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意匠権等移転登録請求事件:東京地裁平成12年(ワ)17874号.平成13年2月16日判決(民47)<認容>

〔キーワード〕 
信託財産、意匠権等の登録移転請求権

〔事  実〕


 
1. D社は、別紙意匠権等目録記載の意匠権及び商標権を有していた。
 D社は、本件意匠の実施品である組立て屋根に本件商標を付して販売し、多数の業者との間で右商品の販売代理店契約を終結し、契約金を受領していたものの、平成8年10月、銀行取引停止処分を受けて事実上倒産した。
 D社に契約金を支払ったまま商品の供給を受けられなくなった右業者らの一部は、同年11月、支払済みの契約金の返還、未払分の支払停止、商品の安定供給等を求めて、「D社被害者の会」を結成し、被告O社がその代表幹事となった。
 本件意匠権等は、東京国税局から差押さえを受けており、また、複数の者が本件意匠権につきD社から通常実施権の設定を受けていたので、誰かが本件意匠権等をD社から譲り受け、右差押さえを解除し、右通常実施権者との問題も解決した上で、D社が製造販売していたのと同様の組立て屋根(以下「本件製品」という。)を安定供給していくことが必要であった。
 被告は、D社との間で、平成9年6月9日付けで、被告がD社から本件意匠権等を譲り受ける旨の契約書を作成した。そして、被告は、移転登録を経て、本件意匠権等の登録名義人となった。
 しかし、被告は、平成11年2月19日、D社被害者の会の代表幹事を辞任した。
2.本件は、原告Sが、D社被害者の会の代表幹事に就任したと主張して、被告に対し、本件意匠権等の移転登録手続を求める事案である。
 争点は、次の二点であった。
(1)被告がD社から本件意匠権等を信託的に譲り受けたか。
(2)原告が被告に本件意匠権等の登録の移転を請求できるか。

〔判  断〕


 
一 争点(1)について
1. 前記事実に証拠と弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。
(一) D社は、平成8年10月、事実上倒産した。
 同年11月に、D社被害者の会が結成され、会員総会において、被告、A社、S社、N社、IT、ISが幹事に選任され、幹事の互選によって被告が代表幹事になった。同会は、D社に契約金を支払ったまま商品の供給を受けられなくなった業者らに広く呼びかけ、それに賛同した業者らによって結成されたものである。
(二) 本件意匠権等は、東京国税局による差押えを受けており、また、複数の者が既にD社から本件意匠権について通常実施権の設定を受けていたので、誰かが本件意匠権等をD社から譲り受け、右差押えを解除し、右通常実施権者との問題も解決した上で、本件製
品を安定的に供給していくことが必要であった。
(三) D社被害者の会の幹事らは、本件意匠権等の適当な譲受先を探していたが、結局、右会の代表幹事である被告を譲受人とすることにした。
(四) 被告は、同年6月、D社に対し、「当社は、標記商品を貴社が取り引きしていた代理店等の要望に基づいて、生産し、供給するものです。」、「本件譲渡について、第三者より当社が訴訟等を起こされても当社の責任において解決し、貴社に御迷惑をおかけしません。」などと記載した確認書を交付した。
(五) 被告は、D社との間で、同月9日付けで、本件意匠権等の譲渡契約書を作成し、D社に対し、その対価として、153万4200円を支払ったが、そのD社作成の領収書には、被告名に続けて「被害者の会代表」と明記されていた。
 右153万4200円は、D社によって、滞納していた国税の支払にあてられた。
(六) 被告は、平成11年2月19日、同会の代表幹事を辞任した。その際、被告代表者は、本件意匠権等がD社被害者の会のものであることの確認を求められ、「『あっ晴れさん』意匠登録第0840906号及び商標登録第2388388号はO社の所有でなく、D社被害者の会の所有であることを確認する。」との内容の確認書に署名押印した。
2.右1認定の事実によると、被告は、D社から、平成9年6月9日付けの契約によって、本件意匠権等を譲り受けたものと認められる。
 しかし、右1(一)ないし(三)認定の事実によると、本件意匠権等の譲渡は、本件製品を安定的に供給するという目的の下にされたもので、D社被害者の会の幹事らにより、譲渡先の選定等が進められ、被告が右会の代表幹事であったことから、被告に譲渡することに決定したものと認められ、被告がD社被害者の会の代表幹事ナあったこと以外に、被告に決定した積極的な理由は認められないこと、右1(五)認定の領収書の記載や右1(六)認定の確認書の記載、法人格のないD社被害者の会名義での意匠権等の登録は認められておらず、また、D社被害者の会の会員全員の名義で右登録するのはあまりに煩雑であるから、誰か一名の者がD社被害者の会又はその会員に代わって譲り受けるという形をとらざるを得なかったと考えられることを総合すると、被告は、D社被害者の会の代表幹事という立場において、本件製品を安定的に供給するという目的の下に、同会又は同会の会員に代わって、本件意匠権等を譲り受けたものと認められ、被告が、D社被害者の会又は同会の会員とは別個の独自の立場で本件意匠権等を譲り受けたとは認められない。
 そうすると、被告は、D社被害者の会の目的に従って財産の管理行為等を行うために、右会又はその会員全員の受託者の地位において、本件意匠権等を譲り受けたものであって、信託的に本件意匠権等を取得したものと解される。
3. 右2の譲渡につき、信託の登録がなされたことを認める証拠はないが、右1認定の事実からすると、信託の登録がされなかったからといって、右2の判断が左右されるわけではない。
 また、被告が本件意匠権等の取得、維持に要した費用があったとしても、その費用は、右2認定の委託の趣旨に従って清算されるべき筋合のものにすぎず、右2の判断が左右されるわけではない。
 さらに、被告は、被告が信託の受託者として本件意匠権等の管理を無償で行うようなことは、特別な事情がない限りあり得ないところ、被告とD社被害者の会又はその会員との間に、このような特別な事情はなかったと主張するが、右1認定の事実によると、被告は、D社被害者の会の代表幹事として、D社に契約金を支払ったまま商品の供給を受けられなくなった業者らを代表する立場にあったのであるから、右2認定のとおり信託の受託者となったとしても何ら不自然ではない。
二 争点2について
 被告が、平成11年2月19日、D社被害者の会の代表幹事を辞任したことは当事者間に争いがない。
 証拠と弁論の全趣旨によると、被告の右辞任後、S社の代表者である原告、被告代表者O、N社代表者IT轤ノよって、原告は、D社被害者の会の代表幹事に選出されたことが認められる。右選出には、D社被害者の会の当初の幹事のうち、A社代表者とISが加わっていないが、右選出は過半数の幹事によるものであること、右選出には、被告代表者も賛成しており、その当時、D社被害者の会において選出に異議が出されたことを認めるに足りる証拠はないことなどに照らすと、直ちに右選出手続が違法であるということはできず、他に右選出手続が違法であったというべき事実は認められない。
 前記一のとおり、被告は、D社被害者の会の代表幹事として、本件意匠権等を信託的に譲り受けたものであるが、信託法50条1項の趣旨に照らすと、このような場合、被告は、代表者の地位を失うとともに、右受託者の地位をも失い、新代表者である原告が、右受託者の地位を取得し、旧代表者である被告に対し、本件意匠権等の登録移転手続を求めることができると解するのが相当である。

〔研  究〕

1. この事件は、前記「A−11」と同じ原告Sが、同じ意匠権等をめぐって信託的に本件意匠権等を倒産D社から譲り受けて取得したO工業に対して、それらの権利を原告Sに移転登録することを請求した事実で、前記事件と同日に請求し、同日に判決されたものである。
2. 本件意匠権等を、被告が信託的に譲り受けて取得したことは認められたが、その後、D社被害者の会の代表幹事を辞任し、次に原告が就任したことから、原告としては、本意匠権を自分に譲渡することを被告に請求したことは当然のことであった。そして、裁判所はその請求を認容したこともまた当然といえる。
 権利を有している会社が倒産したとき、無体財産権の帰属については争われることが多いが、銀行等がそれを差押えても意味がないから、信託財産として第3者に管理させて利益をあげることは当然考えられる方法である。

[牛木理一]