USHIKI INT'L PATENT OFFICE


 


 
2008年6月1日


 
近 況 雑 感

1.意匠権の侵害訴訟の数は、特許権や商標権のそれと比較して、東京地裁,大阪地裁においても少ないことは周知の事実であるところ、かといって軽視されてはならない分野であることは言うまでもない。裁判官としても、扱う件数が少ないことから、意匠法や意匠権の本質について考究する機会があまりないのかも知れない。意匠は難しいと思い込んで、食わず嫌いになっていることもあるかも知れない。
 
その意匠権を構築している登録意匠の種類には、産業社会に存在する物品(製品)の種類の数だけのものが存するところ、そのすべての意匠は、まず意匠法2条1項に規定する「意匠の定義」にある要件を具備しているものでなければならないことは当然である。そして、この規定の中でもっとも問題となる要件といえば、「視覚を通じて美感を起させるもの」であろう。
 
ここでは、過去にこの問題を取り上げたいくつかの拙稿にその議論は譲るとして、裁判所の判決文の中には、依然として「美感」と「美観」とを無意識に区別せずに混同して記載している事実が跡を絶たない。
 
英語でいえば、美感とは“aesthetic impression”であり、美観とは“aesthetic appearance”であり、視覚によって起させるものは前者であって、後者ではない。ここで要求されている重要な要素は感性であって、理性ではない。その使用語の誤りをあえて指摘しておきたいので、今月の裁判例紹介では、最近の「エルメス・ハンドバック」事件を取り上げた。
 
しかし、この問題について付言すれば、昭和34年(1959)改正法で意匠の定義に「美感」が登場したのは、同時に改正された実用新案法の保護対象となる「物品の形状」との区別のためであり、それ以上の特別な意味のあるものでないことを注意すべきである。(牛木「意匠法の研究」(四訂版)56頁発明協会)

2.裁判所の同じ誤りは、意匠の類否判断を「需要者の混同」を基準としている点にもある。一体、意匠法3条1項柱書のどこに「需要者」が登場しているのだろうか。そこに登場している人物とは、「工業上利用することができる意匠の創作をした者」であるから、その者とは、正に3条2項にいう「その意匠の属する分野における通常の知識を有する者(当業者)」に含まれる者にほかならないのである。
 
著作権侵害訴訟事件では、著作権法には「著作物の類似」の概念は存在しないのに、「実質的同一性」の概念に代え、あえて「類似」を使っているのも、どうかと思う。


3.今月の裁判例は、次の3件を紹介する。
(1)エルメス・ハンドバッグ意匠登録出願事件:知財高裁
   
平成20年2月21日判決<棄却>→B1−32
(2)金属製ブラインド・ルーバー意匠登録出願事件:知財高裁
   
平成20年4月24日判決<棄却>→B1−33
(3)登録商標「TEDDYBEAR」登録取消請求事件:知財高裁
   
平成20年5月15日判決<棄却>→G−66


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牛 木 内 外 特 許 事 務 所
  弁 理 士  牛 木 理 一
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