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2012年6月1日


 
近 況 雑 感

 

1.私は、東京大空襲の被害者達が日本政府に対し損害賠償等の請求訴訟を東京地裁→東京高裁に提起していたことを、2010年9月1日および2011年8月1日・9月1日の本欄でお知らせしましたが、東京高裁による判決言渡しが4月25日にあり、控訴棄却となりましたことは、新聞等によって知らされました。

 私は、その判決文を入手しましたが、きわめて不当かつ非合理的な理由が述べられており、一審判決より落ちる内容だと批判する関係者もいます。その説示のごく一部を次に記述します。

「被控訴人国が、平和条約19条(a)項において、個人の請求権を含め、戦争の遂行中に生じた相手国及びその国民に対する全ての請求権の放棄を約したことは、日本国と各連合国との間の戦争状態を最終的に終了させ、将来に向けての揺るぎない友好関係を築くという平和条約の目的を達成するために、やむを得なかったもというべきであるから、これを不法行為に該当することができない(最高裁昭和43年11月27日大法廷判決、最高裁昭和44年7月4日第二小法廷判決)。」

この裁判所は、米軍による東京大空襲の実体を理解せず、平和条約はわが国政府と連合国との間の約定であって、わが国民個人には及ばない無関係なものであるのに、大空襲による国民の犠牲をやむを得なかったことだなどと考えていることは、全くピント外れです。そもそもその原因は、わが国政府が米国に対して戦争を仕掛けたことにある以上、それに対する米国の報復によって被ったわが国民の生命,財産への犠牲と損害に対し、戦争責任者として謝罪をしかつ賠償すべきは当然の事理であります。

・「国会ないし国会議員に東京大空襲の被害者に対する救済・援助のための立法を行うべき法的義務があるとは認められないから、立法不作為の違法をいう控訴人らの主張は、採用できない。その理由は、当審における控訴人らの主張に対する説明を以下のとおり補足するほかは、原判決と同旨である。」

控訴人が立法不作為の違法を主張しているというが、現在、救済立法の運動は継続しているのであるから、せめて新立法の成立促進とそれによる補償救済を示唆するような説示をきちんとすべきなのに、していません。

・「特別犠牲を強いられない権利を根拠として被控訴人国の立法不作為の違法をいう控訴人らの主張は、被控訴人の戦争行為が控訴人らに被害を生じさせたという事実を基礎として、被控訴人において控訴人らに対する救済・援助のための立法措置を講ずべき義務があるというものであるが、控訴人らが被控訴人の戦争行為によって被害を受けたという事実や被控訴人が平和条約においてその被害に関して請求権放棄条約を定めたという事実に基づいて、国会議員に控訴人らに対する救済のための立法措置を講ずべき義務があるということはできず、これは、既に確定した判例であるというべきである(前掲各最高裁判決、最高裁昭和62年6月26日第二小法廷判決)。」

この控訴審判決は、この問題に対しては最高裁判決があって解決済みのようなことを言っているが、前記のとおり、平和条約はこの問題の解決には全く関係のないものであることを、裁判所は理解していません。

・「東京大空襲によって多大の苦痛を受けた控訴人らが、各種の援護措置を受けている旧軍人軍属等との間の不公平感を感じることは心情的には理解できるが、以上のとおり、援護のための立法措置が執られたものについてはそれぞれ合理的な理由があり、他方、空襲等の被災者を含め援護を受けていない戦争被害者はいまなお数多く存在し、その被害の原因、態様、程度は非常に種々様々であることからすれば、援護を受けていない者が合理的な理由なく差別されているということは困難である。」

別件の従軍慰安婦問題も日本政府によって強要された全く個人的な犠牲の問題であるのに、日本政府はこれに真摯に対応していないから、ソウルの日本大使館前の石像建立や抗議運動も起こっているのです。地裁と高裁の裁判官達はいずれも戦後生まれであり、防空練習体験者や空襲体験者ではないから、原告の主張は遠い空からの念仏のようにしか聞こえないかも知れません。

・ちなみに、戦争の終結のためにポツダム宣言を受諾して米国等の連合国に対し無条件降伏したわが国政府に対し、連合国側が平和条約の締結(昭和28年)に際し、連合国による各種の損害賠償請求権を放棄すると言明したのは、第一次世界大戦の敗戦国ドイツに対し、莫大な損害賠償金を請求したことがアダとなり、第二次世界大戦勃発への引き金となったという苦い経験を連合国側は教訓にしたものと思われます。このような事情も知らない今日のわが国裁判所は、その条約の趣旨がわが国民にも及ぶなどと誤解して判決をしているのです。原告である被害者は、日本国民であって外国人ではないのです。

 この高裁判決に対しては、最高裁に上告されましたが、原告の皆さんの高齢化を考えると、裁判での救済は時間がなく困難となるから、現政権による早い立法化が強く望まれるところです。ドイツでは、西ドイツ時代の1950年12月に「戦争犠牲者援護法」が制定され、今日に至っているのですから、わが国政府もこれを見倣うべきです。

 

今月の裁判例コーナーでは、次の6件を紹介します。

(1)出願意匠「印刷用はくり紙」拒絶審決取消請求事件:知財高裁平成23

   年12月15日(4部)判決<請求棄却>➡B1−48

(2)「三徳包丁等デザイン」著作権侵害等損害賠償請求事件:東京地裁平

   成23年8月29日(民13部)判決<請求棄却>/知財高裁平成24年3月

   22日(3部)判決<控訴棄却>➡D−76

(3)登録商標「KDDI Module Inside」無効不成立審決取消請求事件:

   財高裁平成24年3月28日(4部)判決<請求棄却>➡G−142

(4)「ジュース容器」商品形態・不競法侵害事件:東京地裁平成24年3月

   28日(民40部)判決<請求認容>➡C1−54

(5)映画の著作権侵害差止等請求控訴事件:知財高裁平成24年5月9日(4

   部)判決<控訴棄却>➡D−65−1

(6)登録意匠「角度調節金具用浮動くさび他」意匠権差止等請求事件:大

   阪地裁平成24年5月24日(26民部)判決<請求認容>➡A−49 

   (別紙)

 

 

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