2004年 2月 1日
 


 
近 況 雑 感



 

1.まずお知らせしたいことは、特許法35条3項に規定する従業者等の職務発明に関し、使用者等が支払い従業者等が受取るべき「相当の対価」について算定した2つの判決が、1月29日(木)および1月30日(金)に言い渡されたことです。
1-1 「光ディスク読み取り装置」に関する特許発明をめぐる前者の米沢成二対(株)日立製作所事件の控訴審判決は、東京高裁第6民事部(山下和明裁判長)からなされましたが、同判決は、会社側が得た利益額を11億8000万と算定した上で、原告発明者への「相当な対価」の総額を1億6200万円と認定し、対価を3474万円と認定した一審判決(平成14年11月29日判)を取消し、支払い済みの対価との差額の1億2800万6300円の支払いを命じました。
1-2 「青色発光ダイオード」に関する特許発明をめぐる後者の中村修二対日亜化学工業(株)事件の終局判決は、東京地裁民事第46部(三村量一裁判長)からなされましたが、判決は予備的請求(その2)を取り上げかつ請求全額の200億円を認め、被告は原告に対し200億円を支払えとの命令を出しました。
 しかし、この金額は、裁判所の計算からすると、原告が受取るべき相当対価の一部でしかなく、原告が受ける相当対価額の全体は、会社側が独占実施によってもたらされるだろう利益額1,208億6,012万円の2分の1に当たる604億3006万円と算定しています。この判決は被告によって控訴されるでしょうが、原告側も対価額の追加を請求することになるでしょう。
 この東京地裁判決に対しては、弁理士の眼から見た批判を次月号に発表します。
(いずれの判決文についても、最高裁のHPをご参照ください。) 

2.日本マンガ学会の会員でもある私が注目していた「わいせつ漫画本“蜜室”」に対する判決言渡しが、平成16年1月13日、東京地裁刑事第2部(中谷雄二郎裁判長)からあり、被告人である出版社「松文館」の貴志元則社長は、懲役1年、執行猶予3年(求刑懲役1年)の有罪となりました。
 この漫画本を学会の役員会でかつて見せられ、感想を聞かれた私は、これは、社会的良識から考えて、当然「わいせつ物頒布罪」(刑175条)の適用を受けるべきであると発言したものです。弁護側は、表現の自由を保障する憲法条項を引用し、憲法学者による証言もありましたが、裁判所は、今日の健全な社会通念に照らしても、過激な性表現を許容するような状況は形成されていないと判示しました。
 1月13日付朝日新聞(夕刊)によると、このような判決は、「現実に対する認識に欠ける」とか「世間の常識からかけ離れている」と批判している出版関係者がいますが、公衆トイレにある落書きと大差のないような反芸術的な表現物であってみれば、妥当な判決でしょう。この判決に対しては控訴されたということです。

3.同じく朝日新聞の平成16年1月18日(日)の1面トップに、「特許審査待ち期間ゼロ」の大見出しで、わが国特許庁が10年後をメドにした政策を発表した記事が掲載されています。このような問題が、一般全国紙のトップ記事になることは、きわめて異例のことですが、わが国産業界にとっては、早い特許化は、国際競争力を強化し、経済の発展にインセンティブを与える有力な促進剤となることは間違いないと思います。
 したがって、中小企業の皆さんにとっては、今後ますます特許出願の重要性と効果性が理解されるものと信じますが、同時に忘れてならないことは、1月号でも発表したとおり、確立した特許権の広狭は、代理人たる弁理士が作成する「クレーム」に左右されることから、発明者も出願人も代理人も、この「クレーム」をよく吟味してほしいものです。

4.世界の法学界からの悲報を一つお知らせします。
「国際文芸美術協会(ALAI)」の修身秘書長を務められた「アンドレ・フランソン(Andre Francon)教授」が、2003年10月11日、パリで死去されました。77歳です。ALAIは、一方の団体であるAIPPI(国際工業所有権協会1883年設立)と並んで、著作権保護のための国際的組織の団体であり、この2つの知的財産権の保護団体は、WIPOの国際的活動には常に主役を演じていますが、私はかつて同教授との文通がきっかけでALAIの会員となった次第です。
 なお、ALAIの設立は1878年であり、文豪ビクトル・ユーゴーが名誉会長となりました。私は、「コピライト」1984年11月号に、“国際的著作権法の発達におけるALAIの役割”と題したC・マズイエ氏の文章(1978年4月号COPYRIGHT)の日語訳文を発表しました。

5.今月の裁判例コーナーでは、次の2件の事件を紹介します。
(1) キューピー引越センター事件・・・・東京高裁平成15年9月18日判→G−25
(2) キューピー図形事件・・・・東京高裁平成15年10月29日判
G−26
 なお、テレビゲームに登場するGIクラスの有名な競走馬の名称についてのパブリシティ権の成否をめぐる名古屋高裁平成13年3月8日判決に対する上告審判決が、来る2月13日に最高裁から言い渡されることになりました。1月16日に口頭弁論が開かれたとのことですから、逆転判決となることが予想されます。(名古屋高裁判決については、H−4参照)

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