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「検査用照明器具」意匠権侵害差止等請求事件:京都地裁平成15(ワ)3512号平成17年8月4日判決(認容)

〔キーワード〕 
意匠の類似,登録無効性,商品形態の模倣,損害額(被告の利益額)

〔事  実〕

1.本件は、原告が有する「検査用照明器具」に係る意匠権の類似範囲に属する意匠に係る商品を被告が製造、販売及び販売の申出をしたとして、原告が被告に対し、意匠権に基づき当該製品(被告意匠)の製造、販売及び販売の申出の差止め並に破棄を求めるとともに、不競法4条に基き、5,300万円等の支払いを求めた事案である。
 原告(シーシーエス株式会社)・被告(株式会社コスシステム)はいずれも京都市内の同業者である。
2.原告は、平成14年4月4日に出願し、平成15年5月30日に意匠登録第1180103号(本件意匠)として設定登録した意匠権の意匠権者である。
3.このように、本件は、意匠権の侵害と不競法2条1項3号該当の不正競争の2点から争われた事案である。

 


〔主  文〕
 1 被告は、別紙1記載の検査用照明器具を製造し、販売し、販売の申出を
   してはならない。
 2 被告は、別紙1記載の検査用照明器具を破棄せよ。
 3 被告は、原告に対し、983万7638円及びこれに対する平成16年
   1月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 4 原告のその余の請求を棄却する。
 5 訴訟費用は、これを20分し、その17を原告の負担とし、その余は被
   告の負担とする。

〔判  断〕
1 争点1(意匠権に基づく差止め請求)について
(1) 争点1@(本件意匠と被告意匠との類否)について
 まず、第2の2に判示した本件意匠と被告意匠との相違点は、本件意匠の構成に被告意匠の構成(カ)が加わる点のみであるところ、証拠(甲1,2,3)及び弁論の全趣旨によれば、被告意匠の構成(カ)は被告意匠に顕著な美観の相違をもたらすものではなく、被告意匠の要部とはいえないから、本件意匠と被告意匠は実質的に同一であると認められる。したがって、本件意匠と被告意匠は類似するといわなければならない。
(2) 争点1A(権利濫用)について
 ア まず、被告は、本件意匠は、原告による意匠登録の出願前に公知であるから、無効事由が存在すると主張し、この主張に沿う証拠(乙8ないし14)を提出する。
 しかし、本件意匠の構成(ウ)及び(エ)について、確かに株式会社リョーサン作成のカタログ(乙10)には、円柱状の部材の外周面に凸部と凹部が連続して設けられている放熱器(ヒートシンク)が掲載されている事実は認められるが、具体的な形状も全く異なることは明らかであり、これをもって、本件意匠の構成(ウ)及び(エ)を構成要素とする本件意匠が、登録出願前に公知であったとは認められないから、本件意匠が意匠法3条1項1号に違反して登録されたとは認められない。
 よって、その余の点について判断するまでもなく、被告の上記主張は理由がない。
イ 次に、被告は、本件意匠は、当業者であれば公然知られた形状等ないしこれらの結合に基づいて極めて容易に創作することのできた意匠であるから、無効事由が存在すると主張し、上記アに掲記の各証拠を提出する。
 しかし、上記各証拠のうち、株式会社リョーサン作成のカタログ(乙10)については、このカタログに掲載された放熱器と本件意匠は、具体的な形状も全く異なる。したがって、上記証拠をもって、本件意匠の構成(ウ)及び(エ)が当業者にとってありふれた手法であるとは認められず、他に、このような事実を認めるに足りる証拠はない。
 よって、本件意匠が意匠法3条2項に違反して登録されたとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、被告の上記主張は理由がない。
ウ 以上のとおりであるから、争点1Aに関する被告の主張は理由がない。
(3) 争点1B(意匠の変更)について
 被告は、平成16年1月15日ころ、本件被告製品の意匠(ウ)及び(エ)を変更し、これ以降は、変更後の意匠に係る製品の販売のみを行っており、本件被告製品の販売を行っていないと主張する。しかし、被告が、平成16年1月以降に展示会等において本件被告製品を展示するなどしていた事実が認められること(甲3,6ないし11,70の1・2)や、被告が平成16年1月19日から同年7月1日までの間、本件被告製品と同一の商品番号を用いて製品の販売ないし修理を行っていること(甲3,38ないし44,46ないし64,66ないし69)を総合すれば、被告は、平成16年1月19日から同年7月1日までの間、本件被告製品の販売を行っていた事実が認められる。
 したがって、被告の上記主張は採用できない。
(4) よって、被告による本件被告製品の製造,販売及び販売の申出は、本件意匠権を侵害するものであると認められる。
2 争点2(不正競争防止法2条1項3号に基づく損害賠償請求の可否)について
(1) 争点2@(商品(製品)形態の実質的同一性について)
 まず、本件原告製品の形態と本件被告製品の形態との相違点のうち、本件原告製品の形態(キ)と、本件被告製品の形態(キ)については、相違点はねじ孔の位置にすぎず、係る相違は両製品に顕著な形態の相違をもたらすものとはいえない。また、本件原告製品の形態(ク)と本件被告製品の形態(ク)についても、電源コードの長さが異なるにすぎず、両製品に顕著な形態の相違をもたらすものではない。そして、第2の2に判示したとおり、両製品の他の形態は同一であるから、本件原告製品と本件被告製品の形態は類似しており、実質的に同一であると認められる。
(2) 争点2A(依拠性)について
 上記(1)に判示したとおり、本件原告製品及び本件被告製品が酷似していることに加え、@弁論の全趣旨によれば、原告が本件原告製品を最初に出展した平成13年12月5日から同月7日まで開催された商品展示会に、被告も商品を出展しており、被告において、少なくとも本件原告製品の商品形態を現認していた事実が認められること、A被告が、平成16年1月以降に本件被告製品の形態(エ)及び(オ)を変更した製品を製造した旨自認していることからすれば、本件被告製品の形態(エ)及び(オ)が、本件被告製品の機能や本件原告製品の部品の形状上、必然的に導き出されるものとはいえないと認められることを総合すれば、被告は、本件原告製品の形態を模倣し、平成14年10月ころから本件被告製品の製造販売等を行ったものと認められる。
(3) 争点2B(不正競争防止法2条1項3号の適用除外)について
 まず、被告は、本件原告製品の形態がいずれも同種商品の基本的形態にすぎないと主張し、この主張に沿う証拠(乙8ないし14,29,30)を提出する。しかし、本件原告製品の形態(エ)及び(オ)については、上記1(2)アで判示したのと同様の理由で、株式会社リョーサン作成のカタログ(乙10)のみでは、同種の商品が通常有する形態であるとは認められず、他に係る事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、仮に、本件原告製品の形態(ア)ないし(ウ)、(カ)ないし(ケ)が同種製品の基本的形態であるといえるとしても、少なくとも本件原告製品の形態(エ)及び(オ)については、同種の商品が通常有する形態であるとは認められないから、上記被告の主張は理由がない。
 また、被告は、本件原告製品や本件被告製品の形態は、その機能や部品の形状上、必然的に導き出される形態であると主張するが、被告自身、平成16年1月以降に本件被告製品の形態(エ)及び(オ)を変更した製品を製造したことを自認していることからして、このような主張は採用できないという外ない。したがって、被告の上記主張は理由がない。
 以上のとおりであるから、不正競争防止法2条1項3号の適用除外に関する被告の主張は理由がない。
(4) 争点2C(本件被告製品の形態の変更)について
 被告は、平成16年1月15日ころ、本件被告製品の形態(エ)及び(オ)を変更し、これ以降、変更後の形態に係る製品の販売のみを行っており、本件被告製品の販売を行っていないと主張する。
 しかし、上記1(3)で判示したとおり、被告は、平成16年1月以降、平成16年7月1日までの間、本件被告製品の販売を行っていた事実が認められるから、被告の上記主張は採用できない。
(5) 争点2D(損害)について
 ア 被告が得た利益の額について
 (ア) 総売上額
 証拠(甲3,12ないし69)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成14年10月31日から平成16年7月1日までの間、別紙7の「販売額合計」欄記載のとおり、合計1244万8627円の製品を売り上げたものと認められる。
 そして、@電源については、本件被告製品の専用電源と認められる「KV−UH−27専用電源」ないし型番「TE−ATD10−GT5」以外の電源については、本件被告製品のみに用いられる製品であるとまでは認められないこと、Aケーブルについては、本件被告製品と一括して販売されたと認められるもの(甲35)以外については、本件被告製品のみに用いられる製品であるとまでは認められないことに照らし、被告が不正競争行為により販売した認められるものは、別紙7の「認容」欄に♯を付した製品の売上額の合計1143万3818円であると認められる。
(イ) 経費
 証拠(乙2(枝番を含む。)、21ないし28)及び弁論の全趣旨によれば、本件被告製品の製造単価は下記のとおりであり、これらは、本件被告製品の製造、販売のみのために要した経費であると認められるから、被告が得た利益の額を算定するに当たって、これを売上額から控除することが相当である。
   @平成15年12月16日までの販売分
         1万0736.5円(別紙6@参照)
         ただし、本件被告製品のうちKV−UH−27/AB3M
         については1万3846.5円
   A平成16年1月19日から平成16年6月末日までの販売分
         9595.8円(別紙6A参照)
   B平成16年7月以降販売分
         9445.8円(別紙6B参照)
 そして、上記@に該当する本件被告製品は87個(うちKV−UH−27/AB3Mは21個)、Aに該当する本件被告製品の個数は155個、Bに該当する本件被告製品は1個であるから、そうすると控除すべき経費は、249万6180円(円未満切捨て)であると認められる。
(ウ) 以上より、被告が不正競争行為により得た利益の額は893万7638円であると認められる。
イ 弁護士費用
 本件訴訟の難易度等、本件における諸事情を勘案すると、被告による不正競争行為と因果関係にある弁護士費用相当損害額は90万円と認められる。
3 結語
 以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し、本件被告製品の製造、販売及び販売の申出の差止め並びに破棄を求めるとともに、983万7638円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな平成16年1月9日から支払済まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条、64条本文を、仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

〔論 説〕

1.意匠権侵害については、被告が、原告の本件意匠権に対し、この登録意匠は意匠法3条1項及び2項の登録要件を具備しない登録無効理由があると、証拠をもって主張したところ、裁判所はいずれの証拠もこれらには該当しないものと一蹴した。
 したがって、権利の濫用の主張は理由がないとされ、被告意匠は本件意匠と実質的に同一であるから、意匠権を侵害すると差止請求権の行使は認められた。
 両意匠が相違するとされた点は、被告意匠の台座部の外周壁のLED照射部側にねじ孔が1ヶ所設けられているだけのことである。
2.不競法2条1項3号に基づく損害賠償請求の可否については、被告が得た利益の額に基づいて算定された。この利益の額の算定に当たっては、売上額から必要経費の249万6180円を控除し、893万7638円と認定した。
 これに弁護士費用相当損害額の90万円を認めて、合計983万8638円を損害賠償金額と算定したのである。
 弁護士費用として90万円と算定したことは必ずしも妥当とは思われないが、この中には補佐人の弁理士費用も含まれているのは当然である。

[牛木理一]