構成D)から、本件意匠は、上下の円筒状部の丸みを帯びた形状との対比で、中間部の細く角張った形状が際立ち、そのような形状から生じるシャープでスマートな印象が、全体から受ける美感の中で看者に強く感じられるものと認められることに、前記ウで判示したところを併せ考慮すると、本件類似意匠と中間部の長さに関する原告の上記主張は採用することができない。
(5) 前記(2)ないし(4)に認定したところによれば、公知意匠及び類似意匠に照らしても、本件意匠の要部を前記(1)のとおり認定することは、相当であるというべきである。
 3 争点(3)(被告製品の意匠の構成)について
(1) 本件意匠公報の正面図、背面図、左側面図、右側面図、A−A断面図において、ターンバックルは、中間部の角部の縦線を正面に向けて表示されているから、被告製品の意匠を図示する際にも、ターンバックルは、中間部の角部を正面に向けて表示するのが相当である。
 また、本件意匠公報の正面図、背面図、左側面図、右側面図、A−A断面図において、ナットは、ターンバックルの上下端にワッシャのような円形の鍔部を接して配置された状態で表示されているから、被告製品の意匠を図示する際にも、ナットは、ターンバックルの上下端にワッシャを介して接して配置された状態で表示するのが相当である。
 したがって、被告製品を本件意匠と対比する際には、ターンバックルが中間部の角部を正面に向けて表示され、ナットがターンバックルの上下端にワッシャを介して接して配置された状態で表示されているイ号図面1−(1)、ロ号図面1−(1)、ハ号図面1−(1)によって被告製品を特定するのが相当であると認められる。
(2) 被告製品が、原告主張に係る被告製品の意匠の構成@(上端に正面視略L字状のプレートを、下端に平板状のベースプレートを設け、かつ両プレート間に上下のボルトを介して上下の高さ調節自在なターンバックルを設けている鋼製束であって、)、構成Dのうち「略L字状のプレートは、立上部と受板部の両端縁はアール状に切り欠かれており、かつプレート本体には2条の凹状リブが立上部の頂上まで連続的に形成され、更にプレート本体の立上部には一対の孔が開設されており、しかも受板部の中央には円形状の突状部がかしめられている。」という部分、構成E(ベースプレートは、底面視円形状で、かつプレートの周囲には大きい孔が8個、小さい孔が4個穿設されている。)、構成Fのうち「ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、イ号製品では約1.2対1対1.2、ハ号製品では約1対1対1である。」という部分、構成Gのうち「ターンバックルの中間部に形成した略四角形状部は、平坦部のみが円筒状部外径よりやや幅狭で」という部分、構成H(ターンバックルの上下の円筒状部の上下端には、ナットとの間にスプリングワッシャが介装着されている。)、構成I
(ターンバックルの中間部の中央に貫通孔が穿設されている。)、構成J(ターンバックルの上下の円筒状部の先端側には、小さい確認用貫通孔が穿設され、かつ4条の縦リブが形成されている。)を備えることは、当事者間に争いがない。
 上記当事者間に争いのない事実とイ号図面1−(1)、ロ号図面1−(1)、ハ号図面1−(1)、被告製品のちらし(甲第4号証)、イ号製品(検乙第1号証)、ロ号製品(検甲第1号証)、ハ号製品(検乙第2号証)によれば、被告製品の意匠の構成は、次のとおり認められる。
ア 基本的構成態様
@(全体の構成要素)
上端に正面視略L字状のプレートを、下端に平板状のベースプレートを設け、かつ両プレート間に上下のボルトを介して上下の高さ調節自在なターンバックルを設けている床束である。
イ 具体的構成態様
A(ターンバックルの構成要素)
ターンバックルは、上側の円筒状部と下側の円筒状部と、上下の円筒状部間に位置する中間部により構成されている。
B(ターンバックルの各構成要素の長さの比)
ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、イ号製品では約1.2対1対1.2、ロ号製品では約1.1対1対1.1、ハ号製品では約1対1対1である。
C(ターンバックルの中間部の形状)
ターンバックルの中間部は、断面が略正方形の角筒状で、角部はアール形状であり、角部に明瞭な縦線は現われておらず、外周に縦長な四つの平坦面が形成されている。
D(ターンバックルの中間部の幅)
ターンバックルの中間部においては、断面の対角線に当たる部分が最も幅が広く、その部分は、上下の円筒状部と同外径であり、平坦面に係る部分の幅は、上下の円筒状部の外径よりも狭い。
E(ターンバックルの中間部の貫通孔)
ターンバックルの中間部の中央に貫通孔が穿設されている。
F(ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部)
ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部は、中間部の四つの平坦面については、平坦面の上下端が、中間部と上下の円筒状部の境界部に横線を現わしているが、中間部の角部は、アール形状をなし、上下の円筒状部と連続しており、角部について、中間部と上下の円筒状部を明確に区切る横線等は存在しない。
G(ターンバックルの上下の円筒状部の形状)
ターンバックルの上下の円筒状部は、中間部寄りの部分は、中間部より外径がやや大きい円筒状をなし、上下端のナット側に向かって細くなるテーパ部を介し、上下端近くの部分は、細径の円筒状に形成され、その細径の円筒状部に4条の縦リブが形成され、テーパ部の近くに小さい確認用貫通孔が穿設されている。
H(ナット)
ターンバックルの上下端には、スプリングワッシャを介してナットが配置されている。
I(略L字状のプレート)
略L字状のプレートは、立上部と受板部からなり、受板部は、底面視やや横長の長方形状で、立上部及び受板部の角部がアール形状であり、2条の凹状のリブが受板部から立上部の頂上まで連続的に形成され、立上部と受板部にそれぞれ2個の小さい孔が穿設されている。
J(略L字状のプレートの受板部とボルトの接合部)
略L字状のプレートの受板部の中央には、円形状の突起部がかしめられている。
K(ベースプレート)
ベースプレートは、底面視円形状で、かつプレートの周囲には大きい孔が8個、小さい孔が4個穿設されている。
(3)ア これに対し、原告は、被告製品の意匠の構成A(ターンバックルの構成要素)について、「ターンバックルは、上側の円筒状部と下側の円筒状部と、上下の円筒状部間に位置する中間部により構成されている。」と特定するのは不正確であり、被告製品のちらし(甲第4号証)を参酌すると明らかなように、スパナ有効範囲として上下の円筒状部間の中間部は明確に上下の円筒状部と3区分されて図示及び記載されているから、「ターンバックルは、上側の円筒状部と下側の円筒状部と、上下の円筒状部間に位置する中間部によって明確(原審では「明瞭」と主張していた。以下、同じ。)に3区分されて構成されている。」と特定すべきである旨主張する。
 しかしながら、イ号図面1−(1)、ロ号図面1−(1)及びハ号図面1−(1)並びに被告製品のちらし(甲第4号証)、イ号製品(検乙第1号証)、ロ号製品(検甲第1号証)、ハ号製品(検乙第2号証)によれば、被告製品における角筒状の中間部は、アール形状(丸角)に形成されており(B―B端面図)、これらのアール形状の角部(丸角部)における対角径(対角線に当たる部分)は、上下の円筒状部と同外径であることは明らかであって、上下の円筒状部と中間部とは明確に3区分されているように認識することはできない(正面図、背面図、左右側面図、A―A断面図、B―B端面図)から、被告製品の意匠の構成Aに関する原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は、被告製品の意匠の構成C(ターンバックルの中間部の形状)について、角部がアール形状である以上、縦線が現われないのは当然であり、また、中間部の四つの平坦面は上下の円筒状部より幅狭に形成されているから、「ターンバックルの中間部は、断面が略正方形の角筒状で、角部はアール形状であり、角部に明瞭な縦線は現われておらず、外周に縦長な四つの平坦面が形成されている。」ではなく、「ターンバックルの中間部は、断面が略正方形の角筒状で、角部はアール形状であり、外周には上下の円筒状部より幅狭で縦長な四つの平坦面が形成されている。」と特定すべきである旨主張する。
 しかしながら、イ号図面1−(1)、ロ号図面1−(1)及びハ号図面1−(1)並びに被告製品のちらし(甲第4号証)、イ号製品(検乙第1号証)、ロ号製品(検甲第1号証)、ハ号製品(検乙第2号証)によれば、被告製品におけるターンバックルの中間部は、断面が略正方形状で、角部はアール形状(丸角)に形成されており(B―B端面図)、角部に明瞭な縦線は現われていないこと(正面図、背面図、左右側面図)は明らかである。また、被告製品におけるターンバックルの中間部は、鋼製パイプをプレス圧迫して形成されているために、弧状部分が潰れ圧縮されて平坦化し、潰されていない円筒状部よりもやや幅狭になっている(甲第4号証、検甲第1号証、検乙第1、2号証、弁論の全趣旨)が、この点については、被告製品の意匠の構成D(ターンバックルの中間部の幅)として特定されていることにかんがみると、構成Cに「外周には上下の円筒状部より幅狭で」との構成を付加するまでの必要はない。
 したがって、被告製品の意匠の構成Cに関する原告の上記主張は採用することができない。
ウ 原告は、被告製品の意匠の構成F(ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部)について、「ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部は、中間部の四つの平坦面については、平坦面の上下端が、中間部と上下の円筒状部の境界部に横線を現わしているが、中間部の角部は、アール形状をなし、上下の円筒状部と連続しており、角部について、中間部と上下の円筒状部を明確に区切る横線等は存在しない。」と特定するのは不正確であり、「ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部は、中間部の四つの平坦面については、平坦面の上下端が上下の円筒状部より横線を介して幅狭に形成され、中間部の角部は、アール形状をなし上下の円筒状部と連続して略同径に形成されている。」と特定すべきである旨主張する。
 しかしながら、そもそも「平坦面の上下端が上下の円筒状部より横線を介して幅狭に形成され」との点は曖昧であり、イ号図面1−(1)、ロ号図面1−(1)及びハ号図面1−(1)並びに被告製品のちらし(甲第4号証)、イ号製品(検乙第1号証)、ロ号製品(検甲第1号証)、ハ号製品(検乙第2号証)によれば、前記(2)で特定した被告製品の意匠の構成Fが不正確であるとはいえないから、原告の上記主張は採用することができない。
 4 争点(4)(被告製品の意匠と本件意匠の対比)について
(1) 被告製品の意匠と本件意匠の共通点は、次のとおり認められる。
ア 全体の構成要素について、被告製品の意匠(構成@)は、本件意匠(構成A)と共通する。
イ ターンバックルの構成要素について、被告製品の意匠(構成A)は、本件意匠(構成B)と共通する。
ウ ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、イ号製品では約1.2対1対1.2、ロ号製品では約1.1対1対1.1、ハ号製品では約1対1対1であるのに対し、本件意匠では約1.3対1対1であり、上側の円筒状部、中間部、及び下側の円筒状部の長さがいずれも大体等しい(1ないし1.3の比)点において、被告製品の意匠(構成B)は、本件意匠(構成C)と共通する。
エ ターンバックルの中間部の形状について、断面が略正方形の角筒状で、外周に縦長な四つの平坦面が形成されている点において、被告製品の意匠(構成C)は、本件意匠(構成D)と共通する。
オ ターンバックルの中間部の幅について、断面の対角線に当たる部分が最も幅が広く、平坦面に係る部分の幅が上下の円筒状部の外径よりも狭い点において、被告製品の意匠(構成D)は、本件意匠(構成E)と共通する。
カ ターンバックルの上下の円筒状部の形状について、中間部寄りの部分は、中間部より外径がやや大きい円筒状をなし、上下端のナット側に向かって細くなるテーパ部を介し、上下端近くの部分は、細径の円筒状に形成されている点において、被告製品の意匠(構成G)は、本件意匠(構成G)と共通する。
キ ナットについて、被告製品の意匠(構成H)は、ターンバックルの上下端に、スプリングワッシャを介して配置されているのに対し、本件意匠(構成H)は、ターンバックルの上下端に、ワッシャのような円形の鍔状部を有するナットが、ターンバックルに鍔状部を接して配置されている。しかし、ターンバックルの上下にワッシャ又はワッシャのような円形の鍔状部を介してナットの角状の本体が配置されている外観をとる点において、被告製品の意匠と本件意匠は共通する。
ク 略L字状のプレートについて、立上部と受板部からなり、受板部は、底面視やや横長の長方形状で、立上部と受板部にそれぞれ2個の小さい孔が穿設されている点において、被告製品の意匠(構成I)は、本件意匠(構成I)と共通する。
(2) 被告製品の意匠と本件意匠の相違点は、次のとおり認められる。
ア ターンバックルの中間部の形状について、被告製品の意匠(構成C)は、角部がアール形状であり、角部に明瞭な縦線は現われていないのに対し、本件意匠(構成D)は、角部がアールのない稜線である縦線をなしている。
イ ターンバックルの中間部の幅について、被告製品の意匠(構成D)は、最も幅の広い断面の対角線に当たる部分が、上下の円筒状部と同外径であるのに対し、本件意匠(構成E)は、最も幅の広い断面の対角線に当たる部分が、上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭い。
ウ ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部に関して、被告製品の意匠(構成F)は、中間部の四つの平坦面については、平坦面の上下端が、中間部と上下の円筒状部の境界部に横線を現わしているが、中間部の角部は、アール形状をなし、上下の円筒状部と連続しており、角部について、中間部と上下の円筒状部を明確に区切る横線等は存在しない。これに対し、本件意匠(構成F)は、ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部は、横線によって明確に区切られている。
エ ターンバックルの上下の円筒状部の上下端近くの細径の円筒状部について、被告製品の意匠(構成G)は、4条の縦リブが形成され、テーパ部の近くに小さい確認用貫通孔が穿設されているのに対し、本件意匠(構成G)には、そのようなリブ、確認用貫通孔はない。
オ 略L字状のプレートについて、被告製品の意匠(構成I)は、立上部及び受板部の角部がアール形状であり、2条の凹条のリブが受板部から立上部の頂上まで連続的に形成されているのに対し、本件意匠(構成I)は、立上部及び受板部の角部が直角状であり、凹条のリブはない。
カ 略L字状のプレートの受板部とボルトの接合部について、被告製品の意匠(構成J)は、略L字状のプレートの受板部の中央に、円形状の突起部がかしめられているのに対し、本件意匠(構成J)は、略L字状のプレートの受板部の上面中央にボルトの円形状の頭部が裸出している。
キ ベースプレートにつき、被告製品の意匠(構成K)は、ベースプレートは底面視円形状で、かつプレートの周囲に大きい孔が8個、小さい孔が4個穿設されているのに対し、本件意匠(構成K)は、ベースプレートは底面視やや横長の長方形状で、各角部が直角状であり、各辺の略中央にV字状の切欠部が形成されており、対向する長辺に沿って2個ずつの小孔、短辺に沿ってやや大きい3個ずつの円孔が穿設されている。
(3) 類否
ア 前記2(1)認定のとおり、本件意匠の要部は、ターンバックルの中間部の形状について、断面が略正方形の角筒状で、角部はアールのない稜線である縦線をなし、外周に縦長な四つの平坦面が形成されていること(構成D)、ターンバックルの中間部の幅について、断面の対角線に当たる部分が最も幅が広く、その部分は、上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭いこと(構成E)、ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部について、同境界部が、横線によって明確に区切られていること(構成F)である。そして、このような要部を備えることにより、本件意匠は、上下の円筒状部の丸みを帯びた形状との対比で、中間部の細く角張った形状が際立ち、そのような形状から生じるシャープでスマートな印象が、全体から受ける美感の中で看者に強く感じられるものと認められる。
 被告製品の意匠は、本件意匠とは前記(1)アないしク認定のとおり共通し、前記(1)エ、オ認定の共通点は、本件意匠の要部であるターンバックルの中間部の形状、中間部の幅に係るものである。しかし、それは、本件意匠の要部の一部分について共通するにとどまり、前記(2)アないしウ認定のとおり、要部についても、大きな相違点が存在する。そして、被告製品の意匠は、ターンバックルの中間部の角部に明瞭な縦線が現われていないこと(前記(2)ア)、ターンバックルの中間部の最も幅の広い断面の対角線に当たる部分が、上下の円筒状部と同外径であり、上下の円筒状部よりも細くないこと(前記(2)イ)、中間部の角部は、アール形状をなし、上下の円筒状部と連続しており、角部について、中間部と上下の円筒状部を明確に区切る横線等は存在しないこと(前記(2)ウ)から、中間部について、細く角張った印象はほとんどなく、中間部が上下の円筒状部から際立つことはなく、むしろ、中間部は、四つの平坦面が形成されていても、上下の円筒状部との連続性を維持している印象が強く、被告製品の意匠は、中間部を含め、全体として、丸みを帯びた柔らかな印象を看者に与える。
イ 前記アのとおり、被告製品の意匠は、本件意匠と共通点を有するが、その共通点は本件意匠の要部のすべてを含むものではなく、要部について大きな相違点があるほか、要部以外の点についても、前記(2)エないしキ認定の相違点が存在するから、全体として、相違点が共通点を凌駕し、被告製品の意匠は、本件意匠とは美感を異にするというべきである。
ウ したがって、被告製品の意匠は、本件意匠とは類似していないというべきである。
(4)ア これに対し、原告は、両意匠の類比について、次のとおり主張する。
(ア) そもそも、縦線の有無は図面の作図上の問題であって、本件意匠の中間部は角筒状の四角形状で、かつ角部を角形状としたのに対し、被告製品の意匠の中間部は、角筒状の四角形状で、かつ角部をアール形状としたために、縦線が図面上表示されているか否かの相違が生じたものであり、中間部の形状としては、いずれも四角形の角筒状である点で共通しているから、ターンバックルの中間部の角部の縦線の有無をもって、本件意匠と被告製品の意匠が非類似であるとの根拠とすることはできない。このことは、ターンバックル本体の断面形状(外形)が相違するにもかかわらず、類似意匠ないし関連意匠とした特許庁の審査例があること(甲第21、22号証の各1、2、第23号証の1ないし5、第24、25号証の各1、2。甲第21、22号証の各1、2は、意匠に係る物品を「床パネル支持具」とし、その余は、「床束」とする意匠公報である。以下、同じ。)からも明らかである。
(イ) この種「床束」なる物品においては、ターンバックル全体の形態が重視されるべきであって、中間部にのみ局部的に注視して、中間部の最も幅の広い断面の対角線と上下の円筒状部の外径との幅寸法を比較した結果をもって、本件意匠と被告製品の意匠が非類似であるとの根拠とすることはできない。このことは、ターンバックルの中間部や円筒状部の外径差による特許庁の類似審査例があること(甲第24、25号証の各1、2)からも明らかである。
(ウ) 横線の有無は、前記縦線の有無と同様、図面の作図上の問題であって、意匠の形状を変化させるものでは決してない。本件意匠において中間部と上下の円筒状部との境界部であるテーパ状部の最下端及び最上段を先鋭に表現すれば、横線が作図上図示されるし、これをアール状に表現すれば、横線が図示されないのである。他方、被告製品の意匠についても、そのちらし(甲第4号証)を参酌すると明らかなように、横線が図示されている。したがって、中間部と上下の円筒状部間の横線の有無をもって、本件意匠と被告製品の意匠が非類似であるとの根拠とすることはできない。このことは、本意匠のD―D断面図には、テーパ状部に横線が図示されているが、類似意匠のD―D断面図には、横線が表示されていないのに類似意匠とした特許庁の審査例があること(甲第24号証の1、2)からも明らかである。
(エ) 被告製品のちらし(甲第4号証)と原告製品のパンフレット(甲第20号証)に掲載された写真の対比からも明らかなように、本件意匠と被告製品の意匠は、いずれもターンバックル全体が上下の円筒状部と四つの平坦面を有する中間部の存在とによって明確に3区分され、しかも縦長な四つの平坦面の存在が際立つこととなり、その結果中間部を利用して上下の円筒状部の位置調整が容易に行うことができるという作業性の良い機能的な意匠として看者、特に建築業者等の当業者に印象を強く与えるものであるほか、上記のとおり明確に3区分されたことにより、ターンバックル全体のプロポーションが安定感とバランス感を強く看者に印象づけるものである。したがって、両意匠は、看者に共通の審美感を与えるものであって、類似するものである。
イ しかしながら、前述した意匠法24条の趣旨、意匠登録出願図面の作図に関する文献の存在及び本件意匠の意匠登録出願に係る願書の記載内容等に照らし、原告が縦線及び横線の有無は図面の作図上の問題であるとしている点は、到底首肯することができない。また、特許庁の審査例(判断)に不適切なものがないとまでは断定できないし、そもそも意匠権侵害訴訟において、当該意匠権の効力が侵害対象にまで及ぶものかを判断するに当たって、裁判所は、当該意匠分野における意匠登録出願に対する特許庁の審査例(判断)に拘束されるものではない。さらに、本件意匠の意匠登録出願に係る願書(乙第1号証の2)に添付した図面の記載を一見すれば、本件意匠におけるターンバックルの中間部の最も幅の広い断面の対角線が上下の円筒状部よりやや幅狭になっていることは明らかであり、本件意匠は、上下の円筒状部の丸みを帯びた形状との対比で、中間部の細く角張った形状が際立ち、そのような形状から看者にシャープでスマートな印象を与えることは否定できない。他方、イ号図面1−(1)、ロ号図面1−(1)及びハ号図面1−(1)並びに被告製品のちらし(甲第4号証)、イ号製品(検乙第1号証)、ロ号製品(検甲第1号証)、ハ号製品(検乙第2号証)によれば、被告製品の意匠は、中間部は、そこに形成された四つの平坦面には角張った印象がほとんどなくて、上下の円筒状部から際立つこともなく、かえって、上下の円筒状部との連続性を維持している印象が強い。そうすると、被告製品の意匠は、中間部を含め、全体として、丸みを帯びた柔らかな印象を看者に与えることも否定できない。
 したがって、本件意匠と被告製品の意匠の類否に関する原告の前記主張はいずれも採用することができない。
 5 その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面等に記載の主張に照らし、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、前記認定判断を覆すほどのものはない。
 6 結論
 以上の次第で、原告の請求は理由がないから、これを棄却した原判決は相当であり、原告の本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

〔論 説〕
1.原審判決に対する〔論説〕はA−25を参照するとして、控訴審判決で展開している判決理由は、より詳細なものになっていることは、さすが大阪高裁の判決であると感服している。全く別事件ではあるが、最高裁からクレームをつけられた高松高裁の判決手法とは違い、自己完結型の判断である。(本HP2月1日号の「近況雑感」参照)

2.全体の判断の流れは原審のそれと同じであるところ、注目すべき認定と判示について特筆してみたい。
(1)原告が、本件意匠において、ターンバックルの上下円筒状部の中間に形成する角形状部との境界を横線で表現しているのは作図上の問題だと主張したことに対し、判決は、この部分の形態は公知意匠には見られない新規な部分と認め、ここを本件意匠の要部と認定したことは、妥当である。これは、多数の公知意匠を参酌することによって、そもそも特許庁が登録した本件意匠の存在意義を肯定したことによってはじめて被告意匠と対比して類否判断できることを意味する。このとき、もし本件意匠に類似意匠の登録があれば、本件意匠の類似範囲を画定するために参酌するのは当然であると判示している。そして判決は、「そのような形状から生じるシャープでスマートな印象が全体から受ける美感の中で看者に強く感じられるものと認められる」と認定しているが、これは前記した本件意匠を公知意匠と比較することによって把握した新規な創作部分から受ける印象をまとめて記述しているだけのことである。
(2)また、判決は、原告が本件意匠の図面において、縦線や横線の有無は作図上の問題であるとして審査例をあげて主張したことに対し、「そもそも意匠権侵害訴訟において、当該意匠権の効力が侵害対象にまで及ぶものかを判断するに当たって、裁判所は、当該意匠分野における意匠登録出願に対する特許庁の審査例(判断)に拘束されるものではない。」と判示していることは、注目すべきであるが、当然の事理である。
 この判示は、換言すれば、特許庁が審査の上で設定登録した意匠権であろうと特許権であろうと、侵害裁判所の土俵に上がると、着ている着物を一枚ずつ剥ぎ取られていくものであることを物語っている。自由意匠の抗弁による請求棄却の判決や公知意匠による登録無効の抗弁による権利濫用の判決は、その典型である。

[牛木理一]