2003年 5月 1日
 


 
近 況 雑 感



 

1.さわやかな風薫る新緑の季節となりました。皆様にはお変りありませんか。
小生は、今月から開始される日本弁理士会主催の「特定侵害訴訟代理業務に関する能力担保研修」を9月まで受講し、補佐人資格から訴訟代理人資格の取得のための努力をします。講師は全員弁護士ですが、そのレベルは高いことを期待しています。

2.「知的財産基本法」なるものが昨年11月に成立し、今年3月1日に施行されましたが、そのコンテンツには新鮮で具体的な匂いのするものは見られません。衆参両院の経済産業委員会の付帯決議事項を見てもばらばらです。しかし、今さらこのような法律をわが国で運用する知的財産戦略推進事務局を内閣に設置しているのは、世界の知的財産保護の歴史から見ると、ややアナクロニズムの感がします。
特許法の歴史をひもとくと、世界的には、精神的な産物である発明や著作物に対して、有体物を製作する者がこれに対して所有権を取得するのと同じ理由で、所有権を有すると考えることは自然法の原則でした。したがって、この権利は17世紀にカープツァーフ(1595〜1666)によって「精神的所有権(propriete intellectuelle, geistiges Eigeutum)」と唱えられ、18,9世紀の大陸法学を支配したといわれ、所有権説と呼ばれていました。(注)
ところが、この所有権説は、有体物の所有権とともに発達してきた諸法則を適用すると矛盾があることから、精神的所有権は所有権に類するものといえても、所有権の一種ではないとして生まれたのが、無体財産権(Immeterialguterrecht)の新語です。これは、ローマ法以来の私権の三分類、所有権(物権),債権,人格権とは別の私権の一分類を形成するものと説いたコーラー(1875)によって唱えられました。
精神的所有権とは仏語の訳ですが、これには特許権,実用新案権,意匠権,商標権の工業所有権(propriete industrielle)と著作者の権利(droit dauteur)とが含まれており、工業所有権は前記四権を総称する集合名詞であるのみならず、これ以外に商号使用権,産地名専用権,不正競争禁止権をも包含する権利です。
 1967年にはストックホルムで「世界知的所有権機関を設立する条約」が締結されましたが、この機関の設立によって初めて英語の"Intellectual Property"が、仏語の"propriete intellectuelle"と並んで使用され、その機関名の略称を前者はWIPO、後者はOMPIといいますが、それ以前は仏語訳のBIRPIでした。
したがって、わが国で「知的財産権」や「知的財産法」の用語が公けのものとなったとしても、それが工業所有権と著作権を含む精神的所有権であり無体財産権であることを考えれば、この用語が含む実体は基本的に17世紀のヨーロッパと何も変わっていないのです。20世紀に入って、新しい知的財産のアイテムが追加されてはいても、基本に流れる法思想に変わりはありません。
 
(注)清瀬一郎「特許法原理」復刻版14〜20頁(昭和60年)

3.今月の裁判例研究コーナーの紹介は、次の6件です。
(1) 包装用びん事件:東京高裁平成14年11月14日判(棄却)→意匠審決取消(査定)B1−15
(2) そばいなり事件:東京高裁平成15年1月29日判(棄却)→意匠審決取消(査定)B1−16
(3) 建築構造材用継手事件:東京高裁平成15年1月16日判(認容)→意匠審決取消(無効)B2−5
(4) ?図形事件:東京高裁平成15年1月29日判(棄却)→商標審決取消(無効)G−22
(5) 衣料品模倣事件」:東京地裁平成14年11月27日判(認容)→不正競争防止法C1−19
(6) 職務発明対価事件:最高裁平成15年4月22日判(上告棄却)→特許権侵害訴訟E―3<東京地裁・高裁の判決については紹介済み>

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