A-23

 

ラップフィルム摘み具事件:東京地裁平16(ワ)17501平成16年10月29日判(認)

〔キーワード〕 
物品の類否、意匠の利用

〔事  実〕

 

 本件は、ラップフィルム製品を製造販売している原告(呉羽化学工業株式会社)が、意匠権を有する被告(Y)に対し、原告の上記製造販売につき、被告が当該意匠権に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を有しないことの確認を求めた事案である。
被告は、平成13年12月6日に出願し、平成14年8月9日に設定登録された意匠登録第1154249号に係る登録意匠の意匠権者である立場から、原告に対し原告製品の製造販売の中止等を求める警告書を発していた。

 

〔判  断〕

1 本件意匠権侵害の有無
 被告は,原告包装用箱の意匠が本件意匠と類似するとして,原告包装用箱を使用した原告製品を製造販売する原告の行為が本件意匠権の侵害となる旨主張する。
 しかし,当裁判所は,以下の理由から,原告の上記行為は本件意匠権の侵害に当たらないと判断する。
(1) 類似性について
ア 被告は,原告包装用箱は,単に,旧型のクレラップの包装用箱に「つまめるフラップ」を付けただけのものではなく,包装用箱の前壁裏側に,箱の長さ分の「横長矩形部」(台座)を設けて「つまめるフラップ」を連結させたものであり,「つまめるフラップと横長矩形部で構成された部品」(乙17の2)を包装用箱に一体的に付けたものであるから,この部品の意匠と本件意匠とを対比すれば,両者は類似している旨主張する。
イ しかし,被告の上記主張は,採用できない。
 すなわち,意匠法における「意匠」とは,いわゆる部分意匠として登録されるような場合を除けば,物品全体の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって,視覚を通じて美感を起こさせるものをいうのであるから(意匠法2条1項参照),意匠とこれに基づいて表現された物品とは不可分の関係に立つというべきである。したがって,登録意匠と被告物品に係る意匠とが類似しているというためには,それぞれの「形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合」が単に類似するというだけでは足りないのであって,登録意匠に係る物品と被告物品とが類似していることも必要である。そして,この場合に,対比の対象とされる当該物品は,流通過程に置かれ,取引の対象とされる独立した物品を指すものというべきであって,単に,当該物品の一部を構成するにすぎない部分を指すと解すべきではない。
 本件意匠に係る物品は「ラップフィルム摘み具」であるのに対し,原告が製造販売している物品は原告包装用箱を使用した原告製品であるから,両者は用途,機能等を異にし,物品として同一性又は類似性がない。
 被告の主張に係る前記「つまめるフラップと横長矩形部で構成された部品」は,被告において,原告包装用箱の特定の部分(フラップ部分と包装用箱の前壁裏側部分)のみを,恣意的に,ハサミで切り離して,分離させたものにすぎないのであって(検甲1ないし3,乙17の1〜3),それ自体が経済的に独立した商品として流通過程に置かれた物品ではないことは明らかである。したがって,上記「つまめるフラップと横長矩形部で構成された部品」をもって,本件意匠に係る物品である「ラップフィルム摘み具」に当たるとすることはできないから,両者の意匠が類似するかどうかを検討するまでもなく,被告の上記主張は理由がない。
(2) 本件意匠の利用について
ア 被告は,原告包装用箱には,「つまめるフラップ」があり,これは箱の前壁裏側の「横長矩形部」に連結し,「つまめるフラップと横長矩形部」からなる部分は一体をなして箱本体と独立しているから,原告包装用箱の意匠は本件意匠を利用したものである旨主張する。
イ しかし,被告のこの点の主張も,採用できない。
 原告包装用箱の意匠が,本件意匠を利用する関係に立つというためには,少なくとも,@原告包装用箱のうちで本件意匠に対応する部分が,原告包装用箱の他の部分と截然と区別して看取できることを要し,かつ,A原告包装用箱の区別して看取できる部分が,本件意匠と同一又は類似であることを要すると解すべきである。
(ア) 「つまめるフラップ」部分
 原告包装用箱には,箱前面の中央上端に,あらかじめミシン目及び切り込みを入れて,同ミシン目部分を指などで押して切り離すことによって,箱の折り曲げ部から下方に向けておおむね先細となるフラップ状部分(「つまめるフラップ」)を形成させているが,同部分は,原告包装用箱本体と一体に形成されており,原告包装用箱の他の部分と截然と区別して看取できるということはできない。
 また,仮に,原告包装用箱の「つまめるフラップ」を本件意匠(本件意匠は,平板な横長矩形部材と平板な台形部材とを上側折り曲げ部で連結し,台形部材は上側折り曲げ部から下方に向けて先細となるとの構成を有する。)における「台形部材」に対応させて対比してみても,原告包装用箱には,本件意匠における「横長矩形部材」に相当する部分が存在しないので,本件意匠と同一又は類似であるとすることもできない。
 さらに,仮に,原告包装用箱の「つまめるフラップ」部分と本件意匠「台形部材」部分を対比したとしてみても,前者は,台形の斜辺に対応する線が,上端折り曲げ部から下方に向けて,上側から約4分の1まで一旦広がり,そこから先細となる曲線から構成され,下側の2つの角部は,丸められた鈍角で構成されているのに対して,後者は,縦長の台形形状であり,斜辺は直線で,4つの角部は,上側の2つが尖った鋭角で構成され,下側の2つが尖った鈍角で構成されていることからすれば,両者は看者に与える美感を異にし,類似しない。
(イ) 「つまめるフラップと横長矩形部で構成された部品」部分
 原告包装用箱の「つまめるフラップと横長矩形部で構成された部品」部分は,原告において,台紙を折って形成された原告包装用箱の完成品を展開して,特定の部分のみを,恣意的にハサミで切り離して,分離させたものにすぎないのであって,原告包装用箱の他の部分と截然と区別して看取できるということはできない。したがって,原告包装用箱の前記部分については,本件意匠との類否を判断するまでもなく,本件意匠の利用と解する余地はない。

〔論  説〕

 判決文のコピーによると、物件目録として提出されている原告製品についての写真1〜5の表現が全く不鮮明であるため、被告の本件意匠と対比することができない。したがって、ここで研究することは、裁判所が判示している事項に対して専ら考えることにする。
  被告は、本件意匠の出願時も本件裁判時も、代理人を付けることなく、自分1人ですべてを行っている。

 意匠の類否判断の第一条件は、両意匠に係る物品が類似することであり、もし類似していなければ問題にならず、それだけでも請求棄却となる。
  すると、本件意匠に係る物品は「ラップフィルム摘み具」であるのに対し、原告意匠に係る物品は「包装用箱」であるから、裁判所が非類似物品と判断したことは妥当である。前者は包装用箱にセットして使用する部品であるのに対し、後者はその部品をセットした包装用箱である。

 そこで、(全体)物品と部品との関係にある意匠の場合、意匠の利用関係が成立するか否かが争われることになる。
  裁判所は、本件の場合、意匠の利用関係が成立するための条件として、@本件意匠に対応する部分が、原告包装用箱の他の部分と截然と区別して看取できること、Aこの看取できる部分が本件意匠と同一又は類似であること、を必要とすると解した。
  筆者には、原告意匠に係る形態の構成態様を判決文コピーから全く把握することができないから、判決の認定と判示を紹介することしかできないが、判決は、「つまめるフラップ部分」は原告包装用箱と一体に形成されており、截然と区別して看取することができないと判示している。

 本件の場合、その利用関係の有無を考える対象となった部品が原告の包装用箱から分離可能な「ラップフィルム摘み具」であったのであれば、この部品の形態の類否が争点となる。
  すると、本件の場合にあっては、「減速機」の意匠権侵害をめぐる東京地判平成15年1月31日及び東京高判平成15年6月3日に通ずるような、考えさせられる事案のようにも見える。→A-18参照

[牛木理一]