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2013年2月1日



 
近 況 雑 感

 

1.私は1月1日号で、人生における「時間」のことを書きましたが、新年の1週間の休み時間ほど、自由でありがたいものはありません。この時間を私は、読みたいと思ってためていた新聞記事をゆっくり読むことに使うことができました。その中に、朝日新聞夕刊が昨年12月にシリーズとして記載していた「人脈記:民主主義ここから(15)」(2012年12月14日)があり、当日の見出しは「お飾り審議会 変えよう」でした。わが国の政府や中央省庁が法改正等の際に発足させる「審議会」や有識者会議なるものは、「官僚の隠れみのにすぎない」と批判されて久しいところ、記事によると、「国民の知らないうちに、出席する委員を官僚が選び、非公開の会議を経て、官僚が用意した事務局案に沿った形で答申案がまとめられる。多くの官僚は、こんな手法で自らの力を強めてきたからだ。」「専門家の意見を広く聞いた上で政策をつくる。これは本来、民主主義にとって大事なプロセスだ。にもかかわらず、官僚たちはその本質をゆがめてきてしまった。」

 審議会のそうしたあり方を厳しく批判してきた人に、日隅一雄弁護士がいた。同氏は、審議会の改善策として、「公募のもとで任命手続きを透明に進める」という理念をあげたイギリスの「公職任命コミッショナー制度に注目し、制度の実施綱領を翻訳し、「審議会革命」という本を出版した。ただ日本とイギリスでは政治の仕組みが違い、イギリスの制度をそのまま日本に導入するのは難しいことから、同氏は現地での取り組みを自らの目で確かめるためにイギリス行きを切望したが、それは、昨年6月に49才での死去で実現しなかったという。そして、同氏から遺言を託された記者の松本一弥さんが昨年10月に訪英して調査したという。

 松本さんは、政府から独立した組織の「公職任命コミッショナーオフィス」のコミッショナーのデビッド・ノーミントンさんから詳しく取材した。それによると、ノーミントンさんの監督下で、候補者を審査する14人の独立した査定者が、候補者はこの分野の実力を本当に持っているのかなどの観点から書類を審査し、面接にも立ち会い、選考過程はすべて文書化されて保存されるという。

 翻って、わが国にあっては、審議会の委員らは関連団体から寄付を受けていたなどの例が後を絶たないというが、イギリスではどうかとの問いに対し、ノーミントンさんは、こう力説している。

 「最善の政策は、多くの国民の意見を取り込み、議論が交された結果、生まれるものです。政府の政策が、閉ざされた扉のなかで作られれば作られるほど、国民はそれを受け入れなくなるものです。」 

 

2.私は、この記事を読んで、イギリスにおける著作権法と登録デザイン法との谷間に咲いている重要問題の商品化権保護についての歴史を思い出し、拙著を開いてみた。拙著とは、@「意匠法の研究(4訂版)」(1974・1980・1985・1994)であり、A「商品化権」(1980)・B「キャラクターー戦略と商品化権」(2000)である。

 @では309頁から3347頁まである「1 意匠法と著作権法の間(英国の考え方を中心に)」では、この問題に関する英国法の歴史を紹介した後、「グレゴリー勧告書(1952)と1956年著作権法」,「ジョンストン勧告書(1962)」,「1968年デザイン著作権法」,「フィットフォード勧告書(1977)」,「政府諮問書(1981)」,「第2政府諮問書(1983)」,「政府報告書(1986)」を経て、「CDPA1988」に至っていること、Bでは69頁から99頁まで前者より具体的に紹介している。

 このように、イギリスにおいて、例えば、マンガキャラクターの商品化問題は、著作権法と登録デザイン法とにからむ本質的な問題であることから、著作権の効力を制限することにより登録デザイン法でどう保護するかが、常にほぼ同時に議論されて来たのである。これに対して、わが国の裁判所では、前記の商品化権問題は著作権法21条(複製権)又は27条(翻案権)を適用して解釈しようとしているが、この適用解釈は借り物的な考え方であるから、問題を美術の著作物の本質から考え、プロダクトデザインとの違いを再考し、隣接する意匠法との関係を考えるべきである(1)

 

(1)牛木理一「商品化権法への道―著作権法適用の限界」知財ぷりずむ2012年1月号.この問題は

  著作権法の改正問題を取り扱ってはいるが、それによる意匠法への影響は十分にある。

 

3.また、今回の法改正にあっては、わが国が「インダストリアルデザインの国際登録協定に関するヘーグ協定1999年アクト」を批准して加盟する問題が議題の一つとなっているが、この協定の改正のためのWIPOの専門家委員会には、わが国から特許庁以外に日本弁理士会やAPAAから代表が毎回出席し、1999年外交会議にも出席し、新協定の成立までの経緯や内容についてよく承知している者が、筆者を含めて多くいるのに、以下の小委員会の中で委員となっている者は皆無である(2)

 

(2)牛木理一「ヘーグ協定専門家委員会に出席して」パテント 1995年9月号AIPPI月報 1997年2月

  号.同「岐路に立つヘーグ協定の発展への道―第6回専門家委員会に出席して」AIPPI月報 

  1997年2月号

 

4.そこで、わが国において例えば現在審議されている産業構造審議会知的財産政策部会の意匠制度小委員会を構成している委員名を挙げると、次のとおりである。

石井英一  内山信幸  大渕哲也(委員長)  下川一哉  高野輝久

高部篤   茶園成樹  永田義人  橋田規子  平野哲行  牧野利秋

増田勝弘  水谷直樹  柳生一史  吉井剛

 

 このうち、意匠法に関し論文や著書を発表している「意匠法の専門家」と言える者は誰もおらず、すべて首をかしげたくなる人物だけである。すると、いずれも特許庁の味方になる人物、換言すれば、特許庁という行政府が立法府に代わって提案するという意匠法案に対し、煩く異論や反対論を発言しない数合わせのためにイエスマンを選び、委員長はお飾りのように見える。また、たとえデザインのことは知っていても、著作権法を含む意匠法の知的財産権法における位置づけや意匠法の本質をよく知っている者はいない。ましてこの道の研究者はいない。

 そして、審議会の審議が終了し、特許庁の思いどおりの結果の案となるものが、答申や報告書として発表された後に初めて、意匠法の専門家を含む一般国民に対し、「パブコメ」という形式で意見の募集を約1か月という短期間で求めようとするのである。(最近では1月16日〆切の商標法改正に関するパブコメがある。)それに対しては、その後に応募意見を公表しているが、それらに対する答えを紹介していても、特許庁内で議論した範囲のものであり、それを越える新たな改正問題の提起に対して言及するような意見には何も答えないというのが定石である。

 

5.わが国の立法審議会のあり方に対する批判は前記日隅弁護士のとおりであり、筆者も日頃から痛感しているところであるが、もっと酷いのが意匠法改正のための審議会答申が出た後に、特許庁が意匠法改正法案に強引に押し込んだのが、現行意匠法24条2項の規定である。そして、この規定に対しては、衆議院と参議院の各経産委員会において野田佳彦議員(後の首相)と若林秀樹議員とによって質問されているが、この質問に対する中嶋特許庁長官の答弁は全く首尾一貫せず、思いつきの答弁でしかない。➡第1.1−7参照(実は、前記民主党各議員による質問事項は、筆者が当時、各議員には面会できなかったものの、各議員会館の部屋をまわって置いて来たことを思い出した。)

 

6.意匠法の改正問題については、私は多くの論文を発表しているところ、ミュンヘン大学教授でMPI所長であったFriedrich-Karl Beier氏の70才古希記念論文集が刊行される際に、MPIのChristfer Heath博士から、意匠法分野について何か書くように言われた。そこで、「無風で凪っていたわが国意匠法にようやく台風の前ぶれの風が吹き小波が立ち始めた」で始まる論文「問われているわが国意匠法―世界の潮流の中で―」を寄稿した(「知的財産と競争法の理論」第一法規 1996年4月)。私はMPIに留学したことはないが、ジュネーブの国際会議の帰路にはいつもMPIを訪れてはC.ヒース氏らと交流していたし、拙著「意匠法の研究」は初版から同所の図書館には置かれていた。同年5月に行われた献本式に私は、染野義信日本大学教授夫妻とともにMPIを訪れ、スピーチをさせられた思い出がある。

 そこで、前記論文を目次「第1.1−15」に転載することにした。この論文を発表した頃は、平成10年改正法が審議されていた最中であったから、審議会に対し何らかの影響を与えることを筆者は期待したのであったが・・・。

 

 

今月の裁判例研究コーナーでは、次の5件について紹介します。

 

(1)登録商標「アディダス」無効審決取消請求事件:知財高裁平成24年11

   月15日(3部)判決<請求認容/審決取消>➡G−158

(2)登録商標「シャンパンタワー」無効審決取消請求事件:知財高裁平成

   24年12月19日(4部)判決<請求棄却>➡G−159

(3)商品形態「自動車用ホイール」不競法差止等請求事件:大阪地裁平成

   24年12月20日(26民部)判決<請求棄却>➡C1−58

(4)登録商標「LANCASTER」不使用審決取消請求事件:知財高裁

   平成25年1月10日(4部)判決<認容/審決取消>➡G−160

(5)登録商標「Deep Sea Driver」無効審決取消請求事件:知財高裁平成

   25年1月15日(2部)判決<請求棄却>➡G−161

 

8.なお、昨年10月1日号で紹介しましたB1−50「部分意匠出願『観察窓付容器』拒絶審決取消請求事件」については、「判例時報」No.2169で判例紹介されましたが、その「解説」に対し、私は批判した論説を2月18日に掲載しましたので、ごらん下さい。

 

 

9.このHPに掲載されている私の論文,論説には著作権が与えられていますので、無断複製を禁止します。引用される場合には、必ずその出所を明記して下さるようにお願いいたします。 All Rights Reserved.


 
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