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「インサート器具」意匠権侵害差止等請求事件:東京地裁平成13年(ワ)27381号平成14年9月27日判決(民47)〈認容〉

〔キーワード〕 
特許権もある意匠権、類似意匠、他の独立意匠、公知意匠

〔事  実〕


 

 石川島建材工業(株)(原告)は、「インサート器具」に関し、昭和60年12月16日に出願し、平成4年6月12日に設定登録した特許第1671524号に係る特許権の特許権者であるとともに、「コンクリート構築物用埋込み具」に関し、昭和62年7月31日に出願し、昭和63年11月15日に設定登録した意匠登録第755800号に係る意匠権(本件登録意匠)の意匠権者である。
 原告は、この2つの権利に基づいて、明電セラミックス(株)(被告)が製造販売している別紙物件目録(1)、(2)記載のインサート器具に対して、差止め等及び損害賠償を請求した事案である。
 本件の争点は、(1)被告製品(1)は本件発明の技術的範囲に属するか、(2)被告製品(2)の製造販売等は本件意匠権を侵害するか、(3)原告の損害額等、であった。

〔判   断〕

  1 争点(1)イ及びウについて
(1) 証拠(甲4ないし22、24)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
ア 本件特許明細書(甲4)には、以下の記載がある。
(ア) 「作用」
 セラミックスによって形成されたインサート本体のめねじは、挿入孔の奥側の内周面 であって錨着力を得るための拡大頭部として機能する大径部分に位置して設けられているため、通常の使用状態における荷重、すなわち、ボルトに引張力としての荷重が作用すると、めねじを有するインサート本体外周のテーパ面はくさび効果を発揮し、インサート本体全体には引張力が圧縮力に変換した荷重が作用することとなる。したがって、インサート本体にクラックや分断などを発生させる原因である引張力はほとんど生じることがない。つまり、前記ボルトからの荷重は、大径部分のテーパ面によって一様に荷重が受けられ、インサート本体の錨着力(定着力)が強まり、特に、このテーパ面の角度が1〜45°の範囲にあるため、大径部分の上端で引張応力による圧力の集中を防止し得て、該テーパ面に圧縮力としての荷重を受ける作用を発揮させることができるものである。
(イ) 「実施例」
 a 45°以上とすると、大径部分1aの上部、ボルトによる引張力がそのまま引張り  
 力として作用するおそれがあり(中略)
?   また、テーパ面3の角度θを15〜30°の範囲に収める如くすると、上部での  
 耐力の低下を一層防止することができるので、好ましい。
?b ボルトが例えば吊りボルトとして使用されている場合に、そのボルトに常に引張 
力としての荷重が作用しても、大径部分1aの外周面(テーパ面)3により一様に荷重が受けられ、いわゆるクサビ効果が発揮され、全体的に圧縮力としての荷重が作用することになる。また、この状態において、テーパ面3には、その角度θが1〜45°に設定されているので、上部での耐力の低下を防止し得て、テーパ面3の途中でクラックなどが生じるのが防止される。
イ 原告が本件特許出願後に出願した別件実用新案明細書(甲11)中には、以下の記載がある。 ?
(ア) 「従来の技術」
 出願人は、たとえば第7図に示すような形状をしたセラミック製のインサート本体を提案した(特願昭60−282465号「インサート器具」参照)。すなわち、これは、構造物内に埋設されるインサート本体2全体を、インサート本体2の下端に向かうに従いその外径が縮小する逆円錐台上に形成したもので、インサート本体2に作用する荷重を、インサート本体外周のテーパ面2aによって一様に受けるように形成したものである。(中略)ところが、このような構成のインサート本体2では、インサート本体2の外周面のテーパがほぼ一直線状に形成されているために、インサート本体2の天面2bとテーパ面2a上部との間の付近におけるインサート本体2自身の肉厚Dがインサート本体2の外周縁に向って薄くなる結果、コンクリート内でインサート本体2に引抜力を作用させると、インサート本体2の天面の外周縁近傍が貝がら状に割れる可能性が高いといった問題点があった。
(イ) 「考案が解決しようとする課題」
 第1に、従来のセラミック製インサート本体2では、インサート本体2の外周面のテーパがほぼ一直線状に形成されているために、インサート本体2の天面2bとテーパ面2a上部との間の付近におけるインサート本体2自身の肉厚Dがインサート本体2の外周縁に向って薄くなる結果、コンクリート内でインサート本体2の引抜力を作用させると、インサート本体2の天面の外周縁近傍が貝がら状に割れる可能性が高いといった問題点である。(以下省略)
(ウ) 「課題を解決するための手段」
 前記本体部は、その外周面に外径が本体部の下端に向かうに従い縮小するテーパ状の受け面を有し、しかも、この受け面は全体的に外側に膨出する形態の球面状をなしており、(以下省略)
(エ) 「作用」
 前記構成のインサート器具によれば、本体部の外周面に有る受面が外側に膨出する形態の球面状をなしているために、その受圧面積が大きく、この結果、本体部の頭部(上部)に作用する力と下部に作用する力がほぼ均等になって、コンクリート内でインサート本体に引抜力が作用しても、本体部の頭部外周縁が壊れたりすることがなくなる。特に、本体部の受面はその上部に行くに従って垂直に傾いていくので、本体部頭部の割れを確実に防止することができる。
ウ 辞書及び辞典類における「テーパ」の項には、以下の記載があることが認められる。
(ア) 製図では品物の片面だけが傾斜しているときこれをこう配といい、相対する両   側面が対称的に傾斜しているとき、これをテーパという。したがって円すい状の場合(きりの柄、工作機械の主軸穴の傾斜など)はテーパである(甲9。図解機械用語辞典第3版 工業教育研究会編)。
 また、同解説部分には、「テーパとこう配」として、台形が記載され、テーパとはa−b/lという記載がある(別紙「テーパ解説図」図1参照)。
(イ) 【tapere】回転体あるいは中央線に対し勾配が対称である物体の、2点間の径または幅の変化の割合。2点での径(幅)をa、b(a>b)、2点間の距離をlとすれば、テーパー=(a−b)/lである(甲10。土木用語大辞典)。
(ウ) taper 投影図又は断面図における相交わる2直線間の相対的な広がりの度合い。(備)対象物が円すい面の場合に、この度合いを角度で表したものをテーパ角度、比率で表したものをテーパ比という(甲24。JIS工業用語大辞典第2版)(別紙「テーパ解説図」図2参照)。
(エ) しだいに細くなる、先細になる、しだいに細くする、先細にする(甲5。小学館ランダムハウス英和大辞典)。
(オ) 小ろうそく、細いろうそく、先細の形、先細り(甲6。リーダース英和辞典)。
(カ) 先が細くなること(甲7。大判カタカナ語新辞典)。
(キ) 機械用語で、わずかの傾斜をつけること。たとえばキーのように根元から先端にいくにしたがって断面がしだいに小さくなり、キーを打ち込んだとき、確実に固定するようになっているようなキーを、テーパーがついているキーという。また軸などでも、ある部分からその直径がしだいに小さくなっているようなとき、テーパーがついているという。先細にしたねじはテーパーねじ、先細のリーマーはテーパーリーマー、先細のピンはテーパーピンという(甲8。日本大百科全書)。
エ 原告が提出している特許等の公報(甲12ないし20)によると、以下の事実が認められる。
(ア) 原告が提出している特許公報における「発明の名称」は、テーパ導波路(甲12)、コンクリート圧送用テーパ管(甲13)、テーパロッドの加工方法(甲14)、入射テーパ光導波路およびそれを用いた波長変換素子(甲15)、交互に配置されたテーパ付素子放射器と導波管放射器とを備えた多帯域フェーズドアレイアンテナ(甲16)、らせん形テーパ切断状切り欠きを備えモーメント容量を最適化された衝撃ビーム(甲17)、テーパ付き導波管のアレイを備えた直視型表示装置(甲18)、締付け固着具(甲19)、テーパードスロットアンテナ(甲20)というものである。
(イ) 上記各特許公報においては、必ずしも直線でないものについて、「テーパ」という用語が用いられている。
(ウ) 上記各特許公報のうち、「テーパ角」に関して記載したものとして、テーパ付き導波管のアレイを備えた直視型表示装置の公報(甲18)があるところ、同特許明細書中の第5図における角度を表示している図面形状は、直線である(原告主張の第8図は、角度を示すものではない)。
オ 証拠(甲21ないし23)によると、インターネット上で販売されている商品に関し、以下の事実が認められる。
(ア) 「テーパーマグ」は、米国テーパービジョン社が共同研究した光ファイバーで 光(像)を伝送する新しい方式のルーぺであり、「光の透過性を高める、断層が六角形のハニカム形光ファイバーを高密度に束ねて加熱、これを引いてテーパー状に加工した物です。」との説明がされている(甲21)が、その形状は必ずしも直線ではない。
(イ) 「ラベラー」によるラベルの貼り方に関して、「テーパー側面」と記載されている(甲22)ところ、その側面の形状は必ずしも直線ではない。
(ウ) 「花春 浮子ラインナップ」中の「逆テーパトップ」及び「浅ダナ逆テーパ」の形状(甲23)は、必ずしも直線ではない。
(2) 以上認定の事実に基づき、構成要件C及びDの「テーパ」の意義について検討する。
ア 一般に「テーパ」という言葉は、必ずしも直線のものだけには用いられていないこ とが認められる。しかし、テーパの「角度」が問題となる場合には、「テーパ」が直線であることが想定されているものと認められる(甲24、18)。しかるところ、本件発明は、テーパ面の角度の数値を限定したものである(構成要件D)。
? そして、本件発明において、テーパ面の角度が1度ないし45度と限定されており(構成要件D)、本件特許明細書中において、この角度は15度から30度の範囲に収めるのが好ましいとされているのは、テーパ面の角度が45度を超えると、大径部分の上部において、ボルトによる引張力がそのまま引張力として作用し、テーパ面の途中でクラックなどが生じるおそれがあるためであるが、このように、テーパ面の角度いかんによってクラックなどが生じるという現象は、インサート本体部の外周面が直線であるときに起こるものと考えられる。なぜならば、インサート本体部の外周面が、内側にくぼむ形状であれば、上記数値限定いかんにかかわらず、上端は周囲のコンクリート中に突出することになり、引張力が作用してクラックなどが生じるおそれが高くなるのに対し、インサート本体部の外周面が、外側に膨らみ、上部が垂直に近づくような形状であれば、上記数値限定いかんにかかわらず、その上部に引張力が作用してクラックなどが生じるおそれが小さくなるものと認められるからである。上記別件実用新案に係る考案は、本件発明の上記角度を限定することに代えて、外側に膨らむ形状を採用することによって、クラックなどの発生を防止したものと認められる。
イ そうすると、本件発明における「テーパ」は直線のもののみを指すものと解するのが相当である。
(3) 証拠(検甲1)によると、被告製品(1)においては、大径部分は、スリーブ側から中央付近に向かって外径が曲線を描きつつ拡大し、最大径となる中央付近から奥側に向かってゆるやかな曲線を描きつつ縮小しており、直線ではないと認められるから、構成要件Cの「テーパ状」及びDの「テーパ面」を充足しないものと認められる。
(4) 以上からすると、原告の本件特許権に基づく請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
2 争点(2)について
(1) 証拠(乙4ないし10、検甲2)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。
ア 本件意匠の構成
(ア) 基本的構成態様
? 正背面に削成面を形成した、下辺部にかけて外周面がゆるやかな丸みを帯びて次第に縮小するインサート本体部と、上縁部の正背面と左右側面の4か所に突出爪部を有する円筒形のスリーブとによって構成されており、インサート本体部の底面部に同軸的にスリーブが嵌合されており、上方部から下方部に向かって貫通する穴(インサート本体部内はネジ穴)が設けられている。
(イ) 具体的構成態様
a インサート本体部は、肩部からその外周面が下辺部に向かって漸次ゆるやかに 縮小する鉢形の形状である。
b 削成面は、インサート本体部の上縁部から肩部の外周面にかけて形成され、上縁径の約1/3幅で、隅丸の逆正三角形状を呈している。
c インサート本体部の上縁に2段の細い縁取りがあり、上の縁が斜状の面取り状に形成されている。上面部の穴は解放されている。
d 突出爪部は、正面視において上半分を切截した瓜の種のごとき形状で、側面視において上方から下方にかけて楔状である。
e スリーブの手前側の端面の形状は平坦である。
イ 被告製品(2)の意匠の構成
(ア) 基本的構成態様
? 正背面に削成面を形成した、下辺部にかけて外周面がゆるやかな丸みを帯びて次第に縮小するインサート本体部と、上縁部の正背面と左右側面の4か所に突出爪部を有する円筒形のスリーブとによって構成されており、インサート本体部の底面部に同軸的にスリーブが嵌合されており、上方部から下方部に向かって貫通する穴(インサート本体部内はネジ穴)が設けられている。
(イ) 具体的構成態様
a インサート本体部は、肩部から下方に向かって外部に膨出し、途中の最大径部 を経て下辺部に向かって次第に縮小する形状である。
 b 削成面は、肩部付近から膨出球面状をなす外周面の最大径部までを垂直に削成して、下辺を水平な直線状としたものであって、その上方に向かって半楕円形状となっている。
c インサート本体部上面に薄い円板状の板が貼り付けられている。
d 突出爪部は、正面視において縦矩形状で、側面視において上方から下方にかけて楔状である。
e スリーブの手前側の端面の外周部にリング状の突起が設けられている。
ウ 類似意匠及び別件登録意匠の存在
(ア) 本件意匠には、別紙類似意匠目録(1)及び(2)の類似意匠が存在する。
(イ) 原告は、本件意匠出願日に、別紙別件登録意匠目録(1)ないし(5)各記載の意匠登録出願を行い、それぞれ意匠登録された。
(2) 被告は、公知意匠として、公開実用新案公報(乙2)、本件特許の公開公報及び「土と基礎」1985年11月号の広告(乙3)を挙げる。
? しかしながら、公開実用新案公報(乙2)に記載されているインサートの形状、本件特許のインサートの形状(甲4)は、いずれも、正面視においてインサート本体部の側面が直線であり、インサート本体部に削成面は形成されておらず、スリーブに突出爪部も形成されていないのであるから、本件意匠とは異なるものである。また、「土と基礎」1985年11月号の広告(乙3)に記載されているものは、インサート本体部とスリーブからなるものではなく、本件意匠とは大きく異なるものである。
? したがって、以上の各意匠については、本件意匠と被告製品(2)の意匠の類否を検討するに当たって考慮しないこととする。
(3) 本件意匠と被告製品(2)の意匠を対比すると、次のようにいうことができる。
ア 基本的構成態様は、同じである。
イ 被告製品(2)の意匠のインサート本体部は、肩部から下方に向かって外部に膨出し、途中の最大径部を経て下辺部に向かって次第に縮小する形状であるので、本件意匠のインサート本体部の形状(肩部からその外周面が下辺部に向かって漸次ゆるやかに縮小する鉢形の形状)と異なるが、証拠(検甲2)によると、被告製品(2)の意匠の肩部から下方への膨出は、わずかであって、インサート本体部を全体として見た場合、下辺部に向かって次第に縮小するという印象が強いものと認められるから、この差異は、看者の注意を惹くとはいえない。
ウ ?被告製品(2)の意匠の削成面は、肩部付近から膨出球面状をなす外周面の最大径部までを垂直に削成して、下辺を水平な直線状としたものであって、その上方に向かって半楕円形状となっているので、本件意匠の削成面の形状(インサート本体部の上縁部から肩部の外周面にかけて形成され、上縁径の約1/3幅で、隅丸の逆正三角形状を呈している形状)と異なるが、ほぼ同じ位置に削成面があることは共通しており、その大きさもさして違わないから、上記の形状の差は、微差にすぎないものというべきであって、看者の注意を惹くとはいえない。
エ 被告製品(2)の意匠の突出爪部は、正面視において縦矩形状であるので、本件意匠の突出爪部の形状(上半分を切截した瓜の種のごとき形状)と異なるが、突出爪部が存在する位置や大きさは、被告製品(2)の意匠と本件意匠ではさして異ならず、側面視において上方から下方にかけて楔状である点も同じであるから、上記の形状の差は、微差にすぎないものというべきである。
オ 被告製品(2)の意匠は、インサート本体部上面に薄い円板状の板が貼り付けられているのに対し、本件意匠では、インサート本体部の上縁に2段の細い縁取りがあり、上の縁が斜状の面取り状に形成されており、上面部の穴が解放されている点、及び被告製品(2)の意匠は、スリーブの手前側の端面の外周部にリング状の突起が設けられているのに対し、本件意匠では、このような突起はなく平坦である点が異なるが、証拠(検甲2)によると、被告製品(2)の意匠においても、インサート本体部の中央部にはネジ穴が存し、薄い円板状の板は、その上に貼り付けたものにすぎないと認められること、本件意匠における、インサート本体部の上縁の2段の縁取りは、細く目立たないものであること、証拠(検甲2)によると、被告製品(2)の意匠におけるリング状の突起はほとんど目立たないものであることが認められるから、これらの違いも微差にすぎないものというべきである。
カ そうすると、本件意匠と被告製品(2)の意匠は、類似しているものと認められる。
(4) 被告は、上記(1)認定の類似意匠及び別件登録意匠との対比から、本件意匠の要部は、@インサート本体について、肩部からその外周面が下辺部に向かって漸次ゆるやかに縮小する鉢状の形状、Aインサート本体の隅丸の逆三角形を呈する形状の削成面を設けていることであると主張する。
? しかしながら、上記(1)認定の類似意匠は、本件意匠とは、上記@、Aの各点について共通しているが、そうであるからといって、上記@、Aの各点について少しでも異なる意匠は、本件意匠と類似するものではないとまでいうことはできない。上記(3)認定のとおり、上記@、Aの各点において、被告製品(2)の意匠は、本件意匠とは異なるものの、その違いは小さく看者の注意を惹くとはいえない。したがって、上記類似意匠の存在は、被告製品(2)の意匠が本件意匠と類似するとの上記(3)の認定を左右するものではない。   
? また、別紙別件登録意匠目録(1)記載の意匠は、スリーブに4か所の突出部が設けられている点で本件意匠と同じであるが、インサート本体部の形状が中ふくらみになっている点及び削成面の形状が菱形で凹面になっている点で、本件意匠と異なる。しかし、別紙別件登録意匠目録(1)記載の意匠における、インサート本体部が中ふくらみになっている形状や削成面の形状は、被告製品(2)の意匠とは大きく異なっているから、別紙別件登録意匠目録(1)記載の意匠が本件意匠とは別の意匠であるからといって、被告製品(2)の意匠が本件意匠に類似しないということはできない。別紙別件登録意匠目録(2)ないし(5)記載の意匠は、スリーブに4か所の突出部が設けられていない、スリーブの径が上又は下に向かって広がっているなど、被告製品(2)の意匠とは明らかに異なるものであるから、これらの登録意匠の存在は、被告製品(2)の意匠が本件意匠と類似するとの上記(3)の認定を左右するものではない。
(5) 以上からすると、被告製品(2)を製造販売する行為は、本件意匠権を侵害しているということになる。 
3 争点(3)について
(1) 証拠(乙13、15)及び弁論の全趣旨によると、被告は、平成12年10月から平成13年4月までの間に被告製品(2)を販売し、その個数は、2340個であること、被告製品(2)の総売上額は、32万400円であること、被告は、被告製品(2)の販売によって結果的には利益を得ていないこと、以上の事実が認められる。
(2) 原告は、平成12年10月時点における、被告製品に対応する原告製品の1本当たりの利益額は、M−10が約21円、M−12が約25円、M−16が約43円であったと主張するが、その事実を認めるに足りる証拠はない。
また、原告は、被告が被告製品を製造販売したことにより、原告製品の値下げを余儀なくされた結果、損害を被ったと主張するが、上記認定したとおり、被告は、これまでに被告製品(2)を2340個しか販売しておらず、総売上額も32万400円であるから、直ちに、被告が被告製品(2)を製造販売したことにより、原告が原告製品の値下げを余儀なくされたとまでは認められず、他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。
(3) 被告が被告製品(2)を製造販売する行為は、原告が有する本件意匠権を侵害する行為であるから、原告は、被告に対し、本件意匠権に係る実施料相当額を請求することができると解されるところ、本件意匠権に係る実施料率は、売上額の5%であるとするのが相当であるから、原告の損害額は、1万6020円(32万400円×0.05)となる。
(4) 被告は、平成14年5月までに、被告製品(2)の製造金型及び在庫をすべて廃棄処分し、被告製品(2)の製造販売事業から撤退したと主張するが、それについての証拠としては、陳述書(乙13)とカタログ(乙14)があるのみであり、被告が、本訴において、本件意匠権侵害を争っていることをも考慮すると、いまだ被告製品(2)を製造し、販売し、販売の申出をし、輸入することの差止め及び被告が保有する被告製品(2)の廃棄を命ずる必要がないとまでは認められない。
4 以上のとおり、原告の本件請求は、主文掲記の範囲で理由があるから、主文のとおり判決する。

 「主文」1〜6のうち、主要の主文は次のとおりである。
(1) 被告は、別紙物件目録(2)記載のインサート器具を製造し、販売し、販売の申出をし、又は輸入してはならない。
(2) 被告は、その保有する上記インサート器具を廃棄せよ。
(3) 被告は、原告に対し、金1万6020円及びこれに対する平成13年12月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 原告のその余の請求を棄却する。

〔研  究〕

1.この事件において原告は、特許権と意匠権との2つの権利に対する被告の侵害行為を請求原因として主張したが、特許権侵害に対する被告物件(1)と意匠権侵害に対する被告物件(2)とは別異の構成のものであった。そして、前者に対しては出願前公知の実用新案との対比とその技術的範囲の構成要件の技術用語の解釈から、範囲は限縮され、請求は棄却されたが、後者については類似すると判断された。
2.本件意匠権に対しても、前記実用新案公報中の図面やその他公知の図面が引用対比されたが、本件意匠とは大きく異なると認定された後に被告物件(2)と対比された。
 被告としては、撹乱作戦に導くものとして、本件意匠の類似1号意匠や同一意匠権者の同日出願にかかる非類似の独立意匠を引用して、本件意匠に対する被告意匠の非類似性を説得しようとしたが、この作戦は功を奏さなかった。
 結局は、被告意匠に対しては本件意匠(本意匠)だけが対比され、構成態様に部分的な相異は見られてもそれらは微差と認定され、両意匠は類似すると判断されたのである。
3.平成10年改正法では、大正10年法以来、有効な制度として評判の高かった類似意匠登録制度が廃止され、代わって、これに似て非なる関連意匠登録制度が導入されたが、類似関連の意匠はすべて同日出願でなければ登録されなくなった。ところが、本件意匠と類似1号意匠との場合にあって後者の出願は、8年以上後の平成7年11月30日であった。
 本件の場合にあっては、被告意匠は本件意匠(本意匠)に明らかに類似していると認められたから、類似意匠を引き合いに出す必要はなかったが、もし類似意匠により類似していると認められる場合には、本件意匠の範囲はその広さまで存在することを理由に、被告意匠は本件意匠と類似するという理論構成をとることになる。このような関係は、関連意匠登録制度の現行法にあっても変わりないが、もし後日出願の意匠が本意匠との類似を理由に拒絶になったとしても、それは類似範囲に属することが確認できたという反射効果を発揮することになる。

[牛木理一]