USHIKI INT'L PATENT OFFICE


 

 
 
2011年11月1日


 
近 況 雑 感


1.10月22日・23日にかけて、岩手から宮城の三陸海岸地帯を、盛岡の会社社長の案内でドライブしました。盛岡から遠野―釜石―大船渡―陸前高田―気仙沼―南三陸町に入り、同町の海岸沿いのホテルに宿泊しました。釜石では防波堤に乗り上げていた貨物船がやっと海辺に下ろされた直後でしたが、海への移動はありません。陸前高田では唯一残った黒色の松一本が、平らにつづく海岸にポッンと立っていました。残骸のままの多くの建物は、道路をはさんで360°見廻わされる平地にも高地にも、多くのごみの大袋とともに散見され、鉄筋コンクリートのビルも形は残っても窓は全部喪失していました。しかし、これら無数の残骸も建物もごみ袋も、まだ当分の間、このままの状態で放置されるのではないでしょうか。

 今回の震災地へのドライブで目立った文字言葉は「がんばろう」でした。しかし、地域全体でも個人各自でも、「何のために」という具体的な目標がなければ空念仏になってしまいます。そして、その実現のための裏付けとなるものは、やはり経済的な支援です。国の内外から寄せられた多くの支援金は被災者の各自に渡っているのでしょうか。「がんばれ」の英語は“You can do it”ということですが、この方が具体的な実感は込められていて、やる気を起こさせます。

 今回の旅では、百聞は一見にしかずを実感した次第です。

 これは、特許出願において拒絶理由通知を受けた時、代理人の弁理士は現物を特許庁に持参して審査官に面接し、その構造と作用について具体的に説明することによって、本願発明の特徴と引用物との違いを理解してもらうことができ、それによって審査官の誤解を説き、特許査定へと成功することができるのと同じ体験です。けだし、われわれ代理人は、現物を目の前にして発明者から新技術の内容を全部聞き出した上で特許の明細書や図面をまとめるのが普通ですが、審査官の立場ではわれわれが作成した書面だけで、想像しながら考えることしかできないのです。

 

2.本欄の昨年11月1日号で、私は舟本信光元判事が刊行された著書「裁判官の四季」(新日本法規1990)のことについて書きましたが、舟本先生のご長男京太さんから最近メールをいただきました。これは奇遇で、お姉上がGoogleで「舟本信光」を検索して前記記事のあることがわかったからだということでした。

 最初は自分自身の覚書のつもりで10年程前に始めたこのHPで紹介している事実や裁判例などが、情報として広く伝達される時代になっていることを改めて認識しました。その意味では、筆者としては、何らかの影響を与えていることを心しながら発表しなければならないものであると思うようになります。

 文学的な本といえば、大阪地裁・高裁におられた畑郁夫元判事は「文化としての法と人間」(学際図書出版2004)という随想集を刊行されています。この中には、法律論のほかに、絵の話や民芸論や人間関係のことなどが語られています。

 畑判事が大阪地裁民事21部に来られる前の裁判長は大江健次郎判事であり、名物判事との評判でした。大江判事の下には北山元章判事補(後年、知財高裁一部長)がおられた時、私はわが国最初のタイプフェイス事件を田倉整先生と共に大阪地裁で闘い、和解を勝ち取った思い出があります。

 大阪の大江判事に対し東京の名物判事は三宅正雄判事であり、三宅先生もまた文筆家であり、多くの専門書を刊行されているほかに、「徒然のままに」(発明協会1986)という随想集を刊行されています。これは三宅先生の喜寿記念に出版されたものですが、三宅先生がまだ在職中に世界各地を歩かれた時の紀行が詩情豊かに表現されています。

 

3.今月号において、どうしても書き留めておかなければならないニュースがあります。それは、今年の文化勲章の受章者5人の中に、私が一方的に知っているお方が2人いることです。1人は小説家の丸谷才一(86)さん、もう1人は半導体電子工学者の赤崎勇(82)さんです。

 丸谷才一さんは野坂昭如の書いたものなどを通して、彼が尊敬している作家の1人であることを承知していましたし、赤崎勇さんは本HPの第1−22の「職務発明の対価問題について」で紹介している名古屋大学名誉教授です。赤崎勇先生のことは、今井哲二静岡大学教授がかつて朝日新聞の「視点」で書かれており、1970年代から青色LEDの研究開発に従事され、この道では先駆的成果を残されているということです。これは、中村修二さんが1993年に高輝度青色LEDを発表したはるか以前のことですから、今回の文化勲章はやや遅きに失したものといえるでしょう。

 ちなみに、中村修二さんの発明は、彼が勤務していた会社に貢献し大企業に成長させた功績は大きいから、それ相当の報酬が与えられたとしても、特許法による職務発明に対する報酬は、単に「発明(Invention)」に対して与えられるものではなく、「特許発明(Patented Invention)」に対して与えられるものだということです。この特許発明とは、明細書に記載される「特許請求の範囲(Claim)」のことですから、いかに大発明であっても、クレームの内容によって特許権の強弱は決まるのです。したがって、職務発明において評価すべきは発明力ではなくクレーム力なのです。そして、このクレームを書く者は誰でしょうか。(この項は11月7日に追加)

 

今月号の「裁判例コーナー」では、次の5件の判決を紹介しています
(1)「半懐紙版等」不正競争行為損害賠償請求事件:大阪地裁平成236

  23日(21民部)判決〈棄却〉C1−51(別紙1 別紙2 

  別紙3)

2)「餅」特許権侵害差止等請求控訴事件:知財高裁平成23年9月7日

   (3部)中間判決<認容>➡ E−7

(3)「餅」特許無効審決取消請求事件:知財高裁平成23年9月7日(3部)

  判決<棄却>➡I.2−2

(4)登録商標「BLUE図形NOTE」無効審決取消請求事件:知財高裁平

  成23914日(3部)判決〈棄却〉G−127

(5)出願商標「TVプロテクタ」拒絶審決取消請求事件:知財高裁平成23

  年9月20日(2部)判決<認容/審決取消>➡G−128

(6)登録商標「TRADトラッド」無効審決取消請求事件:知財高裁平成23

  1018日(2部)判決<棄却>➡G−129


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