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「トラックの荷台扉開閉用ハンドルの掛金」意匠権侵害差止等請求控訴事件:東京地裁平13(ワ)5737平成13年11月30日判・棄(民47)/東京高裁平14(ネ)150平成14年5月23日判・棄(6民)

〔キーワード〕 
公知意匠、看者の注意を引く部分、類似意匠、無効理由

〔事  実〕

 原告(タキゲン製造株式会社)は、「貨物トラックの荷台扉開閉用ハンドルの掛金」に係る意匠を、平成3年12月28日に出願し、平成8年4月8日に設定登録した意匠登録第957117号の意匠権者である。この登録意匠は2つの類似意匠を登録している。
 被告(日本ボデー・パーツ工業株式会社)は、平成6年頃より被告製品に係る掛金を販売している。
 原告、被告に係る製品は、いずれも貨物トラックの荷台後部に装備され、観音開き式扉の開閉ハンドルを扉閉鎖時に扉に対して停止固定するために使用されるものである。別紙参照
 本件の争点は、(1)両意匠の類似、(2)本件意匠権の無効理由、(3)原告の損害にあった。

 

〔東京地裁の判断〕

 

1 争点(1)について
(1) 本件意匠の構成
ア 証拠及び弁論の全趣旨によると、本件意匠の構成は、以下のとおりであると認められる(数字及びアルファベットの表記は、別紙「対比表」記載のものである。)。
(ア) 基本的構成態様
  本件意匠は、別紙「対比表」記載のとおり、底部に開口部1を有する本体基台2上に平面視又は底面視略台形状の起立台3が設けられ、起立台3の上面には正面視上向きの略コの字状の開口部4が開設され、開口部4には背面側のスプリング5に付勢され支点Aを中心に回動自在の掛金レバー6が本体基台2の中央長手方向に沿って設けられていると共に、その先端部に下向きのフック部6aが形成されており、本体基台2は、その正面視の形状が起立台3を立設した縦長の本体2a側については両側が平行な直線状部7、7に形成され、平行な直線状部7、7から上方へは外向き傾斜部2b、2bを介して上方側2cが大きな幅広部2dとして形成されることで、全体として略T字状を基調としてなる構成を、その基本的構成態様とする。
(イ) 具体的構成態様
 ? 本件意匠は、本体基台2において、外向き傾斜部2b、2b内に1対のネジ孔9、9が穿設され、上方側2cの両隅が平坦面となっており、さらに幅広部2dの上面には縦長状に3条の縦リブ8が突設されており、略コの字状の開口部4には掛金レバー6の根元部6bの両側に開口部より幅広な切欠部10が形成され、起立台3の上面には掛金レバー6の下方にシリンダ錠取付孔11とネジ孔12が設けられ、掛金レバー6はその先端部に設けたフック部6aが垂直部6cと傾斜部6dから形成され、その先端が本体基台2の上端部よりやや下方に位置してなる構成を、その具体的構成態様とする。
イ この点、原告は、本件意匠の基本的構成態様のうち、本体基台が全体として「略T字状を基調としてなるもの」(上記下線部分)ではない旨主張する。
 しかし、上記ア認定のとおり、本体基台は、その正面視の形状が起立台3を立設した縦長の本体2a側については両側が平行な直線状部7、7に形成され、平行な直線状部7、7から上方へは外向き傾斜部2b、2bを介して上方2c側が大きな幅広部2dに形成されているから、本体基台は、「略T字状を基調としてなるもの」であると認められる。
  したがって、原告の上記主張は採用することができない。
(2) 被告製品の意匠構成
 証拠及び弁論の全趣旨によると、被告製品(1)ないし(4)の意匠の構成は、次のとおりであると認められる(数字及びアルファベットの表記は別紙「対比表」記載のものである。)。
ア 被告製品(1)について
(ア) 基本的構成態様
  被告製品(1)は、底部に開口部1を有する本体基台2上に平面視又は底面視略台形状の起立台3が設けられ、起立台3の上面には正面視上向きの略コの字状の開口部4が開設され、開口部4には背面側のスプリング5に付勢され支点Aを中心に回動自在の掛金レバー6が本体基台2の中央長手方向に沿って設けられていると共に、その先端部に下向きのフック部6aが形成されており、本体基台2は、その正面視の形状が、起立台3を立設した本体2a側の両側2e、2eについては、手前側から上方へ順次外向きに幅広傾斜したテーパ状に形成され、その上方で起点Fを介して上方側2cの両側が直線状部2f、2fとして形成されることで、全体として縦長の略逆台形状を基調としてなる構成を、その基本的構成態様とする。
(イ) 具体的構成態様
  被告製品(1)は、本体基台2の上方側2cの両側下端部には1対のネジ孔7、7が、さらにその上方には1対の横長孔8、8がそれぞれ穿設されると共に、上方側2cの上方両隅部には、隅方向へ傾斜するカット面Dが形成され、上方側2cの上面には縦長状に3条の縦リブが突設され、略コの字状の開口部4においては、掛金レバー6の根元部6bの上面に略小判状の凹状部9が形成されると共に、根元部の両側に開口部4より幅広な切欠部10が形成され、起立台3の上面には掛金レバー6の下方にシリンダ錠取付孔11とネジ孔12が設けられ、掛金レバー6は、その先端が本体基台の上端部2gと略同面に位置すると共に、先端のフック部6aが嘴状の尖鋭な形状からなり、その両側面に1対の長孔13が貫通されている構成を、その具体的構成態様とする。
イ 被告製品(2)について
(ア) 被告製品(2)の基本的構成態様は、被告製品(1)の構成態様と同様である。
(イ) 被告製品(2)と被告製品(1)との相違点は、具体的構成態様において、掛金レバーの根元部の上面に形成された凹部が略D字状を呈しており、掛金レバーの先端が本体基台の上端部よりやや下方に位置しているという点である。
ウ 被告製品(3)について
(ア) 被告製品(3)の基本的構成態様は、被告製品(1)の構成態様と同様である。
(イ) 被告製品(3)と被告製品(1)との相違点は、具体的構成態様において、掛金レバーの根元部の上面に形成された凹状部が略D字状を呈しており、掛金レバーの先端が本体基台の上端部より下方(被告製品(2)よりもやや下方)に位置しているという点である。
エ 被告製品(4)について
(ア) 被告製品(4)の基本的構成態様は、被告製品(1)の構成態様と同様である。
(イ) 被告製品(4)と被告製品(1)との相違点は、具体的構成態様において、掛金レバーの根元部の上面に横5列縦6列の小突起群が形成されており、掛金レバーの先端は本体基台の上端部よりやや突出しているという点である。
オ この点、原告は、被告製品の意匠の基本的構成態様のうち、本体基台が全体として「縦長の略逆台形状を基調としてなるもの」(上記下線部分)ではない旨主張する。
 しかし、上記アないしエ認定のとおり、被告製品においては、本体基台2は、その正面視の形状が、起立台3を立設した本体2a側の両側2e、2eについては、手前側から上方へ順次外向きに幅広傾斜したテーパ状に形成され、その上方で起点Fを介して上方側2cの両側が直線状部2f、2fとして形成されているから、「縦長の略逆台形状を基調としてなるもの」と認められる。
  したがって、原告の上記主張は採用することができない。
カ また、被告は、被告製品の上方側2cの上面に縦長状に3条の縦リブが明確に突設されている(上記下線部分)とはいえないと主張するが、証拠と弁論の全趣旨によると、上記縦リブが明確に突設されていることが認められる。
(3) 本件意匠と被告製品の共通点
 本件意匠の構成と被告製品の意匠の構成は、以下の点で共通している。
ア 基本的構成態様
 底部に開口部を有する本体基台上に平面視又は底面視略台形状の起立台が設けられ、起立台の上面に略コの字状の開口部が開設され、開口部には背面側のスプリングに付勢され支点を中心に回動自在の掛金レバーが本体基台の長手方向中央に設けられると共に、レバーの先端部には下向きのフック部が形成されている構成
イ 具体的構成態様
 起立台の上方側の両側下端部にネジ孔が設けられ、本体基台の上方側の上面には縦長状に3条の縦リブが突設され、掛金レバーの根元部の両側に開口部より幅広な切欠部が形成され、掛金レバーの下方部にはシリンダ錠取付孔とネジ孔が設けられている構成
 掛金レバーのフック部の先端が本体基台の上端部よりやや下方に位置している構成(被告製品(2)及び(3))
(4) 本件意匠と被告製品の相違点
上記本件意匠の構成と被告製品の意匠の構成は、以下の点で相違している。
ア 基本的構成態様
本体基台の正面視の形状に関し、本件意匠は、縦長な本体の両側が平行な直線状部として形成されており、平行な直線状部から上方へ、両側の外向き傾斜部を介して上方部分が幅広部として形成されているため、全体が略T字状を基調とした形状となっているのに対し、被告製品においては、本体の両側が手前側から上方に向けて順次外向きに幅広な傾斜状のテーパ部として形成されており、テーパ部から上方へ、両側の起点を介して略平行な直線状部として形成されているため、全体が縦長の略逆台形状を基調とした形状となっている。
イ 具体的構成態様
(ア) 本件意匠においては、1対のネジ孔は、幅広部の両側下端部の傾斜部内に設けられているが、被告製品においては、1対のネジ孔が、テーパ部から直線状部への起点の両側に設けられている。
(イ) 本件意匠の掛金レバーの先端に設けられたフック部は、垂直部と傾斜部から形成されているが、被告製品においては、掛金レバーのフック部は嘴状の尖鋭な形状からなり、先端部側面には長孔が形成されている。
(ウ) 被告製品においては、掛金レバーの根元部の上面に凹部又は小突起群が形成されているが、本件意匠には、このような凹部又は小突起群が存在しない。
(エ) 本件意匠においては、本体基台の上方両隅が平坦面となっているのに対し、被告製品においては、本体基台の上方両隅部を隅方向へ傾斜するカット面が形成されている。
(オ) 被告製品においては、本体基台の上端部に1対の長孔が形成されているが、本件意匠には、このような長孔が存在しない。
(カ) 本件意匠においては、掛金レバーのフック部の先端が本体基台の上端部よりやや下方に位置しているが、被告製品(1)においては、掛金レバーの先端が本体基台の上端部と略同面に位置し、被告製品(4)においては、掛金レバーの先端は本体基台の上端部よりやや突出している。
(5) 公知意匠の構成等
 証拠及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
ア 日本フルハーフは、遅くとも平成3年6月ころには、別紙「出願前製品」目録記載の製品を販売していた。
イ 日本フルハーフ出願に係る別紙「公開特許公報」(平成3年2月25日公開)には、同図面第1ないし第4図、第6図、第10ないし第13図のとおり、扉開閉用ハンドルの掛金が図示されている。
ウ 上記ア記載の商品の意匠及び上記イ記載の図面の意匠は、いずれも、「底部に開口部を有する本体基台上に平面視又は底面視略台形状の起立台が設けられ、起立台の上面に略コの字状の開口部が開設され、開口部には背面側のスプリングに付勢され支点を中心に回動自在の掛金レバーが本体基台の長手方向中央に設けられると共に、レバーの先端部には下向きのフック部が形成されている構成」を有している。
エ 上記ア記載の商品の意匠及び上記イ記載の図面の意匠は、いずれも、「本体基台の上端部の左右両肩部分が斜めに欠除されることによって、上に向かうほど横幅寸法が減少していく先細り形になっており、本体基台の正面視における全体形状は、下辺が上辺と比較して明らかに長く、上向きに凸のイメージを有する形状」である。
(6) 本件意匠と被告製品の意匠との対比
ア 上記(5)で認定した事実によると、本件意匠の基本的構成態様のうち、「底部に開口部1を有する本体基台2上に平面視又は底面視略台形状の起立台3が設けられ、起立台3の上面には正面視上向きの略コの字状の開口部4が開設され、開口部4には背面側のスプリング5に付勢され支点Aを中心に回動自在の掛金レバー6が本体基台2の中央長手方向に沿って設けられていると共に、その先端部に下向きのフック部6aが形成されている構成」は、本件意匠の出願前において公知であったと認められるから、本件意匠の基本的構成態様のうち、この部分は、看者の注意を引く部分ということはできない。本件意匠の基本的構成態様のうち、看者の注意を引く部分は、「本体基台2は、その正面視の形状が起立台3を立設した縦長の本体2a側については両側が平行な直線状部7、7に形成され、平行な直線状部7、7から上方へは外向き傾斜部2b、2bを介して上方側2cが大きな幅広部2dとして形成されることで、全体として略T字状を基調としてなる構成」にあるものというべきである。
イ しかるところ、被告製品の意匠は、前記(4)認定のとおり、上記認定に係る本件意匠の基本的構成態様のうち、看者の注意を引く部分の構成が異なっている。
 また、被告製品の意匠は、前記(4)認定のとおり、具体的構成態様においても、本件意匠とは、多くの点で相違している。
ウ したがって、被告製品の意匠は、本件意匠と類似しているとは認められない。
エ 原告は、本件意匠と被告製品の意匠との基本的構成態様の相違について、張り出した部分の角度が、多少鈍角か鋭角かの微妙な違いがあるにすぎない旨主張する。
 しかし、すでに認定したとおり、本体基台の正面視の形状に関し、本件意匠は、全体が略T字状を基調とした形状となっているのに対し、被告製品においては、全体が縦長の略逆台形状を基調とした形状となっているのであるから、その違いは、原告が主張するような微妙な違いにすぎないとは到底認められない。
オ また、証拠及び弁論の全趣旨によると、別紙「類似意匠公報」記載の類似意匠(本件類似意匠)が登録されているところ、本件類似意匠は、被告製品(1)の意匠と同じものであることが認められる。
 しかし、意匠の類否は、本件意匠との対比によって決せられるべきであるうえ、被告製品(1)の意匠は、すでに認定したとおり、本件意匠とは類似しないのであるから、本件類似意匠登録は、本件意匠と類似しない意匠についてされたものというべきである。
 

〔東京高裁の判断〕

   当裁判所は、控訴人の本訴請求は、理由がないから棄却すべきものである、と判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決の「第4 争点に対する当裁判所の判断」のとおりであるので、これを引用する。
1 控訴人は、「T」の字における縦棒線と横棒線の長さの比を根拠に、本件意匠は、全体として略T字状を基調としたものではない、と主張する。
 しかし、原判決が「略T字状」という語を用いたのは、Tの字が縦棒線の頂部に横棒線が乗った形をしていることに着目してのことであり、Tの字の縦棒線と横棒線の長さの比に着目してのことではないことは、その説示自体で明らかである。したがって、原判決の本件意匠の認定自体に、控訴人主張のような誤りはない。仮に、控訴人の主張が、原判決の表現が不正確であるとして、このことを非難するものであるとしても、失当である。控訴人主張の原判決の表現の不正確さは、原判決の結論に影響するものではないのみならず、略T字状であるとは、比喩的な表現であり、控訴人が主張するように厳密な意味でTの字に似ていなければこのような表現を用いてはならないとすべき理由は、見いだし難いからである。控訴人の主張は採用することができない。
 控訴人は、被告意匠は、その正面形状において六辺形となっており、台形という四辺形のものではあり得ないから、全体として略逆台形状を基調としたものということはできない、と主張する。
 しかし、原判決が、略逆台形状という表現を用いたのは、控訴人が主張するように厳密な意味で逆台形状であること、すなわち、四辺形のものであることをいおうとしてのことではないことは、その説示自体で明らかである。したがって、原判決の被告意匠の認定自体に、控訴人主張のような誤りはない。仮に、控訴人の主張が、原判決の表現の不正確さを非難するものであるとしても、失当である。控訴人主張の原判決の表現の不正確さは原判決の結論に影響するものではないのみならず、略逆台形状との表現は、略T字状と同様に比喩的な表現であり、控訴人主張のような厳密な意味で台形でなければこのような表現を用いてはならないとすべき理由は、見いだし難いからである。この点についての控訴人の主張も、採用することができない。
2 控訴人は、日本フルハーフの本件公知意匠が、ハンドル導入部が、左右両肩部分が斜めに切除されていることによって、上に向かうほど横幅寸法が減少していく先細り台形状に形成されているものであるのに対し、本件意匠は、ハンドル導入部を左右方向に拡幅し、各角部に丸みを持たせた点に特徴があるとして、その差異を強調し、本件意匠と被告意匠とが控訴人主張の特徴点において共通性を有することを強調する。
 しかし、控訴人のこの主張は、本件意匠が本件公知意匠とは異なる美観を有する意匠であることを窺わせるものではあるけれども、それと同時に、そのハンドル導入部が左右方向に拡幅されていること、すなわち本件意匠の基本形状が略T字状を基調とするものであることを、再確認させる主張でもある。そして、仮に、両意匠が控訴人主張のような共通性を有するとしても、被告意匠が略逆台形状を基調とする意匠であり、本件意匠が略T字状を基調とする意匠であることは前記認定のとおりであり、この相違により両者の類似性は否定されるのである。控訴人の主張によっても、この点を覆すことはできない。
3 控訴人は、原判決が認定した具体的構成態様の違いは、いずれも被告意匠を本件意匠と非類似のものと認識できるほどの差異でないことは明らかである、と主張する。しかし、原判決も認定しているとおり、本件意匠の基本的構成態様のうち、看者の注意を引く部分は、全体として略T字状を基調として成る構成であり、被告意匠の基本的構成態様のうち、看者の注意を引く部分は、全体として略逆台形状を基調として成る構成であるから、両者は、その基本的構成態様のうち、看者の注意を引く部分においてその構成を異にするものである。したがって、被告意匠は、その具体的構成態様における差異によってではなく、その基本的構成態様における看者の注意を引く部分における差異によって、本件意匠とは類似しないものと認められるのである。具体的構成態様の類似点について論じる控訴人の主張は、本件意匠と被告意匠とが類似しないとの上記結論に影響するものではない。
4 なお、甲第4号証及び弁論の全趣旨によれば、原判決の別紙「類似意匠公報」記載の類似意匠は、被告意匠とほぼ同一であることが認められる。しかし、既に述べたところによれば、被告意匠は、本件意匠とは類似しないことが明らかであるから、上記類似意匠は、本件意匠と類似しないことが明らかな類似意匠であり、その類似意匠登録には無効事由があることが明白であるということができる。

〔論   説〕

1. 東京地裁の判決は、まず本件登録意匠の形態について基本的構成態様と具体的構成態様に分け説明し、次に被告製品(1)(2)(3)(4)の各形態についても基本的構成態様と具体的構成態様に分けて説明している。しかし、当該物品について、何を基準に基本的な構成態様と定めているのかの説明もなければ必然性もない。また判決文を読むかぎり、原告・被告のいずれからもこのような2分しての主張は見当たらないから、裁判所が独自の考え方で2分して説明しているだけである。
  しかる後に、被告が主張立証した公知意匠を引用し、これと本件意匠の基本的構成態様とを対比し、公知の部分は看者の注意を引く部分といえないが、公知でない部分は看者の注意を引く部分といえると認定した。また、具体的構成態様においては両意匠は多くの点で相違すると認定している。
  しかし、このような意匠の類否判断法は逆の論理であり、これでは正確な結論は出せないのである。
2. 意匠の類否判断をするに際し、裁判官が最初にしなければならない作業は、原告が救済を求める当該登録意匠の構造の解析である。そのためには、登録意匠とは、当該物品が固有する基本的形態、周知及び公知的形態、及び創作的形態から構成されているものであることをまず認識することである。そうすれば、意匠法が保護するものは創作的形態であり、それが意匠の要部といわれるものであり、それ以外の形態は意匠の要部を支えるための脇役を演じているにすぎないものであることがわかるのである。
  同じ作業は、被告意匠に対してもすることになり、それによって被告意匠のもつ創作的形態について把握することになる。そして、把握された創作的形態を原告の登録意匠の創作的形態とを対比して、別異のものと認識されれば非類似の意匠といえるし、別異のものと認識されなければ類似する意匠ということになる。換言すれば、意匠の要部どおしの対比である。 
  裁判官にとっては、このような観察作業をする方が、本件判決に見られるような作業をするよりもはるかに容易かつ正確な類否判断ができるのであり、説得力もある。
  かつては、侵害裁判所はこのような手法を通常採っていたはずであるが、いつの間にかわけのわからない手法を採るようになってしまっている。 
  なお、この判決は、公知部分は看者の注意を引かないというが、そのようなことはない。公知部分でも看者の注意を引くものがあるという評価は、いかなる意匠にあっても肯定できるのである。けだし、看者の注意とか印象とかは、視覚を通じて最初に起る現象の感性的判断であり、公知意匠が明らかになった後に考えて起るものではないからである。
3. 本件において、地裁判決は、本件基台の正面視の形状に関し、本件意匠は全体が略T字状を基調とした形状となるのに対し、被告意匠は全体が縦長の略逆台形状を基調とした形状となっているから、看者の注意を引く部分の構成が違うことを理由に、両者は非類似の意匠であると判断した。この点についての認識は、東京高裁においても同じであった。
  この認識に至る過程に裁判所を惑わせたものは、本意匠に対する類似2号意匠であった。即ち、類似2号意匠は本意匠の基調とする全体略T字形状ではなく、被告意匠の基調のような略逆台形状であった。これに対し、地裁は類似2号意匠は本意匠に類似しないと認定し、高裁は類似しないから明らかに無効事由があるとまで言明したから、類似2号意匠の存在は無視され、類否判断は専ら本意匠対被告意匠によって行われた。
  しかし、類似2号意匠は被告意匠と酷似しているのは、原告はこれを見た上で、本意匠の出願日(平成3年12月28日)からはるか後日(平成7年12月25日)に出願したのであった。かつての類似意匠制度は、その功罪は別として、このような類否の確認のために利用されることもあったのは事実である。(判定請求ではおそすぎた。)
  本件意匠の出願日前に公知の意匠が存在していたことから、いずれの判決も、両意匠の基盤全体の形状の違いをとらえて非類似の判断をしているが、公知意匠はこれら2つの意匠とは別異の全体形状から成るものであるから、公知意匠が本件意匠の類似範囲に影響を与えることはなかったはずである。
4. 本件意匠に対しては第三者から登録無効審判の請求がなされ、登録無効の審決がなされている(無効2000−35606号平成13年7月13日審決)。その証拠は、裁判所にも提出された特開平3−43576号公報中の図面であった。
  しかし、形状全体の大きな違いを見れば、両意匠が類似すると判断することは困難である。この非類似性は、本件意匠に対する被告意匠の非類似性に比すればははるかに大きいから、換言すれば本件意匠は公知意匠に類似するというのであれば、被告意匠はそれ以上に本件意匠に類似するといわざるを得ないから、この無効審決には疑問がある。n

[牛木理一]