2004年 3月 1日
 


 
近 況 雑 感



 

1.今月号の冒頭でも、2月号と同様に、職務発明(特35条3項)をめぐる正当な対価が争われた「成瀬昌芳対味の素」事件の東京地裁民47部による平成16年2月24日判決を問題にすることにしました。この判決において注目すべきことは、製法に関する特許発明を誕生させるに至った貢献度について、会社側に95%を認め、成瀬氏を含む共同開発者側には5%を認めた上で、このうちの2.5%を成瀬氏の貢献度と認定して、1億8935万円と算定した点です。
95%対5%の貢献度の比率については、「田中俊平対オリンパス光学工業」事件で裁判所が認定した比率と共通します。(第2 E−3参照)
これに対し、前回紹介した「中村修二対日亜化学工業」事件の東京地裁民46部の平成16年1月30日判決では、一つの特許発明を誕生させるに至った貢献度を、会社側に50%、中村氏側に50%を認定したことには、唖然とさせられました。発明者側にこのような大きな貢献度を認めた背景には、中村氏が会社側の開発中止の勧告にあえて従わず、独自の研究を強力に進めた事実があったからのようですが、そのようにして開発した新技術でも会社に特許権が譲渡されている以上、そしてその特許権の実施によって会社が莫大な利益を得ている以上、それ相当の対価を支払う義務が会社側にはある、と裁判所は考えたのでしょう。
しかし、この判決の場合は、将来の予測や推量に基づいて利益額の総額が計算されていますから、かなりきわどい判決であり、特許権者が将来特許料を納付しなかったり、特許権を放棄等して、特許権が消滅したり、また特許無効の審判請求によって無効審決がなされるなどのリスクの発生を全く考慮していない脇の甘い判決です。

2.しかし、いずれの事件判決でも、特許権の成立に至る貢献度や寄与度について忘れられているのが、代理人弁理士の立場であり、その特許権の効力範囲となる「クレーム」を作成した弁理士に対する評価です。
弁理士の立場は出願人の代理人ではありますが、一つの特許権をめぐる発明者(従業者)と出願人(使用者)との関係である職務発明制度の問題では第三者の立場にあります。
 出願人から依頼された特許出願のための明細書を作成するのは弁理士であり、その中でも、特許権の技術的範囲を決める「クレーム」を作成する仕事は、弁理士にとって最大の任務です。
 ということは、特許権の効力の及ぶ範囲を決めるわれわれ弁理士の仕事は、将来の出願人(特許権者)の経済的利益を生み、それによって発明者に与えられる相当の対価を生む源泉であることを、関係者はよく認識すべきであり、また認識させるべきであります。
 したがって、もし一つの特許権(資産)によって特許権者が利益を上げているのであれば、基本的な考え方としてはその利益額は三分し、特許権者と発明者、そして代理人弁理士に分配することが公平かつ妥当であろうと思います。といって、私は現実に、利益額の3分の1を代理人に支払えといっているのではなく、あくまでもこの問題に対する哲学として主張しているのです。
 私は、一つの特許権の成立と実施がもたらす経済的利益の配分についてのあるべき姿を考えるとき、その特許権が有する「クレーム」を作成した弁理士の存在は、高く評価されこそすれ低く評価されるべきではないことを、裁判所にアピールしたいのです。
 これを私は、弁理士の「クレーム力」と命名していますが、われわれ弁理士は特許権者からそして発明者から「クレーム力」の強さを感謝されてもされすぎることはないのです。(第1−16参照)
 このように言える特許権はケースバイケースですが、代理人として名前を出している弁理士の中には、(特に大企業出願のものは)形式的に名前を記載しているだけで、明細書もクレームも実際には書かない者もいましょうし、依頼者が全部作成してくる場合もありましょうが、それは例外と考えたいのです。
特に社内リエゾンのいない中小企業にとっては、弁理士の果す役割は大きく、そのような中でこそ「クレーム力」は特に発揮されることになります。
このような弁理士の立場をサポートするのが日本弁理士会であるのに、同会からは外部に向ってそのような強いアピールやメッセージが出てこないのは不思議なことです。
特許庁による特許法35条の改正案に対する会の考え方を発表するために記者会見するのも結構ですが、代理人である弁理士の果す「クレーム力」を現場からの声として、裁判所、経済界そして学界にアピールするには今は絶好の機会ですから、弁理士の行う仕事と存在意義を外部に理解させる努力を会はすべきなのです。

3.今月の裁判例コーナーは、次の3件の事件を紹介します。
(1) 住宅の著作物事件・・・・大阪地裁平成15年10月30日判→D−37
(2) 誕生花写真集事件・・・・大阪地裁平成16年2月12日判→D−38
(3) 競走馬名のパブリシティ権事件・・・・最高裁平成16年2月13日判→H−8

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