USHIKI INT'L PATENT OFFICE


 


 
2009年12月1日


 
近 況 雑 感

1.今年も早や師走となり、時間は黙ってやって来て、立止まることなく、黙って過ぎて行くことを実感している今日このごろですが、今月もまた1週間の発行遅延となりました。

 さて、「時間」をテーマとした2つのフレーズがあります。

「時間は夢を裏切らない、夢も時間を裏切ってはならない。」というフレーズ(1)。

「夢は時間を裏切らない、時間も夢を決して裏切らない。」というフレーズ(2)。

 このうち、フレーズ(1)は松本零士氏が創作しアニメ映画「銀河鉄道999」の中で使用した名文句。

 フレーズ(2)は、槇原敬之氏が作詞・作曲した「約束の場所」の中で使用した文句。

 この2つのフレーズに共通するキーワードは、「時間」・「夢」・「裏切り」です。

 そこで、松本氏は槇原氏のこの歌詞について、TVなどのマスコミで、「盗作だ」と非難したことが、事の発端でした。結局、槇原氏は松本氏の前記アニメ映画で使用されていた文句を知らなかったとの主張を通し、東京地裁に名誉毀損に対する民事訴訟を提起したところ、それが認められ勝訴しました。この地裁判決では、槇原氏が松本氏の前記フレーズを知らなかったという証言が証拠として認められて、松本氏による著作権侵害の主張は認められなかったようです。つまり、地裁は前記フレーズ(2)のフレーズ(1)への依拠性を否定したのです。そこが、知らなかったという過失では著作権侵害は成立しない、特許権,意匠権,商標権侵害とは違うところです。

 そこで、松本氏は、控訴審においては一審の代理人弁護士を解任し、新しい弁護士を委任しましたが、私はその控訴事件の補佐人として仕事をした次第です。

 実は、両人に多少の共通点があるのは、松本氏が日本漫画家協会の常任理事であるとともに著作権部長であること、私は日本マンガ学会の監事であるとともに著作権部会長であったこと、私はまた日本アニメーション学会の著作権部会長であるということです。

 しかし、控訴審(知財高裁2部)においては、両者間で11月26日に和解が成立し、握手して笑顔で別れたのです。これが松本氏側から見れば、「大人の解決」だったのでしょう。

 当時の週刊誌の記事によると、槇原氏が最初に訴訟を提起する前に、槇原氏から電話をした時に、「銀河鉄道999」の中の前記フレーズをもし本当に知らなかったのであれば、「知らなくてすみません」と言うことで解決していたはずであり、今日まで無駄な時間が流れることはなかったのではないでしょうか。また、一審においても、和解のチャンスはあり得たと思うし、そのための努力を裁判所はしたと思うが、たとえ努力されたとしても、いずれかが歩み寄りの熱意に欠けていたのかもしれません。

 

2.弁護士といえば、詩人でもある中村稔先生が最近、「中原中也私論」という著書を刊行されました(思潮社2009年9月)。この書物は、詩人中村稔が詩人中原中也の作品を論評しているのであり、文芸評論家といわれている人による論評でないところに、ホンモノの評論であると、私は思います。(中村先生のことは、11月号の本欄においても「宮沢賢治論」のことで触れました。)

 つまり、文学を評論する者は、小説でも詩歌でも、その作者の立場になって考えなければ、真の評論はできないものだと学生時代から考えていましたが、文芸評論家として有名な中村光夫氏が同じように考えていたようで、その考え方を晩年において実行し、小説を発表していたことを思い出します。

 いずれにせよ、文芸評論にあっては「文学の本質」は何であるかを真に考え尽くした者でなければ、真の評論はできないのではないかということです。

 これと同じことは、裁判批判をする場合にもいえます。即ち、特許法でも意匠法でも商標法でも著作権法でも、各法の本質は何であり、何を保護対象とするのかという原点を忘れては、具体的事案に対して判断している判決の是非を論評することはできないし、失礼なことです。

 したがって、私は常にこの批判の基本的精神を忘れることなく各裁判例を熟読し、論評しているつもりです。

 

3.日本弁理士会研修センター主催の「シンポジウム」が「意匠の類似について」をテーマとして、11月5日は大阪で、11月30日は東京で行われ、私もパネリストの1人として発表しました。この中には、大阪では大阪地裁(民26部)の山田陽三判事、東京では知財高裁(3部)の飯村敏明判事もおられ、それぞれの立場で議論に加わられ、非常な盛り上がりがありました。

 この中にあって私は、前記の基本精神を忘れず、法の文理解釈から入って、意匠法には意匠の類否判断する際に、「需要者」や「商品」や「混同」という用語は登場していないから、意匠の創作者(当業者)の立場から、現象としての意匠を視覚を通じて見てその実体を把握した上で、両意匠が同一の創作体を有する意匠か否かを判断するのが意匠の類似というのであることを、口すっぱくして述べたものです。すると、新設された法24条2項は違法性の高い規定であること、この立法の根拠となった最高裁三小判昭和49年3月19日「可撓伸縮性ホース事件」は誤りの判決であることを、私は明言したのです。

 したがって、近い将来、この最高裁判決の違法性が指摘されて覆える新判決がなされることを強く希望しています。

 

4.今月の裁判例コーナーでは、次の4件を紹介します。
(1)映画の著作物DVD輸入販売事件:東京地裁平成21年6月17日判決
   
<認容>→D−65

(2)「医療検査用細胞容器」意匠権侵害事件:大阪地裁平成21年7月23日
   
判決<棄却>→A−41

(3)「弾性ダンパー」意匠出願・拒絶査定審決取消請求事件:知財高裁
   
平成21年8月27日判決<棄却>→B1−44

(4)「ピンク・レディー」振付写真掲載事件:知財高裁平成21年8月27日
   
判決<棄却>→D−62

 

 

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