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2015年8月1日



 
近 況 雑 感

 

猛暑お見舞い申し上げます。

 

今年もわが国で70年前に起こった出来事を思い出す夏がやって来ました。8月1日であり、8月6日であり、8月9日であり、そして8月15日です。いずれも、米国との戦争という事件のために起こった日本国と国民にとって不幸な出来事です。

 それにもかかわらず、東京都心の霞が関の官庁街,特に財務省,文科省,経産省あたりの樹木の下を通ると、今年も蝉時雨に洗われますし、皇居の森の中でのセミ群の合唱を思い図るところです。

 ところで、過去の戦争という悲劇に対する無知か無関心の世代が多い自民党等による賛成多数により、「国際平和支援法案」なる新法と集団的自衛権の限定行使などを可能にするための現行法の一括改正である「平和安全法制整備法案」として@自衛隊法、A国連平和維持活動(PKO協力法)、B周辺事態法(➡重要影響事態法)、C船舶検査活動法、D武力攻撃事態法(➡武力攻撃・存立危機事態法)、E米軍行動円滑化法(➡米軍等行動円滑化法)、F特定公共施設利用法、G外国軍用品等海上輸送規制法、H捕虜取り扱い法、I国家安全保障会議(NSC)設置法が、まとめて衆議院に上程され、7月16日には与党だけの賛成で通過して参議院に送付されたのです。

 しかしながら、いずれの法案も、「平和」という美名に隠れた国民の戦争参加法案であり、殺人行為を合法化しようとする法律以外の何ものでもありません。

 すると、日本人が殺す相手は誰れであり、何のために殺すことができるのかについて、行政府の最高責任者は正確に自信をもって答えなければならない義務があります。どうですか、答えて下さい。 

 

2.川添登さんが、7月9日に亡くなられたとの新聞記事を7月16日に見て知った(89才)。川添さんの著書「デザインとは何か」(角川新書 1961) を読んだのは、私が「パテント」誌の1967年9月号〜1968年3月号に連載した「インダストリアルデザイン―その美と保護の研究」を執筆する時でした。私は川添さんの著書から、「デザインのもっとも一般的な用法は、ヒトが作ろうとする目的物を頭に描き、そのイメージをそのまま実現しようとする行為をいう。・・・逆に言うならば、人類のイメージの物質的あるいは実体的な実現こそ、デザインとよぶべきなのである。」(27頁)という一文を引用しています。この考え方は、正に「意匠」の保護を考える際の基本的思想であり、「意匠の類似」の意義もここから自然に生まれて来るのであり、私が主張する創作説は、説などでは全くなく正に意匠の本質を説示しているものなのです。(牛木「意匠法の研究(四訂)」7頁 発明協会 1994・牛木「デザイン キャラクター パブリシティの保護」15頁 悠々社 2000)

 川添さんは建築評論家といわれていますが、「新建築」の編集長を長年務められており、故黒川紀章さんとも交流されていたようです。

 亡くなった有名人のついでに、私はグラフィックデザイナーの亀倉雄策さんを挙げますが、彼の生誕100周年記念展が、新潟市の県立万代島美術館で開催されており、私は仕事で新潟へ出張した7月25日の午前中に行って見て来ました。亀倉さんは、現在の燕市吉田町粟生津の出身で、大地主の第6子であったが、小学校を卒業後、家族は東京へ引越したということです。1964年開催の東京オリンピックのメーンポスターを始めとする競技用ポスターで一躍有名になりましたが、人が見てわかり易く強い印象を与えるポスターの創作者であり、著作権者でした。亀倉さんは、日本グラフィックデザイナーズ協会(JAGDA)の初代会長であり、世界デザイン会議を1960年に東京で開催しています。

 

3.ところが、2020年東京オリンピック大会のエンブレム(標章)として、やはりJAGDAの会員である佐野研二郎さんの作品が採用された7月24日に発表されましたが、これに対してはベルギー国東部にあるリエージュ市の「劇場」のエンブレムに似ていると指摘され、問題になっています。大会組織委員会によると、選定に当たっては、ベルギーを含め世界中の「商標」を調査し確認しているから、問題ないはずとは言っていますが、この言は意味不明です。これは、商標登録ができるかどうか以前の問題であり、著作権侵害にならないかどうかの著作物性の問題なのです。佐野さんからは、応募時に宣誓書を提出してもらわなかったのでしょうか。また、選考時に世界のエンブレム集のようなものを検索しなかったのでしょうか。いずれにせよ、佐野さんのエンブレムは、亀倉さんの1964年時の単純かつ明瞭なそれと比較すると、抽象的で難解なロゴマークですから、一般の日本国民には受けいれにくいように思います。

 

              〔 亀 倉 雄 策 作〕

                 

 

   〔オリビエ・ドビ作〕         〔 佐 野 研 二 郎 作〕

    

 

 ところで、私は意匠法と著作権法との関係についての研究を長年しているばかりでなく、職業上は長年、弁理士として特許出願のための特許明細書を図面や現物を見ながら作成し、「特許請求の範囲」の記載を、いかに拡張的なクレームとするかを努力している者でありますが、本件エンブレムに係る発明については、(仮説として)私ならば、例えば次のようなクレームを作成することになるでしょう。

 【請求項1】中心部に縦巾広の棒柱部を設け、この棒柱図からやや間隔をおいて左上方部と右下方部とにそれぞれ同形状の羽根片を設置して成るエンブレム。

 【請求項2】縦巾広の棒柱部は黒色又は白色に、上下の羽根片は黒色又は白色から成る請求項1に記載したエンブレム。

 【請求項3】縦巾広の棒柱部は黒色に、左上方部の羽根片は金色に、右下方部の羽根片は銀色に成る請求項1に記載したエンブレム。

 【請求項4】縦巾広の棒柱部の右上方部に赤色円形部を設けて成る請求項1又は3に記載したエンブレム。

 以上のクレームの記載において【請求項1】はメーンクレームですから、このような構成態様から成るエンブレムの技術的思想は広いし、【請求項2】以下のサブクレームは実施例に属するものですべて【請求項1】にリンクしています。そして、【請求項1】に属する技術的思想は、ベルギーのグラフィックデザイナーのオリビエ・ドビさんが創作したものです。美術の著作物といえるエンブレムの構成態様が単純であればあるほど、その思想または感情の創作的表現は明確ですから、本発明の創作体は広いものと理解することができます。【請求項3】と【請求項4】とが佐野さんの作品のクレームです。

 すると、この問題についても、日本国の信用をかけて安倍首相が登場することにならないとも限りません。

 

4.私はもう一人の偉人、鶴見俊介さんの死去をお知らせしなければなりません(7月20日 95才)。哲学者の鶴見さんは長年、京都に住まわれていましたが、私としては政治家であった実父の鶴見祐輔さんの方を知っていました。また、雑誌「思想の科学」を都留重人,丸山真男らと刊行しましたが、当時若い私には関心がありませんでした。

 10年近く以前だったと思いますが、京都精華大学で日本マンガ学会の総会・大会があった時に初めてお目にかかり、マンガに関する講演を聞いたことがあります。鶴見さんは、戦後思想と結びつけた独自の大衆文化論を京都を拠点に展開されていたといわれています。

 その鶴見さんについて、当時、新潟で工員をしながら定時制の工業高校へ行っていた映画評論家の佐藤忠男さんは、「思想の科学」に評論を投稿したところ返事を受け、佐藤さんを1人の研究者として見てくれ、その時自分の進路は決まったと記してます(朝日新聞夕刊 2015年7月24日 3頁)。2004年には「憲法九条の会」の結成を、小田実,加藤周一,大江健三郎らと呼びかけて今日に至っています。

 鶴見さんは20年前から、葬儀不要とのメッセージを発表していたそうですから、「お別れ会」も開かれないようです。ということは淋しいですね。

 また、著作権問題を介して古くからの知人の円野章さん(89才)が8月5日に死去されましたが、写真の著作物を通常の著作物並みに法規定(著10条1項8号)を改正させた立役者の1人です。CRICの講演会でお馴染みのアルカディア市ヶ谷で「お別れ会」が9月16日午後6時30分から開かれる予定です。

 

5.「近況雑感」7月号でお知らせしましたJAGDA主催の著作権セミナー「タイプフェイスの法的保護」についての講演会とパネルディスカッションが、7月21日午後、東京六本木9丁目の東京ミッドタウン・デザインハブの「インターナショナル・デザイン・リエゾンセンター」で開催され、100名位の関係者が出席された。その中でパネリストの1人として私が話した詳細な内容については、後日、紹介することにします。

 私は、この会で最初に与えられたスピーチの時間10分を有効に使用するために、予め準備したレジュメに基づいて喋りました。そのテーマは、「最近のわが国の行政と司法の動向から、現行法下のおけるTFの積極的保護のあり方を考える」でありました。

 ここでは、TFの創作者の保護に当たっては、(1)行政面からは、特許庁が行う意匠法による登録保護が、「組物の意匠」についての若干の改正による適用とロカルノ協定へのわが国の加入発効と意匠の国際登録によるハーグ協定への加入発効とによって実現可能の方向性が存在すること、(2)司法面からは、美術の著作物の適用範囲の拡大が、「幼児用椅子事件」の知財高判平成27年4月14日によって、TFの著作権保護へも適用可能となったことを、私は話しました。この話は、現行法下での著作権保護の可能性について及んでいるのです。TFデザインもまた広義の美術の著作物に属するものであることは、前記知財高裁の判旨を理解すれば、自然に理解することができるのです。それほどの衝撃を前記幼児用椅子事件の判決は、意匠法関係者に与えた影響以上に、著作権関係者に与えた影響は大きいと思います。また、この問題は同時に、意匠法の存在意義を否定する問題に発展する可能性を含んでいるのです。 

 

英語の”stakeholder”を日本語でなんと翻訳すればよいのかわかりませんが、その1人となっている私に対し、まず2014年9月15日にConsultation on transitional provisions for the repeal of Section 52 of the Copyright, Designs and Patents Act 1988”が来ましたことは、2014年10月1日号の本欄で紹介しましたし、私見については、第1.4−1CDPA1988 第52条の廃止に反対する」(英語版日本版)として発表しています。(目次上の表示を変更した。)

 また、2014年10月1日号の本欄で紹介した記事については、独立した第1.4−3にまとめましたので、ごらん下さい。

 したがって、英国政府から最近来た2回目の通知書については、第1.4−4原文訳文として発表することにします。 

 

 

7.今月の「裁判例研究コーナー」では、次の4件について紹介します。

(1)「 」商標権侵害行為差止等請求控訴事件:知財高裁平成26年12

   月17日(1部)判決<請求棄却/原判決一部変更>➡F−55

(2)登録意匠「包装用箱」意匠権侵害差止等請求事件:東京地裁平成27年5月

   15日(民29部)判決<請求棄却>➡A−64

(3)登録商標「BULLET」審決取消請求事件:知財高裁平成27年6月30日

   (2部)判決<請求棄却>➡G−201

(4)登録商標「激馬かなぎ」審決取消請求事件:知財高裁平成27年7月9日

   (2部)判決<請求棄却>➡G−202

 

  

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牛 木 内 外 特 許 事 務 所
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