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2012年11月1日



 
近 況 雑 感

 

1.10月1日の本欄において、新しい米国特許法(AIA)は今年9月16日から施行するようなことを書きましたが、これは筆者の誤解でした。AIAの施行は6ヵ月後の2013年3月16日です。その施行日を目指して、現在施行規則の作成作業を進めているという話でした。また、現在までのところ、IDに対する独立法はまだ成立していないから、当分の間は前記AIAの施行の中にIDも含まれることになります。いずれにせよ、今まで入手しているIDのAIAによる保護に関しては、次号において紹介する予定です。

 

2.ところで、今月は、本欄で紹介しておきたい出来事が、世界からもわが国内からも沢山あります。

 その第1は何といっても、山中伸弥教授のノーベル賞(医学生理部門)の受賞でしょう。その主題は「iPS細胞」です。これをフルネームで表示すると、"induced Pluripotent Stem Cells" となります。山中教授が命名したこの細胞の頭に小文字の“i”を使用した由来は、アップル社の携帯音楽プレーヤーの「iPod」にあやかった遊び心だ、とYAHOO JAPAN のニュース(2012年10月8日)は伝えています。

 山中教授が発明した「iPS細胞」の作製技術を利用することによる医療方法の発明についての特許出願は、国の内外で多数あると思われますが、現在までのところ、京都大学の名義で出願し特許が確立しているのは、米国で3件、日本で1件ということのようです。いずれもこの医療技術に関する基本的な特許なのでしょう。

 しかし、山中教授は、この新技術について国の内外において特許権を取得する目的は、大学がこの特許発明に係る新医療技術を独占し、医療や医薬メーカーに実施権を与えて利益を得ようというのではなく、同時進行で研究開発を進めている全世界の技術者が、同様の技術の特許権を取得することによって独占することを阻止することにあるというのです。

 こう言われると、特許制度をこのような高邁な考え方によって利用するとは、何と偉大なことかと賞賛したい。

 この考え方は、インターネットシステムを発明したが、特に特許出願はしていない英国のブラウン博士やカラオケシステムを発明し普及した神戸の電気屋さん(名前は忘れた)のそれとは違いますが、通ずるものがあります。

 なお、山中教授は今年50歳ということなので、これからも先の長い研究成果が楽しみで、特許権の数も楽しみです。

 また、山中教授は今年の文化勲章の受章も決まりました。

 ついでに言えば、アニメ製作者の宮崎駿氏には文化功労者賞です。

 

3.10月17日朝刊各紙は、サッカーのフランスが日本に「0−1」で敗れたことについて、日本代表のGK川島永嗣選手は4本の腕があるとパロディックな合成写真を、仏国営TV「フランス2」が流し、これを司会者が「福島第一原発事故の影響か」とヤユした発言をしたとの記事を載せていました。司会者としては、川島選手の手腕を賞賛したのでしょうが、フランス人の立場にしてみれば悔しい思いを、そのような表現にしたのだと思います。

 ちなみに、フランス著作権法第112条の5条(4)によれば、「パロディ,パスティッシュ,カリカチュア」は著作権侵害にはならないと規定していますから、仮に写真の著作権侵害問題が起こったとしても、違法性が阻却されるというお家事情は、わが国の著作権法とは違います(わが国には、マッド・アマノ氏によるパロディ合成写真事件がある。)。

 ただフランスであっても、川島選手の肖像権侵害や写真の著作権者の著作者人格権の問題は残るでしょう。それとも、このTV司会者は、原発の多い国内に向って、原発事故の恐怖を訴えたかったのでしょうか。

 

4.丸谷才一氏が10月13日に死去された。87歳でした。同氏は小説家であるとともに文芸評論家であり、教養とユーモアのあるレベルの高い評論をしており、またジェイムズ・ジョイスの研究者として代表作「ユリシーズ」を共訳しています。筆者が丸谷氏のことを知ったのは、野坂昭如氏の書いたものを通してです。野坂氏が小説「四畳半襖の下張り」で猥褻罪で被告になった時は証人として弁護した人で、「焼け跡闇市派」と呼ばれたエロ事師の野坂氏が唯一尊敬していた作家だといわれています。この野坂氏については、筆者はかつて本欄で、直木賞をとった彼の作品「火垂の墓」を読み、映画を見たときの思いを書きましたが、今回は丸谷氏のことです。両氏は旧制新潟高校で先輩と後輩として一時一緒だったようですが、野坂氏はすぐに退学しました。

 丸谷氏は東大英文科卒の小説家で、芥川賞を受賞していますが、文芸評論家でもあるという人です。かつて筆者は、大学一年時でとった教養科目の英文学で恩師の松浦一先生が講義の中で言われていました。評論をする者は自分でも作品(小説)を書いて作家の立場にならなければならない、と。その話を聞いたかどうかは知りませんが、文芸評論家で有名な中村光夫氏は、晩年、小説をいくつか発表されていましたが、その作品は不評でした。

 丸谷氏についてさらに書けば、手元の切り抜き帳(朝日新聞2009年10月24日文化欄)には、同氏は10月4日に三島駅北口近くにオープンした「大岡信ことば館」の開館記念式典に出席し、「こんな詩人・批評家は明治維新以後、正岡子規と大岡以外にたれかいたかしら。」とあいさつしています。丸谷氏だからこそ、大岡氏の心がよく読めるのでしょう。

 筆者は長年、いろいろな裁判例に対し批評を書いていますが、事実関係は判決文の上からでしか判らなくても、公平な裁判官の立場になって考え、お前ならどういう判決をするのかと思いながら、書いています。筆者が、昨年発足した日本弁理士会の「アミカスブリーフ委員会」の一員になったのも、裁判官の立場で事案を考えてみたいとの思いもあるからです。批判は非難と違い、事の理非を明らかにすることです。

 したがって、筆者が毎月このHPで発表する裁判例に対する論評は、個人的なアミカスブリーフということができるでしょう。

 

5.10月13日には、ブリジストン美術館で開催されていた「ドビュッシー、音楽と美術―印象派と象徴派のあいだで」を見に行きました。フランス人の音楽家が生きた19世紀末から20世紀初頭にかけての時代は、音楽や美術や文学や舞台芸術が互いに影響し合い、時には共同で作品を作り上げたといわれています。会場には、ドビュッシーが影響を受けたという北斎をはじめとする浮世絵も展示されていました。

 10月22日の朝刊には、作家の村上春樹氏と音楽家の小沢征爾氏の共著「小沢征爾さんと、音楽について話をする」(新潮社)が、第11回小林秀雄賞を受賞した旨の記事が出ており、村上氏が小沢氏に約1年かけてインタビューをしてまとめた作品ということです。

 小沢氏は大江健三郎氏と同年代で共著もあり、分野は違っても互いに刺激し合っていると言っています。

 

今月の裁判例研究コーナーでは、次の7件について紹介します。

 

(1)立体商標「香水瓶」拒絶審決取消請求事件:知財高裁平成23年4月21日

   (4部)判決<請求棄却>➡G−150

(2)交換ランプ」商品形態・差止等請求控訴事件:東京地裁平成23年11

   月12日(民40部)判決<請求棄却>➡C1−43−1

(3)登録商標「スマイル図形」登録取消決定取消請求事件:知財高裁平成

   24年7月26日(1部)判決<請求棄却>➡G−151

(4)「メディアプレーヤーのためのインテリジェントなシンクロ操作」特

   許権侵害損害賠償請求事件:東京地裁平成24年8月31日(民40部)判

   決<請求棄却>➡E−11

(5)出願商標「Kawasaki」拒絶審決取消請求事件:知財高裁平成

   24年9月13日(2部)判決<認容/審決取消>➡G−152

(6)「ヘアドライヤ」意匠権等侵害差止等請求事件:大阪地裁平成24年9月

   20日(21民部)判決<請求棄却>➡A−53

(7)「正露丸包装箱」不正競争行為差止等請求事件:大阪地裁平成24年9月

   20日(26民部)判決<請求棄却>➡C2−23

 

 

7.このHPに掲載されている私の論文,論説には著作権が与えられていますので、無断複製を禁止します。引用される場合には、必ずその出所を明記して下さるようにお願いいたします。 All Rights Reserved.



 
牛 木 内 外 特 許 事 務 所
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