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2013年3月1日



 
近 況 雑 感

 

1.本欄の今年1月号でTPPのことについて若干触れましたが、TPPの語源について調査してみると、Trans-Pacific Partnership と Trans-Pacific Strategic Economic Partnership の2つがあり、その略称として使われているから、日本語訳では、前者は環太平洋経済連携協定(Agreement),後者は環太平洋戦略的経済連携協定となっており、例えば朝日新聞では前者を、産経新聞では後者を使用している。

 米国が提言しているこの国際協定について、2月22日に訪米した安倍晋三首相はオバマ大統領に参加の交渉を始めることの意思表示をしたといわれている。

 両首脳は今回の会談で、一部の例外を認めた共同声明を発表したが、(1)「TPP交渉参加に際し、一方的にすべての関税撤廃をあらかじめ約束することを求められるものではない」こと、(2)「TPP交渉に参加する場合、すべての物品が交渉の対象とされ、包括的で高い水準の協定を達成していく」こと、(3)「日本両国とも2国間貿易上のセンシティビティー(慎重な検討を要する重要品目)が存在することを認識する」ことであり、最終的な結果は交渉の中で決まっていくという(産経新聞2月24日)。

 これだけの新聞記事を読むと、これらの物品等の貿易問題の中に、著作権の保護期間のような知的財産権に及ぶ項目が対象となっているのかは不明であるから、日米両国は国民の前に早く全交渉項目について明らかにすべきである。(この項目については、2011年2月、米国の有力NPOが、TPPの知的財産の章についての米国の要求をリークしたという。)

 ただTPPは両国間の秘密交渉であるというから、米国が要求する知財分野の問題は、わが国の現行法から大きく隔離しているものであれば、受け入れないという返事が果してできるのかである。著作権に関していえば、(1) 保護期間の延長(著作者の死後50年→70年)、(2) 著作権侵害の非親告罪化、(3) 著作権侵害に対する法定賠償金の実施額の3倍賠償制度の導入などがあるという。(参照文献:野口祐子「TPPを見る視点」NBL No.993 1頁)

 しかしながら、著作権に関するこれらの問題は、本来TPP協定が狙いとしている物品の関税撤廃とは無関係の問題であることを考えれば、わが国政府は、知財問題はTPPから除外すべきことを早く表明したらよいだろう。 

 

2.札幌や北海道へ旅行した人ならば、殆んど誰もが知っているチョコレートクッキーに「白い恋人」(石屋製菓株式会社・札幌市)があり、土産品としても人気の高い菓子であり、商標登録もされているところ、昨年、大阪の吉本興業株式会社が「面白い恋人」という商標の菓子を販売したことから、商標権侵害差止等請求訴訟が札幌地裁に提起されたことは新聞等に報道されていた。

 ところが、2013年2月14日の朝刊紙には、2月13日に札幌地裁で両社の和解が成立し、吉本側としては4月以降は菓子のパッケージデザインを変更するが、商標は変更しないなど、いくつかの条件付の和解となったようである。

 この事件は、商標権侵害だけの事件であったのか、予備的に不正競争防止法が絡んでいなかったのか、私は知らない。

 しかし、菓子についての「面白い恋人」の文字表示は、不競法2条1項1号(他人の周知の商標と類似する商標を使用し、他人の商品と混同を生じさせる行為)、又は同条項2号(他人の著名商標と類似する商標を使用する行為)のいずれかに該当する行為であったのかを考えると、後者のほうに該当するものと私は思う。この場合、フリーライド(Free Ride),ダイリューション(Dilution),ポリューション(Pollution)の3つの状況を挙げることができるが、それぞれの状況内容はやや違っている。

 即ち、「フリーライド」は、他人の信用,名声という価値への冒用禁止であるから、無断使用者の意図や認識など主観面が関係するのに対し、「ダイリューション」は当該表示が著名であり顧客吸引力を有するものであるときに異業種であっても無関係な表示使用が表示の広告宣伝力を拡散して希釈化することを禁止するのであり、さらに「ポリューション」は他人の信用,名声に対する汚損の禁止という客観面が関係することになる。

 すると、「面白い恋人」商標の場合は、他人の信用,名声に対する汚損の禁止という客観面を保護する「ポリューション」に該当する事案ではないかと思うが、この商標が赤の他人によって使用される限り、汚損の効果は払拭され得ないだろう。

 しかし、原告が被告による当該商標の使用を許容したことは、期間や地域が限られているとはいえ、「ポリューション」効果は消すことができないから、そのような条件での和解は失敗ではなかっただろうか。

 ちなみに、「面白い恋人」商標は審査の結果、拒絶査定となったというが、出願書類を閲覧していないから拒絶の理由はわからない。商標法4条1項には、前記不競法2条1項2号に相当するようなポリューションを禁止する規定はないし、4条1項7号(公序良俗違反)に該当するようなものではない。

 

3.わが国には、著作権法の特別法として、「連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律」(昭和27年8月8日法律302号)が現在も施行されている。ここに連合国とは、わが国と昭和16年(1941)12月8日から昭和20年(1945)8月15日までの間、戦争していた国、オーストラリア,カナダ,セイロン,フランス,インドネシア,オランダ,ニュージーランド,パキスタン,フィリピン,英国,米国をいう。同法4条は、次のように規定する。

(1)昭和16年12月7日に連合国及び連合国民が有していた著作権は、著作権法に規定

  する当該著作権に相当する権利の存続期間に、昭和16年12月8日から日本国と当該

  連合国との間に日本国との平和条約が効力を生ずる日の前日までの期間(当該期間

  において連合国及び連合国民以外の者が、当該著作権を有していた期間が有るとき

  は、その期間を除く。)に相当する期間を加算した期間継続する。

(2)昭和16年12月8日から日本国と当該連合国との間に日本国との平和条約が効力を

  生ずる日の前日までの期間において、連合国又は連合国民が取得した著作権(前条

  の規定により有効に取得されたものとして保護される著作権を含む。)は、著作権

  法に規定する当該著作権に相当する権利の存続期間に、当該連合国または連合国民

  がその著作権を取得した日から日本国と当該連合国との間に日本国との平和条約が

  効力を生ずる日の前日までの期間(当該期間において連合国及び連合国民以外の者

  が当該著作権を有していた期間があるときは、その期間を除く。)に相当する期間

  を加算した期間継続する。

「日本国との平和条約」は昭和27年(1952)4月28日に公布されたが、前記連合国名はその25条に規定されている。この連合国とは、換言すれば、戦勝国であり、敗戦国のわが国が負う義務とされたのである。

 この特例法は、公布日から施行し、平和条約の最初の効力発生の日から適用する(附則)とあるが、施行日は何と昭和46年(1971)1月1日である。(誤記ではない。)その結果、連合国国民が創作して取得した著作物の著作権は、それを行使することができなかった戦時加算数として10年強(3794日)が、わが国の著作権法による保護期間(著51条以下)にプラスされて今日に至っているのである。

 この不公平な義務法であるわが国の著作権法の“恥法規”の撤廃を要求する要望書を、JASRACは岸田外相に2月25日に提出したという(“恥法規”とは牛木の注)。要望書によると、「著作権が保護されていなかった事情は交戦国双方に共通のもの。戦時加算問題が解決されない限り、戦争は終らない。」という。なぜ戦敗国だけがこのような義務を強いられるのか。イタリーはEC加盟に加算を解消し、ドイツは外交交渉でやはり加算を解消し、わが国だけが残っているという。(朝日新聞2013年2月20日1頁)

 ちなみに、特許権等工業所有権法には、そのような特例法は存在しない。

 

 

今月の裁判例研究コーナーでは、次の4件について紹介します。

 

(1)「カスタマイズドール用ボディ素体」商品形態・不正競争行為差止等

   請求事件:東京地裁平成24年11月29日(民46部)判決<請求棄却>

   C1−59 (別紙)

(2)「染色縫製品」商品形態・不正競争行為差止等請求事件:大阪地裁平

   成24年12月25日(21民部)判決<請求棄却>➡C1−60

(3)登録商標「漢検」その他・商標権侵害差止等請求事件:大阪地裁平成

   25年1月17日(26民部)判決<請求棄却>➡F−36

(4)登録商標「数検/数学検定」無効審決取消請求事件:知財高裁平成25

   年2月6日(3部)判決<認容/審決取消>➡G−162

 

 

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