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「床束」意匠権侵害差止等請求事件:大阪地裁平16(ワ)1099平成17年1月17日判(棄却)/大阪高裁平17(ネ)570平成17年9月15日判(控訴棄却)〔特許ニュース2005年5月30日号〕

〔キーワード〕 
意匠の類似、公知意匠の参酌、物品の要部、意匠の要部、意匠の創作体

〔事  実〕

 

 原告(タカヤマ金属工業株式会社)は、意匠に係る物品「床束」について、平成8年4月24日に出願し、平成9年11月28日に設定登録した意匠登録第1004321号に係る意匠権(本件意匠権という。)と、同一出願日で平成10年2月27日に設定登録した類似1号意匠の意匠権の意匠権者である。
 被告(フクビ化学工業株式会社)は、平成15年7月から別紙イ号ロ号ハ号の製品目録に係る鋼製束を、輸入又は製造して販売又は販売の申出をしている。
 本件は、本件意匠権を有する原告が被告による鋼製束の製造販売が意匠権を侵害していると、意匠権に基づき、鋼製束の製造販売等の差止め、廃棄、鋼製束を掲載したちらしの配布の差止め、廃棄を求めるとともに、意匠権侵害による不法行為に基づく損害賠償を求めた事案である。
 争点は、次の点にあった。
(1)本件意匠の構成
(2)本件意匠の要部
(3)被告製品の意匠の構成
(4)被告製品の意匠と本件意匠の対比
(5)損害額

 


〔判  断〕
1 争点(1)(本件意匠の構成)について
 (1) 本件意匠が、原告主張に係る本件意匠の構成T(上端に正面視略L字状のプレートを、下端に平板状のベースプレートを設け、かつ両プレート間に上下のボルトを介して上下の高さ調節自在なターンバックルを設けている床束であって、)、構成Z(ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対1対1で、下側の円筒状部は上側の円筒状部よりやや短く形成されている。)を備えることは、当事者間に争いがない。
 上記当事者間に争いのない事実と本件意匠公報(甲第2号証)によれば、本件意匠の構成は、次のとおり認められる。
ア 基本的構成態様
A(全体の構成要素)
上端に正面視略L字状のプレートを、下端に平板状のベースプレートを設け、かつ両プレート間に上下のボルトを介して上下の高さ調節自在なターンバックルを設けている床束である。
イ 具体的構成態様
B(ターンバックルの構成要素)
ターンバックルは、上側の円筒状部と下側の円筒状部と、上下の円筒状部間に位置する中間部により構成されている。
C(ターンバックルの各構成要素の長さの比)
ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対1対1で、下側の円筒状部は上側の円筒状部よりやや短く形成されている。
D(ターンバックルの中間部の形状)
ターンバックルの中間部は、断面が略正方形の角筒状で、角部はとがっていて縦線をなし、外周に縦長な四つの平坦面が形成されている。
E(ターンバックルの中間部の幅)
ターンバックルの中間部においては、断面の対角線に当たる部分が最も幅が広く、その部分は、上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭く、平坦面に係る部分の幅は、上下の円筒状部の外径よりも狭い。
F(ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部)
ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部は、横線によって明確に区切られている。
G(ターンバックルの上下の円筒状部の形状)
ターンバックルの上下の円筒状部は、中間部寄りの部分は、中間部より外径がやや大きい円筒状をなし、上下端のナット側に向かって細くなるテーパ部を介し、上下端近くの部分は、細径の円筒状に形成されている。
H(ナット)
ターンバックルの上下端には、ワッシャのような円形の鍔状部を有するナットが、ターンバックルに鍔状部を接して配置されている。
I(略L字状のプレート)
略L字状のプレートは、立上部と受板部からなり、受板部は、底面視やや横長の長方形状で、立上部及び受板部の角部が直角状であり、立上部と受板部にそれぞれ2個の小さい孔が穿設されている。
J(略L字状のプレートの受板部とボルトの接合部)
略L字状のプレートの受板部の上面中央にボルトの円形状の頭部が裸出している。
K(ベースプレート)
ベースプレートは、底面視やや横長の長方形状で、各角部が直角状であり、各辺の略中央にV字状の切欠部が形成されており、対向する長辺に沿って2個ずつの小孔、短辺に沿ってやや大きい3個ずつの円孔が穿設されている。
(2) 本件意匠公報のA−A断面図には、ターンバックルの上下の円筒状部の内周面にねじが刻設されておらず、ナットの本体とワッシャのような円形の鍔状部の内周面にねじが刻設されていることが示されている。この点に関して、原告は、A−A断面図においてターンバックルの円筒状部の内周面にねじの刻設が示されていないことは、図面上の記載不備であるが、一般的な床束の態様からして、これが記載不備であることは、需要者にとって明白である旨、また、仮に内周面にねじが刻設されていなかったとしても、その点は、外観上視認できなから、被告製品の意匠と本件意匠の実質的な差異とはならない旨主張する(前記第3、4(1)ウ(ア)a(d))。
 甲第4号証、第20号証及び弁論の全趣旨によれば、本件意匠に係る物品である床束は、上下のボルトをターンバックルに螺合して組み立てられた状態で取引されていることが認められる。そして、ターンバックルの内周面におけるねじの刻設の有無は、床束の一部品であるターンバックルの内部の形状にとどまり、組み立てられた状態では外観に現れることはない。したがって、被告製品の意匠と対比する前提として本件意匠の構成を認定するに当たって、ターンバックルの内周面におけるねじの刻設の有無まで確定する必要があるとは認められない。

2 争点(2)(本件意匠の要部)について
(1) 意匠の要部、すなわち看者の注意を引く部分は、意匠を全体的に観察し、意匠に係る物品の性質、用途等も考慮して認定すべきである。
本件意匠において、ターンバックルの中央部付近は、その位置からして、意匠全体の中で最も目立つ部分であると認められる。また、甲第4号証、第20号証及び弁論の全趣旨によれば、本件意匠に係る物品である床束は、大引きと床面との間に設置され、ターンバックルの中央部を握って回転させることにより高さを調節することが認められるから、床束の用途からしても、ターンバックルの中央部付近は、需要者である建築業者等が注目するところであると認められる。このような認定を前提として、本件意匠の構成を全体として観察すると、ターンバックルの中間部の具体的構成態様、すなわちターンバックルの中間部の形状について、断面が略正方形の角筒状で、角部はとがっていて縦線をなし、外周に縦長な四つの平坦面が形成されていること(構成D)、ターンバックルの中間部の幅について、断面の対角線に当たる部分が最も幅が広く、その部分は、上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭いこと(構成E)、ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部について、同境界部が、横線によって明確に区切られていること(構成F)が、本件意匠の要部であると認められる。そして、このような要部を備えることにより、本件意匠は、上下の円筒状部の丸みを帯びた形状との対比で、中間部の細く角張った形状が際立ち、そのような形状から生じるシャープでスマートな印象が、全体から受ける美感の中で看者に強く感じられるものと認められる。以上のとおり認定する理由を、以下、補足説明する。
(2) 意匠に公知の態様が含まれる場合、それによって直ちにその部分を要部と認定し得なくなるわけではないが、公知の態様は、ありふれているが故に看者の注意を特に引かないことも多く、逆に新規な部分は看者の注意を引くことが多いから、要部の認定に当たって公知意匠を参酌することは許されるというべきである。
 また、類似意匠が登録されている場合、本意匠の要部は、類似意匠にも共通して存在するはずであるから、要部の認定に当たって、類似意匠を参酌することも許されるというべきである。
そこで、要部の認定に当たり、公知意匠、類似意匠を参酌すると、次のとおりとなる。
(3) 公知意匠の参酌
ア 乙第2号証、第3号証の1ないし5、第4号証の1、2、第5号証、第6号証によれば、本件意匠の基本的構成態様である構成Aと同様の構成を備える床束の意匠は、本件意匠の意匠登録出願前に複数登録されていたこと、そのうちでも、乙3−1意匠が、本件意匠との共通点が最も多いこと認められる。したがって、本件意匠のうち、公知意匠である乙3−1意匠と異なる部分のうちには、公知意匠にない新規な部分が含まれているものと認められる。
イ 本件意匠公報及び乙3−1意匠の意匠公報(甲第11号証、乙第3号証の1)によれば、本件意匠は、乙3−1意匠と対比すると、次の点で異なるものと認められる。
(ア) ターンバックルの各構成要素の長さの比
本件意匠(構成C)においては、ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対1対1で、下側の円筒状部は上側の円筒状部よりやや短く形成されているのに対し、乙3−1意匠においては、ターンバックルの上側の円筒状部と、くびれ部と、下側の円筒状部との長さの比は、約3.5対1対3.5であり、上側の円筒状部と下側の円筒状部の長さは同じである。
(イ) ターンバックルの中間部の形状
本件意匠(構成D)のターンバックルの中間部は、角部がとがっていて縦線をなし、外周の平坦面は縦長であるのに対し、乙3−1意匠のターンバックルのくびれ部は、外周の平坦面はやや縦長の長方形状である。
(ウ) ターンバックルの中間部の幅
本件意匠(構成E)のターンバックルの中間部は、断面の最も幅の広い部分が、上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭いのに対し、乙3−1意匠のターンバックルのくびれ部は、平坦面に係る部分の幅は上下の円筒状部の外径よりも狭いが、断面の対角線に当たる最も幅の広い部分は、上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭いかどうか明らかでなく、上下の円筒状部と同じ幅か、上下の円筒状部よりもやや幅が狭い。
(エ) ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部
本件意匠(構成F)のターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部は、横線によって明確に区切られているのに対し、乙3−1意匠のターンバックルのくびれ部の外周には、やや縦長な長方形状の四つの平坦面が形成されているが、くびれ部と上下の円筒状部の境界部には、くびれ部と上下の円筒状部を明確に区切る横線等はない。
(オ) ナット
本件意匠(構成H)のターンバックルの上下端に配置されたナットは、ワッシャのような円形の鍔状部を有するが、乙3−1意匠のターンバックルの上下端に配置されたナットは、ワッシャのような円形の鍔状部を有しておらず、ワッシャも介していない。
(カ) ベースプレート
本件意匠(構成K)のベースプレートは、底面視やや横長の長方形状で、各辺の略中央にV字状の切欠部が形成されており、対向する長辺に沿って2個ずつの小孔、短辺に沿ってやや大きい3個ずつの円孔が穿設されているのに対し、乙3−1意匠のベースプレートは、底面視正方形状で、多数の円孔が穿設されている。
ウ(ア) 本件意匠の意匠登録出願前に意匠登録された乙3−1意匠の類似意匠(意匠登録第753868号の類似の3、4、意匠公報は乙第3号証の4、5)のターンバックルの上下端に配置されたナットは、ターンバックルとナットの間にワッシャを介して配置されている。そして、ターンバックルの上下にワッシャ又はワッシャのような円形の鍔状部を介してナットの角状の本体が配置されている外観をとる点において、これらの公知意匠と本件意匠は共通する。したがって、本件意匠の構成のうち、前記イ(オ)において乙3−1意匠と異なると認定された部分は、公知意匠にない新規な部分とは認められない。
(イ) 本件意匠の意匠登録出願前に意匠登録された意匠登録第887697号の意匠(意匠公報は乙第6号証)においては、ターンバックルの中央部の最も太い部分は、その上下の部分とは、横線によって明確に区切られている。しかし、同意匠は、ターンバックルの中央部の最も太い部分が円筒形である上、その上下の各部分は、更に曲線又は直線によってそれぞれ3区分されており、ターンバックル全体が上下の各円筒状部と中間部の3区分により構成されている本件意匠とは、ターンバックルの基本的な構成要素が異なっている。したがって、本件意匠の構成のうち、前記イ(エ)認定の部分は、ターンバックルが本件意匠のような基本的構成をとる意匠においては、なお新規な部分であると認められる。
エ 前記アないしウの認定によれば、本件意匠の構成のうち、少なくとも、ターンバックルの中間部の形状(前記イ(イ))、ターンバックルの中間部の幅(前記イ(ウ))、ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部(前記イ(エ))は、公知意匠にない新規な部分であると認められ、前記(1)認定の本件意匠の要部は、これらの新規な部分に係るものと認められる。したがって、前記(1)認定の本件意匠の要部は、公知意匠にない新規の構成であるという点からも、看者の注意を引くものと認められる。
オ 原告は、意匠全体からみて、乙3−1意匠のくびれ部は存在感が小さいのに対し、本件意匠の中間部の存在は強く印象づけられると主張し、乙3−1意匠が存在することを根拠として本件意匠の要部を限定的に解するのは不当である旨主張する。
 確かに、乙3−1意匠のくびれ部の長さがターンバックル全体の長さに占める割合は、本件意匠の中間部の長さがターンバックル全体の長さに占める割合よりも小さい(後記(4)ウ)。しかし、乙3−1意匠のくびれ部は、四つの平坦面がやや縦長の長方形であることを明確に認識するに足りる大きさのものであり、単にターンバックルの中央がくびれているにとどまるものではない。そして、乙3−1意匠において、くびれ部は、ターンバックルの中央に位置すること、及び上下の各円筒状部と異なって四つの平坦面と角部によって構成されていることから、看者の注意を引くものと認められる。他方、本件類似意匠においては、ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比が、約1.3対3.3対1であって、中間部の長さが下側の円筒状部の長さの3倍を超えており、このような長さの比を備える意匠が本件意匠の類似意匠とされていることからすると、ターンバックルの上側の円筒状部と中間部と下側の円筒状部との長さの比について多少の増減があることは、その点のみをもって、本件意匠に類似しないことの根拠とすることはできないと解される(後記(4)ウ)。そうであるとすれば、本件意匠の要部は、本件意匠と乙3−1意匠の相違点のうち、ターンバックルの上側の円筒状部と中間部と下側の円筒状部との長さの比以外の点に存在すると認められ、そのような要部を備えるが故にこそ本件意匠の意匠登録が認められたと考えるべきこととなる。したがって、公知意匠である乙3−1意匠、特にそのくびれ部の存在を参酌して本件意匠の要部を認定することは許されるというべきである。
(4) 類似意匠の参酌
ア 本件意匠公報及び本件類似意匠の意匠公報(甲第3号証)によれば、本件類似意匠の構成を本件意匠と対比すると、共通点及び相違点は次のとおり認められる。
(ア) 本件類似意匠は、本件意匠の構成A、B、DないしKと同じ構成を備える。
(イ) ターンバックルの各構成要素の長さの比について、本件意匠(構成C)は、ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対1対1で、下側の円筒状部は上側の円筒状部よりやや短く形成されている。これに対し、本件類似意匠は、ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対3.3対1であり、中間部の長さは、上側の円筒状部の約2.5倍、下側の円筒状部の約3.3倍で、非常に長く、下側の円筒状部は上側の円筒状部よりやや短く形成されている。
イ 前記(1)認定の本件意匠の要部は、本件意匠と本件類似意匠にも共通して認められる。
ウ ところで、前記(3)イ(ア)認定のとおり、ターンバックルの各構成要素の長さの比について、本件意匠(構成C)は乙3−1意匠と相違しており、本件意匠においては、ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対1対1で、上下の各円筒状部と中間部の長さが大体等しいのに対し、乙3−1意匠においては、ターンバックルの上側の円筒状部と、くびれ部と、下側の円筒状部との長さの比は、約3.5対1対3.5であり、くびれ部に比べて上下の各円筒状部の長さが非常に長い。
 しかし他方、本件類似意匠についてみると、前記ア(イ)のとおり、ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、約1.3対3.3対1であり、中間部の長さは、上側の円筒状部の約2.5倍、下側の円筒状部の約3.3倍で、非常に長い。
 このように、中間部の長さが下側の円筒状部の3倍を超えるような意匠が本件意匠の類似意匠とされていることからすると、ターンバックルの上側の円筒状部と中間部と下側の円筒状部との長さの比について、多少の増減があることは、その点のみをもって、本件意匠に類似しないことの根拠とすることはできず、本件意匠に類似するか否かの判断に影響を及ぼさないと解される。したがって、本件意匠において、ターンバックルの上側の円筒状部と中間部と下側の円筒状部との長さの比が約1.3対1対1で大体等しいことは、公知意匠である乙3−1意匠と異なる構成であるものの、本件意匠の要部とは認められないというべきである。
(5) 前記(2)ないし(4)に認定したところによれば、公知意匠及び類似意匠に照らしても、本件意匠の要部を前記(1)のとおり認定することは、相当であるというべきである。

3 争点(3)(被告製品の意匠の構成)について
(1) 本件意匠公報の正面図、背面図、左側面図、右側面図、A−A断面図において、ターンバックルは、中間部の角部の縦線を正面に向けて表示されているから、被告製品の意匠を図示する際にも、ターンバックルは、中間部の角部を正面に向けて表示するのが相当である。
 また、本件意匠公報の正面図、背面図、左側面図、右側面図、A−A断面図において、ナットは、ターンバックルの上下端にワッシャのような円形の鍔部を接して配置された状態で表示されているから、被告製品の意匠を図示する際にも、ナットは、ターンバックルの上下端にワッシャを介して接して配置された状態で表示するのが相当である。
 したがって、被告製品を本件意匠と対比する際には、ターンバックルが中間部の角部を正面に向けて表示され、ナットがターンバックルの上下端にワッシャを介して接して配置された状態で表示されているイ号図面1−(1)、ロ号図面1−(1)、ハ号図面1−(1)によって被告製品を特定するのが相当であると認められる。
(2) 被告製品が、原告主張に係る被告製品の意匠の構成@(上端に正面視略L字状のプレートを、下端に平板状のベースプレートを設け、かつ両プレート間に上下のボルトを介して上下の高さ調節自在なターンバックルを設けている鋼製束であって、)、構成Dのうち「略L字状のプレートは、立上部と受板部の両端縁はアール状に切り欠かれており、かつプレート本体には2条の凹状リブが立上部の頂上まで連続的に形成され、更にプレート本体の立上部には一対の孔が開設されており、しかも受板部の中央には円形状の突状部がかしめられている。」という部分、構成E(ベースプレートは、底面視円形状で、かつプレートの周囲には大きい孔が8個、小さい孔が4個穿設されている。)、構成Fのうち「ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、イ号製品では約1.2対1対1.2、ハ号製品では約1対1対1である。」という部分、構成Gのうち「ターンバックルの中間部に形成した略四角形状部は、平坦部のみが円筒状部外径よりやや幅狭で」という部分、構成H(ターンバックルの上下の円筒状部の上下端には、ナットとの間にスプリングワッシャが介装着されている。)、構成I(ターンバックルの中間部の中央に貫通孔が穿設されている。)、構成J(ターンバックルの上下の円筒状部の先端側には、小さい確認用貫通孔が穿設され、かつ4条の縦リブが形成されている。)を備えることは、当事者間に争いがない。
 上記当事者間に争いのない事実と甲第4号証、検甲第1号証、検乙第1、第2号証によれば、被告製品の構成は、次のとおり認められる。
ア 基本的構成態様
@(全体の構成要素)
上端に正面視略L字状のプレートを、下端に平板状のベースプレートを設け、かつ両プレート間に上下のボルトを介して上下の高さ調節自在なターンバックルを設けている床束である。
イ 具体的構成態様
A(ターンバックルの構成要素)
ターンバックルは、上側の円筒状部と下側の円筒状部と、上下の円筒状部間に位置する中間部により構成されている。
B(ターンバックルの各構成要素の長さの比)
ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、イ号製品では約1.2対1対1.2、ロ号製品では約1.1対1対1.1、ハ号製品では約1対1対1である。
C(ターンバックルの中間部の形状)
ターンバックルの中間部は、断面が略正方形の角筒状で、角部はアール形状であり、角部に明瞭な縦線は現れておらず、外周に縦長な四つの平坦面が形成されている。
D(ターンバックルの中間部の幅)
ターンバックルの中間部においては、断面の対角線に当たる部分が最も幅が広く、その部分は、上下の円筒状部と同外径であり、平坦面に係る部分の幅は、上下の円筒状部の外径よりも狭い。
E(ターンバックルの中間部の貫通孔)
ターンバックルの中間部の中央に貫通孔が穿設されている。
F(ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部)
ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部は、中間部の四つの平坦面については、平坦面の上下端が、中間部と上下の円筒状部の境界部に横線を現しているが、中間部の角部は、アール形状をなし、上下の円筒状部と連続しており、角部について、中間部と上下の円筒状部を明確に区切る横線等は存在しない。
G(ターンバックルの上下の円筒状部の形状)
ターンバックルの上下の円筒状部は、中間部寄りの部分は、中間部より外径がやや大きい円筒状をなし、上下端のナット側に向かって細くなるテーパ部を介し、上下端近くの部分は、細径の円筒状に形成され、その細径の円筒状部に4条の縦リブが形成され、テーパ部の近くに小さい確認用貫通孔が穿設されている。
H(ナット)
ターンバックルの上下端には、スプリングワッシャを介してナットが配置されている。
I(略L字状のプレート)
略L字状のプレートは、立上部と受板部からなり、受板部は、底面視やや横長の長方形状で、立上部及び受板部の角部がアール形状であり、2条の凹状のリブが受板部から立上部の頂上まで連続的に形成され、立上部と受板部にそれぞれ2個の小さい孔が穿設されている。
J(略L字状のプレートの受板部とボルトの接合部)
略L字状のプレートの受板部の中央には、円形状の突起部がかしめられている。
K(ベースプレート)
ベースプレートは、底面視円形状で、かつプレートの周囲には大きい孔が8個、小さい孔が4個穿設されている。

4 争点(4)(被告製品の意匠と本件意匠の対比)について
(1) 被告製品の意匠と本件意匠の共通点は、次のとおり認められる。
ア 全体の構成要素について、被告製品の意匠(構成@)は、本件意匠(構成A)と共通する。
イ ターンバックルの構成要素について、被告製品の意匠(構成A)は、本件意匠(構成B)と共通する。
ウ ターンバックルの上側の円筒状部と、中間部と、下側の円筒状部との長さの比は、イ号製品では約1.2対1対1.2、ロ号製品では約1.1対1対1.1、ハ号製品では約1対1対1であるのに対し、本件意匠では約1.3対1対1であり、上側の円筒状部、中間部、及び下側の円筒状部の長さがいずれも大体等しい(1ないし1.3の比)点において、被告製品の意匠(構成B)は、本件意匠(構成C)と共通する。
エ ターンバックルの中間部の形状について、断面が略正方形の角筒状で、外周に縦長な四つの平坦面が形成されている点において、被告製品の意匠(構成C)は、本件意匠(構成D)と共通する。
オ ターンバックルの中間部の幅について、断面の対角線に当たる部分が最も幅が広く、平坦面に係る部分の幅が上下の円筒状部の外径よりも狭い点において、被告製品の意匠(構成D)は、本件意匠(構成E)と共通する。
カ ターンバックルの上下の円筒状部の形状について、中間部寄りの部分は、中間部より外径がやや大きい円筒状をなし、上下端のナット側に向かって細くなるテーパ部を介し、上下端近くの部分は、細径の円筒状に形成されている点において、被告製品の意匠(構成G)は、本件意匠(構成G)と共通する。
キ ナットについて、被告製品の意匠(構成H)は、ターンバックルの上下端に、スプリングワッシャを介して配置されているのに対し、本件意匠(構成H)は、ターンバックルの上下端に、ワッシャのような円形の鍔状部を有するナットが、ターンバックルに鍔状部を接して配置されている。しかし、ターンバックルの上下にワッシャ又はワッシャのような円形の鍔状部を介してナットの角状の本体が配置されている外観をとる点において、被告製品の意匠と本件意匠は共通する。
ク 略L字状のプレートについて、立上部と受板部からなり、受板部は、底面視やや横長の長方形状で、立上部と受板部にそれぞれ2個の小さい孔が穿設されている点において、被告製品の意匠(構成I)は、本件意匠(構成I)と共通する。
(2) 被告製品の意匠と本件意匠の相違点は、次のとおり認められる。
ア ターンバックルの中間部の形状について、被告製品の意匠(構成C)は、角部がアール形状であり、角部に明瞭な縦線は現れていないのに対し、本件意匠(構成D)は、角部がとがっていて縦線をなしている。
イ ターンバックルの中間部の幅について、被告製品の意匠(構成D)は、最も幅の広い断面の対角線に当たる部分が、上下の円筒状部と同外径であるのに対し、本件意匠(構成E)は、最も幅の広い断面の対角線に当たる部分が、上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭い。
ウ ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部に関して、被告製品の意匠(構成F)は、中間部の四つの平坦面については、平坦面の上下端が、中間部と上下の円筒状部の境界部に横線を現しているが、中間部の角部は、アール形状をなし、上下の円筒状部と連続しており、角部について、中間部と上下の円筒状部を明確に区切る横線等は存在しない。これに対し、本件意匠(構成F)は、ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部は、横線によって明確に区切られている。
エ ターンバックルの上下の円筒状部の上下端近くの細径の円筒状部について、被告製品の意匠(構成G)は、4条の縦リブが形成され、テーパ部の近くに小さい確認用貫通孔が穿設されているのに対し、本件意匠(構成G)には、そのようなリブ、確認用貫通孔はない。
オ 略L字状のプレートについて、被告製品の意匠(構成I)は、立上部及び受板部の角部がアール形状であり、2条の凹条のリブが受板部から立上部の頂上まで連続的に形成されているのに対し、本件意匠(構成I)は、立上部及び受板部の角部が直角状であり、凹条のリブはない。
カ 略L字状のプレートの受板部とボルトの接合部について、被告製品の意匠(構成J)は、略L字状のプレートの受板部の中央に、円形状の突起部がかしめられているのに対し、本件意匠(構成J)は、略L字状のプレートの受板部の上面中央にボルトの円形状の頭部が裸出している。
キ ベースプレートにつき、被告製品の意匠(構成K)は、ベースプレートは底面視円形状で、かつプレートの周囲に大きい孔が8個、小さい孔が4個穿設されているのに対し、本件意匠(構成K)は、ベースプレートは底面視やや横長の長方形状で、各角部が直角状であり、各辺の略中央にV字状の切欠部が形成されており、対向する長辺に沿って2個ずつの小孔、短辺に沿ってやや大きい3個ずつの円孔が穿設されている。
(3) 類否
ア 前記2(1)認定のとおり、本件意匠の要部は、ターンバックルの中間部の形状について、断面が略正方形の角筒状で、角部はとがっていて縦線をなし、外周に縦長な四つの平坦面が形成されていること(構成D)、ターンバックルの中間部の幅について、断面の対角線に当たる部分が最も幅が広く、その部分は、上下の円筒状部の外径よりもやや幅が狭いこと(構成E)、ターンバックルの中間部と上下の円筒状部の境界部について、同境界部が、横線によって明確に区切られていること(構成F)である。そして、このような要部を備えることにより、本件意匠は、上下の円筒状部の丸みを帯びた形状との対比で、中間部の細く角張った形状が際立ち、そのような形状から生じるシャープでスマートな印象が、全体から受ける美感の中で看者に強く感じられるものと認められる。
 被告製品の意匠は、本件意匠とは前記(1)アないしク認定のとおり共通し、前記(1)エ、オ認定の共通点は、本件意匠の要部であるターンバックルの中間部の形状、中間部の幅に係るものである。しかし、それは、本件意匠の要部の一部分について共通するにとどまり、前記(2)アないしウ認定のとおり、要部についても、大きな相違点が存在する。そして、被告製品の意匠は、ターンバックルの中間部の角部に明瞭な縦線が現れていないこと(前記(2)ア)、ターンバックルの中間部の最も幅の広い断面の対角線に当たる部分が、上下の円筒状部と同外径であり、上下の円筒状部よりも細くないこと(前記(2)イ)、中間部の角部は、アール形状をなし、上下の円筒状部と連続しており、角部について、中間部と上下の円筒状部を明確に区切る横線等は存在しないこと(前記(2)ウ)から、中間部について、細く角張った印象はほとんどなく、中間部が上下の円筒状部から際立つことはなく、むしろ、中間部は、四つの平坦面が形成されていても、上下の円筒状部との連続性を維持している印象が強く、被告製品の意匠は、中間部を含め、全体として、丸みを帯びた柔らかな印象を看者に与える。
イ 前記アのとおり、被告製品の意匠は、本件意匠と共通点を有するが、その共通点は本件意匠の要部のすべてを含むものではなく、要部について大きな相違点があるほか、要部以外の点についても、前記(2)エないしキ認定の相違点が存在するから、全体として、相違点が共通点を凌駕し、被告製品の意匠は、本件意匠とは美感を異にするというべきである。
ウ したがって、被告製品の意匠は、本件意匠とは類似していないというべきである。

〔論  説〕
1.この大阪地裁の判決は、意匠権侵害訴訟の事案において、各形態の構成態様の対比説明が詳細であり、また公知意匠についても、本件意匠の創作の要部の把握のためには十分参酌して説明しているから、読む者に対しては比較的説得力をもった判決であるといえる。
 判決は、まず争点(1)の「本件意匠の構成」について、定石どおり、基本的構成態様と具体的構成態様とに分析して説明している。しかし、ここは「本件意匠の形態(デザイン)」に係る構成態様と考えた方が妥当である。
 また、本件意匠の基本的構成態様とは、「本件意匠に係る物品がもつ基本的構成態様」と考えるのが正確である。即ち、本件意匠に係る物品「床束」の形態が基本的に有する構成態様は何であるかを、まず理解し把握することが必要なのである。
 次に、具体的構成態様とは、これには公知的形態と創作的形態の各構成態様が混り合っているから、前記当該物品が有する基本的形態を把握した後は、具体的構成態様の把握ではなく、公知的形態と創作的形態とを分別して考えることである。即ち、この段階においては公知的形態を引用ないし参酌することであり、かくすることによって本件意匠の創作の要部(創作体)が把握されるに至るのである。
2.この点、本件判決は、争点(2)の「本件意匠の要部」について、「意匠の要部、すなわち看者の注意を引く部分は、意匠を全体的に観察し、意匠に係る物品の性質、用途等も考慮して認定すべきである。」という。判決がここで言っている意匠の要部とは、意匠の創作の要部ではなく、意匠全体の中で最も目立つ部分を指しているから、本件意匠に係る物品の要部のことを考えているようである。これは、判決が、看者である建築業者が注目する当該物品の要部は、ターンバックルの中央部付近と認定していることからもわかる。
 しかし、判決が意匠の要部を、本件意匠に係る物品において最も目立つ部分であるターンバックルの中央部付近と特定したことは誤解を与えることになる。けだし、意匠について物品の要部と形態の要部とは別異のものだからである。そして、物品の要部でも形態の要部でも、看者にとって目立つ部分が要部であるといわれたとしても、意匠権侵害の有無を判断する場合には、その部分は別に重要なものではないからである。
 ということは、意匠権侵害の有無を考えるときに重要な問題は、原告の本件意匠権がその独占排他的効力を被告意匠に対して及ぼすことの適否の前提として考えなければならない本件意匠権の実体である。即ち、登録意匠が新規性と創作力(意匠法3条の登録要件)を具備しているか否かの実体を精査することである。
 そのためには、本件登録意匠の出願前の公知意匠等を参酌するのであり、これらを対比して考えることによって、本件登録意匠が有する創作の要部を把握することができるのである。これが、本件登録意匠の創作体と呼ばれるものであり、把握した創作体を被告意匠が具備しているか否かの問題は、その後の対比作業となるのである。
 もちろん、被告意匠の形態に対する精査も必要であり、これと公知意匠等との対比によって、被告意匠の創作の要部を把握することも必要である。
3.本件判決は最後に、争点(4)で両意匠の対比作業を行い、構成態様の共通点と相違点とを抽出対比し、両者の構成態様に大きな違いが見られることから、類似しないと判断したが、その際、看者に与える印象や美感の違いを強調している。しかし、ここにおいて判決は、本件が意匠権侵害事件であることを強調せんとして、創作の要部の把握という構成態様の違いについての理性的認識に加えて、感性的判断を補足したものと思われる。
 ただ、人はまず肉眼によって対象を見るから、そこから美感ないし印象という感性的判断をするが、それからさらに公知意匠等との対比という理性的判断に至り、創作の同一性の有無を考えることになる。これが意匠の類否判断の作業である。
 このように、意匠の類否判断は、右脳と左脳との2つの判断過程を経なければならないところに、特許権侵害事件における侵害判断とは違う困難性があるといえる。
 しかし、本件判決は、全体の判断過程における論理についての難は免れないものの、その理由づけや結論は妥当といえる。
4.判決が参酌引用した公知意匠をまとめると、次のとおりである。
(1)登録第753868号(昭和61年10月1日出願)
(2)登録第753868号の類似1〜5
(3)登録第887697号(昭和62年12月7日出願)
 これらの公知意匠は、本件意匠との間に、上部の受け座と下部の固定座における形態の構成態様はほぼ同一であるのに対し、支柱となる中間部位のターンバックル部の形態がそれぞれ異なる構成態様から成ることを見ると、各意匠は別異の創作性をもって構成されていることがわかる。だからこそ、本件意匠はそれらの公知意匠との対比で、ターンバックル部の形態の構成態様に創作の要部があると把握することができるのである、この部分付近が物品全体の中で目立つからというのではなく。
5.この地裁判決に対しては、大阪高裁に控訴されたとのことです。

[牛木理一]