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「細巾レース」意匠権侵害差止等請求事件:京都地裁平15(ワ)2311 平成17年6月30日判決(一認)

〔キーワード〕
意匠の類似,公知意匠の斟酌,意匠の要部,美感の共通,微差,特許庁の判定,損害額の推定,弁護士費用

〔主  文〕
1 被告らは、別紙被告商品目録記載のレース地の製造,販売及び販売の申出
  をしてはならない。
2 被告らは、別紙被告商品目録記載のレース地を破棄せよ。
3 被告株式会社オーコーは、原告に対し、160万8840円及びこれに対
  する平成15年9月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
  払え。
4 被告株式会社エスケーは、原告に対し、265万5186円及びこれに対
  する平成15年9月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支
  払え。
5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、これを2分し、その1を原告の負担とし、その余は被告らの
  負担とする。
7 この判決は、第1項ないし第4項に限り、仮に執行することができる。

〔事  実〕
 原告(株式会社内藤レース)は、京都市右京区に本店を有し、レースの製造卸売業を業とする会社であるところ、意匠に係る物品「細巾レース地」について、平成9年11月13日に出願し、平成11年3月19日に設定登録した意匠登録第1039936号の意匠権者であり、平成10年初め頃から、本件意匠の実施商品を商品番号「8612」として製造販売している。
 被告(株式会社エスケー)は、京都市右京区に本店を有し、縞レース等の繊維製品の製造販売等を業とする会社であるところ、別紙被告商品目録記載の意匠の細巾レース地商品(以下、「被告商品」という。)を、石川県小松市に本店を有し、レース製品の製造販売等を業とする会社の被告(株式会社オーコー)を含む細巾レース地商品の製造業者に製造させて仕入れ、さらに染色するなどして加工し、女性用下着の製造メーカー等に販売した。
 また、被告オーコーは、平成15年1月14日から同年7月19日までの間、被告エスケーの依頼により被告商品を製造し、これを被告エスケーに販売した。

〔判  断〕
1 被告らによる意匠権侵害の有無(争点1)について
(1)本件意匠の構成
 証拠(甲2,乙26(枝番を含む。))によれば、本件意匠の構成は次のとおりであると認められる。
ア 全体的構成
 (ア)細幅で長手方向に連続する白色の繊維によってレース編みされたレース地であって、編み目や糸の太さ(細・中太・太),ふり幅の大きさや粗密によって模様が描かれている。網目の粗い部分においては、レース地は透過である。
 (イ)両外縁部は、ほぼ同一の幅及び高さのなだらかな山部が連続しており、両外縁の各山部は、幅方向にほぼ対称に形成されている。各山部には糸の輪によって形成されたループ状小突起(ピコ)がほぼ等間隔で8個設けられている。
 (ウ)長手方向に、ほぼ同形の花柄が上下に互い違いに連続して配され、上段の花柄は上向きで、下段の花柄は下向きである。それぞれの花柄はレース地の幅寸法の2分の1よりも若干大きい大輪に描かれている。
 (エ)レース地の幅方向中央には、レース地を上下に区切るように波線が描かれており、この波線に葉模様が連設されており、全体として釣る蔓状を呈する模様が曲線状に配され、当該葉模様曲線は、各花柄の幅方向の内側花弁に当接し、各花柄の隙間を縫う形で大きく蛇行するように長手方向に連続して設けられている。
 (オ)上方又は下方の花弁が沿っていない上下の外縁の山部には、円弧に沿って勾玉模様が2つ連続して描かれており、勾玉模様の下部は網目状に編まれている。
イ 個別的構成
 (ア)花柄模様
a 各花柄の花弁は、外郭を太い糸で密に太線上に編み、内側を細い糸でこれより粗く編んで立体感を表現している。花弁の外郭は、太い糸で密に太線状に編まれ、その太線は花芯に近づくほど細く、花芯から離れるほど太くなっている。
 また、花弁は6枚で構成されており、うち5枚は、花弁先端部中央付近において若干内側に切り込まれており、m字状を呈している。その余の1枚の花弁については、花弁先端部中央付近から内側に花芯部分まで切り込まれているため、見方によってはこれが2枚の花弁であるようにも観察される。
 そして、上記花弁の組合せにより、観者に花柄模様がほぼ円状であるとの美感を与えている。
b 各花柄の花芯部分は円形ないしやや楕円形であり、この円内に収まるように各花芯が描かれている。隙間なく密に編まれた小さめの3片の花芯と、中央に縦線上の透過部分を有し、それ以外の部分を密に編んだ大きめの2片の花芯からなり、いずれの花芯も輪郭が明確であり、孤立して認識可能である。
(イ)葉模様
 各葉模様は、辺縁部が密に編まれ太線を構成しており、その内部は密に編まれた不透過部分と、これより粗く編まれた透過部分からなる。
(ウ)勾玉模様
 a 勾玉は、太い糸で密に編まれた太線によって描かれ、頭部では太く、尾部では細くなっている。また、頭部は内側に巻かれている。
 b 連続する2つの勾玉の大きさ、形状は若干異なっている。
(2)被告意匠の構成
 次に、別紙被告商品目録(被告商品が別紙被告商品目録のとおりであることは当事者間に争いがない。)によれば、被告意匠の構成は、次のとおりである。
ア 全体的構成
 (ア)細幅で長手方向に連続する白色の繊維によってレース編みされたレース地であって、編み目や糸の太さ(細・中太・太),ふり幅の大きさや粗密によって模様が描かれている。網目の粗い部分においては、レース地は透過である。
 (イ)両外縁部は、ほぼ同一の幅及び高さのなだらかな山部が連続しており、両外縁の各山部は、幅方向にほぼ対称に形成されており、各山部は、幅方向にほぼ対称に形成されており、各山部には糸の輪によって形成されたループ状小突起(ピコ)がほぼ同間隔で8個設けられている。
 (ウ)長手方向に、ほぼ同形の花柄が上下に互い違いに連続して配され、上段の花柄は上向きで、下段の花柄は下向きである。各花柄の横幅は縦幅の約1.5倍で、横長形状となっており、レース地の幅寸法の2分の1よりも少し大きい大輪に描かれている。
 (エ)葉模様は、蝶々型の2枚の葉模様とこれにほぼ連結した5枚の葉模様から構成され、上記2種類の葉模様が交互に配されているが、各葉模様の間には若干の隙間がある箇所がある。そして、葉模様は、各花柄の幅方向の内側花弁にほぼ当接し、各花柄の隙間を縫い、大きく蛇行するような形で長手方向に設けられている。なお、本件意匠に見られるような波線は観察されない。
(オ)上方又は下方の花弁が沿っていない上下の外縁の山部には、円弧に沿って勾玉模様が2つ連続して描かれている。また、勾玉模様の下部は網目状に編まれている。
イ 個別的構成
 (ア)花柄模様
 a 各花柄の花弁は、外郭を太い糸で密に太線上に編み、内側を細い糸でこれより粗く編んで立体感を表現している。花弁の外郭は、太い糸で密に太線上に編まれ、その太線は花弁の付け根部分を除きほぼ同じ幅である。
 また、花弁は6枚で構成されており、うち5枚は、花弁先端部中央付近において若干内側に切り込まれており、m字状を呈している。その余1枚の花弁については、花弁先端部中央付近から内側に花芯部分まで切り込まれているため、見方によっては2枚の花弁であるようにも観察される。
 そして、上記花弁を組み合わせることにより、観者に花柄模様がやや横長形状であるとの美感を与えている。
 b 花芯部は楕円形であり、この楕円内に収まるように各花芯が描かれている。花芯の数は明確に特定できないものの、@隙間なく密に編まれた小さめの3片の花芯、A中央部に縦線状の透過部分を有し、それ以外の部分を密に編んだ大きめの1片の花芯、B見方によっては中央部に縦線状の透過部分を有し、それ以外の部分を密に編んだ大きめの1片の花芯と認められる形状をした花芯がそれぞれ存在する。
(イ) 葉模様
 各葉模様は、辺縁部が密に編まれ太線を構成しており、その内部は密に編まれた不透過部分と、これより粗く編まれた透過部分からなる。
(ウ) 勾玉模様
 a 勾玉は、太い糸で密に編まれた太線によって描かれ、太線の幅はほぼ一定で、頭部が内側に巻かれている。
 b 連続する2つの勾玉の大きさ、形状はほぼ同じである。
(3)本件意匠の要部
 意匠の類似を判断するに当たっては、意匠に係る物品の性質や用途、使用態様等、さらには公知意匠にはない新規な創作部分の存否等をも斟酌して、取引者・需要者の注意をもっとも惹きやすい部分を登録意匠の要部として、登録意匠と対象となる意匠とが要部において構成を共通にするか否かを中心に全体的に観察して、両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。
 そこで、まず、本件意匠の要部がどのような構成になるかについて検討を加える。
ア 物品の性質や用途、使用態様等について、本件意匠及び被告意匠に係る物品である細巾レース地が、女性下着等の生地として用いられるものである点については、当事者間に争いがない。
イ 公知意匠等
 (ア)本件意匠の出願前に意匠公報に掲載された意匠(乙1ないし5,6,8,69),本件意匠の出願前に販売されたレース地(乙7ないし13,22,23)は、細幅で長手方向に連続する繊維によってレース編みされたレース地であって、編み目や糸の太さ(細・中太・太),ふり幅の大きさや粗密によって模様が描かれており、網目の粗い部分においては、レース地は透過である。
 (イ)本件意匠の出願前に意匠公報に掲載された意匠(乙1ないし5,68,69),本件意匠の出願前に販売されたレース地(乙7ないし13,22,23)の外縁部は、なだらかな山部が連続し、各山部に糸の輪によって形成されたループ状の小突起が設けられている。なお、上記のうち,乙9,10,11,23,68,69のレース地については両外縁の各山部が幅方向にほぼ対称に形成されている。
(ウ)本件意匠の出願前に意匠公報に掲載された意匠(乙5,6,68,69),本件意匠の出願前に販売されたレース地に表現された意匠(乙8ないし13,22,23)は、ほぼ同形の花柄が連続して上下互い違いに配されており、上段の花柄は上向きで、下段の花柄は下向きである。
(エ)本件意匠の出願前に意匠公報に掲載された意匠(乙1ないし3,5,68,69),本件意匠の出願前に販売されたレース地に表現された意匠(乙7ないし13,22,23)は、花柄が花芯と花弁から構成されており、花弁の外郭が太糸で太線上に編まれ、内側がこれと異なる糸、編み方で編まれている。
(オ)本件意匠の出願前に意匠公報に掲載された意匠(乙2,6),本件意匠の出願前に販売されたレース地(乙23)には、外縁部の山部に沿って、太い糸で密に編まれ、頭部が内側に巻かれた勾玉模様が連続的に描かれ、その下部が網目状に編まれている。また、連続的に描かれた勾玉模様の形状は各勾玉ごとに若干異なっている。さらに、上記のうち、乙2,6については、箇所により太線の幅が異なっている。
ウ 以上に判示した事実から、次のとおりにいうことができる。
(ア)まず、(1)アで判示した本件意匠の全体的構成のうち、下記の点については、本件意匠の出願前に意匠公報に掲載された細巾レース地に係る意匠や本件意匠の出願前に販売されていたレース地に表現された意匠に現れており、特段目新しいものではなく、取引者・需要者の注意を特に惹くものとはいえない。したがって、これらを本件意匠の要部ということはできない。
 a 細幅で長手方向に連続する白色の繊維によってレース編みされており、編み目や糸の太さ(細・中太・太),ふり幅の大きさや粗密によって模様が描かれていること。また、網目の粗い部分においては、レース地は透過であること(本件意匠の全体的構成(ア))。
 b 両外縁部は、ほぼ同一の幅及び高さのなだらかな山部が連続しており、両外縁の各山部は、幅方向にほぼ対称に形成されている。各山部には糸の輪によって形成されたループ状小突起(ピコ)がほぼ等感覚で8個設けられていること(本件意匠の全体的構成(イ))。
 c 長手方向に、ほぼ同形の花柄が上下に互い違いに連続して配され、上段の花柄は上向きで、下段の花柄は下向きであること(本件意匠の全体的構成(ウ))。
 d 外縁部の山部に沿って勾玉模様が描かれており、その下部が網目状に編まれていること(本件意匠の全体的構成(オ))。
 他方、本件意匠の全体的構成のうち、@レース地の幅寸法の2分の1よりも若干大きい大輪に描かれた花柄を上下互い違いに配慮する点(本件意匠の全体的構成(ウ)),Aレース地の幅方向中央に、レース地を上下に区切るように波線が描かれ、かつ、この波線に葉模様が連設されることで、全体として蔓状を呈する模様が曲線状に配され、この葉模様曲線が、各花柄の幅方向の内側花弁に当接し、各花柄の隙間を縫う形で大きく蛇行するように長手方向に連続して設けられている点(本件意匠の全体的構成(エ))については、@及びAを全体としてみれば、本件意匠の出願前に意匠公報に掲載された意匠や本件意匠の出願前に販売されていたレース地に表現された意匠には現れておらず、新規なものと認められ、かつ、上記@及びAの形状により独特の美感がもたらされていると認められる。
 したがって、本件意匠における上記@及びAの形状は、細巾レース地の取引者や需要者の注意を惹く部分であるから、本件意匠の要部である。

(イ)次に、本件意匠の個別的構成について検討する。
 a 花柄模様
 花柄模様について、花柄が花芯と花弁から構成されていることや、花弁の外郭が太糸で太線状に編まれ、内側がこれと異なる糸、編み方で編まれていること((1)イ(ア)a)自体は、本件意匠の出願前に意匠公報に掲載された意匠や本件意匠の出願前に販売されていたレース地に表現された意匠に現れており、特段目新しいものではなく、取引者・需要者の注意を特に惹くものとはいえないから、これを本件意匠の要部ということはできない。
 しかし、@花弁が6枚で構成されており、うち5枚は、花弁先端部中央付近において若干内側に切り込まれており、m字状を呈していることや、その余の1枚の花弁については、花弁先端中央付近から内側に花芯部分まで切り込まれているため、見方によっては2枚の花弁であるようにも観察されること((1))イ(ア)a)、A上記花弁を組み合わせることにより、観者に花柄模様がほぼ円状であるとの美感を与えていること((1)イ(ア)a)、B各花柄の花芯部は、花芯部は円形ないしやや楕円形であり、この円内に収まるように各花芯が描かれており、隙間なく密に編まれた小さめの3片の花芯と、中央部に縦線状の透過部分を有し、それ以外の部分を密に編んだ大きめの2片の花芯とからなること((1)イ(ア)b)は、上記@ないしBの構成を全体としてみれば、本件意匠の出願前に意匠公報に掲載された意匠や本件意匠の出願前に販売されていたレース地に表現された意匠には現れていない新規なものと認められ、かつ、上記形状により独特の美感がもたらされ、取引者や需要者の注意を惹く部分である。したがって、本件意匠の要部であるといえる。
b 葉模様
 葉模様については、(ア)に判示したとおり、それ自体が全体として本件意匠の要部であるといえる。
c 勾玉模様
 勾玉模様について、@勾玉は、太い糸で密に編まれた太線によって描かれ、頭部では太く、尾部では細くなっている。また、頭部は内側に巻かれていること((1)イ(ウ)a)、A連続する2つの勾玉の大きさ、形状が若干異なっていること((1)イ(ウ)b)は、いずれも本件意匠の出願前に販売されていたレース地に表現された意匠に現れており、新規のものとは認められないから、これを本件意匠の要部であるとはいえない。
(4)本件意匠と被告意匠の類否について
 ア 以上の判示を前提に、被告意匠が本件意匠と類似するか否かを判断する。
 イ(ア) まず、被告意匠の全体的構成のうち、当裁判所が本件意匠の要部と認定した構成に対応する構成は、@レース地の幅寸法の2分の1よりも若干大きい大輪に描かれた花柄が上下互い違いに配置されていること((2)ア(ウ))、A葉模様が、蝶々型の2枚の葉模様とほぼ連結した5枚の葉模様から構成され、上記2種類の葉模様が交互に配されているが、各葉模様の間には若干の隙間がある箇所が存在することや葉模様が、各花柄の幅方向の内側花弁に当接し、各花柄の隙間を縫い、大きく蛇行するような形で長手方向に設けられていること((2)ア(エ))である。
 そして、上記@及びAの構成を全体としてみるに、確かに、上下の花柄を区切るような波線は観察されないことや各葉模様の間に若干の隙間があるといった差違は認められるものの、レース地の幅寸法の2分の1よりも若干大きい大輪に描かれた花柄の隙間を縫う形で大きく蛇行するような形で葉模様を連続的に配置することにより、上下の花柄が葉模様により区切られているかのような美感を与えるとの点で、本件意匠とほぼ同一の美感を観者に与える。したがって、上記の差違は微差であるといわなければならず、上記被告意匠の構成は、対応する本件意匠の要部たる構成に類似する。
(イ)次に、被告意匠の個別的構成のうち花柄模様について、当裁判所が本件意匠の要部と認定した構成に対応する構成は、@花弁は6枚で構成されており、うち5枚は、花弁先端部中央付近において若干内側に切り込まれており、m字状を呈しており、その余1枚の花弁については、花弁先端部中央付近から内側に花芯部分まで切り込まれているため、見方によっては2枚の花弁であるようにも観察されること((2)イ(ア)a)、A上記花弁を組み合わせることにより、観者に花柄模様がやや横長形状であるとの美感を与えていること((2)イ(ア)a)、B花芯部は楕円形であり、この楕円内に収まるように各花芯が描かれており、花芯の数は明確に特定できないものの、イ)隙間なく密に編まれた小さめの3片の花芯、ロ)中央部に縦線状の透過部分を有し、それ以外の部分を密に編んだ大きめの1片の花芯、ハ)見方によっては中央部に縦線状の透過部分を有し、それ以外の部分を密に編んだ大きめの1片の花芯と認められる形状をした花芯がそれぞれ存在すること((2)イ(ア)b)である。
 そして、上記@ないしBの構成を全体として観察するに、上記被告意匠の構成には、確かに、花柄模様がやや横長形状であることや、花芯の数が明確に特定できないといった点で本件意匠との差違が認められるものの、本件意匠の花柄模様で用いられた花弁とほぼ同一形状の6枚ないし7枚で構成された花弁を有することや本件意匠とほぼ同様の楕円形の花芯部の中に、4辺の花芯と見方によっては1辺の花芯と観察可能な花芯が配置されていることから、全体として本件意匠とほぼ同一の美感を観者に与える。
 したがって、上記の差違は微差であるといわなければならず、上記被告意匠の構成は、対応する本件意匠の要部たる構成に類似する。
(ウ)以上のとおり、被告意匠の構成は、本件意匠とその要部において共通するといえる。
ウ また、上記イ以外の他の要素を検討しても、上記(1)及び(2)から明らかなとおり、被告意匠は、本件意匠と全体的構成においてほぼ同一であり、個別的構成においても多くの部分において同一ないし類似の形状を呈している。
エ よって、本件意匠と被告意匠とは、要部及びその他の部分において多くの共通点を有し、取引者及び需要者にほぼ同様の美感を与える構成を有しているから、類似しているというべきである。上記判断と異なる特許庁の判定(乙67)は採用しない。
オ(ア)他方、被告らは、@細巾レース地に関しては、一般需要者の眼の水準は非常に高く、ほんの微差でも見分けられるのが通常であり、類似範囲は極めて狭い、A本件意匠が、業界内ではごく一般的な手法で創作され、しかもその中に含まれる模様が極めてありふれたものであるから本件意匠の斬新性、創作性は低いなどして本件意匠の類似範囲が極めて狭いと主張する。しかし、仮に、一般論として上記主張が成り立ち得るとしても、これをもって、本件意匠と被告意匠とに微差があれば直ちに類似しないとの結論が導かれるものではないし、上記イないしエに判示したとおり、被告意匠は、本件意匠の要部及びその他の部分について多く共通点を有しているから、上記主張を斟酌したとしても原告意匠と被告意匠の類否判断の結論は左右されない。
(イ)また、被告らは、@葉模様で縁取られた波線の有無、A外縁部の円弧と花柄模様との距離、B花柄模様の相違、C勾玉模様と葉模様との結合の有無、D勾玉模様の相違、E模様の密度の相違の各点について本件意匠と被告意匠に相違点があるとして、これにより本件意匠と被告意匠が類似しないと主張する。
 しかし、@については、確かに、本件意匠には上下の花柄を区切るようになだらかな波線が描かれているのに対し、被告意匠にはこのような波線や連続性のある葉模様がない点で異なるが、上記に判示したとおり、被告意匠においても各葉模様をほぼ連続的に配置することで葉模様により上下の花柄が区切られているかのような美感を与えているのであるから、本件意匠の要部である本件意匠の全体的構成(エ)((1)ア(エ))に類似するといわなければならない。
 Aについては、被告意匠においても、花弁の上端又は下端と上下外縁山部の円弧に隙間が観察され、観者に本件意匠とほぼ同一の美感を与えるといえるから、本件意匠と被告意匠がこの点で顕著な美感の相違があるとはいえない。
 Bについては、上記に判示したとおり、この点に係る被告意匠は、本件意匠の要部において類似するものであり、被告らが主張する差違はすべて微差であるといわなければならない。
 Cについては、被告意匠を観察すると、本件意匠に比較して勾玉模様と葉模様との結合関係が若干高いとは認められるが、被告意匠においても本件意匠同様、勾玉模様が単体として認識され、観者に本件意匠とほぼ同一の美感を与えるといえる。したがって、被告らが主張する差違はすべて微差であり、本件意匠と被告意匠がこの点で顕著な美感の相違があるとはいえない。
 Dについては、被告意匠を観察すると、本件意匠と被告意匠の勾玉模様には、円弧の幅がほぼ一定であるか箇所により異なるかといった差違があることは認められるものの、双方とも、密に編んだ太線で円弧を描き、その一方の端を内側に巻くという形状であることは共通しており、観者に本件意匠とほぼ同一の美感を与えるといえる。したがって、被告らが主張する差違はすべて微差であり、本件意匠と被告意匠がこの点で顕著な美感の相違があるとはいえない。
 Eについては、確かに、被告意匠を観察すると、本件意匠に比較して、花柄模様、葉模様等の生地全体に占める面積が若干少ないともいい得るが、微差であるといわざるをえず、これにより本件意匠と被告意匠に顕著な美感の相違があるとはいえない。
(ウ)以上のとおりであるから、本件意匠と被告意匠の差違に関する被告らの主張はいずれも採用できない。
(5)よって、被告意匠は、本件意匠と類似し、原告の有する本件意匠権を侵害すると認められる。
2 原告の損害(争点2)
(1)被告による本件意匠権の侵害は過失によるものと推定されるところ(意匠法40条)、本件全証拠に照らしても上記推定を覆すに足りる証拠はない。
 したがって、被告らは、本件意匠権の侵害により原告が被った損害を賠償する責任を負う。
(2)被告オーコーに対する請求について
 ア 証拠(乙45(枝番を含む。),48,62(枝番を含む。),63ないし65)によれば、被告オーコーは、被告エスケーのみに被告商品を販売した事実、販売期間は平成15年1月14日から同年7月19日である事実、及び売上金額は405万2335円である事実がそれぞれ認められる。そして、被告オーコーの販売に係る被告商品の利益率については、被告オーコーが被告商品の製造に要する経費の具体的な内訳、金額を主張・立証していないことにも鑑み、売上金額の36パーセントと認めるのが相当である。
 したがって、被告オーコーが上記の期間に被告商品を販売することにより得た利益の額は145万8840円であると認められるから、これが被告オーコーの本件意匠権侵害により原告が被った損害の額と推定され、この推定を覆すに足りる証拠はない。
 なお、原告は、被告オーコーが文書提出命令が発令されたにもかかわらず、同命令の対象となった文書の提出を遅延させたところ、原告において同文書なくして原告が提出を求めた文書の記載について具体的な主張をすることも、他の証拠によって証明することも著しく困難であったから、民事訴訟法224条3項に基づき、原告の主張額をもって原告の被った損害であると認定すべきであると主張する。しかし、被告オーコーによる被告商品の売上金額については、アに摘示した証拠により具体的な主張を行うことが可能であると認められるから、上記原告の主張は採用しない。
イ また、本件訴訟の難易度等、本件における諸事情を勘案すると、被告オーコーによる本件意匠権侵害と相当因果関係にある弁護士費用相当損害額は15万円と認められる。
ウ 他方、被告らは、原告が被告オーコーのようなレース製造業者ではなく、原告自身がレース原反を製造することができないから、被告オーコーと同様の実施能力を有せず、意匠法39条2項の推定は覆され、被告オーコーが得た利益の額を原告の損害であると推定することはできないと主張する。
 しかし、仮に、原告がレース原反を他の業者に製造させていたとしても、当該業者は原告の注文に基づいて上記レース原反を製造しているにすぎず、原告においてレース原反を当該業者から引渡しを受けた上でこれを販売することも可能なのであるから、被告オーコーと同様の実施能力がないとはいえない。したがって、意匠法39条2項の適用が妨げられるものではなく、被告らの上記主張は採用できない。
(3) 被告エスケーに対する請求について
 ア 意匠法39条2項所定の「侵害の行為により利益を受けているとき」における「利益」とは、侵害者が侵害製品の製造、販売のみに使用する専用の設備や従業員を新たに設置し、あるいは雇い入れたといった例外的な事情がない限り、侵害製品の売上額から仕入れ,加工,梱包,保管,運送等の経費のうち侵害製品の製造、販売のみのために要した部分を控除した金額を指すと解するのが相当である。これを前提に、以下、検討を加える。
(ア)証拠(乙44(枝番を含む。))によれば、被告エスケーは、平成13年5月19日から平成15年12月15日の間、被告商品を販売した事実が認められる、また、被告エスケーによる上記期間における被告商品の総売上額が1235万4182円である事実は、当事者間に争いがない。
(イ)上記被告商品の売上に対応する仕入原価が719万6095円、染色費が187万7430円、内職加工費が17万4513円である事実は当事者間に争いがないところ、これらの費用は、侵害製品の製造,販売のみのために要した費用といえるから、(ア)に摘示した総売上額から控除することが相当である。
 次に、証拠(乙25,44(枝番を含む。),50(枝番を含む。),51ないし57,58(枝番を含む。),59(枝番を含む。),60(枝番を含む。),66)及び弁論の全趣旨によれば、被告エスケーは、上記被告商品の売上に対応する費用として、巻き上げ・検品仕上げ作業人件費として10万9070円,資材費として10万9509円,運賃として10万6400円,品質・色確認送料として3万7125円,柄分解代として18万8404円,検査代として6万6450円,スケッチ企画代として8万4000円をそれぞれ支出した事実が認められる。そして、これらの費用についても、侵害製品の製造,販売のみのために要した費用といえるから、(ア)に摘示した総売上額から控除することが相当である。なお、柄分解代,検査代,スケッチ企画代として8万4000円をそれぞれ支出した事実が認められる。そして、これらの費用についても、侵害製品の製造,販売のみのために要した費用といえるから、(ア)に摘示した総売上額から控除することが相当である。なお、柄分解代,検査代,スケッチ企画代については、その性質上被告商品の原反の製造に要する費用として被告エスケーが現実に出捐した費用であるから、これを控除することが適当である。
(ウ)他方、被告らは、被告商品に関する得意先との商談に係る出張費(交通費のみ)として30万8600円を(ア)に摘示した総売上額から控除すべきであると主張し、これに沿う証拠(乙66)を提出するが、証拠(乙44(枝番を含む。))によれば、被告エスケーは、上記得意先に被告商品以外の商品も販売している事実が認められることから、上記証拠のみをもって上記出張費が被告商品の製造・販売のみに必要な費用であるとは認められず、他にこのような事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、上記出張費を(ア)に摘示した総売上額から控除することは相当でない。
 また、被告らは、営業担当者の人件費として44万8000円,経理・出荷業務担当の人件費として26万8944円をそれぞれ(ア)に摘示した総売上額から控除すべきであると主張し、これに沿う証拠(乙66)を提出するが、これらの費用は侵害製品の製造,販売のみのために要した費用とは認められないから、(ア)に摘示した総売上額から控除することは相当でない。
(エ)よって、被告商品の販売により被告エスケーが得た利益の額は、(ア)に摘示した総売上額から(イ)に摘示した各費用の合計額である994万8996円を控除した額である240万5186円と認められるから、これを被告オーコーの本件意匠権により原告が被った損害の額と推定され、この推定を覆すに足りる証拠はない。
イ また、本件訴訟の難易度等,本件における諸事情を勘案すると、被告エスケーによる本件意匠権侵害と相当因果関係にある弁護士費用相当損害額は25万円と認められる。
3 結語
 以上の次第で、原告の本訴請求は、被告らに対し、被告商品の製造,販売及び販売の申出の差止め並びに被告商品の破棄を求めるとともに被告オーコーに対し160万8840円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな平成15年9月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告エスケーに対し265万5186円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな同月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからそれぞれ認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文,65条1項本文を、仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

〔論  説〕
1.裁判所は、両意匠を対比観察する前に、本件登録意匠の出願前公知の意匠を引用して本件意匠の創作性を意味する類似の範囲を把握しているが、そのように把握された本件意匠の要部であっても、被告意匠は本件意匠の要部を具備しており、その相違点は微差であると認定したが、妥当である。
 また、裁判所は、そこに表現されているレースの花模様について、観者に同一の美感を与えるとも認定しているが、意匠の類否判断において、同一の創作性を有する形態(模様)が、同一の美感を与えることになるのはきわめて自然なことである。

2.判決によれば、被告によって判定請求が特許庁になされていて、特許庁は「属さず」との判定をしたようであるが、侵害裁判所としては、この判定には従わないと宣言している。
 判定に対してこのような認定を裁判所がしたことは、特許庁が顔をつぶされたことにはなったが、同時に裁判所は判定の手法に対して信頼していないことを意味する。
 現行法の「判定」制度に対して私は以前から批判しており、判定の手法のみならず、不服の途が閉ざされているこの制度は、公的鑑定という効果を掲げている以上、百害あって一利なしに近いものといわねばならない。したがって、判断結果が異なる侵害裁判所が、判定結果を無視したことはやむを得ないことである。判決に対する同様の評価は、すでに「自動車ホイール」事件(東京高裁平5(ネ)144平成6年11月30日判)においてなされている。

3.ところで、意匠権侵害事件を扱う裁判所が作成する判決文を読んでしばしば思うことは、意匠の類否判断をする際に使われる用語や表現が、この裁判所は自分が言っていることをよくわかっているのかな、と疑う場合があることである。しかし、本件の裁判所は、その点を比較的気を付けているようであり、要約すると次のように本件登録意匠の要部をまとめている。
 「従来公知でない新規な形状は独特な美感があり、取引者・需要者の注意を惹く部分であるから、これが本件意匠の要部である。そして、この要部を被告意匠が具備するか否かによって意匠の類否判断をしている。
 しかし、最初に出すべき必要な言葉を忘れている。それは「創作」である。創作があるから別異の美感を起すのである。ここでは、混同は出る幕がないのである。けだし、それはあくまでも取引の場における結果で使う言葉だからである。

[牛木理一]