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「ゴルフクラブヘッド」意匠権侵害差止等請求事件:神戸地裁平成15(ワ)90号平成17年2月10日判(一認)

〔キーワード〕 
意匠の要部、意匠の創作と美感、構成要件充足性、無効性、寄与率と損害賠償額

〔主 文〕

1 被告は、別紙物件目録記載のゴルフクラブヘッド及びこれを使用したゴル
  フクラブを輸入、製造及び販売してはならない。
2 被告は、原告に対し、305万1043円及びこれに対する平成15年2
  月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、これを5分し、その1を原告の、その余を被告の負担とする。
5 この判決の、1項、2項及び4項は、仮に執行することができる。

 


〔事  実〕
1.原告(株式会社ロイヤルコレクション)は、「ゴルフクラブ用ヘッド」について、平成6年9月7日に出願し、平成8年8月1日に設定登録した意匠登録第969888号に係る意匠権(本件意匠権)の意匠権者である。
 本件意匠の構成態様は、以下のように分説することができる。
@本件意匠は、ゴルフクラブ用ヘッドに係るものであり、ソール面の幅方向中央部に、フェイス構成シェル壁の背面から後方に離間した位置から後方に延びてバックフェイス面に開放された前後方向に延びるリセスが1つ設けられている。
Aリセスの前部側は、前端の半円形部に続き、一定幅の平行部に形成されている。
Bリセスの後部側は、平行部に連説されて後方に向けて幅を漸次大きくしていくように弧状に開いてそのままバックフェイス面に開放された開き部に形成されている。
Cリセス前部側の平行部の断面は半円弧状に形成されており、後部側の円弧状部分も前部側の平行部と深さを同じくする平坦面に形成されている。
Dリセス前部側の平行部の幅はヘッドの長さの約100分の17、平行部の長さはヘッドの奥行きの100分の60、溝の深さはヘッドの高さの100分の31に設定されている。
Eリセス後部側の円弧状部分の開き幅は、リセス前部側の平行部の幅の約4.2倍に設定されている。
 原告はまた、平成6年11月21日に出願し、平成10年9月25日に設定登録した特許第2831585号に係る特許権(本件特許権)の特許権者でもある。
 本件特許権の「特許請求の範囲」は、次のとおりである。
「金属シェル構造のウッド型ゴルフクラブヘッドにおいて、ソール面の幅方向中央部に、フェイス構成シェル壁の背面から後方に離間した位置から後方に延びてバックフェイス面に開放された前後方向に延びるリセスが1つ設けられ、該リセスは、前部側が一定幅ないしは略一定幅の平行部に形成されると共に、後部側が該平行部に連説され後方に向けて幅を漸次大きくしていくように弧状に開いてそのままバックフェイス面に開放された開き部に形成され、かつ、前記平行部の前後方向長さは10〜40mmの範囲、同平行部の幅は10〜20mmの範囲、深さは5mm〜ヘッドの高さの1/2の範囲においてそれぞれ設定されていることを特徴とするウッド型ゴルフクラブヘッド。」
 本件発明の構成要件は、以下のように分説することができる。
@金属シェル構造のウッド型ゴルフクラブヘッドにおいて,
Aソール面の幅方向中央部に、フェイス構成シェル壁の背面から後方に離間した位置から後方に延びてバックフェイス面に開放された前後方向に延びるリセスが1つ設けられ,
B該リセスは、前部側が一定幅ないしは略一定幅の平行部に形成され,
C後部側が該平行部に連設され後方に向けて幅を漸次大きくしていくように弧状に開いてそのままバックフェイス面に開放された開き部に形成され,
D前記平行部の前後方向長さは10〜40mmの範囲、同平行部の幅は10〜20mmの範囲、深さは5mm〜ヘッドの高さの1/2の範囲においてそれぞれ設定されている
Eことを特徴とするウッド型ゴルフクラブヘッド。
2.本件は、ゴルフクラブヘッドについて意匠権及び特許権を有する原告が、被告による別紙物件目録記載のゴルフクラブヘッド(「被告ゴルフクラブヘッド」)及びこれを使用したゴルフクラブ(「被告ゴルフクラブ」)の販売等の行為が原告の意匠権及び特許権を侵害し、また不正競争防止法(2条1項1号、2号)にも違反するとして、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償を求めるとともに、意匠法37条1項、特許法100条1項及び不正競争防止法3条1項に基づき、被告ゴルフクラブヘッド及び被告ゴルフクラブの販売等の差止めを求めた事案である。
3.本件の争点は、次の6点にあった。
(1)被告ゴルフクラブヘッドに係る意匠(「被告意匠」)は本件意匠に類似するか。
(2)本件意匠権に無効理由が存在することが明らかであるか。
(3)被告ゴルフクラブヘッドは本件特許権の構成要件を充足するか。
(4)本件特許権に無効理由が存在することが明らかであるか。
(5)被告による被告ゴルフクラブの販売が不正競争防止法2条1項1号及び2号所定の不正競争行為に該当するか。
(6)原告の損害。
〔判  断〕
1 争点1について
 (1)被告意匠の構成
 証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば、被告意匠の構成態様は、以下のとおりであると認められる。
 ア 被告意匠は、ゴルフクラブ用ヘッドに係るものであり、ソール面の幅方向中央部に、フェイス構成シェル壁の背面から後方に離間した位置から後方に延びてバックフェイス面に開放された前後方向に延びるリセスが1つ設けられている。
 イ リセスの前部側は、前端の半円形部に続き、一定幅の平行部に形成されている。
 ウ リセスの後部側は、平行部に連設されて後方に向けて幅を漸次大きくしていくように弧状に開いてそのままバックフェイス面に開放された開き部に形成されている。
 エ リセス前部側の平行部の断面は半円弧状で形成されており、後部側の円弧状部分も前部側の平行部と深さを同じくする平坦面に形成されている。
 オ リセス前部側の平行部の幅はヘッドの長さの約100分の14、平行部の長さはヘッドの奥行きの100分の40、溝の深さはヘッドの高さの100分の16に設定されている。
 カ リセス後部側の円弧状部分の開き幅は、リセス前部側の平行部の幅の約3.0倍に設定されている。
(2)本件意匠及び被告意匠の要部
 本件意匠及び被告意匠は、いずれもゴルフクラブヘッドに係るものであるところ、両意匠のリセスを除く部分の形態は、一般的に普及しているゴルフクラブヘッドの形態と異なるところはないので、看者の注意を引く部分すなわち要部は、リセス部分であると解される。
(3)検討
 上記(1)アないしエで認定したとおり、被告意匠の構成態様は、本件意匠の構成態様@ないしCと一致することが認められる。
 他方、被告意匠と本件意匠は、被告意匠のリセス前部側の平行部の幅はヘッドの長さの約100分の14であるが、本件意匠では約100分の17であるという点、被告意匠の同平行部の溝の深さはヘッドの高さの100分の16であるが、本件意匠では100分の31であるという点、被告意匠の同平行部の長さはヘッドの奥行きの100分の40であるが、本件意匠では100分の60であるという点、被告意匠のリセス後部側の円弧状部分の開き幅は平行部分の幅の約3.0倍であるが、本件意匠では約4.2倍である点が相違する。
 しかし、両意匠の以上の相違点は、いずれも要部であるリセス部分の寸法に関するものとはいえ、両意匠を全体的に観察した場合に看者に異なる視覚的印象を与えるまでの相違ではなく、むしろ、リセスの基本的形態の共通性に立脚した上での相違であって、看者にリセス部分について共通の視覚的印象を与える範囲内における細部の相違にすぎないものであるといえる。
 そして、被告意匠と本件意匠は上記で指摘した構成において一致し、類似の形態を有する要部(リセス部分)を具備するものであって、その結果、両意匠を全体的に観察した場合には看者に共通の美感を与えるものであるから、被告意匠は本件意匠に類似するものと認められる。
2 争点2について
 (1)被告は、上記のとおり、本件意匠の要部であるリセスの形態と同一又は類似の形態のリセスを有するゴルフクラブヘッドは、既にオープンモデルとして市場に出回っていたので、本件意匠は、その登録出願当時、既に公知意匠であったと主張する。
 (2)この点、証拠(乙B1の1ないし3、同4の1ないし3、乙D1ないし同3)及び弁論の全趣旨によれば、株式会社津田吉ゴルフは、平成4年12月28日ころ、ユーアイ商事株式会社の依頼を受け、台湾のHOLY社からユーアイヘッドを輸入したこと、平成6年1月号の台湾におけるゴルフクラブのカタログに、ユーアイヘッドが掲載されていたことが認められる。そして、上記のとおり、原告が本件意匠の登録出願をしたのは平成6年9月7日であるので、ユーアイヘッド意匠は、本件意匠の登録出願前の時点で、公知意匠であったと認められる。
 (3)そして、証拠(乙D3、同5の1ないし9)及び弁論の全趣旨によれば、ユーアイヘッドは、金属シェル構造のウッド型ゴルフクラブヘッドであること、ソール面の幅方向中央部に、フェイス構成シェル壁の背面から後方に離間した位置から後方に延びてバックフェイス面に開放された前後方向に延びるリセスが1つ設けられていること、リセスの前部側は、前端の半円形部に続き、一定幅の平行部に形成されていること、リセスの後部側は、平行部に連設されて後方に向けて幅を漸次大きくしていくように弧状に開いてそのままバックフェイス面に開放された開き部に形成されていること、リセス前部側の平行部と深さを同じくする平坦面に形成されていること、リセス前部側の平行部の前後方向長さは30mm、同平行部の幅は14mm、深さは2mmであること、リセス後部側の円弧状部分の開き幅は平行部分の幅の約2倍であることが認められる。そうすると、ユーアイヘッド意匠は、本件意匠の構成態様@ないしCと一致する。
 しかし、ユーアイヘッド意匠のリセスの深さは本件意匠に比べると極めて浅く、リセス後部側の円弧状部分の開き幅が本件意匠に比して小さいことと相まって、両意匠を全体として観察した場合には、本件意匠のリセス部分が大きくえぐれた視覚的印象を与えるのに比べ、ユーアイヘッド意匠のリセス部分が看者に与える視覚的印象は極めて小さなものとなる。そうるすと、両意匠の上記一致点を考慮しても、両意匠の要部(リセス部分)が看者に与える印象が相違する以上、両意匠を全体的に観察した場合に看者に共通の美感を与えるとはいえず、両意匠が類似すると断ずることはできない。
 なお、証拠(甲50の1、2、乙B1の1ないし3、同4の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば、中華民国の経済部知的財産局が、平成16年8月16日、原告の本件意匠がユーアイヘッド意匠に酷似しているとして、原告に対し、中華民国における意匠権を撤回するよう命ずる決定をしたことが認められるが、上記認定説示の点に照らして、かかる事実をもって、上記判断は左右されない。
 したがって、本件意匠がその登録出願前に公然と知られたものであると認めることはできない。
(4)また、証拠(乙D4)によれば、平成7年度ゴルフクラブのカタログに、GAVOT社のティンパクト33という種類のクラブヘッドが掲載されていること、同ゴルフクラブヘッドのソール面には、一見して本件意匠のリセス部分と同様の形態のリセスが存することが認められる。しかし、原告が本件意匠の登録出願をしたのは平成6年9月7日であるから、上記カタログのゴルフクラブヘッドの掲載をもって、本件意匠がその登録出願前に公然と知られたものであると認めることもできない。
(5)以上により、本件意匠権に無効理由が存在することが明らかであるとは認められず、被告の上記主張を採用することはできない。
3 争点3について
 証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば、被告ゴルフクラブヘッドは、金属シェル構造のウッド型ゴルフクラブヘッドであること、ソール面の幅方向中央部に、フェイス構成シェル壁の背面から後方に離間した位置から後方に延びてバックフェイス面に開放された前後方向に延びるリセスが1つ設けられていること、当該リセスは、前部側が一定幅の平行部に形成されていること、後部側が該平行部に連設されて後方に向けて幅を漸次大きくしていくように弧状に開いてそのままバックフェイス面に開放された開き部に形成されていること、リセス前部側の平行部の前後方向長さは38mm又は30mm、同平行部の幅は14mm又は13mm、深さは5.5mm又は5mmであることが認められる。
 したがって、被告ゴルフクラブヘッドは、本件発明の構成要件@ないしEを充足するので、本件発明の技術的範囲に属すると認められる。
4 争点4について
(1)被告は、上記のとおり、本件発明の構成を有するゴルフクラブは、原告が特許出願をした以前の時点で、台湾において、オープンモデルとして販売されていたと主張する。
(2)この点、上記2(2)の認定事実からすると、本件発明の特許出願前の時点で公然と知られていたユーアイヘッドの構成は、本件発明の構成要件@ないしCを充足することが認められる。
 次に、本件発明の構成要件Dについてみると、ユーアイヘッドのリセス部分の深さは2mmであるので、同構成要件を充足しない。ところで、本件特許権の願書に添付した明細書には、本件発明の作用として、?リセスを挟む両側のシェル壁の重量によって重心深度が大きくされ、スィートスポットがワイド化され、従って、スィートスポットでのヒット確率が高められて方向性が良くスライスやフックのない真っ直ぐな飛びが実現されるようになる、?平行部の深さDが5mmを下回って小さくなると、リセスを挟む両側壁の重量増加効果が不十分となり、重心深度の増大によるスィートスポットのワイド化、及び低重心効果が現れにくくなる傾向を生じるとの記載がある。以上の明細書の記載に照らすと、リセス部分の深さが5mm以上であるという本件発明の構成要件Dは、本件発明の本質的部分を解され、リセス部分の深さを2mmに置き換えた場合に本件発明と同一の作用効果を奏するとは考えられない。
 したがって、本件発明の構成要件Dを充足しない以上、ユーアイヘッドが本件発明の技術的範囲に属するとは断じえず、本件発明がその登録出願前に公然と知られたものであると認めることはできない。
(3)以上により、本件特許権に無効理由が存在することが明らかであるとは認められず、被告の上記主張を採用することはできない。
5 以上によれば、争点5について判断するまでもなく、原告は、被告に対し、本件意匠権侵害及び本件特許権侵害に基づき、被告ゴルフクラブヘッド及び被告ゴルフクラブの輸入、製造及び販売の差止めを求めることができる。
 そして、被告による本件意匠権及び本件特許権侵害については、意匠法40条及び特許法103条により過失が推定されるので、被告には、原告が受けた損害を賠償する責任がある。そこで、以下、原告の損害(争点6)について検討する。
6 争点6について
 (1)被告による被告ゴルフクラブの譲渡数量
 証拠(乙B3の1ないし10)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、ビッグチョイスに対し、平成14年4月4日から同年7月30日にかけて、被告ゴルフクラブを合計390本販売したこと、被告は、ビックチョイス以外の業者に対し、被告ゴルフクラブを合計10本販売したこと、被告は、ビックチョイスから、平成14年12月5日から平成15年2月10日にかけて、販売した被告ゴルフクラブ合計84本の返品を受けたことが認められる。
 したがって、被告による被告ゴルフクラブの譲渡数量は316本となる。
(2)原告の販売実施能力
 証拠(甲20ないし31、33ないし39、枝番を有する証拠については枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、ゴルフ用品を販売する業者として著名な会社であり、原告の商品を使用しているプロゴルファーも多数いること、原告は、平成7年3月ころから、CVシリーズという名称で、本件発明の実施品であり、本件意匠に係るゴルフクラブ(以下「原告ゴルフクラブ」という。)の販売を開始したこと、その後、著名なゴルフ雑誌で、原告ゴルフクラブが多数紹介され、プロゴルファーが原告ゴルフクラブを愛用しているという記事や、読者アンケートにより、原告ゴルフクラブがエキストラ部門の1位に選ばれたという記事が掲載されたことなどが認められる。
 以上の事実からすると、原告は、原告ゴルフクラブの現実の販売実績に加えて、316本以上の原告ゴルフクラブの販売実施の能力を有していたものと推認される。
(3)原告ゴルフクラブ1本当たりの販売利益
ア 原告ゴルフクラブ1本当たりの平均販売価格
 販売価格は2万4000円であることが認められる。
イ 原告ゴルフクラブ1本当たりの原価
 証拠(甲41ないし47)及び弁論の全趣旨によれば、原告ゴルフクラブのヘッド1個当たりの購入代金は2206円であること、シャフト1本当たりの購入代金は3500円であること、グリップ1個当たりの購入代金は280円であること、ソケット1個当たりの購入代金は60円であること、原告ゴルフクラブ1本当たりの組立工賃は1200円であること、ヘッドカバー1個当たりの購入代金は580円であること、箱1個当たりの購入代金は82円であることが認められるので、原告ゴルフクラブ1本当たりの原価は以上の費用の合計である7908円となる。
ウ 1本当たりの販売利益
 以上により、原告ゴルフクラブの1本当たりの販売利益は、1万6092円となる。(2万4000円−7908円)
(4)寄与率
 上記のとおり、原告ゴルフクラブは、本件発明の実施品であり、本件意匠に係るものであるところ、本件発明の本質的部分及び本件意匠の要部は、リセス部分にあると解される。そして、係るリセスは一般に普及しているゴルフクラブには存しないものであるから、需要者が原告ゴルフクラブを選択するにあたって当該リセス部分が影響する度合は大きいものと推認される。したがって、リセス部分の原告ゴルフクラブの販売に対する寄与率は、60パーセントと認めるのが相当である。
 ところで、上記のとおり、原告は、被告に対し、被告による不正競争防止法(2条1項1号、2号)違反を理由とする損害賠償も求めている。しかし、原告の同請求も、リセス部分を特徴とする原告ゴルフクラブの形態を周知又は著明な商品表示として、被告による被告ゴルフクラブの販売を不正競争行為と主張するものであるから、仮に、原告の同請求が認められたとしても、リセス部分の原告ゴルフクラブの販売に対する上記寄与率を上回ることはない。
(5)まとめ
 したがって、被告による本件意匠権及び本件特許権の侵害により原告が受けた損害額は、305万1043円となる(意匠法39条1項、特許法102条1項)。
 (計算)
 1万6092円×316本×0.6=305万1043円
7 結論
 以上によれば、原告の請求は、主文1項及び2項の限度で理由があるから認容し、その余は棄却することとし、主文のとおり判決する。

〔論 説〕

1.意匠権侵害について
1.1 被告は、まず被告意匠は本件意匠に類似しないから意匠権侵害とはならないと主張したが、裁判所は本件意匠の創作の要部を「リセス」の形態にあると認定し、それ以外の部分は一般的に普及しているクラブヘッドの形態であると認定した。そして、同様に裁判所は、被告意匠に対しても「リセス」の形態にあると認定したから、両意匠は類似すると判断された。
 ところで、判決は、看者の注意を引く部分を要部と認定しているが、正確には、そこは「創作された部分」と認定すべきであり、だからこそ看者は注意を引くことになるのだと理解すべきである。
 そう理解すれば、リセス部の形態に被告意匠には本件意匠とは別異の創作性が認められないからこそ、看者に共通の印象ないし美感を与えているのであり、だから類似する意匠となると判断することができるのである。
1.2 被告は、本件意匠は従来公知公用の意匠と類似するとして証拠を提出したが、判決は、リセス部の形態はいずれも相違するものであり、看者に与える印象ないし美感は違うから、類似する意匠ではないと認定した。したがって、本件意匠の登録には無効理由は認められないと判断し、被告の主張を排除した。

2.特許権侵害について
2.1 裁判所は、被告物件は本件特許発明の技術的範囲として記載されているすべての構成要件を具備するものと認定し、特許権侵害の成立を認めた。
2.2 被告は、本件発明に係るゴルフクラブは、その出願前に台湾においてオープンモデルとして販売されたと主張し立証した。これについて裁判所は、構成要件@〜Dのうち、@〜Cの点の公知性は認めたが、Dの点については別異であるとして無効とは認定しなかった。
 Dの点は、リセス部分の深さが「5mm以上」としていることから、これは公知の「2mm」とは同一の作用効果を奏するとは考えられないと認定した。しかし、この位の寸法違いで作用及び効果に決定的な差異が生ずることはないことを被告が立証すれば、逆の判断になったかも知れない。しかし、第三者には不明な点である。特許法29条2項の進歩性についてまで、裁判所は考えていないようであるが。

3.損害賠償額について
 裁判所は、本件の意匠権及び特許権の侵害によって原告が蒙った損害額の算定に当たって、原告商品の要部はリセス部分にあると解し、この部分は原告商品の販売に対する寄与率を50%を越えるものと考え、60%と認定して計算した。それが「主文」にあるような金額となったのである。

4.総じていえば、妥当な判決といえるかも知れないが、無効審判が請求されていれば、控訴される余地はあるだろう。しかし、この訴訟では、被告は弁護士や弁理士を付けていない。

[牛木理一]