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「ライター」意匠権侵害差止等請求事件:大阪地裁平成16(ワ)5644号平成16年12月21日判決(認容)〔特許ニュース平成17年4月27日〕

〔キーワード〕 
意匠の類似、容器の形状、容器形状の透明性、内部構造の模様性、意匠的意義、意匠の創作の要部

〔事  実〕

 

  原告(株式会社東海)は、意匠に係る物品「ライター」について、平成9年3月24日に出願し、平成12年1月14日に設定登録した意匠登録第1066514号に係る意匠(以下「本件意匠」という)の意匠権者である。
 被告(株式会社イングワン)は、平成15年8月頃から、業として、「D6ソフト」と称する別紙物件目録1及び2記載のライター(以下「被告ライター」という)を輸入し、同年10月頃より国内で販売している。被告ライターには、容器が不透明で内部構造が視認できないもの(物件目録1)と、容器が透明で内部構造が視認できるもの(物件目録2)があり、販売数量は前者1に対し後者9の割合である。
 争点は、被告ライターの意匠は本件意匠に類似するか否かの点にあった。

〔主  文〕
1 被告は、別紙物件目録1及び2記載のライターを製造し、輸入し、販売し、
  販売のために展示してはならない。
2 被告は、前項記載の物件を破棄せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は仮に執行することができる。

 


〔判  断〕
1 本件意匠の構成態様
 別紙意匠公報によれば、本件意匠の構成は次のとおりであると認められる。
(1) 本件意匠の基本的構成態様
A ライター下部を構成する液化燃料ガスを貯蔵する胴体部分と、ライター上
部を構成する、着火部分を覆う風防部分及び液化燃料ガスに着火するための押下部分とからなる、使い捨てライターである。
B 胴体部分は、正面視略矩形、平面視略長円形である。
C 風防部分は、胴体部分の上部に正面視左側半分の位置に設けられ、正面視
略平行四辺形である。
D 押下部分は、胴体部分の上部に正面視右側半分の位置に設けられ、正面視
略平行四辺形である。
(2) 本件意匠の具体的構成態様
a@ ライター本体は、正面視略矩形状であり、長さ寸法と幅寸法の比率が約3.5:1である。
A ライター下部(胴体部分)とライター上部(風防部分・押下部分)とは、正面視で長さ比率が約8:1であり、風防部分と押下部分は正面視で長さ比率、幅比率共に約1:1である。
B ライター上部の上辺は、正面視中央を頂点とし両端にむけて緩やかに下降する曲線を描いている。
C ライター上部とライター下部の仕切り線は、正面視で左端からライター本体の約7分の1までは水平直線、同水平直線右端からライター本体中央部分までは右上がりの円弧線、更に同円弧線右端からライター本体右端までは緩やかな右上がりの曲線を描いている。
D ライター上部の上辺と、ライター上部とライター下部との仕切り線とは、略平行である。
b 胴体部分は、正面視・背面視において、上辺が上記aC記載のとおりの線を描き、下辺及び側辺が直線である略矩形である。
c@ 風防部分は、正面視において、上辺を緩やかな右上がり曲線とし、下辺左端を水平直線、その右側を右上がりの円弧線とし、左辺と右辺を直線とする、変形略平行四辺形状の五角形状である。
A 風防部分の上面には、円形の炎出口孔と、半円弧状スリットとがある。
B 風防部分は、左側面視において、上下に伸びる2本の空気吸引用スリットが形成されている。炎を調整するための炎調整レバーはない。
C 風防部分には、正面視及び背面視において、風防部分係止用の凹み及び斜めの空気吸引用スリットが各1個設けてある。
d@ 押下部分は、正面視において、その上辺が僅かに右下がりの曲線、下辺が僅かに右上がりの曲線、左辺と右辺が直線である、略平行四辺形状である。
A 押下部分の庇部は、上辺が緩やかな右下がり曲線であり、下辺が僅かに右上がりの曲線である。

2 被告ライターの意匠の構成態様
意匠とは「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいう」(意2条1項)ところ、容器が透明であるため視認が可能となるライターの内部構造は、ライターの模様ということができ、ライターの意匠の構成の一部となり得る。
 前記第2、1(3)のとおり、被告ライターには、容器が不透明でライターの内部構造が視認できないものと、容器が透明でライターの内部構造が視認できるものとがある(後者がその約9割を占める。)から、被告ライターの意匠としては、容器の不透明なものは被告意匠1として、容器の透明なものは被告意匠2として、各別に考察するのが相当である。そして、被告意匠1及び2に共通する点は次の(1)及び(2)のとおりであり、被告意匠2にのみ特有の点は次の(3)記載のとおりの構成であると認められる(なお、下線部は、上記1で認定した本件意匠の構成態様との相違点である。)。
(1) 被告ライターの意匠の基本的構成態様(共通)
A ライター下部を構成する液化燃料ガスを貯蔵する胴体部分と、ライター上部を構成する着火部分を覆う風防部分及び液化燃料ガスに着火するための押下部分とからなる、使い捨てライターである。
B 胴体部分は、正面視略矩形、平面視略楕円形である。
C 風防部分は、胴体部分の上部に正面視左側半分の位置に設けられ、正面視略平行四辺形である。
D 押下部分は、胴体部分の上部の正面視右側半分の位置に設けられ、正面視略平行四辺形である。
(2) 被告ライターの意匠の具体的構成態様(共通)
a@ ライター本体は、正面視略長方形状であり、長さ寸法と幅寸法の比率が約3.5:1である。
A ライター下部(胴体部分)とライター上部(風防部分・押下部分)とは、正面視で長さ比率が約8:1であり、風防部分と押下部分は正面視で長さ比率、幅比率共に約1:1である。
B ライター上部の上辺は、正面視中央を頂点とし両端にむけて緩やかに下降する曲線を描いている。
C ライター上部とライター下部の仕切り線は、正面視で左端から中央部分まで右上がりの円弧線を描き、同円弧線右端からライター本体右端まで水平直線を描いている。
D ライター上部の上辺と、ライター上部とライター下部との仕切り線とは、略平行である。
b 胴体部分は、正面視・背面視において、上辺が上記aC記載のとおりの線を描き、下辺及び側辺が直線である略矩形である。
c@ 風防部分は、正面視において、上辺を緩やかな右上がり曲線とし、下辺を右上がりの円弧線とし、左辺と右辺を直線とする、略平行四辺形状である。
A 風防部分の上面には、円形の炎出口孔と、略4分の1円弧状スリット2つとがある。
B 風防部分は、左側面視において、上下に伸びる長さの異なる4本の空気吸引用スリットが形成されている。スリット下部には炎を調整するための炎調整レバーがある。
C 風防部分には、正面視及び背面視において、風防部分係止用の凹みが設けてある。斜めの空気吸引用スリットは設けられていない。
d@ 押下部分は、正面視において、その上辺が僅かに右下がりの曲線、下辺、左辺及び右辺が直線である、略平行四辺形状である。
A 押下部分の庇部は、上辺が緩やかな右下がり曲線であり、下辺がほぼ水平直線である。
B 押下部分の柱部は壁面に凹凸が刻まれていることにより上下方向に縞状となっている。
(3) 被告意匠2にのみ特有の構成
@ 胴体部分の内部は液化燃料ガスのタンク部であるが、中央部分に同タンクの上端から底部近傍に垂下された板状の区画壁で左右に仕切られ、左右のタンク底部の近傍で連通されている。
A 正面視左方タンクの上端は、右方タンクの上端より高く、胴体部分の上から約3分の1程度の高さに位置している。
B 正面視左方タンクには、その上方にねじ込み固定された略円柱状に形成された開閉バルブボディが気密状に取り付けられ、この開閉バルブボディから細径で微細孔を有する気化用フィルタが底部近傍まで延出している。
C 正面視右方タンクは、胴体部分の約2分の1の高さの位置に形成され、その上方には着火機構収納部が形成されている。
D Cの着火機構収納部には、圧電素子を内装したテレスコピック式の略直方体のケースが上下方向に配設され、上端部分が押下部分で押し下げられるようになっている。

3 本件意匠の要部
(1) 意匠の類否を判断するに当たっては、意匠を全体として観察した上、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様等、さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等をも参酌して、取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分を登録意匠の要部として把握し、登録意匠と対象となる意匠とが要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して、両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。
  そこで、本件意匠の要部がいかなる構成にあるかについて検討する。
(2) 物品の性質、用途、使用態様等
 証拠(甲17、19、33ないし36)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
 本件意匠に係る物品であるライターは、いわゆる高級ライターではなく、俗に「使い捨てライター」あるいは「100円ライター」などと呼ばれるものであって、燃料が切れれば使い捨てにされる安価(100円から150円程度のものが多い。)で簡易なライターである。また、大きさは全長8p程度であって、洋服のポケットや鞄に入れるなどしてたばこと共に携帯し、喫煙の際に片手で取り出して簡便に着火するために用いることが予定されている。
 取引者はカタログを見て、需要者(最終消費者)は店頭の現物を見て商品を購入するのが通常であるが、カタログの商品掲載においても、店頭での商品陳列においても、ライターの胴体部分、着火部分及び押下部分の全体を正面又は背面から広く見ることができるように配置されている。また、店頭でライターを購入する需要者は、手に取るなどして商品であるライターを見て、主に胴体部分、着火部分及び押下部分の全体を正面又は背面方向から広く商品を観察するとともに、着火動作や押下部分の押下げ動作のしやすさ、携帯のしやすさ等をも確認して、購入する。
(3) 公知意匠等
 本件意匠の登録出願前に公知であったライターに係る意匠には、次のようなものがある。
ア 登録意匠番号第962554号意匠公報(甲14、乙1の1)に記載されたライターの意匠は次のとおりである。
 ライター本体は正面視略長方形状であり、平面視長円形状である。ライター上部の上辺は、正面視で左端から4分の1程度が水平直線状、次に右3分の1程度まで極緩やかな右上がりの曲線状、更に右端にかけて緩やかな右下がりの曲線を描いている。ライター上部とライター下部の間には帯状部分があり、ライター上部と帯状部分との仕切り線は、正面視で、左端から約3分の1程度が水平直線状、そこから右約4分の1まで右上がり直線状、最後の右4分の1程度は水平直線状を描いている。ライター下部と帯状部分との仕切り線は、水平直線状を描いている。その他ライター本体の正面視下辺、左辺、右辺はいずれも直線状である。
 着火部分は、正面視において略四角形であり、左側面視において上下に伸びる2本の空気吸入用スリットとスリット下部に炎を調整するための炎調整レバーがある。
 押下部分は、上辺がやや右下がり、下辺がやや右上がり、左右辺は直線の略四辺形である。庇部は、上辺が右下がり円弧状、下辺が右上がり曲線状であり、柱部には中央寄りに容器の凹凸によって縦縞に見える模様がある。
イ 登録意匠番号第704608号意匠公報(乙2)に記載されたライターの意匠は次のとおりである。
 ライター本体は、正面視略長方形状であり、平面視楕円形状である。正面視上辺が中央を頂点とし両端に向かって極く緩やかに下降する曲線を描いている。ライター上部とライター下部の仕切り線は、約3等分され、左側と右側はいずれも水平直線状であり、中央部分は、左側と右側の各水平直線状の高低差を繋ぐ、右に下降する直線状である。
 押下部分は、正面視で対向する右上及び左下の2角にアールのついた略菱形状であり、庇部や柱部等の構成はない。
 着火部分は、略四角形であるが押下部分の上記形状及び上記仕切り線の右への下降直線に沿う形で右下部分が変形している。空気吸引用スリットや炎調整レバーはない。
ウ 登録意匠番号第902827号意匠公報(乙3)に記載されたライターの意匠は次のとおりである。
 ライター本体は、正面視略長方形状、平面視略楕円形状である。ライター本体の上辺は正面視やや右上がりの直線状、左右辺はわずかに下部において末広がりとなる直線状、下辺は直線状を描いている。ライター上部とライター下部の間には帯状部分があり、ライター上部と帯状部分との仕切り線は、正面視で、着火部分においてアールのついた直角状、押下部分において右下がりの波形曲線を描いている。ライター下部と帯状部分との仕切り線は、水平直線状である。
 着火部分において空気吸引用スリットはないが、左側面視で炎調整レバーがある。
 押下部分には庇部と柱部がある。庇部の上辺はやや右上がり直線状であるが、庇部下辺はやや右下がり曲線状である。
エ 登録意匠番号第941420号意匠公報(乙4)に記載されたライターの意匠は次のとおりである(なお、同公報に記載されたライターの正面図及び背面図は、それぞれ本件意匠や上記アないしウの公報とは逆に表示されている。そこで、乙4の意匠公報の正面図をライターの背面視、背面図を正面視を表すものとして表示する。)。
 ライター本体は、正面視上辺が右下がりの略長方形状、平面視略卵形状である。ライター本体の上辺は正面視で、右下がりの直線状、下辺、左辺及び右辺は直線状である。ライター上部とライター下部の間には帯状部分があるが、ライター上部と帯状部分の仕切り線、ライター下部と帯状部分の仕切り線も、いずれも右下がりのごく緩やかな曲線状である。
 着火部分は、外形的にはライター上部と帯状部分とライター下部とに跨っており、背面視ライター下部上方に上下に伸びる2本の空気吸引用スリットがあり、炎調整レバーはない。
 押下部分は略平行四辺形であり、庇部や柱部という構成は採られていない。
オ 登録意匠番号第897512号意匠公報(甲26、乙。類似意匠として乙21の2ないし4)、登録意匠番号第853809号意匠公報(乙)。類似意匠として乙22の2)、登録意匠番号第781439号意匠公報(乙)、登録意匠番号第781284号意匠公報(乙24の1。類似意匠として乙24の2)、登録意匠番号第707909号意匠公報(乙26)記載のライターの意匠は、ライター本体の上辺等が曲線を描いている。しかし、これらの意匠は、ライター上部の風防部分と押下部分の双方あるいは押下部分のみがライター上部において円弧状の仕切り線で区分されていたり、ライター上部とライター下部が仕切り線あるいは帯状部分によって直線的に区分されていたりするなどの特徴点がある上、いずれの意匠においても、ライター本体の上辺と、ライター上部とライター下部の仕切り線が双方共に曲線で、略平行関係にあるという構成を備えていない。
(4) 容器が透明なライターについて
ア ライターの胴体部分が透明で、内部構造が次のようなものの存在が知られていた。
(ア) 登録意匠番号第395207号意匠公報(甲16)に記載されたライターの意匠については、胴体部分が透明であることが明記されている。同意匠のうち、胴体部分の内部構造は、次のとおりである。
@ 胴体部分の内部の液化燃料ガスのタンク部は、中央部分に同タンクの上端から底部近傍に垂下された板状の区画壁で左右に仕切られ、左右のタンク底部の近傍で連通されている。
A 正面視左方タンクには、その上方にねじ込み固定された略円柱状に形成された開閉バルブボディが気密状に取り付けられ、この開閉ボディから細径で微細孔を有する気化用フィルタが胴体部中央付近まで延出している。
(イ) 平成元年10月1日に発行された「喫煙具総合カタログ」(甲19)、「1981/82喫煙具総合カタログ」(甲33)、「1983/84喫煙具総合カタログ」(甲34)、「1985−86喫煙具総合カタログ」(甲35)には、胴体部分が透明であって内部構造が透視できるライターが掲載されている。同意匠のうち、胴体部分の内部構造は次のとおりである。
@ 胴体部分の内部の液化燃料ガスのタンク部は、中央部分に同タンクの底部から上端近傍に垂直に配された板状の区画壁で左右に仕切られ、左右のタンク上部近傍で連通されている。
A 正面視左方タンクには、その上方に固定された略円柱状に形成された開閉バルブボディが気密状に取り付けられ、この開閉ボディから細径で微細孔を有する気化用フィルタが底部近傍まで延出している。
(ウ) 「'88喫煙具総合カタログ」(甲36)には、胴体部分が透明であって内部構造が透視できるライターが掲載されている。同意匠のうち、胴体部分の内部構造は次のとおりである。
@ 胴体部分の内部の液化燃料ガスのタンク部は、中央部分に同タンクの底部から上部近傍に垂直に配された板状の区画壁で左右に仕切られ、左右のタンク上部近傍で連通されている。
A 正面視左方タンクには、その上方に固定された略円柱状に形成された開閉バルブボディが気密状に取り付けられ、この開閉ボディから細径で微細孔を有する気化用フィルタが底部近傍まで延出している。
B 正面視右方タンクは、胴体部分の約3分の2の高さの位置に形成され、その上方には着火機構収納部が形成されている。
C Bの着火機構収納部には、略直方体のケースが上下方向に配設され、上端部分が押下部分で押し下げられるようになっている。
イ 前記アに掲記したものののほか、「2003Smoking Goods喫煙具総合カタログ」(甲17)、登録意匠番号第902827号意匠公報(甲21)、登録意匠番号第902827号意匠公報(乙3)、登録意匠番号第1114269号意匠公報(乙20)によれば、ライターの内部構造としては、液化燃料タンク、区画壁、開閉バルブボディ、細径で微細孔を有する気化用フィルタ、着火機構収納部、圧電素子等を内臓する直方体のケース等が通常備えられ得ることが認められる。
 なお、登録意匠番号第1114269号意匠公報(乙20)の「意匠に係る物品の説明」欄には、「透明合成樹脂」との記載があるほか、容器が透明であることに関する記載はなく、他方で、風防部分の上端開口を覆う蓋部がガス吐出路開閉弁を操作するための操作レバー部と一体に形成されているとの記載や、使用時における操作レバー部及び蓋部の後傾により風防カバーの上端開口が開き、火炎が放出される旨の記載がある。
(5) ライターに関するカタログ(甲17、19、34ないし36)には、全体の形状は同一であるが、胴体部分に描かれる絵(格子模様、大理石模様、迷彩模様、縦縞模様、スポーツや人形あるいは動物のイラストなど)や色彩のみが異なるライターが、同一商品名で掲載されている。
(6) 以上の認定事実によれば、次のようにいうことができる。
ア 前示認定のとおり、本件意匠に係る物品であるライターは、俗に「使い捨てライター」あるいは「100円ライター」などと呼ばれ、燃料が切れれば使い捨てにされる安価で簡易なライターである。そして、取引者はカタログを見て、需要者(最終消費者)は店頭の現物を見て商品を購入するのが通常であるが、カタログの商品掲載においても、店頭での商品陳列においても、ライターの胴体部分、着火部分及び押下部分の全体を正面又は背面から広く見ることができるように配置されている。また、ライターの大きさは全長8p程度の小さいものであるから、店頭でライターを購入する需要者は、これを手に取るなどして、主に胴体部分、着火部分及び押下部分の全体を主として正面又は背面方向から広く商品を観察するとともに、着火動作や押下部分の押下げ動作のしやすさ、携帯のしやすさ等をも確認して、購入するものと解される。
 この点につき、被告は、需要者が使い捨てライターを観察するのはたばこへの着火時であるが、このときには顔の前面から10数p程度でやや下方に離れた斜め上方から観察することになるから、押下部分が親指に隠れることになり、押下部分に注意を惹かれることはないと主張する。しかし、上記のとおり、需要者は、ライターの購入に際してライターを手に取るなどして、その全体を正面又は背面方向から広く観察するというべきであるから、単にたばこへの着火時に押下部分が親指に隠れることを理由に、同部分が需要者の注意を惹かないということはできない。
イ もっとも、前示(3)掲記の各公知意匠によれば、本件意匠の登録出願前において、ライター本体全体ないしライター下部(胴体部分)の形状は、そのほぼ全てが正面視略長方形状で、かつ、平面視略長円形状ないし楕円形状であって、ライターの意匠において、上記のようなライター本体全体ないしライター下部(胴体部分)の形状はきわめてありふれたものであったというべきであり、これに特徴的な模様が施されている場合はともかく、形状自体は取引者ないし需要者の注意を惹くものということはできない。
ウ これに対し、本件意匠中のライター上部の構成、すなわち、ライター上部の上辺が正面視中央を頂点として両端に向けて緩やかに下降する曲線を描き、ライター上部とライター下部の仕切り線が正面視で左端からライター本体の約7分の1までは水平直線、同水平直線右端からライター本体中央部分までは右上がりの円弧線、更に同円弧線右端からライター本体右端までは緩やかな右上がりの曲線を描くとともに、ライター上部の上辺と、ライター上部とライター下部との仕切り線とが略平行であるとの構成は、上記各公知意匠には見られない新規なものと認められ、これらの直線及び曲線の組合せ及びその位置関係により、優美なスマートさによる独特の美感がもたらされているということができる。したがって、本件意匠におけるライター上部の構成は、見る者の注意を惹く部分というべきであって、本件意匠の要部ということができる。
 被告は、ライター本体の上辺等が曲線を描いているライターの意匠や、上辺とライター上部及びライター下部との仕切り線が平行であるライターの意匠は、本件意匠出願時既に公知であったから、これらの点を本件意匠の要部とすることはできないと主張し、乙第1号証の1ないし3(なお、乙第1号証の2及び3は本件意匠出願前公知の意匠公報ではない。)、第2ないし第4号証、第21号証の1ないし4、第22号証の1及び2、第23号証、第24号証の1及び2、第25ないし第27号証の各意匠公報を提出する。しかし、これらの各意匠公報に記載されているライターの意匠は、ライター本体の上辺が曲線であるとか、ライター本体の上辺とライター上部及び下部との仕切り線とが略平行関係にあるなどといった、本件意匠の要部として当裁判所が認定した構成の一部ずつを表すものにすぎないことが明らかである。そしてこれらの断片的な構成が有機的に結合した本件意匠中のライター上部に関する上記構成は、上記各公知意匠には表われておらず、その構成から看取される印象にかんがみれば、上記構成がありふれた意匠ということはできない。また、特に乙第1号証の1ないし3、乙第2、第3号証、第22号証の1及び2、第23号証、第24号証の1及び2、第25ないし第27号証の各意匠公報に記載のライターの意匠は、ライター上部とライター下部の仕切り線やその間に配設される帯状部分が直線で構成されているため、本件意匠が醸し出す全体としての優美なスマートさとは異なる印象をもたらすものである。
 したがって、被告が指摘する各公知意匠の存在をもって、本件意匠の要部として当裁判所が認定した構成が公知でありふれたものであったということはできない。

4 本件意匠と被告意匠との類否について
(1) 以上の認定判断を前提に、被告意匠1が本件意匠と類似するか否かを検討する。
ア 被告意匠1のうち、当裁判所が本件意匠の要部と認定した構成に対応する構成は、前示2認定のとおり、ライター上部の上辺が正面視中央を頂点とし両端にむけて緩やかに下降する曲線を描き、ライター上部とライター下部の仕切り線は正面視で左端から中央部分まで右上がりの円弧線を描き、同円弧線右端からライター本体右端まで水平直線を描くとともに、ライター上部の上辺とライター上部とライター下部との仕切り線とは、略平行である、というものである。これを本件意匠と対比すると、ライター上部とライター下部の仕切り線の形状が相違し、その余の構成は本件意匠と同じである。
 すなわち、上記仕切り線の形状については、本件意匠が「正面視で左端からライター本体の約7分の1までは水平直線、同水平直線右端からライター本体中央部分までは右上がりの円弧線、更に同円弧線右端からライター本体右端までは緩やかな右上がりの曲線を描く」というのに対し、被告意匠1は「正面視で左端から中央部分まで右上がりの円弧線を描き、同円弧線右端からライター本体右端まで水平直線を描く」というものである。
 そこで、上記ライター上部と同下部との仕切り線の形状の相違部分について検討するに、本件意匠及び被告意匠ともに、正面視ライター本体中央部分を境として、左側が右上がり円弧状である部分は同じであるが、@同中央部分右側が、本件意匠では緩やかな右上がりの曲線であるのに対し、被告意匠では水平直線である点、Aその正面視左端の形状が、本件意匠では左端から約7分の1までは水平直線であり、同水平直線右端からライター本体右端までは緩やかな右上がりの曲線を描いているのに対し、被告意匠では同左端から直ちに右上がりの円弧線を描いている点が相違する。しかし、@の点については、本件意匠の緩やかな右上がりの曲線はその傾斜角度が極めて緩やかで水平に近いものである上、その曲率も低く直線に近いものになっている。また、Aの点についても、左端にわずかな水平直線が存在し、右上がり円弧状の曲率がやや異なるとはいえ、これによりもたらされる風防部分の正面視形状には大きな差違がなく、その結果、全体として、本件意匠と同様の優美なスマートさによる独特の美感がもたらされており、上記相違点は、本件意匠の同様の審美性を看者に印象づける妨げにはならないというべきである。
 以上のとおり、被告意匠1の構成は、本件意匠とその要部において共通する。
イ また、上記ア以外の他の要素を検討しても、前記1(1)及び(2)、2(1)及び(2)から明らかなように、被告意匠1は、本件意匠と基本的構成態様においてほぼ同一であり、具体的構成態様においても、ライター本体、同上部、同下部の多くの部分において同様の形状を採っている。
ウ もっとも、本件意匠と被告意匠1とは、@ライター本体の平面視が略長円形状か楕円形状か、A風防部分の上面のスリットや側面の空気吸引用スリットの数及び炎調整レバーの有無、B押下部分の柱部の容器の凹凸による縦縞の有無の各点において相違する。
 しかし、ライターの取引態様は、前記3(2)で認定説示したとおり、カタログの商品掲載においても、店頭での商品陳列においても、ライターの胴体部分、着火部分及び押下部分の全体を正面又は背面から広く見ることができるように配置されている上、店頭でライターを購入する需要者は、手に取るなどして商品であるライターを見て、主に胴体部分、着火部分及び押下部分の全体を正面又は背面方向から広く商品を観察するとともに、着火動作や押下部分の押下げ動作のしやすさ、携帯のしやすさ等をも確認して、購入するものであるし、使い捨てライターの平面視において長円形状のものも楕円形状のものも公知でありふれたものである。また、公知のライターの意匠において、各種スリットや炎調整レバーの有無、個数は様々であり、その形状も小さくてそれほど目立つものではない。このことから考えると、取引者及び需要者がその平面視の形状を重視してそれが長円形状であるか楕円形状であるかに注意を払い、また、各種スリットや炎調整レバーの有無や個数にことさら着目してライターを購入するとは考え難い。したがって、@及びAの相違点は見る者の注意を惹くことのない微差にすぎないものというべきである。
 また、Bの相違点については、同様の模様を有する公知意匠が存在し、それ自体ありふれた構成というべきであって、特段看者の注意を惹く構成ということはできないから、上記要部が共通することにより醸し出される同一の美観を打ち消すものということはできない。
エ そうすると、本件意匠と被告意匠1は、要部及びその他の部分において多くの共通点を有し、共に優美なスマートさという共通の印象をもたらす構成を有しており、上記各相違点はあるもののいずれも微差であって意匠として異なる印象をもたらすには至っていない。したがって、本件意匠と被告意匠1とは、類似するというべきである。
(2) 次に、被告意匠2が本件意匠に類似するか否かについて検討する。
ア 被告意匠2に特有の構成は、前示2(3)のとおりであり、要するに、被告意匠1に、ライター下部(胴体部分)の外部から視認し得る内部構造(液化燃料ガスのタンク部)の構成が加わったものであり、この点を除く本件ライターの構成は、被告意匠1と同じである。そして、被告意匠1が本件意匠に類似するというべきことは、上記(1)で認定説示したとおりであるから、結局、上記視認し得る被告ライターの内部構造が被告ライターの模様として、その類否判断に影響するか否かが問題となる。
イ 物品の形状が全体として類似の範囲を出ておらず、かつ、その形状に表した模様等が、物品の形状における類似性の判断を左右する程の特段の意匠的意義を有しないものといわざるを得ないときには、模様の相違をもって意匠として非類似であるということはできないというべきである。
 そこで検討するに、被告意匠2に特有の構成は、@中央部分に液化燃料タンクの上端から底部近傍に垂下された板状の区画壁で左右に仕切られ、左右のタンク底部の近傍で連通され、A正面視左方タンクの上端は、右方タンクの上端より高く、胴体部分の上から約3分の1程度の高さに位置していて、B正面視左方タンクには、その上方にねじ込み固定された略円柱状に形成された開閉バルブボディが気密状に取り付けられ、この開閉バルブボディから細径で微細孔を有する気化用フィルタが底部近傍まで延出し、C正面視右方タンクは、胴体部分の約2分の1の高さの位置に形成され、その上方には着火機構収納部が形成され、D上記着火機構収納部には、圧電素子を内装したテレスコピック式の略直方体のケースが上下方向に配設され、上端部分が押下部分で押し下げられるようになっている、というものである。しかしながら、ライターの胴体部分が透明で、内部構造を視認し得るものとしては、前示3(4)で認定したとおりのものが知られており、胴体部分が透明で内部構造を視認し得るという構成自体はきわめてありふれたものであって、そのような構成自体は到底取引者及び需要者の注意を惹くものとは認められない。また、具体的構成を検討しても、上記認定の既存のライターの外部から視認し得る内部構造は、いずれも被告意匠2とほぼ同様の構成を採っており、これらの内部構造は、その大部分がライターの着火機能上通常有する形態にすぎないというべきであり、看者の注意を特に惹くものではないというべきである。
 そして、使い捨てライターは、安価で入手が容易な商品であるから、購入者が残量等に常時注意を払わねばならないような商品ではないということができ、そうすると、容器が透明であって内部構造を視認し得るというのみでは、取引者や需要者に、形状が同じであるが容器の色やありふれた模様が異なるといった程度の認識しかもたらさないものと考えられる。
 被告は、被告ライターのうち、とりわけ容器が透明なものについては、内部構造が視認でき、その結果、意匠として異なる印象を与えると主張し、容器を透明とするライターの意匠公報(乙20)や、胴体部分の模様の相違によって別々に登録されているライターの意匠公報(乙13ないし17)を提出する。
 しかしながら、被告の提出する、容器を透明とするライターの意匠公報(乙20)には、風防カバーや操作レバーの説明、あるいはこれらの着火時の操作方法の説明が記載されており、そのことからすれば、同意匠公報におけるライターの意匠は、容器が透明で内部構造を視認し得ることのみをもって登録されたものではないことが窺える。また、被告が胴体部分の模様の相違によって別々に登録されているとして提出するライターの意匠公報(乙13ないし17)の記載されているライター胴体部分の模様は、いずれも意匠的意義を見いだすことができるから、これらのライターが別々に登録されているからといって、視認可能な内部構造に意匠的意義が認められない被告意匠2が本件意匠に類似しないということはできない。その他、被告ライターの内部構造が、従前の容器が透明なライターにおける内部構造と比較して、意匠的意義を有すると認めるに足りる証拠はない。そうすると、被告意匠2に特有の構成が、被告ライターに付された模様として、物品の形状における類似性の判断を左右する程の特段の意匠的意義を有するということはできず、被告意匠2も、本件意匠に類似すると認められる。
(3) 意匠権侵害
 以上のとおり、被告意匠は、いずれも本件意匠と類似し、原告の有する本件意匠権を侵害するから、原告は、被告に対し、被告意匠に係る物品である被告ライターの製造、輸入、販売及び販売のための展示を差し止めるとともに、被告ライターの廃棄を求めることができる。

5 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。

〔論  説〕

1.この意匠権侵害事件の判決において、裁判所が認定判示している事項について取り上げ、それについて研究したい。
 この事件における争点は、原告の登録意匠と被告の実施意匠とが類似するか否かの一点に絞られていたが、類否判断を行うに至るまでの事実認定には、かなり面白い考え方が示されているから、順番にそれらを取り上げてみる。

2.第1の認定として、判決は、意匠法2条1項を引用し意匠の定義を紹介した後、ライター容器が透明であるために視認可能となる内部構造について、これをライターの「模様」と把握し、ライター意匠の構成の一部となり得ると認定した。
 しかし、容器自体が透明で内部が透視できるかどうかという問題と、だから内部構造は模様となるとの論理は、短絡すぎて矛盾しているといえる。
 ライターの内部構造自体は、特許法や実用新案法の保護対象とはなっても、意匠法の保護対象となるものと解することはできない。そこは単に、容器形状の透明性を認定するだけで十分であり、視認できるとはいえ、内部構造自体を容器の模様と見たことは、感性過剰といわなければおかしい。
 したがって、その内部構造を意匠構成の一部と認定したことは誤りというべきである。
 裁判所としては、透明な容器体から内部が視認できることを理由に、意匠の形態を構成する模様と理解した立場上、後で、被告の同様の主張に対して釈明しなければならなくなったのである。

3.第2の認定として、判決は、本件意匠と対比する被告意匠について、両者の形態の構成態様の相違点を「アンダーライン」で明示したことは、画期的なことである。今までこの種事件の判決文において、このような方法を採ったものを私は知らない。
 しかし、このような記載説明は、当事者にとっては理解し易いことかも知れないが、裁判所としてはそこまでサービスする必要があるのだろうか、疑わしい。

4.第3の認定として、裁判所は意匠の類否判断の方法について、「意匠を全体として観察した上、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様等、さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等をも参酌して、取引者・需要者の注意を最も惹きやすい部分を登録意匠の要部として把握し、登録意匠と対象となる意匠とが要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察して、両意匠が全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。」と判示していることは、概ね妥当なようには見える。
 しかし、物品の性質、用途、使用態様(これらは物品が有する基本的形態と換言できる。)や公知意匠を参酌して、新規な創作部分を把握考慮すると裁判所が考えたことは正解としても、その後で取引者・需要者の注意をもっとも惹く部分(要部)を把握するとしたことは、創作部分と注意部分とを別次元のものと考えているようであるし、「登録意匠の要部」とは前者をいうべきなのに、後者のように考えたりしているから、意匠の類否判断を行う裁判所の姿勢としては、きわめて曖昧で不明確であるといわざるを得ない。
 しかも、判決は最後に、全体の美感の共通性の有無についてまで付言しているが、これは、意匠の形態を構成する態様についての創作の要部が一致すると判断した上でなければ、蛇足というべきものである。
 そして、このような判示をしているこの判決の考え方を総括すれば、結局、この裁判所は意匠の類似の何たるかを本質的に理解していないから、類否判断の方法についてもその考え方は支離滅裂となっているといわねばならない。
 そこで、意匠の類否判断の正しい方法をあえて述べるならば、登録意匠が存在している原因をまず精査することから始めねばならない。そのためには、登録意匠に関する当該物品が有する基本的形態や公知意匠との対比による創作的形態を把握することを的確に行うことである。この把握ができれば、登録意匠の要部の認定は終了するが、同様の作業は対象意匠についても行うことである。そして、両意匠が、それぞれ有する創作的形態(創作の要部)を対比するのである。注意や美感や印象は、端的に言えば、その後で付け足せばよい結果用語である。(注)

5.ところで、一般の需要者(消費者)にとっては、登録意匠の出願前にどのような公知意匠といえるライターが存在していたかについての知識はないから、かれらが注意を引く部分は、必ずしも創作された新規な形態を含む部分とは限らず、公知意匠の形態部分を含む場合も十分あり得る。したがって、商品として見るしか能力のない需要者には、当該物品に係る意匠の創作的形態を把握する能力はないから、意匠の類否を判断する能力も資格もない。まして、見ての印象や注意や美感という専ら感性に頼るしかできず、そこから進んで理性的判断をするに至ることはできないから、そのような需要者を、意匠の類否判断をする人的基準と考えることは、誤った結論を導くことになる。

6.判決は、容器の透明体から見える「内部構造」を「模様」と視認したが、その結果、何一つ新規性のある模様体を把握することができず、ライターの着火機能上の通常有する形態と認定したことは、当然のことである。判決は、被告意匠の内部構造に特段の「意匠的意義」が認められないというが、これは創作性が認められないという意味である。
 判決は、容器体が透明か不透明かにかかわらず、その違いを無視し、同一形状のものと把握したことから、被告の不透明容器から成る物件目録1と透明容器から成る物件目録2は、いずれも原告の本件意匠(不透明容器)と全体形状が類似するものと判断したが、結論としては妥当であるといえる。
 しかし、その思考過程が前記のようにわかりにくいことから、読者にとっては依然として「意匠はわからない」という印象を与えてしまっているとすれば残念である。
 裁判所を含む実務者の意匠法についての研鑚を願うものである。

 (注)拙著『意匠権侵害−理論と実際』19頁以下参照(経済産業調査会2003)

[牛木理一]