USHIKI INT'L PATENT OFFICE


 


 
2010年4月1日


 
近 況 雑 感


1.今年も桜の季節となりましたが、強風の中、鎌倉若宮大路の段葛の桜並木はまだ三分咲きの様子です。

 今年4月をもって、私は弁理士人生50年を迎えることになりました。それは、大学を卒業した昭和34年(1959)に行われた大正10年法最後の弁理士試験に合格し、翌昭和35年(1960)4月1日から施行された現行の昭和34年法の最初に弁理士登録(6381)をしたことから出発します。昭和34年筆記試験の合格者数は、今でも歴史に残る27名という超少数でありましたから、今日の合格者数の多さを誰が予想することができたでしょうか。今でも大学で教鞭をとられている親友の浜田治雄弁理士も、われわれの仲間です。

 その頃は、試験では大正10年法、実務では昭和34年法という、ちょうど2つの法制度のはざまの中にいた私は、両法について学習しなければなりませんでした。当時、特に新法についての教科書や解説書や論文などは殆んどなく、私自身が抱いていた多くの疑問に直接答えてくれた人は、大学時代の恩師の吉原隆次先生と意匠課長であった高田忠先生でした。吉原先生からは、同先生が昭和60年に新設された青山学院大学法学部の教授になられたことから、まだ空っぽの研究室に招かれ、助手にならないかとの誘いを受けました。しかし、私は一日も早く弁理士実務を覚えたいと思っていましたから、父の特許事務所のある新潟市へ帰った次第です。

 しかし、人一倍に問題意識が強くかつ地方で暇な時間をもてあましていた私は、受験勉強中に湧き出していた新法規定に対する疑問や、その後の実務を通してみた法規定の矛盾などを論文という形に書きとめて、これを「発明」や「パテント」などの雑誌に発表することが楽しみでした。私は、学生時代に法学から哲学に転向しようとして、哲学者の斉藤信治先生(キェルケゴール「死に至る病」訳・岩波文庫)に相談し、4年次に大学院で同先生が教えられたカントの三大批判書の一である「実践理性批判」の講義を受け、法哲学の基礎を学びかつリーガルマインドの心得を身につけましたから、現象としての法律問題をその本質から考えることが今でも好きであり、「批判(kritik)」こそ、法解釈の基本であると信じて今日に至っています。

 そして、「発明」誌の1960年4月号には「新意匠法批判」を、「パテント」誌の1966年10月号には「意匠の審査批判」を発表しました。その後の私の論文執筆は、この二つの批判から始まっているのです。

 「批判」は理工系人にはよく理解できず、「非難」と同列のものと誤解する者もいますが、批判は存在の本質を探究し、それを把握した上で、現象の理非を明らかにする哲学の基本理念です。その意味で、特許という文と理のシナジー分野の仕事をしているわれわれ弁理士は、どのような事物に直面しても常に批判精神を持って対処するならば、よい答えを出すことができると思います。それがわれわれ弁理士の実践哲学というものであり、哲学を持たない主張や判断は、薄っぺらで説得力がないのです。これは、私が毎月している判例批評でも同じことです。

 また、自負することが許されるならば、私が過去50年間に発表した知的財産法分野の論文や解説等の数は、わが国では最多であると明言することができます。その中で、特に意匠法分野のものが多いのは、この分野の研究者が殆んど存在しなかったからであり、また知的財産権法の未開拓分野を徹底的に研究してみようという単純な動機があったからです。そして、この分野は、実務者でなければ理解できない法律問題が多いことから、実務と研究との二つの道を私は50年間両立して歩いて来たのです。(その成果の一部については、Profile中の著書※5の巻末目録をごらん下さい。)

 そこで私は、若い弁理士諸君には、常に問題意識をもって日常の仕事をし、そこから出てくる疑問を自分で考えて解く努力をし論文にまとめて発表してほしいのです。その場合、すでに発表されている関連論文や著書をよく調べて参照したり引用することを忘れないで下さい。裁判例の引用は、自説の裏付けのために紹介するものであり、裁判例の紹介から自説を出すという逆の論理のものではありません。

 日常の実務において私は、特許の明細書を依頼者と直接面談した上で作成しています。明細書は論文をまとめるのと同じ要領であり、楽しみながら起承転結の文章構成でまとめ上げていますが、特に「クレーム」の作成では、新しい技術内容をいかによく理解して、法的にうまくまとめるかが問われています。

 これからも健康には十分留意し、好きな弁理士道を、まわりの遠近の山や谷や森の風景を楽しみながら歩いて行きたいと思っています。

 

2.特許庁は今年に入って、「意匠の審査基準」の改訂案を「第11部その他」について発表し、パブリックコメントを求めましたので、私は応募しました(1月29日〜2月28日)。その結果については3月24日に発表されましたが、応募者は私1人だったのは不思議なことです。

 そこで、特許庁が公示した問題と発表された答えとを、特許庁の次のHPで見ていただくとして、私の回答の全部は、「第1論文コーナー」の第1−29において発表していますので、ごらん下さい。

 特許庁「意匠審査基準の一部改訂案に対する意見募集の結果について」は次のとおり。

 http://www.jpo.go.jp/iken/isyousinsa_kaitei_kekka.htm

 

 なお、私はその回答の最初の項で若干触れましたが、特許庁の審査官は専門職でありますから、質の高い審査官候補者を採用するためには、現在の試験科目では問題があることを指摘しました。即ち、「意匠学」という低レベルの1科目だけではなく、特許法や意匠法という法律科目も必須とすべきであり、少なくとも弁理士試験合格者レベルの者を採用条件とすべきではないかと提言しました。しかし、これに対する特許庁からの答えもコメントもありませんでした。デザインや芸術を知っている芸術家のタマゴであったとしても、リーガルマインドをもっていない審査官では困るのであり、われわれ弁理士と対等にわたり合う資格はないといわざるを得ないのです。

 

3.著作権問題とは直接関係はありませんが、私は日本マンガ学会の会員であり、監事の1人として黙ってはいられない情報があります。それは、東京都青少年健全育成条例の中に、マンガやアニメやゲームに登場する18才未満のキャラクターが行う性描写を表現した作品を不健全図書に指定し、18才未満の青少年への販売や閲覧を禁止することを内容とした改正案が都議会に提出されていたことに対し、作家であるマンガ家等が表現の自由を侵す条例として反対の声明を出したことに対するマスコミの報道です。反対集会に出席して意見を発表しているマンガ家の中には、ちばてつや,里中満智子,竹宮恵子,永井豪の各氏がいますし、この問題をインターネットを通じて火をつけたというマンガ学会理事で評論家の藤本由香里さんもいます。

 この問題は、日本マンガ学会や日本漫画家協会などの団体には直接関係のない出来事であるけれども、いかに憲法で保障された「表現の自由」とはいえ、その描写表現には自ら限界があることも明らかであり、広く公共の福祉とのバランスが重要になってくる問題です。

 このバランスを考えるならば、都条例や国法で、表現内容のいかんによってはそれを制限することは当然であり、マンガやアニメのようなフィクションの世界だから許されると考えることは誤りであるというべきです。その読者のこともよく考えるべきでしょう。

 なお、東京都条例の内容は次のとおりのものであることが、マンガ学会の調査でわかりましたので、お知らせします。

 ネットで公開されている、谷分章優氏が都議会図書館で複写した改正案

 http://www.scribd.com/doc/27498766/The-Prefectural-Ordinance-about-young-healthy-upbringing-a-reform-bill-2010-2-24

 

4.もう一つニュースがあります。それは、3月14日の読売オンラインの発表によると、枝野行政刷新大臣は省庁再編のテーマとして、特許庁と文化庁(著作権課)との統合問題を挙げていることです。この問題は、わが国の知的財産権の保護機関を分離せず、一つに統合すべきではないかとの提言がこれまでにもあったことに由来しますが、この趣旨の提言は私も以前からしています。

 そのモデルは、英国の知的財産庁(かつてはPatent and Copyright Office)であり、その長官は特許畑から副長官は著作権畑から就任している歴史があり、私は1973年に、当時のW.Wallace副長官が来日された時にそのことについて尋ねたことがあります。

 しかし、わが国では特許庁と文化庁著作課の人員数だけを見ても、後者は前者の100分の1以下の規模であることから、著作権行政が特許庁に飲み込まれてしまうという危機意識が文化庁には強いようです。したがって、その実現はかなり難行し、時間がかかることでしょう。

 

5.今月の裁判例コーナーでは、次の5件を紹介します。
(1)マグボトル事件:大阪地裁平成21年6月4日判決<棄却>→C1−41

(2)商標「Agatha Naomi」差止等請求事件:東京地裁平成
   
21年2月27日判決<棄却>/知財高裁平成21年10月13日判決<変更
   
/一部認容>→F−24

(3)登録商標「INTELLASSET」無効審決取消請求事件:知財
   
高裁平成21年10月20日判決<認容/審決取消>→G−93

(4)「円谷プロ」契約関係の不競法2条1項14号事件:知財高裁平成
   
21年12月15日決定<抗告棄却/仮処分決定相当>→C2−14

(5)図形商標の登録異議による登録一部取消決定の取消請求事件:知財
   
高裁平成22年1月13日判決<認容/取消部分の取消>→G−94

 

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牛 木 内 外 特 許 事 務 所
  弁 理 士  牛   木   理   一
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